We ever cross, hello never world
                              作者:霜月 律

―運命開放―



――ホクト視点 26:03

「お父さん!!」
 第三視点の能力を借りて、お父さんの居場所を突き止めた。
 教会の扉を暴力的な音を立てて押し開く。
 そこには――
「お父さん!」
 壁に寄り掛かって、血まみれになっているお父さんを見つけた。
「ホクトか・・・。」
 もはや息の虫の様だった。
「あいつ・・・少し強すぎたな。ラスボスには・・・敵わないって事か・・・。」
 ガハッと血を吐く。
「後は・・・任せたぞ。ここで負けたら・・・承知しないからな。」
 その言葉に僕は頷いて見せた。
「分かったよ。」
 お父さんはそれを聞いて、笑った。
「じゃ・・・あ・・・な。また・・・明日・・・」
 お父さんの体が崩れていった。

――第三視点 26:11

 男に振り返る。
 『ボク』はその男を睨みつけた。
「精神異常者・『キュレイシンドローム』、石原誠・・・。」
 男――誠さんは笑った。
「その言い方はあんまりだろ。」
 そして――ボクを睨みつけた。
「第三視点・『ブリックヴィンケル』、倉成ホクト・・・。」
 そう言って、お互いは、お互いの殺界を張り上げた。
「貴方も使えるのか。」
「お前だけの特権だと思ったか?」
 世界が紅くなっていく。
「それじゃ、決めようか。」
 ボクは言い放った。
「ボクか・・・貴方か・・・」
 続きは誠さんが引き継いだ。
「明日か・・・昨日か・・・」
 誠さんは手の中でトランプを広げた。
 ボクはグロックを構える。
「ヒュッ!」
 鋭い息と共に飛んでくるトランプ。
「このっ!」

 ガンガンガンガンガン――!

 銃声と共に飛び出す銃弾でトランプを叩き落す。
 空になった銃を捨てて、新しい銃を出す。

 ガンガンガンガンガン――!

 教会に響き渡る暴力的な音。
「なめるなっ!」
 トランプで銃弾を叩き落す。

 ガンガンガンガンガン――!

 反撃のトランプを再び撃ち落す。
 床に落ちる無数の空薬莢。
 このままではきりが無い。
「全く、これだから・・・!」
 ボクの意識が、空気に溶け込む。

 カチャリ

 誠さんの頭に突きつけられたモノは、ボクの拳銃だった。
「お前・・・なんで!?」
 下手な動きをしたらすぐ撃てるように持ち直す。
「こうなる『可能性』に捻じ曲げただけだよ。」
 もっとも――これをやるのは大変疲れるのだが。
「『可能性』の世界を見せられた誠さんはそれが『現実』だと錯覚。『キュレイシンドローム』によって『虚像』が『現実』にすりかわる。かくして、瞬間移動の出来上がり。」
「くっ。」
 誠さんのトランプが塵になった。
「とりあえず・・・御免。」
「何でお前が謝る?」
「貴方は、自分が無限ループに巻き込まれたのは、キュレイシンドローム反証実験のためだと思っているかも知れないけど。」
 息を吸って続ける。
「あれは、ボクがこの世界に発現してから、過去に戻るまでに出来た、歪んだ空間に巻き込まれただよ。」
「・・・どういうことだ?」
「順を追って説明しようか。」


 ボクは考えをまとめてから、口を開いた。
「2017年にLeMUってテーマパークが倒壊したのは知っている?」
「ああ、確か生存者が2人いたって奴だろ。」
「よく知っているね。でもその情報には間違いがある。」
「なんだと?」
「正確な生存者は5人だ。1人は地上に出てきた後、何処かに逃げ出してしまったんだけど・・・後の2人はまだLeMUに残っていた。と言うよりも『死んでいた』というべきかな。」
「ちょっと待て。生存者じゃないじゃないか。」
「本題はここからだ。」
「何処から始まったのかはボクも忘れたけど・・・ボクの『能力』は知っている?」
「ああ、4次元に存在するため、過去も未来も『視』えるって奴だろ?」
「大雑把だけど正解。」
「続けてくれ。」
「ボクはその内の1人――八神ココを助けたくてね。救出された人にボクを発現させてくれる様に頼んだんだよ。」
「田中・・・優美清春香菜だろ?」
「よく知っているね。」
「話したことがあるからな。」
「ま、それでちょっとした方法で2034年にボクが発現したんだ。」
「ちょっと待ってくれ。今は2019年だろ?未来からやって来たって事か。」
「そのあたりは後で説明する。いいかな?」
「ああ。」
「2034年に発現したボクは2017年を『視』て、倉成武を救出する。」
「倉成ホクトの父親だな。」
「うん。その後、倉成武の協力を得て、八神ココも救出する。」
「ふむふむ。」
「ティーフブラウって知っている?」
「ああ。今、世界中で感染が広がっているってやつだろ。」
「そう。その2人はティーフブラウに感染していたんだけど、倉成武はワクチンを打っていたから全然大丈夫だったんだけど・・・」
「八神ココは?」
「少し遅かった。残された手段として、ハイパーネイション――冬眠状態に入らせた。」
「なるほど・・・考えたな。」
「どうも。」
「で?」
「その時に倉成武も一緒に冬眠する事になった。」
「それじゃその後助けたんだな。」
「いや。そこで2人を助けたらどうなると思う?」
「ん・・・あ、そうか。」
「呑み込みが速いね。そう、タイムパラドックスが起きる事になる。」
「・・・ということは、お前が発現した後に助けたのか。」
「そういうこと。さて、ここまでで気付いた事は?」
「2034年にお前が現れてから、2017年に遡るまでの間に、『無限ループ』が成立する事になるな。」
「そう、17年間の間、時間が歪む事になる。」

 ボクはここまで話して、少し落ち着いた。
「お前が言いたかったのは、俺は『キュレイシンドローム』によって、『無限ループ』を作り出したのではなく、その『時間の歪み』に巻き込まれた、という事か。」
「そうそう。話が分かるね。だから、ボクは最初に謝ったんだ。」
「そうか・・・。」
 石原誠は、教会の天井を見上げて、考え事をする様にした。
「ボクは、その『時間の歪み』を清算しているんだ。」
「じゃ、いくつか質問なんだが・・・」
「どうぞ。」
「1つ目。俺はこの無限ループから出れるのか?」
「勿論。君が望む結末でね。」
「2つ目。倉成武と、八神ココがこの世界に来ているって事は彼らは2034年の後から。でも俺の現実世界ではまだ2019年なんだ。どういう事だ?」
「簡単な話。ボクが、2034年から、召還した。この『歪み』にね。」
「お前がそもそもの世界の創造者って事か。」
「殺し合うルールを作ったのは貴方自身だ。キュレイシンドロームによってね。ボクも錯覚していたからね。まんまと『実現』してしまったよ。」
「ふむ・・・」
 彷徨わせていた視線をボクに戻した。
「じゃ、綺麗サッパリに殺ってくれ。」
「いいのかい?ここでの記憶は無くなるよ?」
 誠さんはあろう事か、笑っていた。
「お前が『無限の終末』に導いてくれるんだろ?」
「当たり前。ボクは『無限の外に在る者』だからね。」
 ボクはグロックの引き金に力を込めた。
「それじゃ・・・」
「いつか会おう。」
 誠さんの言葉がボクの中で残った――


――ホクト視点 26:54

「今回もブリックヴィンケルに助けられたみたいだね。」
「そんな事は無い。ホクトの体が在ったからだ。」
 僕とブリックヴィンケルは既に分離していて、今僕は、彼と話している。
「ホクトにも謝らなきゃいけないね。」
「そんな事無いよ。石原さんを助ける事が出来た訳だからね。」
「君は模範的善人だな。」
 僕は笑って見せる。
「ここにいれる時間も残り少ないね。」
「そうだね。」
 彼は、僕の中に、また入り込んできた。
「お詫びに一曲、演奏しようか。」
 僕の体は置いてあったチャーチオルガンの椅子に座った。

 僕は、息を呑んだ。
「・・・『月と海の子守唄』・・・。」
「そんな大層な名前がついていたのか。」
 なんで、これを・・・?
「もともとね。」
 ブリックヴィンケルはまるで心を読んでいるように、話し始めた。
「この曲は僕が作った物なんだ。」
 曲はまだ続く。
「昔、発現した時にね、一人の女の子に弾いてあげたんだ。――彼女は心が荒れててね。」
「その女の子ってもしかして――」
「ああ、御免。昔――と言っても、24年前だけど――のことだから、なんて名前の女の子だったのかは、忘れてしまったんだ。」
「そっか。」

 曲は終焉を迎えた。

「そろそろ、時間だね。」
「ああ。」
 僕は最後に彼に告げた。
「おはようっていうとさ、なんか頑張らなきゃな、って気分になるんだよね。」
「そうなの?」
「そうだよ。」
 2人で大笑いをする。
「じゃ、さよなら。『また』ね。」
「ああ。それじゃこの悪夢から目を覚まそうか。」
「うん――」
 僕の意識が溶け込む感じがした。
 最後に彼がこういった気がした。

「おはよう、ホクト。」




 あとがき
 ふーーーーー(汗
 瞬間移動の方法や、石原誠が『無限ループ』に巻き込まれた理由は、私的解釈による産物だったりします。
 なんで、ホクトにまた入り込んだか?
 それは、幽霊とかと、同じ様な物です。だからと言って信じている訳ではありませんが。
 第三視点が作った曲・・・それについてはいかがでしたか?
 それでは、最後のエピローグまで、ご覧になってください。お願いします。


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