一次元は点と線。二次元は平面。三次元は立体。
 三次元の中に無理矢理、紙に線を引くようなモノではなく。
 異次元を作り出すモノならば、それは異質な者なのだろう。
 四次元のボクには、無縁の話だが。

人と人外の境界線
                              作者:霜月 律


その線上に


 昼休みになると、学食に行く者や中庭に行く者や十人十色である。
「あ、あのっ桐堂先輩はいらっしゃいますか?」
 教室に綺麗な声が通る。
「あー、琴香こっちだ」
 桐堂が手を上げると、「失礼します」と言って女の子が入ってきた。
「琴香ちゃん、こんにちは♪」
 水城さんが頭を撫で撫ですると、女の子は恥ずかしそうに俯いた。
「失礼しま〜す」
 沙羅の声。
「失礼します」
 沙羅じゃない声。
「よう、鈴音」
 桐堂は立ち上がって、皆で屋上に向かった。

「え、え〜と」
 僕が二人の女の子を交互に見やると、
「ああ」と桐堂は今頃気が付いたようだった。
「こっちが霧生琴香(きりゅうことか)」
 小さい女の子が「どうも」と言う。
「こっちは霧生鈴音(きりゅうすずね)」
 大きい女の子が「宜しく」と言う。
「姉妹?」
「そうです」
 琴香さんの方がそう言った。
「あ、琴香、でいいですよ」
 この子はテレパシストですか?
「私は鈴音、でいいから」
 なんとなく剣術家っぽい雰囲気の人だった。
「ちなみに鈴音が木刀を持っている時に下手な事をすると危険だ」
 桐堂がとても親切に思えた。
「それじゃ私が暴力女みたいじゃない」
「下手な事をしなければ礼儀に重んじる女の子だと思っているが?」
「最高の褒め言葉ね」
 鈴音は苦笑した。
「この際」
 水城さんが笑顔で言う。
「私も冬菜、でいいよ」
 僕は頷く。
「じゃあ俺は狛でいい」
 狛は既に弁当箱を広げていた。
「わ〜、狛君のお弁当おいしそうっ」
「やらねぇぞ?」
「確か・・・・・・狛の家じゃ狛が炊事を任されているのよね」
「へぇ〜、狛の家の話ってあまり聞かないな」
「聞いてもあまり面白くない家族だ」
「かなり聞いてみたいでござる」
「沙羅さんって何だか面白い人ですね」
「ござるってなんなのよ」
「ニンニン」
「あはは」
 いつもより人数が多いせいか、話が弾む。
 ずっとこんな生活か続けばいいと思っていた。
 間違って、思ってしまった。

「ただいまー」
 靴を脱いで居間に向かった。
「おかえり」
 お母さんの出迎え。
「学校はどうだった?」
「うん、すごく面白かったよ」
 これが日常だった。
「じゃ自分の部屋にいるから」
 そして部屋で学校で勉強したことの復習。
 ずっと憧れていた日常。
「ただいまでござる」
「おかえり」
 沙羅とお母さんの声。
 いつからだろう?
 この生活が当たり前になっていたのは。
「選択肢は間違えてないみたいだね、ブリックヴィンケル」
 ベッドに身を放り出して一人呟く。
 『あいつ』は今、ここにはいない。
「でも――『当たり前』って何を基準にしているんだろうね」
 ゆっくりと、息を吐き出す。
「結局の所は答えなんて無いんだけど」
 ゆっくりと、目を閉じる。

――外は夜の帳を下ろしていた。

「雨・・・・・・か」
 窓を閉めると、ガラスを雨が叩く。
 雨はどんどん強くなる。
 居間に顔を出すと意外な人物がいるのに気が付く。
「――笹原さん」
「こんばんは」
 笹原さんはお母さんと話をしていたようだった。
「ホクト、知っているの?」
「うん、この前友達と喫茶店に行った時に会ったんだけど」
「つぐみさんにはお世話になっています」
 と、笹原さんがお辞儀をした。
「いえいえ、こちらこそ」
 お母さんも少し頭を下げる。
 そして「丁度良かった」と呟いた。
「ホクト、ちょっと出かけてこなくちゃいけないから樟葉さんと一緒にいてくれるかしら?」
「全然構わないよ」
 ありがとう、と言うとお母さんは外に出ていった。
「しっかり母親やってますね」
 クスクスと笹原さんは笑った。
「料理の方はからっきしなんですけどね」
 僕は苦笑する。
「あの」
 真面目な表情に戻す。
「狛って・・・・・・何者なんですか?」
 笹原さんは少し考えているようだった。
 ささやかな静寂。
「桐堂君は」
 周りがとても静かだった。
 沙羅も居間に来ない。
「少し、いえ・・・・・・とても普通の人とは違うんです」
 とても笹原さんの表情が辛そうだった。
「霊感とか超能力とかは誰でも微弱に持っているんですけど、私や桐堂君は普通の人より何倍も力が強いんです」
 笹原さんの仕事を思い出す。
「私の家系は皆、力が強いので魔術師として育てられます」
 信じられない話ではあったが、それ以前に信じられない体験をしているので耐性は出来ている。
「でも、桐堂君は急にその力が強くなってしまって――今じゃ私よりも力を持っています」
「急に力が強くなるってのは珍しい事なんですか?」
「ええ、億に一つの可能性もありません」
 ますます狛について謎が深まるばかりだった。
「すみません・・・・・・私が知っているのはこのぐらいです」
 それと、と付け加える。
「ホクト君も、力が強いです」
「え?」
「それも一風変わった感じの『波形』」
 つまりは超能力のようなモノではなく、魔術のようなモノではなく。
「つぐみさんは力を持っていません。それと武さんにも会った事がありますが彼も持っていない」
 それがどういう事なのか、僕にはもう分かっていた。
「僕も後から力が強くなった、という事ですね」
「例外が身近に二人もいると少し自慢になりますよ」
 口調は冗談のようだったが表情は全く笑っていない。
「春香菜さんから話は聞いています」
 耳を傾ける。
「ホクト君の場合は、恐らく第三視点が発現したからでしょう」
 心臓が高鳴る。
「ブリックヴィンケルさんがホクト君に憑依して、ホクト君は一時的に世界の可能性を見てしまった」
 これが現実か、ただの可能性か。
「貴方の力は『視』る事。それも力はあるのに全く不完全な」
 その答えは狛が教えてくれた。
「別にホクト君が必要ないと思えばずっと不完全なままですし、逆に必要だと思っていれば、いつかその力を自由に使いこなせるようになるでしょうね」
 僕は気持ちを落ち着かせるのに精一杯だった。
「あ」
 もしかして、今の話はそっくり狛に当てはまるのではないか?
 笹原さんは僕が何を考えたのか分かったようだった。
「確かに桐堂君に私の姉の心臓が移植されています」
 新たな事実に僕は心底、驚いた。
「でも、誰かの体を使えば力が発現するという訳ではないんです」
 ささやかな期待は裏切られた――。

「私も時々不安になります」
 今まで見た中で一番暗い顔だった。
「本当は桐堂君、人間じゃあないんじゃないかって」
 肩が震える。
「私って・・・・・・最悪ですよね」
 笹原さんはそれ以上涙を堪えることは出来なかった。
「私の大切な人なのに――私の、大好きな人なのに――」

 そして僕は、何もすることが出来なかった。




 あとがき
 今更、ですが冒頭四行はBWの語りになっていて、話の方にも内容が関わっています。
 今回のはすごく分かりにくいと、思いますが(汗
 さらに『線上』と『煽情』をかけています。
 それと昼休みの会話は誰がどのセリフを言っているのか想像しながら読んでみてください。
 それでは、また。


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