霞が見える。
 それは、現とこの世界との境界線。
 はたして、此処は何処か?
 何故、此処にいるのか?
 そして、誰の視点か―――?

 知らぬまま。
 世界は、始まりを迎える。

 混沌とした、荒唐無稽な物語の始まりを――――。




注:この作品は壊れ系ギャグです。
 キャラクターのイメージを大切にしたい『ぴゅあぁ〜』な心の持ち主は、早々にお立ち退きください。









 2017年、夏――――

優「……倉成」
 この私、田中優美清春香菜はすでに限界だった。
 いなくなって、はじめてそのありがたみというか、大切さが分かるというか。
優「……はぁ」
 倉成は今もLeMUの下、IBFで眠り続けている―――らしい。
 倉成を助けるには、救助された時に聞いたあの声の主を騙さなければならない。
 そのための準備をしなきゃならないと思いつつも、私の意識は、どっかと〜〜い所を漂っていた。
空「……倉成さん……」
 それは空も同じようで、ぼぅっと窓の外、広がる青空を眺めてる。
 窓の付近は、部屋に仮設したRSDの有効範囲ギリギリで、時々顔がうにゃんと牡丹餅みたいに伸びたり縮んだりしてるけど本人気にして無いよーなので何とも言えない。
 倉成武……。
 助けるためには17年待たなければならない。
 けれど、今すぐにでも逢いたい。
 今、すぐにでも………。
優「………そ、そうよ……!」
空「田中さんどうしたのですか? 突然立ち上がったりして」
優「ふ、ふふふ……ふふふふふふふふ……!」
空「た、田中さん……?」
優「空っ!」
空「は、はい……!」
優「もうすぐ、倉成に会えるわよっ!」
空「…………え、えぇぇぇぇぇぇぇっ!??」
 空が頓狂な声をあげて驚いちゃうくらい、私の考えはトンデモナイものだった。
 そう、その計画とは―――――!




戦え僕らの○○○○武!
                              製作者 REI







武「のどかだな」
 2034年、5月7日。
 この俺、倉成武は無事ココと一緒に救助され、その平和な時を満喫していた。
 何だか眠ってるあいだに17年経ってたり、ホクトと沙羅っていう16の子供まで出来てたりと、混乱の真っ只中にいるのだが。
武「平和、だよなぁ」
 呟いた俺に駆け寄ってくる2人。
 ホクトと沙羅だ。
 そして遅れてつぐみもやって来た。
つぐみ「お帰りなさい、武」
 ――――おろ? そんだけ?
 しかも言った後すぐ船内に帰ろうとしてるし。
 台詞も態度も素っ気無いというか何と言うか。何かこ〜、もっと感動的な場面を演出できんのかねぇ。そうしたら俺が、肩に乗っけてるチャミ繋がりで一発場を和ませてやろ〜と……。
沙羅「きっとママ、照れてるのよ」
ホクト「そうだよ。きっと、17年ずっと待ち続けてたから、うまく言葉が出てこないんだよ。そうだよね、お母さん?」
つぐみ「え? え、ええ。そうよ」
 なぜかしどろもどろになるつぐみ。

 思えば。
 これが俺に舞い降りた、世にもキミョ〜な悪夢の前兆だったのかもしれない。

 閑話1 桑古木=倉成武?

武「お前があの時の少年? うおっ、ホント俺にそっくりだな〜。仕草といい口調といい。特にその顔! 整形してもここまでソックリにはならんぞ」
桑古木「何言ってんだ? 武。俺は正真正銘、倉成武だぞ?」
武「いやいや少年よ、もう俺の振りなんかせんでもよろしい。ホクトから聞いたぞ? BWを騙すために、俺の振りをしてたんだってな」
桑古木?「だから、俺は少年じゃなくって、倉成武だと言ってるだろ〜が!」
武「……少年よ、お前、優の奴に洗脳でも受けたのか……?」

 閑話2 新婚さん空

武「えええぇぇ!? そ、空、身体があるだけじゃなくて結婚までしてるのか!?」
空「はい。シロガネーゼの鉄則です。倉成先生」
武「で、相手は誰かね? 茜ヶ崎君」
空「……ぽっ」
武「?」
空「…………ぽっ」
武「???」

 閑話3 俺はみんなのおとーさん

武「優」
優秋「何? お父さん」
武「って、優の娘だったか、悪い。………って、おとーさん?」
優秋「ああ、ごめん。間違えちゃっただけだから」
武「だ、だよなぁ! まさか、優の娘までココみたいなことを言い出すんじゃないかって冷や冷やしたぞぃ」
優秋「…………ホンモノまで取っちゃったら、マヨ達に悪いから」
武「………ホンモノ?????」

 ――――――閑話休題。

 ようするに。
 船を降りるまでの短期間のあいだに、俺の不安は積もりに積もっていた。

武「……つぐみ。お前、こんな一戸建てに住んでるのか?」
 みんなと別れた後、俺とホクトと沙羅はつぐみの家に行くことになった。
 そしててっきり安アパートを借りてるものとばかり思っていた俺達は、見事に度肝を抜かされることになった。
つぐみ「そうよ。これも、武のおかげ」
武「……? 俺、何かしたっけか?」
 身に覚えが無い俺を他所につぐみは話を続けた。
つぐみ「ここを買って、あなた達を施設から呼び戻そうとしたら、既にライプリヒに連れて行かれた後で今まで一緒に暮らせなかったけど……これからは、ずっと一緒よ」
ホクト「お母さん……」
沙羅「ママ……」
武「感動的なところ悪いが、なぜか俺、のけ者にされてるよーな気がするんですがー」
つぐみ「ごめんなさい、武。……そうよね。武は今日、ようやく本当に帰ってきたんだし」
武「本当に、帰ってきた……?」
つぐみ「さ、早く入って。もう、夕食用意できてると思うから」
武「夕食? って、つぐみ。家政婦か何かを雇ってんのか? ひょっとして」
つぐみ「…………」
武「そ、そんなに金持ちだったのか!? うお、信じられねぇ」
ホクト「ほら、お父さん早く早く〜」
沙羅「この匂いは、カレーでござるな♪」
 俺は、二人に手を引かれてつぐみを追って家に入った。
つぐみ「ただいま」
 いつも玄関で口にしてるのか、ごく自然に言うつぐみ。何だか驚いたが、これはこれで新鮮でOK。
 だが。
?「おかえり、つぐみ」
 家の奥から男の声。
 ほほう、奴が雇われの家政婦か。
 が、しかし家政婦風情が馴れ馴れしくつぐみを呼ぶなんて笑止千万!
 どれ、ひとつその顔を拝んで――――
?「二人には会えたんか?」
 ひょいっと顔を覗かせるソイツは。
武「げぇっ!??」
ホクト「う、嘘っ!!?」
沙羅「な、何で、パパが……!」
 ソイツの、顔は……。
つぐみ「ええ、連れて帰ったわ。……武」
 俺、そのものだった。
偽武「んで、そっちの色男は?」
つぐみ「え? ……その、こっちも、武よ」
偽武「はぁ? そりゃお前、確かにソイツ間抜けそーな顔してるが、一応俺ソックリだし……間違えるのは、まああるかもしれんけどなぁ。14年連れ添った相棒を間違えんなよなぁ?」
 やれやれ、と頭を掻く偽俺。
武「……って、ちょっと待ったぁっ!!!!」
つぐみ「どうしたのよ、武。近所に迷惑じゃない」
武「い、いや、所帯じみたつぐみも新鮮でOKだが―――って、んじゃなくって! 何でIBFで眠ってた俺が目の前にいて、んでもってタヌキのエプロン付けてオタマなんか持ってんだっ!」
偽武「晩飯をこさえてたからに決まってるだろーが」
武「そうじゃなくって! つぐみ! こいつ、どうしたんだ!?」
つぐみ「14年前くらいに、ダンボールに詰められて郵送されてきた」
武「ダンボールって……いや、それは後でいい。で、誰から……!」
つぐみ「優から」

 ・・・・・・。

武「あいつかぁああああっ!!!!」
 俺は駆け出した。時速100kくらいのスピードで。
つぐみ「夕飯、7時だから。それまでには戻ってくるのよ」
 そんなつぐみの声が、遥か遠くに聞こえた。


優春「クローンよ」
武「く、くろーん、っすか」
 なぜつぐみと一緒にもう一人の俺がいるのかと問い詰めたら、首謀者だと思われる優は事も無げに答えた。
優春「ほら、IBFでTBの抗体うつ時、武ともみあったじゃない。その時に髪の毛だったかが私の服に付いててね。そこからちょちょいって」
武「ちょちょいって、たった一本の髪の毛から!? 大体クローンったって、17年前に生み出したんだろ? それが何で、20の俺と同じくらいまでに成長してんだ!? オカシイじゃね〜かっ!」
優春「全然おかしいところなんて無いわ。だって私の作ったクローン、成長を促進させる酵素でもって成長早めたから」
武「な、なんじゃ、そりゃあ……?!」
優春「テロメアーゼって知ってる? 細胞分裂の限界回数を決めるテロメアを回復させる酵素。つまり、その酵素があれば細胞は分裂し続けて死滅しない。つまり、老化しない。老化を抑制する酵素があるなら、成長を促進させる酵素もあるんじゃないかなぁって」
武「そ、んなもん簡単に出来るわけないだろ?!」
優春「出来ちゃったんだからしょーがないじゃない」
武「ぅおい」
優春「1週間で元気な赤ちゃん武の誕生、そして、更に数日足らずで今の武と変わりない姿にまで成長を遂げたのよ。もちろんお約束っぽく記憶は継承してるわ。あの時私に抗体を打とうとしたその瞬間までの記憶を」
武「………なあ。優」
優春「何?」
武「お前さ、確か考古学をベンキョーしてたんじゃなかったか? それが何でクローンなんかを作れるよ〜に……?」
優春「独学よ」
武「………」
優春「そうね。強いて言えば、愛のパワァッ! ってやつじゃない?」
武「あ、愛って……? い、いや、つか、さっきから気になってたんだが。何で優は俺のこと武って呼ぶんだ? 確か、チョット前―――って、優には17年も前になるのか。確か、倉成って呼んでたはずじゃあ……」
 そして訝しる俺の前に、ソイツは現れた………!
偽武「よぅ、優。秋香菜はまだ帰らんのか?」
 白衣に身を包んだ偽俺……いや、二人目だから偽武2か。そいつはさも当然と言った顔で優の肩を抱いた。
武「……はい?」
優春「ホラ、旦那を苗字で呼ぶなんてヘンでしょう?」
偽武2「田中武だ。ヨロシクなっ」
武「ヨロシクなっ……じゃ、ねぇぇぇっ!!!」
優春「そんな驚かなくてもいいでしょう? ああ、驚きついでにもう1つ。空にも専用の武を与えてるの」
武「そ、空にもぉ!?」
優「そ」

偽武3「空……愛してるぜ……(きらりん!)」
空「くらなり、さん……」
偽武3「おいおい、いつになったら俺のこと『武』って呼んでくれるんだ? ホラ。武って、呼んでみろよ……」
空「はい……。たけし、さぁん……」
 そして偽武3は空を抱き締―――以下検閲削除

優春「ってな具合に、新婚さん真っ最中?」
武「………あが」
 あいた口が塞がらないとはこのことを言うんだろう。
 ともかく。
 そう。これは夢だ。夢に違いない―――!
優春「別に夢オチってのも悪く無いけど。そーなると、これは武が海の底で藻屑になるその刹那に見る夢ってことにならない? ホラ、一応今日が5月7日だから」
武「くっ……! 人のささやかな現実逃避を邪魔しよってからにぃ!」
優春「素直に認めなさい。それが無理なら、ラストが夢オチであるよう祈ることね」
偽武2「そうだぞ、俺。それに、いくら記憶やら人格が同じっつーても、俺とお前とは既に別人だ。まー気にするな。優や空と結ばれる俺もいるんだなー程度に思っとけば」
武「それでいいのか!? お前はっ! ってゆ〜か、同じ顔が2つも3つも並んでるとキショイつーんじゃあっ! ……って、まさか船の上で顔を合わせた俺ソックリの奴も……!」
優春「そ。アレもあなたのクローンよ」
武「じゃ、じゃあ、少年はどーなったんだ!?」
優春「さあ? TBの回復が間に合わず死んじゃったんじゃない? あ、心配しないで。会いたかったら今すぐにでもクローンとして復活を―――」
武「させんでええっ! ヤヤコシイ!!」
(ヒドイよ武……)
優春「―――まあ、そういうことよ。同じようにつぐみにも武をプレゼントしたの。つぐみ、二人の子供と離れ離れになって大変な目に遭ってたからしいから。誕生日に郵送してあげたのよ」
 それでダンボールか。……いや、優。クローンにも人権があるんだから、そんな犬や猫―――よりもヒドイか。そんな扱いすんなよ。クローン法って知らんのか? お前は……。
武「じゃあ、何か? 俺はこれから、ずっとあの偽俺と一緒に、つぐみとホクトと沙羅と、5人で生活するってのか?」
優春「そうよ。まー、喧嘩しない程度に仲良くね。私、事故の後処理とかで忙しいから、また暇な時にでも話しましょう」
 強引に話を打ち切って、優は偽俺2と一緒に去って行った。
 ―――忙しいなら腕組んでイチャイチャしながら歩くなよ、ったく……。
ココ「あ〜っ! たけぴょんだ〜!」
 帰り掛け、玄関でココに出くわした。ココの隣には、やっぱり偽俺が立っていた。
ココ「なっきゅがねぇ、このたけぴょんをくれたんだ〜。うれしー、嬉しいっ♪」
 ソイツはBWを騙す際俺の役(いや、桑古木の役か。シナリオ的に)をしていた偽俺だった。
偽武4「と、いうことで俺はココ専用のパパになることになった」
 嬉しそうに笑う偽俺4。
 なんつ〜か、役割のせいか桑古木に似てロ○コンっぽい。
 ……やめてくれよ、俺の顔でそんなうれしそーにココを抱き上げたりするの……。
ココ「ママも欲しいな、ママも〜」
偽武4「そっか。じゃあ、優かつぐみのクローンでも作ってもらうか?」
 コワレテル。
 絶対にこの世界は壊れてる。
 激しい頭痛に苛まされながら、俺は田中邸を後にした。


ホクト「あ、お父さん。やっと見つけたよ」
 近くの公園で自分の存在について哲学しながらポケ〜っと流れる雲を追いかけてた俺の前に、ホクトと沙羅と優のが娘が現れた。
武「お前ら……」
沙羅「ママがそろそろご飯だから帰ってきなさいって。それと、その、もう一人のパパも待ってるし」
武「カンベンしてくれぇ……」
 そんなに簡単に俺を量産しやがって……。
 何だか俺が、安っぽく思えるじゃねーか。
優秋「ねえ、倉成……。お母さんを、止めてあげて」
武「優を、止める……?」
優秋「お母さんは、クローンを作り出すようになってから人が変わってしまった……。命を命と思わない、マッドなサイエンティストになってしまったの!」
武「まっどな、さいえんてぃすと?」
優秋「そう。今までは、いつまでも老けなくて血は繋がってなくてもいいお父さんだなって思ってたけど、今日あなたと出会って、家にいたお父さんがクローンだって知った時戦慄さえしたわ。お母さんは、自分のエゴのためだけにクローンを作り上げているのよ。……ひょっとしたら、私も……」
 そう言えば、この子は優のクローンだったんだ。
 今彼女は、俺と同じように自分の存在が―――立っている地面があやふやになっている。
 自分が、優の自己の存続のためだけに生み出されたのでは……? と。
ホクト「大丈夫だよ、優。優は優だから」
沙羅「そうですよ、なっきゅ先輩。先輩は、田中優美清秋香菜。私の信頼して尊敬してる、たった一人しかいない先輩だから」
優秋「ホクト……マヨ……」
ホクト「……それと、お父さん。他にどれだけお父さんがいたって、優と同じように、ぼくにとってのお父さんは目の前のお父さんだけだと思ってるから」
武「……ホクト……」
沙羅「そそ。拙者が手裏剣村に行こうと約束したのは、目の前のパパ殿でござるからな」
武「沙羅ぁ……」
 そうだ。
 どんなにクローンの俺がいたって。
 どれだけ俺が偏在してたって。
 俺はここにいる。
 俺は、倉成武だっ!
沙羅「けど、ま〜私も専用のパパが欲しいかも。『サラ専用パパ』。カラーリングは赤で、三倍の優しさとカッコよさを持ってたら最高?」
ホクト「確かに」
武「……うぉい」
 まー、何はともあれ。
 決心はついた。
 俺は一人で十分だ。
 そーと決まれば首謀者ん所に殴り込みだー!


武『くぉらぁっ! 優美清春香菜っ! 出てこぉーいっ!』
沙羅「ぱ、パパ、何もそんな懐古的な拡声器で叫ばなくったって……」
ホクト「っていうか、どこの町内会から持ってきたの? そのメガホンみたいなスピーカー……」
優秋「ご近所さんから文句言われるの、私達なんだからね!?」
武『じゃかぁしぃっ! こういうモンは形から入るもんなのだ!』
沙羅「み、耳元で叫ばないでぇ〜!」
ホクト「鼓膜が破れ、破れた?!」
優秋「聞こえない聞こえない! な〜んにも聞こえな〜いっ!」
武『俺は一人で十分だぁっ! ヘンにクローン量産してんじゃねぇ〜っ!』
武『ホントーなら17年間ゴブサタで俺に甘えてくるはずのつぐみが素っ気無いぞぉ〜っ!』
武『つぐみとの新婚生活返せぇ〜っ!』
武『それとなー、優! 俺はっ! 間違ってもお前とだけは結婚せんぞぉ〜っ!』
武『俺は桑古木と違ってロ○コンなんかじゃねぇ〜っ!』
武『空とらぶらぶだなんて、代わりたいぞぉ〜っ!』
 汗と共にメガホンのグリップを握り締めながら、俺は思いのたけを速射砲のごとくぶつけた。
 やがて。
優春「うっさいわねー……」
 田中邸の門が開き、マッドサイエンティストがその姿を現した。
優春「なぜ? 何が不満なの? 私は武のことを―――倉成のこと好きだった。いいえ、愛してた。……それは空だって同じ。そして、一人で逃亡生活を続けていたつぐみももう限界で、あなたという支えが必要だった。だから私は、みんなのことを思ってあなたのクローンを生み出したのよ? それのどこが悪いのよっ! 文句があるなら、17年間海の底でぐ〜たら寝てた自分自身に言いなさいよね!?」
武「ぐぅ……! 逆ギレのクセに痛いトコ突きやがって……! 俺だって好きで寝てたわけじゃねぇんだぞ、ったく……」
偽武2「そうだ。優の言うとおりだ」
 優を庇うように偽俺2が立ちはだかる。
偽武2「それと、さっきの訂正しろ。優とだけは結婚しないだと……!? それでは全国のTY(武×優)信仰者にシツレイじゃないか!」
武「てめぇが一番失礼だっ!」
 ともかく。
 俺は一歩も譲る気なんて無い。
 たとえ、誰に何を言われようとだ。
つぐみ「武……」
武「つ、つぐみ……!?」
 いつからいたのか、俺の後ろにはつぐみが立っていた。
偽武「俺もいるぞ」
武「自分の星に帰れっ!」
つぐみ「ねえ武。本物とか偽者とか、どうでもいいじゃない。私には武が必要なの。14年間私をささえてくれた武。そして、17年前私が愛した武……どっちも大切。二人と、私は一緒にいたいの……」
偽武「そうだぞ? それになぁ、もう一人の俺。夜のことなら安心しろ。倦怠期なんて字は俺達の辞書には存在していない! 今でもラブラブ真っ最中だ! だからお前も相手してもらえるし、何だったら俺も加えて3ぴ……」
武「お前も黙れっ! これ以上話をややこしくするなぁっ!」
 ぜぇぜぇと肩で息をする。
空「倉成さん―――いえ、武さん。私からもお願いします」
武「空、お前もかっ!」
空「私以前言いましたね……? 武さんはどこにいますか? と……」
武「そ、そーだったか……?」
空「私はかつてLeMUに偏在していた。どこにでもいて、どこにもいない存在……けど、今なら私は断言できます。私は今、ここにいる。そして武さんも、今私は目の前にいて、そして隣にもいる―――」
 きらりん! と空の横で歯を光らせる偽俺3。……つーか、何か間違ってマセンカ? 偽俺3よ……。
空「それで、いいじゃないですか」
ココ「ココは、あんまし気にならないけどなぁ〜。それどころかぁ、たけぴょんがいっぱいいたら楽しそ〜だし」
 ココも、桑古木に性質的に似てしまった偽俺4を従えてやってきた。
 いや、俺が気になるんだって。
つぐみ「それに武。私は老いず、寿命が無い。……けど、武もそうであるかどうかは未知数なの。キュレイウイルスがすべての遺伝子を書き換えることは本当に稀で、老いない身体になったところで、いつか身体のどこかが限界を超えて、死んでしまうかもしれない……。私は、いつまでもずっと武と一緒にいたいの。だから、優をあまり責めないで。私だって、クローンで武を蘇らせることが可能なら、そうしてしまうから……。一人は、嫌だから……」
 しんと、辺りは静まり返った。
 だらりと垂れ下がった俺の手にはスピーカー。
 それは滲んだ汗によって、手から滑り落ちた。
武「…………」
 口をつぐんだまま、ゆっくりと空を見上げる。
 茜色に染まった五月の空。
 遠くでカラスが鳴き、俺は1つ吐息を吐く。
武「それでも俺は……」
 言うべきことは決まっていた。
 つぐみ。
 空。
 そして、優。
 俺が17年眠っていたせいで、どんな思いをしてきたのかは俺なんかに図り知ることはできない。
 だけど。
 それでも、俺は――――。
武「俺は、たった一人の俺でいたいんだ……」
 たった一人の俺。
 今、ここにしかいない俺。
つぐみ「どういう……こと?」
武「確かに、俺はキュレイウイルスに感染して老いなくなったけど、いつか限界がくる可能性だってある。……その都度俺をクローンとして蘇らせれば、俺という人間は永遠にこの世に行き続けることになるだろう。けど、そうやって生まれたクローンである俺は、たぶん今より幸せとは思えない……」
 みんなが息を吸い込む。
 この辺りに海は無いはずなのに。
 なぜか、塩の香りが鼻についた。
武「たった一度、俺はお前と出会った。
 ホクトがいて沙羅がいて……。
 それだけで俺は、幸せだと思ったんだ。
 別れが悲しいのは、きっと一緒に過ごした時間が幸せだった証拠なんだ。
 たった一度であって、限られた時間幸せにすごした証なんだ。
 だから、ちっとも不幸なことなんかじゃない。
 ――――きっと。……きっとだ」
つぐみ「………」
空「………」
偽武達「………」
武「……そうだ。自分専用の倉成武を手に入れて何になる? 俺は、たった一人しかいないからこそ俺であって、そしてかけがえのないもののはずだ。……そうだろ?」
つぐみ「……そうね。武は、たった一人きりしかいないから、とても大切なものなのに……。潜水艇で武を失ったと思った時、それは十分に思い知ったはずなのに……」
偽武「……ああ、つぐみ。俺の言うとおりだ。命は、たった一度きりだから尊く、すばらしいものなんだ……。なのに俺は……なぜ、こうして生まれてしまったんだ……」
 俺とつぐみを見遣って空を仰ぐ偽俺―――いや、偽者なんかじゃない。今までつぐみを支えてきてくれた、もう一人の俺。
空「私は、自分が恥ずかしいです……。命無き者だからこそ、命や、そして恋の意味を知ろうとしていたのに……私は、妥協して一番容易な方法にすがってしまった……。本当に倉成さんが好きなら、自分の力だけであなたを振り向かせなければならないはずなのに……」
偽武3「そう言うなよ、空……。空は今それに気付いた。だから、きっと大丈夫だ」
武「……優。なんで、俺のクローンを作り出したんだ……。こいつらは生まれてしまった。生まれてしまったからには生きなければならない……。けど、複数存在する俺―――そんな安っぽい幸せで、みんなを幸せにすることができるのか……!? 生まれてきた他の俺達は、みんなを幸せにすることができるのか……!? それで優は幸せだったのかっ!?」
 俺達の視線が、優に集中する。
優秋「お母さん……。もう一度聞くわ。私はお母さんにとっての何? 私は本当にお母さんのすべてなの? お母さんの、たった一人の娘なの……!?」
 ホクトや沙羅と一緒にかたずを呑んで見守っていた優の娘が、最後とばかりに優に訊ねた。
 優は黙ったまま。
 そして唇が動き、謝罪の言葉が漏れると、俺達は全員確信していた。
 ―――――しかし。
優春「言いたいのはそれだけかしら?」
 ふふっと、優は笑った。
優春「ユウ。あなたは私ではない。優美清秋香菜という、一人の女の子……私の娘。それだけは確かよ。けどね。今回の私の役所は『愛と遺伝子工学に狂ったマッドサイエンティスト』なのよ。簡単に引き下がると思って?」
武「は、はい……? ユウサン、今何と?」
優春「分からない? そんなコトを言う倉成は――――」
 どっごぉ〜〜〜〜〜ん!
 地面が揺れた!
優春「お仕置きが必要ってコトよ!!」
武「う、うおぉ!? 光った! 家が光ったっ!?」
優秋「それだけじゃないわっ! ガレージが……! ガレージが開いてカタパルトみたいなものがっ!」
優春「来なさいっ! クローン軍団!」
全員「え……えええぇぇぇぇっ!!??」
 俺達が目にしたもの。
 それは、カタパルトから次々に発射されていく俺のクローン達だった……!
 その数、総勢500人。
 同じ顔がずらりと並び、すべてが手に刀やら銃やら金槌やらハリセンを持っている。
優春「田中家に危機が訪れる時、どこからともなく現れる、悪の使者達―――」
武「いや、どこからともなくってお前んちのガレージから生えてきたカタパルトからだし」
優春「戦え僕らのクローン武! これが私の力よっ! 思い知りなさい!」
武「ちょっ、ま、待った優……! お前、メチャクチャ! メチャクチャ過ぎ……!」
 狼狽する俺の肩を、誰かが掴んだ。
偽武「心配するな」
偽武3「俺達が、なんとかする」
偽武4「もう少しココと一緒にいたかったが、仕方無い」
 それは、俺のクローン達だった。
武「お、お前ら……馬鹿っ! 相手は俺500人だぞ!? 死ぬ気かぁっ!!」
偽武3「……大丈夫」
偽武4「こんな時、俺だったら何ていうか知ってるだろ?」
偽武「俺達は、死なない……! なぜなら」
 三人が、俺の肩に置く手に力を込めた。
偽武達「俺は、ここにいる―――!」
優春「どうしたのかしら? 茶番劇で勝てるとでも!??」
 足並みを揃えて向かってくる500人の俺。
偽武達「つぐみ(空・ココ)を頼んだぞっ!」
 三人の俺は、一斉にその軍勢に特攻をしかけ……
武「お、おれぇぇぇぇぇっ!」
 ちゅっど〜〜〜〜んっ!
 閃光と爆炎。
 どこに爆弾を持っていたのか、彼らは自爆して俺達を見守る星となった……。
優秋「ああっ、家が燃えていく……」
つぐみ「……終わったのよ。何もかも……」
 炎に包まれ崩れ去る悪夢。それを見守る二人。
 この業火だ。あの歪んでしまったひとりの科学者も、もう生きてはいないだろう。
優春「ふふふ……。その程度で私が終わるわけ無いじゃない」
 ゆらりと揺れる、その火炎の向こう。
武「そ、そんな……っ!」
 向かってくる500の足音。
 なんと優もクローン武達も、まったくの無傷だったのだ!
優春「他愛ないわね。さあ、武達。そこの倉成を適当に痛めつけてあげなさい」
武「う……」
 もちろん、逃げ場は無い。
武「うわぁぁああぁ〜〜〜〜っ!」
 んでもって、ぼっこぼこにされるというお約束な展開を向かえ。
 俺の意識は、いつか見た、現とこの世界を隔てる霞の中に沈んでいった―――。




「うぅ……ゆぅ……めぇ……や、やめ、おれはひとりで……じゅーぶん、だぁ〜……」
「武っ! ちょっと武っ!?」
 ゆさゆさと身体を揺さぶられる。
「――――はっ!」
 俺は飛び起きた。
 ぜぇ、ぜぇと肩で息をする。
 ……寝汗が凄い。とんでもなく荒唐無稽で、とてつもなくオソロシイ夢を見たような気がするんだが……よく覚えていなかった。確か、クローンがどうとかいう夢だった気がする。
「武、大丈夫? 凄くうなされてたようだけど」
「あ、ああ、つぐみか……。悪い。起こしちまったか……」
 時計に目をやると、朝方、まだ日の昇っていない5時だった。
「ひょっとして、怖い夢でも見たの?」
 くすり、と。からかうように、つぐみは笑った。
「そ、んなわけあるかっ!」
 俺は全力で否定したが、つぐみは「そうかしら」とまた1つ笑った。
「だって、ホクトも寝付けないのか何度も起き出してたみたいだし。変なドラマの再放送なんか見るからよ」
 ドラマ……。
 そうか。
 それに影響されて、変な悪夢が舞い降りてきたりしたのか。
 って言うよりも、他の誰かが見た夢を俺も見てしまった、といった感じだ。
 優や空が俺を好きだったり、優の娘が自分の生い立ちのことで悩んでいたりと、俺じゃあ知りえないことを夢に見た気がする。……って、空はともかくとして優が俺のことを好きだなんてまず有り得ないけどな。変な夢を見たもんだ。
「……あれ? 俺、どんなドラマ見てたっけ?」
「35年くらい昔の、ホラー映画をドラマ化したもの。ホクトと一緒に、食い入るように見てたじゃない。確か、タイトルが――――」




らせん。







     完





 あとがき

 どうも。
 ココ一人称と同時進行で書き上げたため、ちょっち壊れ気味のREIです。
 戦え僕らの(正確には優専用)クローン武! いかがでしたでしょ〜か?
 戦え僕らのメカ武!だと思った一部の方、スミマセン。最強の敵Gも現れませんのであしからず。
 さて、見たまんま壊れ系ギャグです。まあ、壊れ系ギャグのクセに夢オチで、最後のオチも弱すぎる気もしますが……。
 オチとして使われたドラマ版らせん。知らなきゃなぜクローンなのか分からず、辛いかと思われます。
 ……って、5年も昔のドラマなんて、誰か覚えてるんだろ〜か?
 よーするに。
 ビデオ屋で懐かしく思ってレンタルしたところ、無性にこんなお馬鹿なお話を書きたくなった、と。ただそれだけっす。
 ああっ! 石投げないでぇ! 夢に出てきた500人のクローンたけぴょんを書きたかっただけだよぅ〜!
 では。


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