We ever cross, hello never world
                              作者:霜月 律

 ―時間静止―

――武視点 24:27

 俺とつぐみは、この世界についてもっと詳しく聞くために、近くに位置していたビルの中に入っていた。
「ここなら、きっと誰も来ないでしょうね。」
 そう言って、つぐみは最上階にある会議室らしき所に連れて来た。
 今は二人とも椅子に腰掛けている。
「じゃ、質問をどうぞ。」
 つぐみは俺に質問を促した。
「まず、殺し合うって言ったけど、具体的にはどうやって?」
「そうね、まず自分の身を守る術を教えないとね。」
 つぐみは少し寂しげに先を続けた。
「基本的には、この世界に入り込んだ人間にはそれぞれ『武器』を持っているの。」
「武器?そんな物、俺は持ってないぜ?」
「いきなり、入ってきた人間には解らないかもね。」
 そういって、つぐみはくるりと一回転した。
「私は今何も持っていないよね。」
「ああ。」
 そう言って、つぐみは背中に手を回した。俺の位置からは見えない形となった。
「『力』をイメージすると・・・」
 そう言って、つぐみは手を前に差し出した。そこにあったのは・・・
「こういう風に力が具現化される。」
 日本刀が握られていた。
「でも、俺にはそんな事・・・」
「いや、貴方にも出来るのよ、武。」
 あっさりと否定された。
「『目的』があれば『力』もある。『目的』のために『力』はいつもそこにある。・・・この言葉、受け売りなんだけどね。」
 そういって、つぐみは笑って見せた。何だか、救われた気がした。

 ガタン・・・ゴトン、ゴトン・・・

 不意に何か大きい物を床に引きずっているような、音がした。
「行ってみようかしら。」
 俺は頷いて、会議室を出た。

――ホクト視点 24:31

「くっ!」
 先程から、こちらの攻撃が全く当たらない。それどころか、いづみさんの攻撃を受けるばかりだった。
「ホクト君、そんなんじゃ私は倒せないわよ。」
 最も厄介なのが、スピード。まるで瞬間移動をしているかのように、一瞬で、姿を消し、トリッキーな攻撃を繰り出してくる。
「このぉ!」
 『力』をイメージして、具現化。服の袖から、オートマチック拳銃が飛び出した。
 拳銃――グロック19。
 オーストラリアのグロック社が製造する一連のグロック・シリーズのうち、中型オートの部類に属する。グロック・シリーズは、高い信頼性と性能、価格の安さ、そして簡単性能と安全性から、コンシールド・キャリー(隠して持ち歩く事)するための銃として最も優れた銃であると評価が高い。
 両手にグロックを掴むと、迷わず、辺りに乱射した。

 ドドドドドドォン!!

 姿を消すなら、ひたすら、鉛玉をばら撒くのみ。――が、
「拳銃とは、厄介ね。」
 どうやら、銃弾は全て、避けられていたらしい。
「それじゃ、私も武器を使わせてもらおうかしら。」
 そう言い放つと、見えない何かの飛来を空気の流れで感じ取る。
 横っ飛びにそれを避けて、銃弾をリロードした。
「うまくよけたものね。」
 じゃ、これは・・・と言いながら、手を振り回す。
 今度は・・・
「10個!?」
 しかし、僕は落ち着いて、それが来る方向に銃弾を打ち込んだ。

 ガガガガガガガ!

「何ですって!?」
 なんとか10個の内、7個を打ち落とす事が出来た。見えない物に当てたのだから、いづみさんが驚愕するのも無理は無い。
 目の前に落ちていた、『それ』の破片を拾ってみると・・・
「ガラス球・・・。」
 ガラス球には、恐らく極細の鋼糸がついていて、いづみさんはそれを操っていたのだろう。
「いきなり、正体がばれるとはね・・・。」
 いづみさんの武器を見たのは、今回が初めてだった。
「でも・・・」
 いづみさんの姿が消えた。まずい、これは・・・
「勝負はこれからよ。」

――武視点 24:51

「桑古木・・・?」
 音の正体は、桑古木が担いでいた、巨大な十字架だった。十字架は布で包まれていて、革紐で留められている。
「どこかで見た様な武器だな・・・。」
「何言っているの、武。」
 二人は物陰に隠れて、桑古木の行動を見ていた。

 バチンバチン・・・

 革紐に付いていたボタンが全て外されて・・・布が取れた。
「おいおい・・・まんまかよ・・・。」
 十字架の正体・・・それは十字架の内部に仕込まれていた、機関銃だった。
「シッ!」
 桑古木は窓からその銃口を外に覗かせて・・・
「まさか・・・」

 機関銃が火を吹いた。

――ホクト視点 24:59

 ドガガガガガガ・・・!!

 いづみさんと僕の間を銃弾が薙いだ。
「何処から!?」
 いづみさんは辺りを見回す。最初の銃撃以来、銃弾が飛来する事はなかった。
 僕も辺りを見回すが、それらしき人影はいなかった。
 その代わり、見つけられたのは、
 200m程、先に位置するビルだった。
「まさか・・・。」
 どうやらいづみさんも同じ事を考えていたらしい。
――精密射撃、そして、狙撃。
 しかし、200mも、距離があれば、銃弾は反れる事もあるし、ましてや、狙撃には色々と準備が必要だった。
 多分、狙撃手は恐ろしいまでの腕の持ち主だろう。
「威嚇射撃・・・か。」
 僕の呟きはそのまま夜空に溶け込んだ。

――武視点 25:18

「武につぐみ、いるんだろ?そこに。」
 ずばりと言い当てられる。
「よくわかったわね。」
 つぐみは物陰から出た。俺もそれに習う。
「すぐわかったよ。視線を終始感じていたからな。」
「そう。」
 桑古木が担いでいる十字架からはまだ、硝煙が出ていた。
「何をしていたんだ?」
「見てりゃわかるだろ。」
 簡単に言ってくれる。
「殺す、つもりだったのか?」
「威嚇射撃ついでに撃ち殺すつもりだった。」
「お前・・・。」
 何で、こんなにも桑古木は簡単に『殺す』という言葉を連呼するのだろうか。
 そもそも殺し合いなどしなければそれでいいのではないか。
「何でって顔だな。」
 まるで心を見透かされた様な感覚に襲われる。
「武・・・。何か勘違いしていないか?」
「な・・・にを・・・。」
 いつもなら見られない、冷酷な桑古木の表情。
「ここじゃ、やるかやらないかは問題じゃない。」
 俺はそれに戦慄を覚えた。
「殺るか殺られるか。それが問題なんだ。」
「だからって、お前・・・!」
「武は今日が初めてだよな。俺は何回目だと思う?」
「・・・?」
「58回目。わかるか?今日この日だけを58回も繰り返したんだ!」
 語尾が荒くなる。
「武が土曜日なのに会社に呼ばれた事も!ホクトが秋香菜とデートしていた事も!優が研究所の機材を壊した事も!!全部!全部何度も繰り返しているんだよ!!」
 激昂する桑古木。今日という、永遠に続く悪夢が、桑古木をこうしたのだろうか。
「・・・つぐみは何回目だ?」
 ゆっくりとつぐみがいる方に振り向いて言った。
「34回目。」
 つぐみは目を伏せながら言った。
「何で俺には『今日』を繰り返した記憶が無い?」
「ここに来るタイミングは人それぞれだけど、」
 一区切り置いて、つぐみは続けた。
「ここに来たその日に、初めて『訪問者』は、『今日』という日が繰り返されている事を知る。だから武には『今日』を繰り返している記憶が無いの。」
 そして、明日を求めるが為に命を奪い合う。
 俺は、54回目の今日を過ごしていたら、どうなるのだろうか。
「・・・」
 何も、言う事が出来なかった――

――ホクト視点 26:02

「全く、興が削がれたわね。」
 いづみさんは呟いた。もう、あのガラス球は出ていない。
「今から、全員殺すことなんて、いくらいづみさんでも、無理でしょ?」
 ふっと笑う。
「残念だけど、その通りね。それに最後の『訪問者』も来た事だし。出直す事にするわ。」
 最後の『訪問者』。それは恐らく・・・
「お父さん?」
「ええ、そうよ。倉成武。貴方のお父さんね。」
 やっぱり。これで全員揃った事になる。
 ブリックヴィンケルに関わった人間が。
 何故、ブリックヴィンケルに関わった人間が集められたのかはわからなかった。
「それじゃあね。ホクト君。」
 その言葉によって思考が中断された。
「お休みなさい。いい夢を。」
 僕にとっては、それが精一杯の皮肉だった――



 あとがき

 いかがでしたか、『時間静止』。
 知っている方もいると思いますが、桑古木は完全にもう、あのテロ牧師ですな(汗
 知らないという方は、今すぐ書店に行って、トライガンマキシマムを買って読んでみて下さい。
 それはさて置き、ここまで読んで下さってくれた方、是非、最後まで読んでください。お願いします。


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