We ever cross, hello never world
                              作者:霜月 律

―背信決行―



――涼権視点 24:56

 今日も夜の街を徘徊する。
「ったく、かったりぃな。」
 さっさと、敵を見つけ出し、やるべき事を済ませよう。
 背中に担いだ『パニッシャー』を持ち直す。
――『天罰を与える者』。
 俺が持つには不似合いかもしれない。むしろ、俺が天罰を与えられるべきだ、と思う。
「おい、さっきからコソコソ隠れてる奴、出て来い。」
 物陰から誰かが出て来た。
「全く、桑古木には敵わないわね。」
 その人物は――
「優?」
 そう、優美清春香菜だった。警戒していた自分が、馬鹿らしくなる。
「御免なさい。」

 カン!

 唐突に、ツ、と頬から流れているモノをなぞる。目の前に持ってきた。
――血。
「お、おい。」
 後ろを振り向くと・・・メスが電柱に刺さっていた。
「私、こっち側に付くわ。」
 そう言って、優が物凄い勢いで、大量のメスを投げ飛ばす。
「くっ!」

 バチンバチンバチン――

 パニッシャーの拘束具を外して、自分の前で、回転させる。

 カンカンカン・・・

 メスを全て弾くと、機関銃を出して、迷わず優に向けた。
「――ふ!」
 優は、息を吐き出したかと思うと上空に跳躍する。

 ドガガガガガガガガ!!!!

 轟音が耳を突く。
 上空からの急降下。
「このっ」
 横っ飛びに体を動かす。
 指と指の間に挟まれたメスが、空しく宙を斬る。

「ふー、ふー・・・」
 息を整える。正直、優は強すぎる。
「殺られる前に、一つ聞いていいか?」
「どうぞ。」
「何でそっち側に?」
 一拍の間を置いて、優は話し始めた。
「今日から続く、明日なんていらない。それだけよ。」
 否、お話にもならなかった。今の気分は『今の気持ちを100文字以内にまとめよ。」と言った時に、『嬉しい』と一言だけ言われた気分だった。
「それが、お前の答えか・・・?」
 そして、俺は言い放った。
「くだらねえな。」
 優の目が見開く。
 そして、大量のメス。
「貴方に何が解るの!!?」
 俺は冷静にそれを弾く。
「自分の気持ちをあっさりと諦めて、結局逃げてばっかりじゃない!!」
 まだ、我慢して聞く。
「17年前も、今の桑古木も、同じよ!!このおく・・・」
 その先は言わせない。言わせてたまるか。

 ドゴォン!!

 機関銃の銃口が覗いている反対側から出した物――バズーカで、飛来するメスごと、優の影を吹っ飛ばした。
「解るかよ!お前の気持ちなんて!」
 流れるように、優の動きが解る。
 くるりと回転させて、機関銃を向ける。
「何でそんなに過去にこだわる!?何で未来を受け入れない!?」
 再度、引き金を引く。今度は正確に優へと軌道を描く。しかし、銃弾を、優はメスで弾いていた。
「お前も怖いだけじゃないのかよ!!?望み通りの未来が来ない事に!!」
 さらに撃ち続ける。
「受け入れろ!現実を!!昨日を後悔したって駄目なんだ!先に進まないと!!」
 優が前方に飛ぶ。
 俺はそれに対して、接近戦を申し込んだ。
――が、
「少ちゃん?なっきゅ?」
 二人の動きを止めたのは、第三者の声だった。
「コ・・・コ?」
 優を見た。手には禍々しい輝きを放つメス。
「逃げろ!ココ!」
 俺がそう叫ぶのと、優がメスを投げるのは、ほぼ同時だった。
 ココは呆然としていて、動かない。
――その時、俺の中で何かが崩れ落ちる音が聞こえた。

 ドガン!

 一発の銃弾が、ココと優を結ぶ、直線を貫いた。
「少ちゃん・・・。」
 ココは無事だった。優が飛ばしたメスは俺の銃弾が叩き落したから。
「ココ、いいから逃げてくれ。訳は後で話すから。――生きてたらな。」
 ココは頷いて、走り出す。
「桑古木・・・。」
 優が驚愕の表情を浮かべている。当たり前だろう。空中のメスを機関銃による唯一発の銃弾で叩き落したのだから。
「さあ、リターンマッチだ。」
 優に向かって猛ダッシュをした。
 優も俺に接近戦を仕掛けてくる。
 十字架を横薙ぎに回す。
 優はそれに対してしゃがんで受け流す。
 一度後ろに下がり、優に銃口を向けて、引き金を引く。
 素晴らしい反射神経で、それを横に移動して避ける。
 そして、接近。
 俺はそれが簡単に避けられる様に思えた。
――が、俺が取った行動は――
 
 トン・・・

 銃口と、刃が交差して、時間が止まった。
「・・・・・・」
 優は、俺の首筋にメスを当てていた。
 対する俺は、バズーカの銃口を優の腹に当てている。
 一触即発。次にカードを切るのはどちらなのか。

 いや、どちらかではなかった。
「お前ら・・・何やっているんだ?」
 俺と優は首だけを動かしてその声を発した主へと目をやった――
「倉成・・・。」
 武の背中には怯えきったココ。横には憤然としてこちらを睨みつけるつぐみ。
 優は、つぐみを見た。その眼差しにはかすかな憎しみ。
「お前、やっぱり・・・」
 その言葉に優は視線を戻し、俺を睨みつける。
「それ以上言ったら、このメス思いっきり引くわよ。」
 そして俺は笑みを浮かべる。
「お前の腹に当てている銃口を忘れるなよ。」
 再びの静寂。
「つぐみ。」
 口を開いたのは武。
「ちょっとココ連れて、他の奴の所に行っててくれないか?」
「わかったわ。」
 つぐみはココの手を引いて足早に駆けていった。
「サンキュ。武。」
「ん、何が。」
 俺は笑顔を見せてみた。勿論、メスを首に当てられている以上、余裕など無い。
「ココに俺の死に顔見せるのは気が引けててな。」
 武はそれを聞いて、少し唖然としていたが、すぐ真剣な顔に戻った。
「お前、壊れてたと思ったら、急にいい奴になったな。」
「うっさい。黙れ。」
 精一杯の殺意を込めて言ってやったが、武はそれを軽く流してしまった。
「さて、」
 武は優に視線を向けた。
「何でこんな事してるんだ?」
「私が求めているのは明日じゃないからって理由じゃ駄目かしら。」
「この世界じゃその理由だけで十分、だろ?」
「言いたい事良く解っているじゃない。」
 優は話す相手が武だと、急に穏便になりやがる。
「もう、立ち止まれないのか?」
「立ち止まれないから、こうやって仲間と戦っているのよ。」
 そりゃそうだ。
「じゃ、続きをどうぞ。」
 は?武、今、何て言った?
「おいおい、止めないのかよ。」
「当たり前だろ。優がそう言っているんだから。」
「はぁ、やっぱ武って馬鹿だな。」
「一生言ってろ。」
 俺も優に視線を戻す。
「ま、いいや。俺が死んでも武がこの馬鹿を止めてくれよ。」
「解ってるって。」
 引き金に力を入れる。
「じゃ、再戦と行こうか。」
 吹き抜ける風。やがてそれは収まり・・・

 ヒュン!

 俺の首筋をメスがなぞり、優の脇腹をバズーカ弾が掠めて飛んで行く。
 バズーカを撃った反動で一回転。優はメスを引いた反動で体ごと一回転。

 ガキィン!

 銃口とメスが打ち合わされる。
 引き金を引く。優はサイドステップで避ける。
「こなくそっ!」
「無駄口を叩く暇があったら・・・」
 優が俺の脇に入り込む。
「本気でやらない?」
――が、俺のパニッシャーがメスを入れる事を阻止する。

 ピシィ!

「そろそろ・・・限度か・・・。」

 バキィン!

 十字架が砕け散り、パーツがバラバラになる。
 そのまま俺は、優に倒れこみ・・・

 トン・・・

「何で?」
「何でだろうな。」
 一度離れて胸に手を当てる。
 ヌルリとした感触。
「貴方、馬鹿よ。」
「ごふっ!」
 次に口を手に当てる。ますます、手が紅くなった。
「一生言ってろ。」
 少し前に、武が言っていた事を反復して言った。
 ぼやけた視界に、優が涙を流しているのが見えた。
「殺した相手に泣く馬鹿なんていねぇよ。」
 そう言って俺は、体重を支えきれず、地面に倒れこんだ。
 ふう、と溜息をつく。
「もう疲れた。向こうに帰ったら思いっきり遊びてぇな。」
 目を閉じてみる。もう、開かなくなる気がした。
――結局、
 結局俺は、この世界の終末を見ることは出来なかった――

――武視点 25:38

「・・・例え相手が倉成でも、私は手加減はしない。」
 優は俺に振り向いて、言葉を吐き出す。
「手加減される方が迷惑だ。」
 俺は、巨大包丁を出した。
 無言の交差。

 ガキン・・・ガキン・・・

 しばらくの間、鋼と鋼がぶつかり合う音だけが鳴り響いた。
 空しい戦い。もう、言葉を交わす事は無かった。
 ただ、最後に、優がこう呟いた気がした。
「後の事は任せたわよ。」
 そう言って優は――自分から、俺の武器に突き刺さった。
「優?」
 呼びかける。
「優!!」
 その呼びかけに、彼女が答えてくれる事は無かった――





 あとがき
 三章『背信決行』いかがでした?
 ここまで来ると、もうあとがきに書く事がなくなってきました。
 都合上により、涼権視点を作りましたが・・・今回は主役だけあって、桑古木の活躍所満載な気がします(笑
 例の如く御感想お待ちしております。
 それでは失礼。


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