シークレットナンバー其の4、時給300円の漢(おとこ)クワコギリョウケン3●歳独身[仮]。
この男の正体が、近年増え始めた小学生に手を出しお縄になるという単なる変体中年教師ではないことは残念ながら確かなことではあるが、彼がロリコンであるということが周知の事実であるということもまた、確かな事実なのだ。
そんな至高の人畜はあの八神亨すら予測し得なかった行動をとることで有名だ。例えばロリコンと称されながらも実は隣に座るバニー嬢二名に「むふふ……」いやむしろ「でへへ……」な中年教師そのものの顔をして、世界を救うために田中研究所がはなった秘密兵器【ME-DEATH】に搭乗し、倉成武一家が【無限草】探索に出かけた山へと降り立つ、などという謎の行動。
さて、これはそんな桑古木の桑古木による桑古木のための物語……ではありませんので悪しからず。


リレーSSコミカルパート
                              作者:やまちゃん



『戦場に欠ける箸』 





倉成つぐみ(旧姓:小町)と、その半使い魔倉成武による3人目の子供と思われた「あう〜?」と叫んだその謎の少年、名前を倉成ホクトと言う。何のことはない、【PHANTOM】にかかったホクトだった。「【PHANTOM】ってな〜に? おいしいの? 」な感じのお茶目な顔をして、おしゃぶりを口にくわえガラガラであやされているホクトは今、優秋の腕の中。
ともすれば羨まし過ぎるこのシチュエーション、武には深刻な問題だった。
「やばい……このままではホクトをとられる……!!」
もとい、
「まずいな……早く【無限草】を見つけてホクトを直してやらなくちゃ……。」
多分後者だと思う。いや、後者であってほしい。
そんなわけで彼らは山へと向かったのだ。



山は果てしなく高かった。一行は頂上に生えると言われている【無限草】目指して特攻する。途中、スライムやお化けきのこなどの低級モンスターも出てきたがそこはキュレイ種。武はひのきの棒すら持っていない素手だったが、パンチ一発で軽く300を超えるダメージを与え雑魚モンスターを一掃し、颯爽と進む。
ちなみに現時点での武の攻撃力は511、つぐみの攻撃力を測ろうとした沙羅のスカウターは測定中に壊れてしまっている。



頂上で構える二人と一匹。
『知略、策略お手の物。武のためなら何でもするわの田中優美清春香奈』
『その美貌は世界も制する! 永遠の24歳茜ヶ崎空』
『ぼくはみんなの奴隷です。グリコのおまけについてくる桑古木涼権』
である。
永遠のライバル小町つぐみを撃破すべく禁断の兵器を発動して早11時間、中々姿を現さない標的に、彼女たちは痺れを切らせ始めていた。
「ねぇ桑古木〜、コーヒーまだぁ?」
「桑古木さん、ついでに【ME-DEATH】のメンテナンスをしておいて下さい。」
「はいはい……」
この構図はどこに行っても変わらないらしい。



そろそろ50匹と半分を倒した辺りであろうか?
「ふぅ……こうモンスターが多いと無駄にレベルが上がって困るな。」
「別に……。私はもう99レベルだし。」
そして沙羅の端末はバッテリー切れになり、使用不能になってしまった。
「あ〜、さすがに拙者のPCもバッテリー切れになると通販も出来なくなるのでござるよ。」
「……それは残念ね……。」
瞬間、少々引きつったつぐみの顔。
そんなつぐみも可愛いと思う武がそこにいたのであった。



桑古木が優のコーヒーを得るために山と街を往復すること3回目、ついにターゲットが姿を現した。
「ココで会ったが100年目!」
優が紅蓮の咆哮をあげる。
「あなたたち……、どうしてココに?」
「聞いて驚いてくださいね。倉成さんには常に発信機をつけていて、私が脳内で察知出来るようになっているんです♪」(にっこり)
と、頬を赤らめながら微笑んだ空の笑顔にだまされ続けること幾数年の武。ついに空は3000万円の女とも呼ばれるほどに出世したことは言うまでも無く、また優春はその上司として着々と私服を肥やしていた。そんな悪運もここまで!、とばかりにつぐみが決戦の火蓋を切るかに思えたが、今は非常事態。目の前の不可解なバニー服に身を包む彼女たちを尻目に【無限草】を探すべくあたりを物色し始める。
「って、ちょっと何無視してんのよ!」
「今はあなたたちに付き合っている暇は無いの。」
カチーン
と、音がした……様な気がした。
おそらくは優の中で何かがはじけたものと思われる。
脳裏では今までの悪しき歴史が走馬灯のように駆け巡り、炎を上げ、優の形相が修羅と化す!
ヘリの上から突き落とされたとき、つぐみが放った言葉「天ばああぁぁつ!!!」。
今思えばあの時私たちの運命は決まったのかもしれない、そう思った優は隣にいた桑古木を【ME-DEATH】の操縦席に駆り出すと、
「いくわよ! 空!」
と今だけ休戦協定を結んだライバル其の1、永遠の24歳『昔は純でした』茜ヶ崎空を助手席に座らせ第三次世界大戦を勃発させた。
「フフフ……今度は私が天罰を下す番よ。」
その笑顔は世界を救う、というのは今や伝説でしかなく、破壊衝動と欲望の化身となった二人は桑古木を脅しなだめすかしながら、標準装備の180mmバルカン砲を放つと、周囲の平原1ヘクタールが一瞬にして荒野と化した。
「こら! やめろ! 今俺たちはホクトの病気を治すためにここら辺に生えていると言う【無限草】を探しに来てるんだぞ!」
武が叫ぶ。
「おい、優、空、武が何か言ってるぞ?」
「ほっときなさい。私たちを選ばなかった代償の大きさを教えてやるわ!」(ズゴゴゴゴォーン)
「倉成先生は……渡しません!」(ピロピロピロォーン)

『リミットブレイク!』

謎の効果音とともにボルテージがマックスに達したらしい二人に、
「いかん……。もう二人とも完全に違う世界だ。これ以上付き合うのは危険だな。」
と、こっそりハッチを空けて脱出を試みる桑古木。
「逃がさないわよ! 桑古木ぃ〜!」
きっちりと優の手は桑古木の腕をキープしているのであった。
「ポチッとな♪」
八奈見乗児ばりの声で空が押したそのボタン。20km射程の長距離レンジ砲の発射ボタンである。戦場は破壊兵器により最早跡形も無く蹂躙され、草木の影形も無い。
「お、おい、空、今の行為はアーティフィシャル・インテリジェンスとしてあるまじき行為なのでは……?」
「聞きたくない……聞きたくない!」
空は耳を手で塞いで「嫌! 嫌!」という顔をながらも楽しそうにBボタンを連打する。
ちなみにAボタンは先ほどの180mmバルカン砲の発射用。
「ちょ、ちょい待てって! これは『中パンチ連打→大キック→追い討ち』で世界の格闘家相手に勝ち進んでいくゲームとは違うんだぞ!?」
外では怒り頂点に達したつぐみ。武は沙羅を連れて離れる。賢明な判断だ。
「優……空……悪戯が過ぎたわね……」
と、言って空高くジャンプしたつぐみは正義の鉄槌を巨大ロボに振り下ろした。
ガキーン!
甲高い悲鳴をあげ、【ME-DEATH】の厚い装甲にひびが入る。
「嘘!?」
「この【ME-DEATH】の装甲は市販されているテレビの特撮ヒーローシリーズのロボット玩具に使用されている超合金並の強度があるはずなのに!?」
驚く優と空。
と、同時につぐみの第二撃が巨大ロボの腹部に炸裂する。
ズゴオッ!!
今度は鈍い音をたて、よたつく超合金並の強度を持つらしい【ME-DEATH】。
「田中さん、弾切れです!」
「くっ!!」
反撃不能の物体と化し、超合金ロボのエネルギーは底をつきかけ、機動力の低下は著しかった。
と、突然、
『Vier Minuten vor der Implosion.』
と機内アナウンスがかかったのを桑古木は聞き逃さなかった。
「な、何だ、この魅力的な女性アナウンスは!?」
「私の声です♪」
嬉しそうに微笑むLM-RSDS-4913A。
『Drei Minuten vor der Implosion.』
「う〜む、こんな綺麗な声を出すとは……伊達に『NEVER-NEVER SKY〜架空の空〜』歌ってないな。」
「『Aqua Stripe』も歌ってますよ。」
「敢えてドラマCDの宣伝してやってるんだよ。」
「私も『Shynny Boy』歌ってるわよ?」
「いや、別に優には訊いてないが。」
「あ、桑古木、むこう3ヶ月給料出ないから。」
「NOォオオーーー!!!」
『Zwei Minuten vor der Implosion.』
「って、さっきからずっとうるさいな、このアナウンス。何ぶつくさ言ってんだ?」
外では連続で中パンチを浴びせ続けるつぐみの姿がある。
「えーとですね、最初のアナウンスが『圧壊4分前』、次が『圧壊3分前』、その次が『圧壊2分前』」
『Eine Minuten vor der Implosion.』
「あっ、今『圧壊1分前』です♪」
女神の微笑みを浮かべる空は、桑古木の先ほどの褒め言葉が相当嬉しいらしい。
「え?」
「は?」
対して優と桑古木の顔には?マークが10個くらい浮かんでいる。
「そんな機能つけて……ないわよ?」
「いいえ、先日田中さんがお酒を飲んでいたときに、『そうだ、いざというときの機密保持のためにあると便利よね〜♪』と言って、自爆装置をつけていたのを私のデータは記録しています。」
「な、なんですとー!?」
「優……何てことを……。」
「後3秒で圧壊しますね。……2……1」
「「NOォォオオオーーー!!!!」」
断末魔の叫びをあげる研究者とその下僕。
その顔はムンクの叫びもびっくりだ。

ドゴォォオーーン!!

盛大な打ち上げ花火の後、山には巨大なクレーターが誕生した。
100m離れていてもそれと分かるキノコ雲の発生により、武はつぐみの身を案じ、沙羅と現場へ駆けつける。
「つぐみー! 大丈夫かっ!!」
「ママ!?」
そこにいたのは黒い4つの物体……いや、埃と土煙でどっぷりと汚れたつぐみ、優春、空、その他一名の姿。
「ゴホッゴホッ」
「皆さん? 大丈夫ですか?」
「何、突然良い子ぶってんのよ!!」
バコーン!
容赦なく鉄拳を浴びせるつぐみは健康そのものである。
「ナイス……つっこみです……」
と言い残して絶命する空。しばらくは倉成先生争奪戦から手を引くことになりそうだ。
土煙の中にはもう一人、主犯が存命している。
「フフフ……やるわね、つぐみ。さすがは私がライバルと認めただけはあるわ。」
「優……あんたも懲りないわね。」
「今日こそ決着をつけてやるわ!」
「かかってきなさい!」
「お、おい、もうやめろって二人とも。」
武の必死の静止も聞かずに戦いはエンドレスへ……と、思われたその時、
「沙羅……どうしたんだ?」
ふと横を向いた武が発見したものとは、目に大粒の涙を浮かべている沙羅だった。
「ママとぉ〜、おばさんがぁ〜、喧嘩してるよぉ〜! わ〜ん!!」
大声で泣き喚く沙羅。
「え!? おばさんですって!?」
「い、一体どうしたっていうの?」
さすがにこの異常事態に二人も気づいたらしい。
沙羅のいつもとは違う様子に一時休戦するつぐみとYOU。
「お、おい沙羅、こんなのはいつものことだろ?」
泣き止まない沙羅は、心なしかいつもより幼くなってしまった感がある。
「も、もしかして……こいつはもしかすると……」
突如現れた桑古木。
「あら、カビラキ、いたの?」
「カビラキじゃない! か『ぶ』らきだっ! ったく、どっかのスプレー剤みたいな名前にしやがって。」
「で、何だって言うんだ?」
武の質問に、カビラキは驚愕の発表を行う。
「ああ、これは【PHANTOM】の症状にそっくりなんだ。」
「何だって!? タカさんは俺たちは大丈夫だって……」
「『あくまで予想』だ、ともね。」
と、つぐみ。
「ってことはつぐみ……」
「ええ、沙羅は【PHANTOM】にかかったのかもしれないわねぇ〜。」
「ん? つぐみ……、お前、今何か変じゃなかったか?」
武の言う通り、つぐみはいつもの大人っぽい様子はどこへやら、そわそわと落ち着きをなくしているかのように見えた。
「マ〜マ〜、抱っこしてぇ〜。」
そんなつぐみに甘える沙羅。
「や〜だ〜、私も抱っこしてほしいのぉ〜。」
「…………」
「お、おい、もしかしてつぐみも……」
「優〜、抱っこ抱っこぉ〜。」
優に掴みかかるつぐみ。
「こらっ! 離れなさい!」
と、一喝した優に、つぐみは大声をあげて泣き始めた。
「びえ〜ん! このおばさんがいじめるよ〜!」
「おばさんおばさん言われたら、わ、私だって、泣きたくもなるわよぉ〜。え〜ん!」
「…………」
「待ってくれ! 優も、か?」

『武は混乱した!』

「そうらしいな。あの島にいた時間が一番長かったし……。」
「桑古木……ひょっとすると、俺たちも?」
「しょうかもしれにゃい。」
「は!?」
「ぼくには、ぼくにはそんなこと分かるわけないよ! え〜ん!」
「な、何故泣く……、というかお前もか、桑古木……」
桑古木は優と空を脱出させる際にあの島に降りていたので、感染する機会はわずかではあったがあったのである。
泣き喚く四人に呆然とする一人、そして倒れているRSDの図は想像するに易い……とはとても思えないが。
そんな中、武にターゲットを定めた四人。
「ねぇ〜パパ〜、抱っこしてぇ〜。」
「たけしぃ〜、おままごとぉ〜。」
「くらなりぃ〜、一緒に良いことしようよぉ〜。」
「たけしぃ〜、ぼくと勇者ごっこしようよぉ〜。」
(約一名怪しいこと言ってる奴がいるぞ? 勇者ごっこって何だ?)
冷や汗一杯の武に満面の笑みを浮かべて迫りくる悪の秘密組織ショッカー軍団。

来週へ続く。



田中家ではあまりにも帰りの遅い武たちと、ますます幼児化が進み最早乳児と化したホクトに痺れを切らした優秋が理宇佳に連絡を取っている最中である。
「お母さんたちはどうなってるんですか?」
まだ帰らない、という事情を聞き、急遽どこからともなく現れたアツシが操縦するヘリに乗り、彼女たちは例の山へと向かうこととなった。
ヘリにはアツシ、八神亨、亨が連れてきたココ、理宇佳、隆文がすでに乗っていた。
「3000万円をちょろまかした優が悪いとはいえ、何だか大変なことになっちまったな。」
「ああ。まさかタケたちに何かあったんじゃ……。」
どういうわけか知り合いらしい一行は、そのまま頂上へ。



「ばぶばぶ」
「だーだー」
何かの儀式をしている最中なのか、四足歩行で歩き回る五名。
そこにはかの有名な漢の中の漢、倉成武も例外なく含まれていた。
それを見た優秋の腕に抱かれていたホクト(もどき)が突如飛び出し、その輪の中に加わる。
「「「「「…………」」」」」
全員が沈黙する中、ココだけは元気だ。
「ねぇ〜、みんな、ひよこごっこしようよ〜♪ ひよこごっこ、ぴよぴよぴぃーっ♪」
一同、ココに続く。
合掌。




そして―――――今日も世界は変わらず平和だった―――――らしい(汗)





『Eine Geschichte setzt auf Remember11 fort.』(魅力的な女性アナウンスの声で)






あとがき

皆さんこんばんは!
リレーSS、コミカルパート、完結です。

さて、アンカーとなった本作ですが、とにかくテキスト重視でシナリオは半投げ状態(汗)
苦笑でも失笑でも良いっ!
とにかくどこかで笑ってくれぇええーー!!
ぜぇぜぇ……
一箇所でも面白いと思っていただけるところがあれば私としては嬉しい限りです。
シナリオは大団円で終わらせることが目標でした。というか任務でした。
しかし……これは大団円と言えるのだろうか(滝汗)
とにかくオチをつけなくてはならなかったので、これで大団円と思って……お願い(マテ

プロローグのチョコシューさん、本編の美綾さん、HELLCHILDさん、終焉の鮪さん、挿絵の雪月花さん、お疲れ様でした!
企画を快く承諾して下さった明さん、そしてこうして読んで下さっている画面の前の皆さん、ありがとうございました♪
色々な野望と希望を胸にスタートしたリレーでしたがいかがでしたでしょうか?
作者も読者も楽しめる、そんなリレーになっていれば実に有意義だな〜、と思っています。

ちなみに最後のドイツ語訳は「歴史はRemember11へ続く」でした。

それではまた!

2004.1.24(期限ギリギリ)

やまちゃん≒海瀬流 夜魔


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