〜Where is Heaven?〜 ショージ |
天使は再会を果たす 愛する者と |
次の日、空は高熱で寝込んだ。原因は言うまでもなく、雨に濡れたせいである。 「39度………。傘持ってったのに雨に濡れて、風邪を引くなんてね」 ベッドの縁に腰掛けた春香菜は溜め息を吐きながら呆れる。もう1度数字を見直し、ケースに仕舞い込んだ。 「いえ、あの………」 額に冷えたタオルを載せた空の頬は火照っていた。呼吸も普段より落ち着かない。そんな空を見て、ベッドから立ち上がる。 田中家に帰還した空は2人に驚かれ、雨に濡れた訳を追及されて「か、風で傘が吹き飛ばされちゃったんですよ……。はい」などと自信無さ気に語った。 「何も言わなくていいわ。ただ―――」 そこで言葉を切った。 「ただ?」 「今の空、いい顔してる。ここのところ何日か見せなかったいい顔よ」 春香菜は微笑んだ。 「そうですか?」 わからなかった。 「ええ……、それにコレは全く必要ないみたいね」 机の上に山積みになっているお見合い写真を1枚取り上げた。頂上には埃がかかっていて、1枚も見た形跡がない。開くと、紙がパサリと音を立て床に落ちた。春香菜が作成した1人1人のプロフィールだ。もちろん全ての写真の間に挟まれている。レポート用紙1枚にまとめられ、それでいて尚内容は簡潔。空が1度でも写真を開けば、春香菜に言うであろう。しかし、あの時手紙か何か入っていなかったかと訊かれ、空は特に気付いた様子ではなかった。春香菜にはわかっていたのだ。 「あ、すいません」 空には紙の正体がわからなかった。ただ1度も見なかった写真について謝罪したのだ。 「いいのよ。わかりきっていたことだから」 紙を拾い上げると春香菜は部屋を出ていった。 彼の父親について、私は自分から調べてみました。 様々な過去の資料を読み、先生や彼女の研究仲間などに聞いてみたところ意外な事実が判明したのです。 彼の父親は一人で今もまだひっそりと生きているということ。それに過去の自分の行いによって一人息子を苦しめてしまった経験が未だに尾を引いているらしいということ。住所や電話番号もわかり、大学へ行って知らせようかと考えました。けれど、やめました。 きっと、彼ならきっと自分で真実を見つけ出すでしょうから。 コンコンと、軽く2回ドアがノックされた。 「はい、先生ですか?どうぞ入っていいですよ」 空は顔をドアに向けて尋ねる。 「よぉ、空」 だが、扉を開けて入ってきたのは春香菜ではなかった。 「……え?えええぇぇえぇえっ!?」 空は目を疑った。現れたのは『彼』――倉成武。 「ど、どうしたんだ?」 意外な反応に狼狽する武は、物凄い速さで上半身を起こした空を見た。彼女の額からは水分を失ったタオルが落ちる。 「く、くくくく倉成さん!?」 口元に手を当て、未だ驚きを隠せない。治まらない感情。顔が紅潮していくのが自分でもわかった。 「ああ、いかにも俺だが………。一体何なんだ?」 ベッドの近くまで歩み寄りながら、頭をポリポリと掻く。椅子を机の前から引き寄せ、「どっこらよっこいしょ」という声と同時に腰掛けた。 「優からいきなり電話があって、空が風邪引いたから見舞いに来いって脅されたんだ」 「先生が?」 「それにしても元気そうで良かった。それだけ叫べるなら大丈夫だろうな」 爽やかな笑顔を浮かべて、意地悪そうに言った。 「もうっ!」 不機嫌そうな顔を作る。しかし、内面では嬉しさがあらゆる感情よりも勝っていた。本当の顔は微笑みだ。こうして話せるだけで嬉しい。 「おっと、悪い。今買い物の途中だったんだ。つぐみに牛乳頼まれてたんだよ」 思い出し、立ち上がる。椅子を元の位置に戻した。 「そうですか………」 やはり彼女には勝てないと再確認させられ、手の中にある布団を握り締める。武を1秒でも長くこの場に引き止めたかった。共に時を過ごしたかった。 「早く帰らないと何言われるかわからないんだよなぁ……。じゃあな、空。お大事に」 片手を持ち上げ、背中を見せる。 言いたい言葉は出てこなかった。咽の奥で痞えているのだ。一向に出てくる気配を見せない。 「倉成さんっ!」 「どうした?」 言いたい言葉が出る代わりに呼び止めていた。武は不思議そうに空を見る。もう言葉は諦めた。 「……お願いがあるんですけど、いいですか?」 「何だ?」 それからしばらくの沈黙が流れ、躊躇いながらも決心した。 「ね、熱を計ってくれませんか?」 そう言った空の顔は真っ赤だ。 「ああ、体温計な。で、何処にあるんだ?」 「ち、違うんですよ。えっと………」 この時、空には武がわざとやっているのではないかと思ったほどだ。 「おっ、おでこで計ってもらえませんかっ!?」 空は武を直視できなくなっていた。 「何ぃっ!?」 武は腰抜かすかと思ったくらい驚き、声を上げた。 「駄目ですか?」 涙を薄らと浮かべて哀願する彼女を世界中の男が受け入れないはずがない。 「い、いや、駄目だといえば駄目なんだが……、駄目じゃないといえば駄目じゃないような……って、俺は何言ってるんだ?」 混乱のステータス異常を負い、自分でも訳がわからなくなっていた。ポリポリと頭を掻く。 「そうですか………。倉成さんは私が風邪を拗らせて死んでしまったら今のが最後の願いかもしれないのに、叶えてくれないんですね?」 顔を両手で覆い、しゃくりあげる。時々、首を振る動作が痛々しかった。ここまで言われると何が正しいのか判別がつかなくない。 「そういう訳じゃ―――」 「ひどいっ!」 目元を拭う姿に、完全に騙されていた。そう、全ては演技だ。 「だぁーっ!わかったよ!」 歩み寄ると武はベッドの縁に腰掛け、空の頭を両手で固定した。目を合わせないように視線を逸らしている。 ぴとっ。 そして額を重ねた。 「……結構、熱ある―――……んっ!」 発言の最中に武の頬を両手で優しく挟む。挟むというより包むというべきか。 そして顔を少しだけ動かし、空は目を閉じて唇を重ねていた。1秒ほどの出来事が、1時間のように長く感じられた。 「……そ、空!?」 唇を離した彼は、ベッドから逃げるように立ち上がる。顔を真っ赤にして。その様子を見て、彼女は言う。 「ふふっ、冗談ですよ」 微笑が混ぜられた。 「冗……談?」 「はい」 武は狐につままれた顔で復唱し、聞き返す。 「そう、か。熱……まだあるみたいだからしっかり休めよ」 最後はどんなことをしても笑ってくれる優しい彼。 「了承しています」 それに応えるために、微笑んだ。 ドアへ向かって歩むとドアノブに手を置き、押し開いた。 「……ごめんな、空」 それだけ言うとドアを静かに閉め、部屋を出ていった。 静寂が支配する部屋の中には空だけが残っていた。 いや、違った。 そこには確かに武がいた。残っている。 「武……さん」 振り絞る勇気は遅れて湧き上がってきた。もう遅い。完全に遅刻。 虚空に向かって何気なく呟くと、再び布団の中へと潜り込んだ。 次の日、倉成武が体調を崩したのは言うまでもない………。 そしてその次の日には、小町つぐみが。 『正しいとは何か?それは公に認められている存在。本当に正しいものでも社会に否認されたものは全て不正となってしまう』 FINE |
あとがき 後編を書き終えて空がかわいそうだったので追加です。 しかし、集中力を使い果たしてしまい、雑なできになってしまいました。言い訳ですね(苦笑)。 些細な幸せを空に捧ぐ。 ではでは〜♪ |
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