それは――ただの可能性だったのだろうか? それとも、これが現実なのだろうか? 考えてみるけど、答えには至らず。 何しろ、ボクにはそれを知る術が無かった。 |
人と人外の境界線 作者:霜月 律 |
この学園の屋上には、いつも風が吹き抜けている。 何か大事な事を忘れさせるようで、 何か新しい事を引き起こすようで。 「・・・・・・結局の所は、ただの想像なんだけどね」 僕は、放課後だからか誰もいない屋上で一人呟いた。 そこは、何か考え事をするにはうってつけの場所だった。 皆との新しい生活を始めて早くも一ヶ月。 そろそろ気候も暑くなって来る時期になる。 「ふむ・・・・・・で、何か?ホクト君は考え事真っ最中って奴か」 僕の座っていたベンチの後ろから聞こえてきた声に僕はさして振り向く必要性も無いと思った。 「そう思うなら、声かけないでよ」 「つれないなぁ」 言葉と裏腹に、気にもしていないような声を出す。 そんな人間なのだ。 何もかもに興味が無く、それでいて人との関わりはしっかり持つ。 それが、僕の隣に断りも無く座った男。 桐堂狛(きりどうこま)という人間だった。 「うい」 と、僕の目の前に購買で買ってきたと思われるパンを差し出す。 「俺のおごり。遠慮なく食え」 それに対して僕は、「ありがとう」と、ただ一言だけ返した。 桐堂は、既にパンにかぶりついていた。 僕もそれに見習い、袋を開けてパンを食べることにする。 「・・・・・・タッタサンド?」 袋の中のサンドを一瞥して、僕はそう聞いた。 「そうだけど・・・・・・嫌いだったか?」 「いや、タッタサンドには色々とあって、ね」 桐堂はふ〜ん、とさぞ興味無さ気に答えた。 それから二人は、黙々とタッタサンドを食べる。 「なんつーかさぁ」 沈黙を破ったのは桐堂だった。 「行き詰まっているなら、俺に話してみないか?」 相談、と付け加える。 「何で、他人の桐堂に話さなくちゃいけないんだよ」 すると桐堂は「確かにそうだけどな」と言って、 「でも、他人だからこそ話せることってのもあるんじゃないか?」 桐堂はどこか遠い目をした。 まぁ、確かに行き詰まっているので助かるかも。 「・・・・・・例え話」 そう僕が切り出すと、桐堂はこちらを見た。 「未来予知・・・・・・みたいな事が出来る少年がいたとしよう。その少年は『未来の分岐点』を覗いてしまった結果、今いる世界が現実なのかそれとも予知の一環の中にいるのか。 困った事に分からない。ここで質問。その少年に救いの手を差し伸べるとしたら、桐堂はどうする?」 桐堂は一刹那ほど考える仕草を見せたが、すぐに口を開いた。 「とりあえず説教」 「は?」 「今こうして風を感じているんだから、これが現実なんだろってな」 答えなんて虚しいほどイグザクトリィ。 ただ、僕はあまりに考えすぎていて。 「ありがとう」 そうやって言う事しか出来なかった。 「いいってことよ」 桐堂は腕時計を覗き込んだ。 「ホクトは部活何もやっていないのに何でここにいるんだ?」 「ああ・・・・・・」 僕は先ほどの思い詰めていた表情とはうって変わった表情で答えた。 「妹――沙羅の部活が終わるの待っているんだ」 「ああ、なるほど」 桐堂はベンチから立つと背伸びをした。 「じゃ、俺帰るわ」 僕からタッタサンドの包みを受け取ると、そのゴミを丸めてゴミ入れに投げ入れた。 「そっか。本当にありがとう」 桐堂は最後に―― 「タッタサンドはうまかったか?」 それに僕はこう答えた。 「知り合いが作ったタッタサンドの方がおいしかったよ」 「一度、その知り合いとやらに作ってもらいたいもんだな」 と言って苦笑すると、桐堂は屋内へと消えていった。 それとすれ違いに沙羅がやってきた。 「お兄ちゃん、お待たせでござる」 「それじゃあ帰ろうか」 僕はもう一度風を感じて―― ――ベンチを立った。 それが僕を現実にいさせる術。 やっと見つけた方法。 「お兄ちゃん、何かあったの?」 沙羅が急に問いかけてきた。 「え?」 「いや、なんかご機嫌だなぁって」 思わず苦笑する。 「どうだろうね」 「ああ!拙者に隠し事とはいい度胸でござる!!」 そんな沙羅が微笑ましくて―― 「いい度胸しなきゃやっていけないよ」 ――心から笑ってしまった。 |
あとがき さてさて、とりあえず桑古木視点からホクト視点に変更。 狛君は、今製作しているオリジナル物の方から登場させたキャラです。 初めてのオリジナルキャラですね。いかがでしょう? まぁ、そんな訳で感想とか指摘とか頂けましたら幸いです。 |
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