このSSを読む際の注意

 このSSはドラマCD『2035』から続くものです。
 ですから、聞いていない人は話の内容がわからないと思いますので雰囲気だけを楽しむか、それともドラマCDを購入してから読むか、逆に読んでからドラマCDを購入するか、という三択の内のどれかを選んでください。
 一応言っておきますが僕はKIDさんの回し者ではありません(笑)

























Eternal Love
〜Which do you delicious?〜

                              ショージ


〜2/14/2036〜



 私はバレンタインデーという1年に1回の習慣があるのを私は先日知りました。
 どういった日なのかを知って真っ先に浮かんできたのは『何故チョコレートなのか?』です。独自に調べてみた結果、これはお菓子会社の策略に人々が乗せられているだけであり、更にこの日にチョコレートを贈るのは日本だけだそうです。
元々、バレンタインデーのバレンタインとは西暦3世紀頃のローマにおいて皇帝であったクラウディウス2世は国の兵士が結婚して家族ができると弱くなるなどと考えていたらしく、結婚を禁止しました。
しかし、キリスト教の司祭であったヴァレンチノ(英語読みでバレンタイン)は皇帝に内密である兵士の結婚式を禁止と知っていながら執り行ってしまったのです。残念なことに結婚式のことは皇帝に知られてしまい、皇帝は彼をキリスト教からローマ宗教に改宗させようとしましたがヴァレンチノは拒否した結果投獄され、2月14日に処刑されたのでした。
それ以来、キリスト教徒はヴァレンチノが愛の尊さを皇帝相手にも貫いたとして恋人の守護神として祭り、『聖バレンタイン』、そして処刑された日を『聖バレンタイン・デー』と呼ぶようになりました。
きっとこの日は最愛の人にチョコと共に自分の想いを贈るために用意されたのでしょう。
そもそも私はこの日がどんな日なのか全く知りませんでした。そして、真意を知るきっかけとなったのが秋香菜さんなのです。彼女に手作りチョコの作り方などを教えている時に教えてもらいました。
そんな彼女は現在ホクトさんとお付き合いしています。彼は倉成ホクトとなり、今年の春から秋香菜さんの通う鳩鳴館女子大学の近くにある大学に通うことになったようです。身長も伸び、体付きもたくましくなりました。益々、父親の倉成武さんに似てきたと窺えます。
先生はそんなホクトさんの成長を見て、気づいたら垂れていた涎を慌てて拭いながら「ホクトも美味しそうね………」などと呟いてましたけど。一体どうしたんでしょうか?


 それはさておき、私も……彼のために作りました。
 大切な……私の恋人……桑古木さん………。
 
 
 薬理第2研究部で私は1人、今日も残業を行っています。どうしても片付けておきたい仕事があったので仕事を優先させてしまいました。
 目の前のパソコンのディスプレイに目を向け、黙々と作業に没頭しています。頭の中には他のことなど一切の居場所を与えずに。
 一瞬も休めることなく、10本の指を伝達された情報のまま動かし続け、液晶には躍るように文字が表示され、次々にリズムよく刻まれていく。その動きは叩かれるキーと同様、まるで手を取り合い、ペアで共にワルツを舞踏しているようでした。
素早い動きで音を奏でつつリードする指が男性。辿るように動きを合わせる文字は女性。
やっと男性が動きを止めると女性も同じく止まります。
キーボードから両手を引き戻し、肩を解しながら私が軽く溜め息を吐いているとワルツが終わるのを待っていたかのように―――暗闇が訪れました。
「きゃっ!?」
 思わず悲鳴を上げてしまいました。すぐさま恐る恐る周囲を見渡しますが、突然襲来した暗闇の中では闇に慣れていない目など使い物になりません。慣れるまでは手探りで不用意に動くよりもこうして椅子に座ってじっとしている以外に適当な方法はないのです。
 けれど闇は1秒弱という短い時間で明るさにその存在を掻き消されました。
「あ、悪い悪い」
 照明のスイッチのすぐ横に、彼がいました。きっと気づかれないように静かに侵入したのでしょう。ドアを開けて入ってきたばかりの彼は頭を掻いて、もう片方の空いている手を数個のスイッチに置いています。
 彼とは―――桑古木さん。
「もう……、ちょっと悪ふざけが過ぎませんか?」
 怒っているつもりが何故か微笑みに変わってしまう。白衣のポケットに両手を突っ込み、ゆっくりとこちらへ近付いてきます。
「そうだな。ちょっとだけ、な」
 相変わらずの笑顔と頭を掻く仕草。表情には少しも悪びれた様子は見られません。むしろ、先程の私の反応に内心喜んでいるのでしょう。
「ちょっとどころじゃないですよ。最初は泥棒さんかと思いました」
「強盗じゃないのか?」
 意外そうに聞き返しながら後ろへ回り込まれ、私の双肩に手が掛けられました。徐々に力が加えられていく指によって、日頃から溜まっていた筋肉の疲労感が開放されていきます。桑古木さんは肩を揉むのが非常に上手い。これはきっと経験があるのでしょう。
「あ、ありがとうございます。強盗というのは金品を奪う人のことですよ」
「だから、忍び込んだのは金とかが目的だろ?それだったら泥棒じゃなくて強盗じゃないのか?」
 眉間に僅かに皺を寄せ、それに連動して目を細めつつ不思議そうに尋ねる桑古木さん。どうやら納得がいかないみたいです。ですから私は説明をします。
「わざわざこんなところに金品を奪いに来るとは思えません。でも泥棒さんは他人のものを盗むんですよ」
「ふーん、それで?」
 肩を揉み解しながら続きを求めます。
「お金に変えられないようなものを。だから、私自身が盗まれてしまうのではないかと思ってしまいました」
「え?」
 言葉と同時に手が止まりました。
「桑古木さんは私が盗まれたら助けてくれますか?」
 あえて振り向かず、問いました。別に、目を合わせるのが怖かったわけではありません……本当ですよ。
「そんなの当たり前だろ。というより、空は俺のものじゃないだろ」
「違うんですか?」
 思わず振り向いた時の心境の半分は嬉しさ、もう半分は少しの悲しさ。
「違うんですかって、少なくとも俺はそう思ってる。空は空だ。俺に縛られて生きているわけないだろ?」
 まるで1つしかない解答を当然のように放つ桑古木さん。
 それは想像通りの答え。彼ならばきっとそう答えると思っていました。
でも、私の願っていた予想外の答えではなかったのは事実です。だからちょっとだけ悲しい。
「確かに、そうですね」
 悲しさを感じ取られないよう、微笑みを加えることを忘れません。悲しさを微笑みで覆ってしまうのです。
「そういえば言い忘れてたけど、今日も残業なんだな。少しは体のことも考えたらどうなんだ?」
「大丈夫ですよ」
 言うべき台詞を思い出した桑古木さんのお陰で、私もあることを思い出しました。
「どうしてだ?」
 根拠の無い強気な返事として処理されたのでしょう。なぜなら、聞き返す彼の口元は笑っていましたから。……後悔させてあげましょう。
「だって、もしも私が倒れても桑古木さんが助けてくれるんですから」
「うぐっ」
 案の定、顔をしかめて自分の失言に苦しむのでした。自分で自分の首を絞めるとはこのことでしょうか。
「そうなんですよね?」
 笑顔で最後の一押し。もはや謝るか押し通すかの2つに1つとなりました。
「あ、当たり前だ。俺は約束は守る男だからな」
 どうやら押し通すみたいです。頼もしいですね。
「ふふっ、ありがとうございます。あ、そうでした」
 私は机の引き出しに入れてあった、シンプルな赤い包装とリボンを施した細長い箱を取り出します。
 見つからないように背中に隠し、正面を向くと数秒の空白を置いてから
「……えっと、桑古木さん、どうぞ」
 真っ直ぐに差し出しました。
「なんじゃこりゃ?今日は誕生日じゃないぞって……ああっ!」
 桑古木さんは渡された直後には気づかなかったようですが、考えを巡らせているうちにどうやら気づいたのでしょう。私は自然と微笑みます。
「わかりましたか?」
「バレンタイン、か」
 頭を掻きながら少し照れた表情で答えました。
「正解です」
「おかしいと思ったんだよな。今日は山ほど貰―――っと、いや、開けてみてもいいか?」
 今日の出来事も思い出したようですね。少しだけ、ムッとしますが怒りの感情は止めておくとしましょう。
「はい、どうぞ」
 静かにリボンを解き、丁寧にセロハンテープを剥がして包装紙を開いていきます。
 そして現れたのは透明な箱と小さなカップに入っている数個のチョコレート。
「うおっ!美味そうだな〜っ!もしかして手作りとか?」
 チョコから視線を持ち上げて、輝きに満ちた双眸で私を見ながら感嘆の声を上げました。嬉しさが身体から溢れているのでは言うまでもありません。
「そうですよ。だから味の保障はできませんけど」
 苦笑いを浮かべて答えました。
本当は何回も味見をしましたが、過去のこの事実は言うことではありませんね。こういうものは言わないことに意味があるのですから。
「大丈夫だって。空の作るものは何でも美味しいからさ。自信持って良し」
 確かに桑古木さんには手料理をご馳走したことは数え切れないほどあります。けれど、作り手としては新たなものや慣れないものを作った時は不安なものです。
「じゃあ、食べてくれます?」
「もちろんだ」
 箱を開けて1つのチョコに手を伸ばすと迷わずに口に放り込みました。口を動かし、潜んでいる甘さと苦味の2つと更に手作りという味が加わったチョコを味わっています。
「……どうですか?」
 言葉で得られた心の安定は長くは続きませんでした。
「うん?美味いに決まってるだろ」
 白い歯を覗かせて笑んだ桑古木さんを見て、突然心の底から安心感が湧き上がってきました。きっと安堵の表情を浮かべているに違いありません。
「良かった〜………」
 胸を撫で下ろし、ホッと息を吐く私を見て、再び頭を掻きながら訊いてきます。
「そんなに心配だったのか?」
「だって私、作り方は知っていたんですけどチョコレートは初めて作ったんですよ」
「へぇ、そうなのか……うん、十分美味いぞ。だからもっと自信持てって」
 口にもう1つチョコを頬張りながら返答してくれました。
「ありがとうございます」
 自分の作ったものが相手に気に入ってもらえるのは、やはり嬉しいものです。自然と微笑みの表情が外見に表れ、向けられる目を見つめ返します。
 でも――――そんな私の中には先程の悲しさが取り残されていました。
「あの……先刻、桑古木さんは『私は桑古木さんのものではない』と言いましたよね?」
 気がついた時にはもう既に遅かったのです。
「あ、ああ……急にどうした?」
 流石の桑古木さんも戸惑っています。
でも、ここで言葉を切るわけにはいかない。もしここで切り落としてしまったら、しばらくは引き上げる機会がないかもしれません。だから
「………でも、桑古木さんは―――私を縛りつけ……いえ、独り占めしたいと思うことはないんですか?」
 私は目を見据えて、心の中の気持ちを言葉に起こしました。自分自身を落ち着けるために。
「…………」
 放ったあと、沈黙が広がります。お互いに一言も喋ることはなく、無というものが空間を埋め尽くすのでした。これが結果だとしたら、何とも悲しい。
「すいません。変なこと言って」
 苦笑を一瞬見せて、顔をすぐさま伏せました。
「―――のか?」


「え……?」
 空は俺の言葉を聞き返した。咽に痞えてしまった声は擦れて聞き取れなかったのだろう。俯けていた顔を上げて不思議な顔で見ていた。
気がつくと俺は笑っていた。
 まぁ、笑うといっても微笑みなどの領域に含まれる僅かな表情だ。
「独り占め―――していいのか?」
 薄く笑った顔を空の耳元に近付け、誘うが如く囁く。まるで普段とは違った――別の俺が喋っているみたいだ。内心、そんな声も出せるのかと我ながら関心している。
 ふと鼻腔にいい香りが入ってきた。他ならぬ空の匂い。髪だけではなく、空自身からも漂っている。
 その優しい香りは心を落ち着かせてくれる。今だけじゃない、いつだってそうだった。空は俺を助けてくれるからここまでやってこれたのだ。
だから、空を愛したい。
「どうなんだ?」
 顔を離し、空の顔が見える位置まで持ってきて意地悪く尋ねた。
 空は耳たぶまで真っ赤に染めて、目は潤んでいる。再度顔は俯いていた。そんな空がいとおしくて俺は今すぐに抱き締めたかった。
「……………はい」
 返答を聞いてから俺はドアの方へと歩み出し、スイッチを1つずつオフにして電気を消した。終えると再び、空の元へ歩み寄っていく。パソコンのディスプレイが彼女の表情を照らし、形容し難い雰囲気を醸し出していた。
 手を掴み、空を椅子から立たせて、キーボードを横へずらすと空いたデスクのスペースへ少しだけ強引に座らせる。
 視線は空だけを捉え、片手だけで今まで座っていたキャスター付きの椅子は適当に方向も定めないうちに滑らせた。直後にガンという机にぶつかった音が聞こえた気がする。別にどうだっていいことだ。
 パソコンのファンが奏でる微かな音など今は耳に届かない。
ただ聞こえるのは空の呼吸。
 一言も喋ろうとはしない。デスクの縁に手を置き、ただじっと待っている。
「空」
 そんな彼女をゆっくりと抱き締めた。
 力任せに抱いてしまえば壊れてしまうのではないかと心配で堪らなかった。だから自身を何とか押さえつけ、優しくしようと必死だ。
そして空は抱擁を返してくれた。
 その為、安心感からか思わず力が入ってしまう。
「あっ………」
 耳元に漏れた息が掛かり、空回りしていた力は消え失せた。いや、吹き飛ばされたのだろう。同時に腕の中から空を解放する。
そして、優しく唇を重ねた。
 多分チョコの味がしただろう。そう、これは確信じゃなくて推測だ。
「ん……っ、桑古木、さん………」
 途切れ途切れに聞こえてくる声が妙に色っぽい。
「空、桑古木はやめてくれよ。何だかくすぐったい」
 唇を離して口元だけで笑いながら言った。職場では苗字で呼んでもらうように頼んだのは俺自身なのだが、ここには誰もいない。だから休日の時みたいに名前で呼んで欲しかった。
 今度はただ重ね合わせるだけではない。更に奥の味を確かめるように、深く長くつい先程のキスとは全く違ったキスをする。
「ふぅ……、んっ………」
 十分味わったところでお互いに数センチの間隔を空け、空は瞼を僅かに持ち上げる。淡い光がお互いの表所を暗闇の中に映し出す。空は高鳴る鼓動を落ち着かせようと、呼吸を繰り返している。
 誰もが最も愛する者へ向けるこの当然の行為を俺は否定しない。例え、総理大臣が否定したとしても肯定するに違いない。そう、断言できる。
俺は止まらなかった。
顔の高度を落とし、白衣の襟元から首を伝って連続でキスの雨を降らせる。まるで唇を目指すかのように。
「ぁう……っ!涼権、さん………!」
 言葉と一緒に空の口から甘い息が漏れる。
 だが、俺は唇ではなく最後に耳へと辿り着いた。
「ひゃっ……あぅ……ふぅぅ………」
 何度か甘噛みを繰り返していると今度は甘い声が聞こえてきた。そして先刻よりも荒い呼吸が続けられているようだ。
「空………」
 言うが早いか俺は顔を離して肩に手を置き、空の白衣を落とすように脱がせていく。だが、途中で彼女の手が置かれ、その行動を制した。
「待って……1つだけ、聞きたいことが………」
 息を吐きながら噛み合わない呼吸とのタイミングに苦しみ、何とか喋ろうと試みている。
「ん?」
 少しだけ間を流し、落ち着くのを待った。
「私と、チョコ……どっちの方が、美味しいですか………っ?」
 相変わらず赤い空の顔に更に赤みが増した気がする。顔から火が出そうな、とはまさにこのことだ。
 笑いを堪えて、俺は答える。何の迷いもなく、ただそのままの事実を言う。
「本当に可愛いな、空は。そんなの決まってんだろ……空だよ」
 手を伸ばして、頬に触れる。その手に空は自分の手を重ねてきた。
 するりと手を抜け出して、俺の手は少しだけ尖った形のいい顎へと動く。
「でも、今日はまだ全部食べてないから結論を急いじゃいけないよな。ゆっくりと、たっぷり味あわせてもらうから」
 言い終えると、素早く唇を奪った。奥まで味わったはずなのに、何十回でも何百回でもキスできるような気がした。
「ん……っ!」
 制していた手が緩んだのを見逃すはずがなく、衣擦れの音を部屋中に響かせて白衣は落ちていく。
「空……愛してる」
 心から真実を告げた。
彼女の心が同一であることを望みながら。
「……私もです」


 永遠の愛は存在するのでしょうか?
 答えは否。
 しかし、それは愛というものが肉体の存在する人間同士によるお互いに対しての感情だと仮定した場合のみ成立します。
 ですから反してみると―――2人が生き続ける限り、愛は存在するのです。
生命が長く続けば続くほど、永遠に近付くはず………。
だから、私達の愛は永遠に続くでしょう。

そう、永遠に………。


FIN



あとがき

 15禁でも間に合うか心配です(汗)
 
バレンタインSSですよ。
ちなみにバレンタインデーについての冒頭の空の説明は(一応)調べてあるので真実だと思います。チョコを渡すのがお菓子会社の策略であったのは知ってましたが、自分も調べるまでは詳しく知りませんでした(爆)

 このSSがどう受け止められるのかはわかりません。それが1番心配だったり(滝汗)

ではでは〜♪


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