幸せと不安
〜小町つぐみ〜
                                    水桃華琳玖


気付くと私は、心地よい晴天の下で緑に光る草原にたたずんでいた。そこは怖いほど広く、辺りを見渡しても緑色しか見当たらない。
「武?武!」
二人で一緒にここまできたはずなのに、そこには私しかいなかった。辺りの草原は私の不安を扇ぎ立てるように風の音を奏でていた。
「武っ!ねぇ、武っ!」
いつのまにか喉が張り裂けんばかりに武の名前を叫んでいた。空はこんなに綺麗で気持ちいいのに、私は一人で不安に駆られていた。
「武?ねぇ、どこにいるの?ふざけてないで出てきてよっ!武っ!」
捜しても武は見つからない。広い草原の中で、私は当てもなく武を捜していた。


「武っ!」
布団を跳ね上げるようにして、私は目を覚ました。よほど大きな声をあげたのか、隣で寝ていた武は眠たそうに体を起こした。

「どうした、つぐみ。なにか悪い夢でも見たのか?」
少し困ったように微笑みながら、武は私に話しかけた。

「んっ、何でもないわ。」
武は私の顔を見つめている。ただ優しい微笑を浮かべながら、私をしっかりと見つめていた。

「な、なによ。」
私は武の瞳に恥ずかしくなりながら、小さく言葉を呟いた。

「ん?何でもないぞ。ただ……。」
武はそこで言葉を区切り、私のほうへと近づいてきた。

「可愛いと思っただけだ。」
そう言いながら武は私を抱けしめる。優しく、でも逃がさないように、しっかりと。

「た、武?」
慌てて声を紡ぐが効果はなく、まるで私を安心させるかのように抱きしめる。夢のせいでかいていた汗は、武に抱かれていくうちにひき、心の中は独りではなくなっていく。

「独りだなんて思うなよ、もう。」
私の心を見透かしたように武は言葉を紡いでいく。

「少なくても今は、俺や、ホクト、沙羅がいるし、他にも優たちや空、涼権なんかもいるんだからな。」
武の声が私の心の穴を埋めていく。暖かい想いが私の心を包んでいく。

「幸せを受けてそれを感じることって難しいと思う。」
武の言葉が続いていく。私はそれを聞きながら、武をしっかりと抱き返す。

「でも、だから幸せって言うんだろ。分かりやすかったら幸せにならないもんな。」
耳にかかる武の吐息。

「つぐみは幸せに敏感なんだ。だからこんなに分かりやすいだけだ。でも、敏感だから二度と手放したくないと思う反面、もし失ったらと考えてしまうんだ。」
武は少し私から離れ、しっかりと私の顔を見つめる。そして私に優しく、くちづけをした

「今まで手に触れてたこともなかった巨大な幸せを深く考えずに全身で受け止めてみろ。倒れそうになったら俺が支えてやるから。」
嬉しいと思う、武の言葉が。ただただ特別な意味を持たない言葉でさえ嬉しいと思う。だって、待っていたものがやっと手にはいったんだから。

「私が不安に思うのはおかしいと思う?」
武に問いかける。

「別に。誰だってそうだろ。人なんだから、幸せに対する不安なんか持ってて当たり前だろ。」
武の答え。

「難しいことなんか考えずに俺に抱きついて来たらどうだ、不安な時は。まぁ、別に不安じゃなくてもいいけどな。」
武の本音。

「なっ……。」
それを聞いて私は思わず顔を赤くしてしまう。

「今みたいに抱きつけば、不安なんか吹っ飛んじまうだろ?」
いたずらっぽく武が笑う。

「…………武は不安を感じないの?」
思ったことを聞いてみる。武は私の髪を面白いのか、楽しそうにいじっている。

「そうだな…………感じて欲しいか?」
また、いたずらっぽく武が笑う。

「えっ、そ、そうね。」
言葉に詰まってしまう。そんな私を抱き寄せながら、優しく耳元でささやく。

「俺は感じない。つぐみのことを愛してるから。」


夜の暗闇にまぎれて起こる不安と言う名の悪魔は、あの事件から頻繁に私の心に現れていた。それは、幸せだからこそ感じてしまう自分の心の不安に苛つきを与えていた。だけど、武に抱きしめてもらうとその悪魔は姿を消してしまう。どこか魔法のような武の抱擁は、私の心に安心を与えてくれる。


「武……愛してる。」
本当に小さな声でささやくように呟いてみる。心と顔が熱くなってくるのを感じるけど、気にはとめない。

「何?……何か言ったか?つぐみ」
聞き取れなかったのか、私に聞き返してくる武を見て、私は少し微笑を浮かべる。

「ベ、別に何も言ってないわ。」
火照った顔を武に気付かれないように隠しながら、私は武から離れた。

「武、愛してる……か。つぐみからそんな言葉を聞けるとはな。ちょっと驚きだ。」

「た、武。き、聞こえて。」
赤く染まった顔が、さらに赤くなる。そんな私を見て武は小さく笑う。

「可愛いな、つぐみは。」
布団の中で武は私を抱きしめてくる。優しく暖めるかのように。武の暖かい腕に抱かれながら、私は少しずつまどろんでいく。

「おやすみ、つぐみ。」
武の声が聞こえたような気がした。私はそのまどろみの中でしっかりと武を抱き返した。


夜が明けて夢を見る。その夢では私たち家族が広い草原で散歩してるものだった。その夜の武のおかげか、私は武の手をしっかりと握り、武は私以上にしっかりと握り返していた。思った以上に暖かい武の手は、私に幸せと言う感情をいっぱい与えてくれた。



あとがき
こんにちは、水桃華琳玖です。

二作目ですか。主人公はつぐみ。でもなんで武の言葉の方が多いのでしょう。私にもわからないことばかりです。

主題は、幸せに対する不安でしょうか。上手く表せていればいいのですが。

でも、まぁ、書いてて楽しかったです。武に対するつぐみの反応を考えるのがとっても楽しかったです。

次は誰になるのやら、他のキャラは難しいなぁ。


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