このSSは流れとしては前作、「届かぬ思いと叶える願い」の続きとなっています。 プルルルルル・・・ PDAの音が鳴り響く。 「もしもし?」 ―私よ。今日暇かしら? 「ん、暇だけど。」 ―じゃ、もしよかったら買い物に付き合ってくれないかしら。 「ああ、いいぜ。」 ―ありがとう。じゃ、大学の近くにある喫茶店に2:30待ち合わせでいいかしら? 「OK。いつも優が行ってる所だろ?」 ―ええ、そうよ。桑古木にもよく話している所。 「わかった。じゃあな。」 |
『罪』という名の『恋』 作者:霜月 律 |
「ふぅ〜。」 喫茶店に着いて、店内を見渡す。 「優は・・・まだいないか。」 PDAを見ると、時間はまだ2:13だった。仕方ないので、コーヒーを注文し、待つことにした。 「・・・・・・」 しかし、今日が日曜日で大学も休みとは言え、買い物に誘うとは、優にしては珍しい。俺としては、色々世話になったので、別に構わないのだが。 「お待たせしました。」 注文していたコーヒーが来た。喉が渇いていたので、少し飲むことにする。 「・・・美味い。」 正直な感想だった。なるほど、優が勧めるのも分かる話だ。 暇だったので、書き上げなくてはいけない書類について、考えることにした。 「・・・・・・」 まだ来ない。店内に掛けられた時計を見てみると、2:34になっていた。 「遅いな。」 そういえば、優が待ち合わせの時間に来ないのはいつもの事だった気がする。 「ったく・・・。」 さらに待つ事、5分。 「いらっしゃいませ。」 店員の声につられ、入り口を見てみると・・・。 「御免、桑古木。ちょっと遅れちゃったわね。」 優がいた。 「遅い。9分遅刻だ。」 怒っているつもりで言ったつもりだったが、実際は笑っている事に気付く。 「コーヒーを一つ。」 優もコーヒーを注文する。 「何やってたんだ?」 「ユウに、服を選ぶの手伝わされてね。」 ああ、なるほど。 「デートか?」 プチッ 何かが切れる音がした。 「野暮な事は聞かない方がいいわよ。桑古木『君』?」 「・・・。」 大方、彼氏のいる秋香菜が羨ましいのだろう。優も作ればいいだろうに。ちなみに、大学には優の熱烈な(熱狂的?)ファンクラブが多数存在するため、その気になれば簡単に男をおとすことが出来る。 ―非公認だが。 「優は、気になっている奴とかいないのかよ?」 何気なく言ったつもりだったが― 「い、いないわよ。」 ―思いっきり反応があった。動揺している優が面白くて、思わずからかってしまった。 「武は?」 『・・・・・・』 ガスッ 強烈なボディーブローだった。恐らく、つぐみも顔負けだろう。流石は優。 「武にはつぐみがいるでしょ!?」 おお、いつになくまともな事を優が言っている。いつもだったら、『勝負はこれからよ!』とか言っているのに。そういえば、今日は傘を持ってくるのを忘れた。集中豪雨の方は大丈夫かな。 「あれ?じゃ、誰かな?」 「・・・。」 優の顔が赤くなっている。いつもは研究員の間で、『美人』で通っているが、俺の目の前にいる優は可愛く見えた。 「ホクトってのはまずないだろ?優は秋香菜には弱いからな。」 「・・・。」 勝手に静聴だと、思い込む。 「うちの研究所か、大学に優が惚れるような奴いたか?」 研究所というのは、ライブリヒから掠め取った研究所である。 「・・・・・・。」 ボソリ、と優が何か言った。 「ん?何か言ったか?」 「何でもないわよ。」 なんだったのだろう?多少、気になったが、忘れることにした。 「さて、そろそろ行かないかしら?」 時計を見てみると、3:17になっていた。 「そうだな。」 そう言って、コーヒーの残りを飲み干した。 「―で、買い物って何なんだ?」 「ああ、今度の人工精密機械体の情報を入れる、テラバイトディスクとか。」 人工精密機械体、というのは、簡単な例を出すと、SFなどで出てくるアンドロイド等である。今はうちの研究所で働いている空も、この体を使っている。一体、どんな物を使っているのかは企業秘密だ。 「後、ムービープレイヤーとかも壊れちゃって。」 「なるほどな。」 そういって、俺のバイクのエンジンをかける。 「じゃ、後ろに乗ってくれ。」 「えっ?二人乗り?」 「当たり前だろ?」 優もバイクを持ってきているなら話は別だが。秋香菜はバイクの運転が出来るらしいが、優は、確か運転が出来なかったはずだ。 「〜〜。」 何故か唸っていたが、諦めた様に頷いた。今日の優は何処か、おかしい。 ヘルメットを渡し、後ろに乗ったのを確認すると、バイクを動かした。 ―5:54 俺が住んでいる、アパートについた時には、もう6時に近づいていた。 「今日はありがとう。」 「いやいや、これぐらいは当然だろう。」 用を済ませた後、色々な所に回った。どうやら、優は楽しんでくれた様だった。 「よかった。」 無意識のうちにそう言っていた。 「え、何が?」 「ほら、いつも優ってさ、大学とか研究所とかで頑張っているからな。少し息が詰まってないか心配だったんだ。」 「・・・ありがとう。」 それだけしか言わない所は優らしい。 「俺は優の助手だぜ?それぐらいは気を利かさないとな。」 「桑古木って・・・。」 「ん?」 「敏感なのか鈍感なのか良く分からないわね。」 「そうか?」 「ええ、そうよ。」 その後は、優の家に向かいながら他愛もない話で盛り上がる。 「ねぇ、桑古木さぁ。」 突然、優が真面目な顔で話しかける。 「桑古木はココの事、まだ好きなの?」 これまた、突然な質問だった。 「それは・・・多分、今の優が武に対する気持ちと多分同じだ。」 優は何も言わなかったので、さらに続ける事にする。 「ココにはBWがいる。普段、二人は会うことはないだろうけど、それでも二人の心は繋がっている。それに俺はあいつと『約束』したからな。」 『約束』の中身は言わなかった。 「この世界にいない奴を好きになって、信じ続けるのは、愚かを通り越して、罪かもしれない。でも、でもな。」 優の目を見つめる。 「俺はそんな『罪』という名の『恋』もいいんじゃないかって思っているんだ。何より、ココ自身がそれで幸せなんだ―」 息を吸う。 「―、人の幸福を否定するほど俺は偉くはないさ。」 優はまだ何かを考えている様だった。 「ま、こんな答えなら、優も出しているだろうけどな。」 優がふと笑った―様に見えた。 「そうね、愚問だったかしら。」 「まあな。でも、改めて自分の気持ちを認識することが出来た。」 笑みを浮かべる。優もそれにつられて―今度こそ―笑った。 「桑古木にしては、いい事言うわね。」 「おいおい、俺を何だと思っているんだよ。」 今度は二人一緒に笑う。 「思い詰めてた自分が馬鹿みたい。」 優は今、思い詰めていた、と言ったか。それでおかしかったのか、と納得。 「正直な事言うとね、私は――――――。」 あまりにも突然だったので、その先は頭が真っ白になってよく聞き取る事が出来なかった。 「わ、悪い。よければもう一度言ってくれないか?」 「こんな事をもう一度言わせるの?」 優の顔は心底怒っているような顔だった。 「ま、いいか。」 優が口を開く。 その目に魅入る。 この目。 普段は冷静を装っているが、本当は優しい、 2017年間、俺を救い続けてくれた、 あの時から変わらないままの、 とても優しい、 見た目は美しい、 清らかな感じの、 春を連想させる雰囲気の、 香りがする様な、 自然の様な、 そんな彼女に俺は何時の間にか― 「私は、桑古木の事が、好きなのよ。」 ―恋をしていたのかもしれない。 「・・・。」 今度こそ、頭が完全に真っ白になっていた。不意打ちとは卑怯な。いや、そうじゃなくて。 「ありがとう。」 勝手に言葉が出てくる。おいおい、これから何を言うんだ? 「もしかしたら、俺は、」 ああ、そうか。 「優の事を知らないうちに好きになっていたのかもしれない。」 これは俺の― 「いや、好きになっていた。」 ―正直な気持ちだ。 「本当に、ありがとう。」 優を見つめなおす。気付けば、優の家まで後少しだ。優は泣きそうな顔をしている。 「それは・・・こっちの台詞よ?」 いや、泣きそう、ではなく泣いた。泣くなよ、と言いたい所だったが、結局、言う事は出来なかった。 俺は都合がいい人間のかもしれない。 でも、俺は思う。 『罪』という名の『恋』をしてもいいんじゃないか、と。 少なくとも、今、俺がしている『恋』を否定する権利は誰にも無い。 いや、否定する事など、許さない。 だから、俺は大切にする。 彼女と、『罪』という名の『恋』を―― 「おかえりなさーい。」 どう考えても、秋香菜一人の声ではなかった。恐らく、俺達を除く7人+2匹だろう。 「貴方達、何でここにいるの?」 その質問に武が答える。 「いや、秋香菜に誘われて来たんだが、途中に、とてもアツアツなどっかのお二人さんがいたもんでな。その道を避けて先回りして来たんだ。」 『!!』 思わず、優と顔を合わせる。 「ど、どこから聞いてました?」 んでもって、思わず敬語になってしまう俺。 「え〜となぁ、確か『この世界に〜』からだったよな、つぐみ。」 「ええ、そうね。」 あのつぐみまでもが、笑っている。その先を言わなかったのは武のせめてもの思いやりだろうか。 「沙羅も聞いてたよね?」 「にんにん。」 ・・・ガッデム。 |
あとがき どうも〜。いきなり2作目を書いてみました(笑 今回は結ばれる優と桑古木の話を書いてみましたが、いかがでしたか?桑古木がバイクに乗っている、というのは当方の想像による産物です。 とりあえず、SSで偉そうな事を言ってみました。お許しください。 さて、この後田中家ではどんな話をしたのかは、読者様の想像にお任せします。 以上で、あとがきは終わるわけですが、また御感想及び御指摘など、暇なときはお願いします。 それでは、また。 |
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