騒がしいのは苦手だった。
 騒ぐ相手もいなかった。
 だから尚更なのだろうと思う。
 ボクと彼女との出会いが、それを変えてしまった。

人と人外の境界線
                              作者:霜月 律


マグカップの中身


「ねぇねぇねぇねぇ、狛君っ!」
「何だよ」
「今度はあれやろうよ!」
「引っ張るなって」
 かなり目立っている私服の二人。
「お兄ちゃん?」
 沙羅は僕に声をかけた。
「桐堂君と水城さんって、どういう関係?」
「それは本人に聞いたほうがいいんじゃない?」
 水城冬菜(みずきふゆな)さんは、桐堂をあっちこっちに引っ張りまわしているので何処からどうみても、恋人同士に見える。
 まぁ、どうせ桐堂に聞いても「興味が無い」で済ませそうだが。
「そういえば」
 ハンドルを回しながら話しかける。
「田中先生って女っぽくなったと思わない?」
「桑古木の影響じゃないかなぁ」
 車をドリフトさせて、カーブを曲がる。
 沙羅はその真後ろからついてきていた。
 後、1km。
「なっきゅ先輩も女っぽくなってるでござるよ」
「ござる言語でからかおうとしても駄目」
 後、300m。
「なっきゅ先輩もそろそろ結婚したいって言ってるでござる」
「ぶっ!」
 車はスピンをして、ガードレールにぶつかる。
「嘘でござるよ♪」
「ま、負けた・・・・・・」
 沙羅の画面には「You Win」と。
 僕の画面には「You Lose」と映し出された。
 ゲームセンターに来るのもそう悪くはない。
「ねぇねぇねぇねぇ、狛君っ!」
「何だよ」
「今度はあれやろうよ!」
「引っ張るなって」
 かなり目立っている私服の二人。
「あ! ホクト君、沙羅ちゃんに負けちゃったの?」
「ま、まあね・・・・・・」
 周りの奇異な視線が集まる。
「ねぇ、水城さん」
 それを知らずに水城さんは笑顔。
「ちょっと恥ずかしいとか思わない?」
「ううん、全然」
 桐堂に視線を送ると、
(こいつに何を言っても無駄だ)
 といったニュアンスの視線を返してきた。
 がくり。
「ちょっと疲れたから、近くの喫茶店行かないか?」
 桐堂が提案すると、反対する者はいなかった。

「あれ?」
 向かった先の喫茶店のガラス越しに田中先生がいるのに気がつく。
 その向かいの席に知らない人がいるのを見て、沙羅は首を傾げていた。
「冬菜、あれって・・・・・・」
「うん、見間違いないよ」
 二人も同じ席を見ていた。
 二人は田中先生の知り合いだったのだろうか?
 カランカラーンと音を立てて入ると僕たちはその席に歩いていった。
「田中先生」
「樟葉先生」
 桐堂と、僕の声が見事に重なる。
「あら?」
 そして、対する二人も。
 呆けた顔をして皆で笑う。
 自己紹介をして、先生たちの隣の席に座った。
 笹原樟葉(ささはらくすは)という人は桐堂がお世話になった人らしくて、田中先生とも仲がよいという事であった。
「笹原・・・・・・さんってどんな人なの?」
 と、僕は聞いてみる。
「言葉遣いは丁寧だが、何やりだすか分からない人」
 うん、ナイスな説明だ。
「ホクトと沙羅は幽霊だとか妖怪だとか信じるか?」
 唐突の質問に少し驚いたが、
「四次元人間がいるんだから、そういった類もいるんだろうけど」
 と、答えた。
 桐堂は訝しげな表情を浮かべたが、すぐに元に戻した。
「樟葉先生はそういう奴の専門家なんだ」
 つまり、妖怪退治だとかそういうことだろう。
「人って見かけによらないね」
 隣の見かけによらない天才を見る。
「そうでござるね〜」
 その天才は感心していた。
「春香菜さんはどんな人なの?」
 と、冬菜さん。
「命の恩人・・・・・・かな?」
「そりゃハードな生き方しているな」
 桐堂の言葉に苦笑する。
「僕のお父さんと友達の、ね」
「それでもすごいよ〜」
 水城さんは田中先生に視線を向けた。
 田中先生と笹原さんはお互いに笑っていた。
「世間って狭いもんだね」
「今更だな」
 桐堂はコーヒーが入ったカップに口をつけた。
「ちなみに、桐堂と水城さんってどんな関係?」
 水城さんとはクラスメイトなので、よく二人一緒にいる所を見かける。
「興味が無い」と桐堂。
「恋人関係」と水城さん。
 そして二人で睨み合い。
「どうしてそんな酷い事言うかなぁ?」
「俺は冬菜と恋人関係を持った覚えなんてないぞ」
 どっちにしろ、二人は仲がよかった。
「桐堂君・・・・・・浮気しちゃ嫌ですよ?」
 隣の席の笹原さん。
「何でそうなるんですか!?」
「この浮気者」
 と、水城さん。
「もう、なんとでも言ってくれ」
 がくり、と桐堂がテーブルに突っ伏した。
「ふふ、冗談ですよ」
 冗談の割には殺気が漂っていたんですけど。
「ホクト」
 田中先生は、僕に尋ねた。
「ユウとは何処までいったのかしら?」
 僕の女性関係を発覚させる言葉に――
「興味は無いけどマジで?」
「ホクト君って美形だからね〜」
「羨ましい事ですね」
 と、三人。
 明らかに矛先は僕に変わっていた。
「べ、別にどうも・・・・・・」
 と、言いかけた所で桐堂が席を立った。
「すぐに戻ってくる」
 外に出る。
 桐堂の向かう先に、女性とチンピラ三人。
「桐堂大丈夫かな?」
 というと、笹原さんは心底心配そうに
「気をつけないと・・・・・・」
 と言った。
 桐堂がチンピラの肩に手を置く。
 振り返ったチンピラの服を掴んでそのまま投げる。
 柔道のような技だった。
 二人目が殴りかかってきたが、それを見事に交わして、上段回し蹴り。
 そして上げたままの足を逆回転。
 見事に蹴りが決まって、三人目が崩れ落ちる。
 女の人と、言葉を交わしてPDAを取り出す。
 少ししてPDAを仕舞うと、こちらに向かって歩き出した。
「桐堂って格闘技やっているんですか?」
 笹原さんに聞いてみた。
「桐堂君のは我流なんです」
 思わず感嘆の溜息が出た。
 桐堂が席につく。
「すごいでござる・・・・・・」
「どうも」
 そして、田中先生を見て、
「女の子なんだから、無茶しないように」
 と言った。
 田中先生が立ち上がろうとしたのを見咎めたのは、恐らく僕と桐堂だけだろう。
 他の三人は何の事だか分からない様子だった。
「『女の子』、ねぇ?」
 田中先生はその『女の子』という言葉に反応していた。
「口説き文句じゃないなら驚くけど」
 桐堂は、不敵に笑う。
「そういうのはあまり好きじゃない」
 局所的に室温が下がった気がした。
「樟葉さん、狛に私のことを話したことは?」
「勿論ありません」
 笹原さんは即答だった。
「じゃあ、何で貴方がこの事を知っているのかしら?」
 水城さんは話についていけていない。
「はっきりとは言えないけど」
 僕はごくりと唾を飲んだ。
「そう『視』えた」

――その雰囲気があまりにも『あいつ』に似ていて――

「ふふ」
 田中先生はさも楽しそうに笑う。
「今度うちの研究所に招待したいわ」
「研究所・・・・・・関係の仕事やっていたのか?」
「それも所長」
 これは参った、と桐堂は面倒くさそうに笑った。
「言っておくけど俺を招待した所でどうにもならない」
「貴方が知りたい事がもしかしたら分かるかもね」
 その一言で、桐堂の表情が変わる。
 『知りたい事』とは何なんだろう?
「樟葉先生?」
「御免なさい」
「別にいいですけど」と桐堂は呟く。
 その時、救急車のサイレンが鳴り響いた。
「?」
 視線を向けると――
「あ、あははははは・・・・・・」
 思わず乾いた笑いが出る。
 丁度、桐堂が暴れた所で止まっていた。
「匿名で呼んどいたんだけどな」
「そんな大げさな」
 僕の言葉は即座に否定される。
「六時間ぐらいしないと起きないかも」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
 固まってしまった。




 あとがき
 いい所で今回は終わらせておきます。
 冬菜と樟葉新登場でしたがいかがなもんでしょう?
 御感想と御指摘頂けたら幸いです。ではでは。


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