空と世界
                              ショージ


2035/4/10

 日が差し込んでいる。
 暖かく、実に気持ちの良いもので思わず溜め息の1つでも漏らしてしまうほどだ。
「はぁ〜……っ」
 事実、先生こと田中優美清春香菜はその日差しを身体に浴びて口から至福を意味する声を出した。だが、それは心地良い日光のお陰だけではなく別の要因もある。
「あの、先生?」
 春香菜の目の前に立ち、更なる要因の1つでもある茜ヶ崎空は話しかけた。彼女の表情は眉根を寄せて少々困り顔、といったところ。
 手に持っていたコーヒーカップを再び口に持っていく。黒い液体は春香菜の体内へ流れ込むと持ち前の極上の味で舌を、何とも言えぬ香ばしい香りで鼻を唸らせた。わかると思うがこれも要因だ。
「はぁ〜〜〜……っ」
 これで何度目になるだろうか。呼びかけに構わず、依然として悦に浸るのは。
 そんな空は彼女とは正反対の違った溜め息を吐く。
「先生、もうよろしいでしょうか?私このままというのも疲れるんですけど………」
「何……?ご主人様に逆らおうっていうの?」
 ズイっと顔を前に突き出す。
「え、あの……」
 空が返答に詰まっていると、その無表情で有無を言わさぬご主人様の顔が厭らしい微笑みに変貌していった。自然と「この場所では私が最も偉く、法律なのだよ」と思わせられてしまう。恐怖を感じ取り、背中に嫌な汗が現れた。そしてこう思ったに違いない。
 本気なのか、と。
「いいでしょう、茜ヶ崎クン。君にはどうやら『お仕置き』が必要のようだ。さあ、またこの間のように可愛い声で鳴いておくれ……ふふふっ」
 わざと低く構えた声には不敵な微笑とは不釣り合いであった。口調も違い、本気でないことは明らかだ。そのため、突如として今までの恐怖はすっかり消え失せる。
「……私、怒りますよ」
 今度は空が無表情で言った。割と凄みが籠められている。
「はいはいはい、わかりましたよ。全く……良いじゃないのよ。もう少しくらいこのシチュエーションで過ごさせてもらっても」
「嫌です。大体、どうして私がこんな服装しなきゃいけないんですか?」
 空はそういって自分の全身をしげしげと観察し直す。その行為は20分振りぐらいだろうか。
 彼女は手作りのフリルの付いたウエイトレスにも見える服(メイド・イン脅迫された桑古木。本人の心からの願いによりそのことは秘密だ)を着て、前に組んだ両手でお盆を抱えている。いわゆるメイドさんという設定。ちなみに頭の上に乗っているヘッドドレスがポイントだ。
シチュエーション。
それは今のこの状態のことに他ならない。そして先ほど挙げた要因がシチュエーションということになる。春香菜が楽しんでいるのは、昼間の日光浴、美味しいコーヒー、そして綺麗なメイドさんという3拍子揃った見事なもの。それゆえ彼女はご主人様と自らを称していた。
「あら、私が着るよりもとてもよく似合ってるわよ。それに……その格好なら倉成を十分に誘惑できると思うけど?」
 春香菜は顎に手を当て、まじまじと彼女のメイド服姿を楽しそうににやけながら見る。その笑いは先読みの笑いだった。要するにこの後表れる空の反応を先に笑ったということになる。
これは相手のわからないうちに笑っておけば、その時になって誰も怒る者も悲しむ者もいなくなるという彼女なりの優しさが考慮されているように思えなくもない。
「ほ、本当ですか!?」
 頬を朱に染めて、嬉しそうに聞き返すメイドさん。彼女の頭の中に一瞬にして彼への想いが広がっていく。空は気がつかなかったが、いつの間にか春香菜の笑いは消えていた。
「ええ、メイド服を半分脱衣して甘い声で迫ったら可能性はあるかも。でもそのためには貴女がそれなりの技術と訓練、プラス場数と同時に経験を踏まなければならないわね」
 ガクゥッ
 空は急激に両膝を折り、その場に膝を突いた。彼女を中心に暗い空気が広がっている。終いには部屋の隅に移動して膝を抱え込み、指で『の』の字を書いてしまうまでに落ち込んでしまった。小さな啜り泣き声が耳に届く。
「まあ、妻子を捨ててまで貴女を求めるようにするには最低でもそれくらいは必要ってこと。特に倉成みたいなバカは決めたことをなかなか捨てられないだろうし」
 普段と変わらぬ冷静な表情で言い聞かせると、コーヒーをまた一口飲んだ。そしてカップは占領されていた自分の空間を取り戻した。
「ほら空、立ったらどう?それに貴女はそんなことぐらいで諦められるほど決意の弱い人間なの?」
 言葉にハッとしたようで空は起き上がる。彼女には「立つんだー!立つんだ、空―っ!」と聞こえたらしい。後々語ることになるが、日光を浴びた眼鏡の反射する光で満ちた片方のレンズが眼帯のようにも見えたのだと言う。
「……いいえ、弱くなんてありません」
 全身が燃え尽き、白くなるまで闘い続けるのだ。それが空の愛するものへの想いの強さの証明となる。
 そんな勇ましい姿を見て、春香菜が頷いた。
「それで良いのよ。はい、コーヒーごちそうさま。それじゃあ私は仕事に取り掛かるから、ピピの散歩よろしくね」
 空いたカップを皿に載せて差し出す。
 現在ピピは田中家に預けられている。飼い主の八神ココが1週間前から家族や親戚など総動員で長期の団体旅行に行ってしまったからだ。ココに場所を聞いてみたところ「本当に、聞きたいのぉ〜?」とニヤニヤとした顔で聞き返されてしまったので、迷わず「お願いします」と言ったところ、「ふふふ〜ん、秘密なのです〜♪」と無邪気に返されてしまった。要するに最初から教える気がないのだ。帰ってきたらお土産と一緒に教えてあげる、と予告されたので、まあ良しとした。
こうして、主に家の中での世話は空が務めることになっている。そして散歩は、朝が春香菜で夕方は彼女の娘である秋香菜とで交代で。
「先生、お仕事は先日一段落ついたんじゃなかったんですか?」
両手でカップを受け取りながら思ったままの不安を婉曲的に伝える。1週間ほど前からずっと仕事のため散歩任務を空に任せっぱなしだったからだ。
「うーん、その通りなんだけどねぇ。実は急に新しい仕事が入ってきちゃって……」
 どこからともなく取り出したサインペンで頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。その苦笑する姿が彼女には偽りと捉えられたらしい。そのため、深く聞き返すのだった。
「どんな内容なんですか?」
「あ、信じてないでしょ?……まあ、良いわ。ある人物がちょっと追われててね。助けを求められたの」
 空がこうなると納得するまでは絶対に引かないのは春香菜が最もよく知っている。だから、話さざるを得なかった。
「ある人物、ですか?」
 田中家に訪れたことのある数人の有力者の顔が脳裏に浮かび上がり、該当する人物を探し始める。けれど、見当をつける前に回答を言われてしまった。
「そう、空もよく知っている、あの『Wizard “Jack”』よ」
「えっ、あの有名な………」
 思わず言葉を呑んでしまった。
『Wizard “Jack”』―――ウィザード・ジャック。
 今となっては世界的に名を馳せているハッカーだ。またクラッカーでもある。性別は不明。特徴的なのはデータをまるでナイフで切り刻んだように所々残し、最後に数字で『11』と形跡を残すのがジャックのクラックした証拠。いつしか、そのことから『J.T.R(Jack The Ripper)』と呼ばれるようになっていた。
 しかし、ただの破壊衝動に駆られた、壊して快楽を得るというような異常者ではなかった。どちらかというと正しい側の人間である。
 ジャックは世の中の不正を世に知らしめている。不正を公表し、断片的にデータを破壊するのがジャックの『仕事』なのだろう。データを前以て送りつけ、断片的で処置の利かなくしたものを照らし合わせればそれで1つの歪曲した物事が片付いてしまうのだ。彼自身、その行為が正しいとは思っていない。だが、自分の力で世界中の不正を正すのが望みと言った。
では何故先ほどのような曖昧な表現をするのかというとジャックの手段であるハッキングとクラッキングは決して良いものではないからだ。
世界的に通じるようになったのはごく最近のことで、数年前までは日本内でしか活動していなかったという。春香菜は2034年の計画実行以前に偶然知り合い、以後何度も会ったことがあり、それなりに友好関係を築いていた。ジャックもBW召喚計画に参加してくれることになっていたが2032年に失踪してしまい、それ以来連絡はつかず生死すら不明だった。
 そんな時、数日前に電話で連絡を受け、現在の状況と救出要請を求められたのだ。計画には参加せず、今更助けてくれなど何とも都合の良い話であったがある一言で彼女の気は変わった。
『約束したんだ。人に会わせてもらいたいだけなんだ、頼む』
 という電話越しの切に願う声に春香菜の方が折れた。謝礼金という名のおまけ付きで。
 割と高額を冗談交じりに言ったつもりだったがあっさり承諾され、春香菜は柄にも無く内心焦った。どうやら、1年おきにある場所へ出向いては1日中相手を待っているらしい。もうすでに2回その場所で待ったことがあると言っていた。2回とも相手は来なかったらしい。「捨てられたんじゃない?」と訊くと「いや、時期が満ちていないだけなんだろう、きっと」と笑いながら答えていた。その会話の中で心に秘められた想いが感じ取れた。
出向こうにも、今回の状況はどうも簡単には逃げ切れないらしい。そこで昔の頼みの綱であった彼女に、というのが今回の仕事の生まれた理由である。
「実は、沙―――って、もう信じてくれるかしら?」
 信じてくれたのなら余計なことは話さなくてもいい。そう判断して一旦言葉を切り、問う。
「ええ、信じます。こんな話を嘘に持ってくるにしては大きすぎますからね。続きが気になりますけど」
 微笑んで続きを求める空。言うまでもないだろうがこれは間接的に「話してくれませんか?」と言っているようなものである。
「この話は今度本人がうちに来たら話すことにするから。あ、その時に空を同席させるから今回もお願いできない?」
「はい、そういうことなら。じゃあ私はピピの散歩に行ってきます」
 目を輝かせて、そのことを楽しみにしながら交渉が成立したことを春香菜に確認させた。それに対して微笑みは合意の意を示すのだろう。
「行ってらっしゃい。車には気をつけてね」
「私は子供ですか……?」


 桜が美しく咲き乱れている。
 風が枝を揺らし僅かな音を立て、そして花弁を自らに乗せる
 春にしか見られないこの景色は長い1年の中で数週間しか維持できない。だが、天気予報の出だしに気象予報士は「これでも7分咲き」と言っていたため、まだしばらくは見ていられるようだ。
すっかり春の空気に支配され日増しに気温は上がり、だんだんと暖かくなってきている。
 午前中の陽気な気候の中の公園には疎らに人がちらほらと見えた。犬の散歩にはこれほどまでに良いコンディションもないようで、犬の方から願い出てきているのだろう。そのため、普段よりも多いと思われる。
「こっこら、ピピ。お、お願いだから引っ張らないでぇ……っ」
「ワンワンっ!」
 手に力を注ぎ込むが彼女の制止など聞かず、ピピは元気良く吠えながら空を引き摺っていく。首輪に紐を付けたのは空の趣向(趣味ではない)である。もっとも、これにはしっかりとした前例によって苦い思いをされたからに他ならない。話してしまえば、1週間前に首輪を付けすに散歩に出したところ元気に走り去ってしまったのだ。それで空は夕方まで必死に半泣きで探し回ったのは言うまでもない。そして、一旦相談しようと田中家に戻ったところ奴は利口にも帰巣本能からか、もしくは腹時計の知らせからか戻っていたことも。
「あうぅ……」
 今にもうつ伏せに倒れ、腹這いに引かれていく彼女の姿が容易に脳裏に浮かぶ。
 これでは空が散歩されているような気がしないでもない。
「あっ、あそこのベンチで休みましょう」
 視界の隅に映ったそれを目ざとく見つけ、渾身の力で電子犬を引っ張った。短い遠吠えがその場に響く。主従関係は元通りになり、本当に引き摺って目的地へと向かった。
 ベンチは丁度木陰の中に位置していた。薄暗い雰囲気のその場所は2、3歩歩き出せば出る日なたとは違い、温かさではなく、涼しさを求める者への場所に他ならない。4月とは思えないほど気温は高いこんな日には必要な場所だった。
 良い具合に、背もたれの両端に1本ずつ突き出したデザインになっていた。そこに自分とピピとを繋いでいる紐を掛ける。すぐさま座るなり、息が漏れた。
「……気持ち良いですね」
 木陰を形成してくれている背後の大木。背中を反らせ、上を見上げると枝や葉で視界が埋め尽くされるほど。そこの間からの木漏れ日が眩しい。風が新鮮な匂いを運んできてくれた。
 不意に視界の隅に何かが映る。空は反射的に首を巡らせ、隣の空間に焦点を合わせようとしていた。
「こんにちは、空」
 その行動が完了すると同時に、少し低い男性的な声が掛かる。声の方向はベンチの真横。空が顔をそちらに向けるとそこには40代くらいの男が笑顔で立っていた。そこは丁度日向と日陰の狭間だ。
耳の半分が隠れるほど伸びた黒髪が印象的で、縁の無い小さな眼鏡を掛けていた。近くで凝視しなければ年齢など簡単に誤魔化せてしまいそうな感じがする。要するに、外見上は若く見えるということだ。
「え……あの、どちらさまでしょうか……?」
 完全な不意打ちに思考は一旦停止してしまう。だが、優秀な彼女の頭脳は間らしい間を空けずしてすぐさま回転を始めた。
 男がハッとして、未だ見たことの無い表情の1つを晒す。こうして人々はお互いの一面を知っていくのだろう。
「うん?ああ、私の名前か。私は―――」
 怪しいものではない、と切り出すのがセオリーなのだが男はいきなり名前を明かそうとする。当然、空は面食らった。
 しかし、何故か彼は言葉を切り、沈黙を流す。風が一陣2人の間を吹き去り、風の音を耳の中に響かせ、残していく。
「あー、いや、やはりやめておこう」
「えっ、どうしてですか……?」
 頭をポリポリと掻きつつ、もったいぶってやっと沈黙を切り捨てて出てきた言葉が、それだった。空の方は益々困惑の色を濃く表す。
「ふふっ、男は謎が多い方が魅力的だからだ」
 顎に親指と人差し指を持っていき、不敵に笑って見せた。彼女は見せられたニヤリとする表情に対してデフォルメされた大粒の汗1つ浮かべていた。
「は、はあ……そうですか」
 空の苦笑している姿を見て、男が軽く鼻を鳴らす。
「やはりわからないだろうなぁ、君には」
 ついでに「ちっちっちっ」と指の動作も付けた。その動作に苦笑が湧き上がる純な笑いに掻き消されてしまう。
「はい、わかりません」
 口元に手をやり、笑顔で断言する。
「……随分とハッキリ言うんだな。まあ、どちらかというとそんな女性の方が私は好きだが」
「それより、どうして私のお名前をご存知なんです?」
 引っ掛かっていたことを切り出すタイミングを逃し、留めていた言葉をやっと口から出す。その瞬間、ざあっという風の響きが駆け抜けた。彼は顔に書くほどの自信を露わにしていた。
「フフフッ、よくぞ聞いてくれた。それは私が、ちょーのーりょ……いや、これもやはりやめておこう」
 自らの言葉を突然遮り、平然とした表情に半ば強制的に戻す。そちらの顔つきの方が魅力的だった。
 機械的な行動に、空は思わず声を漏らしてしまった。
「ふふっ、そうですか……?」
「そんなに面白いかい?」
「はい、とっても」
 天使の笑顔に気圧されて、男も苦笑いを浮かべると連動して頭を掻く。すると口からは笑いがこぼれていた。
 

 2人は日中の陽気な気候の中で時間も忘れて、話し合った。影がひんやりと程よく彼らを包み込んでいる。葉が擦れ合う音が耳に入り込み、心を落ち着かせてくれる。自然と気持ちは落ち着いていた。
男の話は面白く、笑いが尽きなかった。彼が自分の娘のことを話す姿は空にとっては新鮮で、何より羨ましかった。子供を持つ親というものを初めて実際に認識できただろう。
「それにしても、良い天気ですよね」
 空の方から話題の転換をする。切れ目なく続く話題。
「ああ、そうか。君の空は晴れているんだな?」
 想い出を掘り返し、事実を確認したかのように納得をする彼。
「え?私のって……ほら、今の空は晴れているじゃないですか」
空はというとハテナマークを空中に泳がせていた。
「いやいや、私が言ったのは『君の空』だ」
「私の……空?」
 薄い笑いが男の表面に表れ、無表情から移り変わる。場所の特定により1つの疑問符は消えた。
 男は顔を『晴れた上空』に上げる。微笑みは崩れていなかった。
「この世界がどうやって成り立っているか、君は考えたことがあるかな?世界は1つだと思うかい?」
 唐突に話の内容と段階が上がる。これは答えが明確になっているものではない、と空は考えた。これは思いつきなのだろうか。
「世界は1つじゃないんですか?」
 尋ね方から彼が世界は1つではないと間接的に言っていることを察して、訊き返す。いつの間にか、視線は彼女の方に向けられており、自然とその直線に自分のものも重なった。2点がお互いを結び付けている。
「そう、1つじゃない。世界とは1人1人に1つずつ存在し、各々の視点で世界が動いているんだ。今、私と君は世界を共有しているのだろうな」
 口の片端を持ち上げると片目が細まった。相変わらず、無表情の空。
「先程、私の空が晴れているのかと聞きましたが貴方の空は晴れていないのですか?」
「うん?……君は鋭いな。ああ、その通りだ。とても厚い雲に日の光は遮られ、雨が降り出しそうな感じだ。湿度も上昇している。きっと今週末まではずっとこんな感じだろう」
 目を閉じて、肩を竦めると鼻から息を吐く。動作が「参った参った」と言っている。
「何か嫌なことでもあったんですか?」
 それとなく、躊躇いながらも口に出した。その際に申し訳なさそうな顔をするのは礼儀とも言えるはず。
 その配慮を受け取って、男は顔を俯かせた。心なしか、辛そうにも思えてしまう。いや、それは元々なのだろうか。
「実は今、家には私1人しかいないんだよ……」
 わざとらしくも聞こえた。まさに3流役者が台詞を述べるが如く。
「あ、えっ……すいません」
 こちらは性格からか真剣に謝った。空の場合は誰からでも本気に思えてしまうから不思議だ。
「お約束通りに謝るもんじゃない。別に家族は親戚と一緒に旅行へ行ってしまっただけだ……私を忘れてな」
 乾いた笑い。まあ、不幸であることには変わりなかった。
「え、あの、すいません……」
 更に謝る空。こうなると愛らしくも思えて仕方がない。
 その反応を見て、彼は大声を出してしまう。
「ハハハハハッ!……さて、そろそろ私は帰るとしよう。家では亀のププがお腹を空かせているに違いない」
 ベンチから立ち上がり、腰に手を当てると反らせて身体を伸ばした。空は手首を反して時計を見る。正午を過ぎていた。
「あ、もうこんな時間なんですね。私も帰らないと………」
「そうか、君と話ができて良かった」
 全てを包み込んでしまう笑みが、彼女にとっても気持ちの良いものとなっていた。
「……そうなんですか?」
 微笑みの問いかけ。男にとっても空の微笑みは久々のものであった。
「ああ……不幸から幸福が生まれると言う奴だろう」
「あの、ところで貴方は―――」
 最大の疑問がまだ未解決だったことを思い出す。しかし、
「おや?空、君の連れていた電子犬が見当たらないが?」
「えっ?あ、あれっ……!?」
 彼の絶妙の切り返しによって、発言は消えた。
 今までいたベンチの横を見て、影も形もないことを確認する。頭に認識し、慌てて辺りを見回した。周辺にはいない。
「ぴっ……ピピ〜っ!ピ〜ピ〜っ!!どこですか〜!?」
 空は男のことは視界から外れてしまったらしく、全く気にも留めず走り出してしまった。
「はぁっ、君は相変わらずなんだな、空。おい、ピピ、お前は愛されているんだな……良いなぁ。これならココも安心するはずだ」
 午後の陽気を見せ始める日差しを、手を翳して遮断する。生み出した影から『空』を見る。少し雲の間から陽光が差し込み、晴れを見せていた。
 視界に慌てふためく空を映す。彼女は公園の中央にある池の中を眼を凝らして慎重に覗き込んでいる。彼は笑った。
「さて、それじゃあ、帰るとするか……元気で。といっても、またすぐに会うだろうな」
 そう呟いて足を家へ向けて進め始めた。


 END





あとがき 『一応沙羅SSの予告SSなんです』

 出ました。八神岳士氏(ぇ
 B.W降臨だと思ってしまった方はスイマソン(汗)
 
 きっと八神氏ではないかと、思いながら自分も書きました(ォィォィ
 まあ、B.WでもOKですよね?(笑)
 予告編&個人的な世界解釈SSです。思ったままに書くというのが最近のSS創作に当たる際の考えになっています。
 何だか自分勝手なものだなぁと思ったりもしますが、許してやってください。許すも何も無いと思っていますが(爆)

 ではでは。


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