Where is Heaven?
“Another Story”

                              ショージ

中編 Interlude again





自らの行いを懺悔する天使
洗い落とすような行動の果てに
最後に
残ったものは何なのか

 結局、私は何をしたかったのでしょう?
 自分に問い掛けました。
 あんなことを一時の衝動的な感情に突き動かされて、してしまいました………。
 した瞬間は嬉しくて、この時が永遠に続くか、もしくは時間が止まってしまうかのどちらかを本当に……本当に、本当に本当に……切実に望んだのです。嘘ではありません。だって、私は倉成さんが好きだから………心の底から愛しているから………。

 だから、想いを訴えたかったのでしょうか?

願いを叶えることはできないけれど、せめてこれくらいは許されると思っていた?

倉成さんの甘さにつけこんだ?

そして、私の想いは届いたんでしょうか?

不思議なくらいに疑問ばかりが浮かび上がります。当然、言葉にしたとしても誰もこの問いに答えてはくれない。私はこれらをどう処理すればいいのかわかりません。
人は心の中に様々な疑問を抱き、処理をします。秋香菜さんや先生も……いえ、2人に限ったことではなく全ての人間は疑問に頭を悩ませることはあるんでしょうか?もしも数学などのように1つの答えが導き出されれば、心中がどれほどすっきりとすることか。
けれどそうなると感情の機械化と同じく、従順な機械のように感情を単一化し、的確に任務を遂行しているのと何ら変わりなくなってしまいます。それでは人間としての意味がなくなってしまうのです。考え、行動するのが人間ですから。
そんな中、追い討ちをかけるように昨日から考えていることが泡のように浮かんできました。この今の私の置かれている状況を言い表すなら、小学生が夏休み最後の日に山程残っている課題を目の前にして頭を抱えているような状態に実によく似ています。異なった点を申し上げるのなら私の問題には『期日がない』ということです。期日がないのに追い詰められているというのは矛盾していますね。しかし、共通している点もあるのです。
それは、必死だという状態。
 昨日から考えているのは、彼のことです………。
彼は……あの雨の中を待っていた………ふふっ……信じられますか?土砂降りの豪雨と形容するのが相応しいほどの雨中で彼はベンチに座って……待っているんですよ?
私なんかのことを………信じられません。
そして、待っている彼の元へと駆け寄らずにただ一目見て家へと帰りました。
 だからそう、私はひどい女なんです。それに、彼を仮の倉成さんとして都合のいいように見ていた……叶わない願いのために彼を代わりとして接していた!
自分の願望を優先し、彼を人として思っていなかったのと同じなんです!人形のように、代用品のように、彼としての存在を……現実に1人の人間として確立している彼を私は認めていなかったのですから!
 私の行動が自分のことしか考えていない、こんなにもまさに軽蔑にも等しい接し方をしていたにも拘らず―――それなのに……それなのに彼は、私を、愛していると言った。

 どうして!?
『彼がただ気づかなかっただけ』

 だって、私は彼の行動を受け止めなかった!それなのに待っていたんですよ!?
『諦めが悪いだけ』

 私には、わからない!
『わからないままでいい』

 誰か教えて欲しい!
『誰も教えてなどくれない』

 貴女は、誰!?
『貴女は、誰?』

 貴女は、私!?
『貴女は、私?』

 私は……誰………?
『貴女は、私』

 私………?
『そして、私は、貴女』

もう、いい……………。
『私は私。貴女は貴女。私は貴女。貴女は私。そして、私は私になった。でも、貴女は貴女になれたの?』

 私に、なる………?
『そう』

 急に思考が晴れました。
 結果的に導き出される回答は最終的にそうなってしまう………。
 この世とは結果が全て。
過程が大切だとしても、結局最後には結果が必要とされる。

どんなに心から想っていても相手の元へ届かなければそれで終わる。
どんなに普通に接していても相手の受け止め方によって処理される。

現実とはそんなものです。

 現実が求めるのは結果。
 理想が求めるのは過程。
 
2つの向き合った対なる掛け離れた存在が現実と理想。
 私は理想の中にいた。でも今は現実に引き戻され、理想を洗い流しています。身体の隅々まで行き届いてしまった……理想を。



                 階段を上り
天国へと向かう彼
                  全ては
               天使に会うために



 光。
それは光ること。また、光るものを表す言葉。
単色に見えて、全ての色が混合されている光。
人の感覚器官である目が捉える明るさであり、刺激して視覚を生じさせる物理的原因。明かしてしまえば本質は可視光線を主に赤外線・紫外線を含めた電磁波だ。そう、いかなるものも科学的に表現してしまえば無機的に変わってしまう。
人に明るさを与えるものの例えでもあり、それは希望と呼ばれている。
 光は希望。
希望とは人によって1人1人違うものだ。

 そう、僕にとっての光は……空。

 だから、空のいない世界なんて考えられない。それにそんな世界に僕は存在したくない。いる必要がない。意味が無い。何より、嫌だ。
どんな時も僕の頭の何処かに空は存在している。決して消えることのない、消すことのできないものとして残っているのだ。

消えることもない。

忘れることもない。

廃れることもない。

 それが僕の中の空。
 初恋の女性。愛せなかった過去の彼女と愛することが許されなかった自分。しかし、今は違う。愛せる彼女と愛することを許された自分。
願いは叶う……はずだった。
誰よりも空を愛していた僕は、再会して何度か会っている内に……そう、気がついてしまい……

そう、僕は―――彼女が僕を愛していなかったことに、気づいてしまった。

でも、気がついていない振りをしていた。このまま時間を共に過ごせるのなら目を瞑っていようと考え、実行に移していたが思った通りにはいかないもの。何故なら、空が気づいてしまったから………。
 時々、思う。
 
相手の心を知ることができるのなら、どんなに素晴らしいことか―――と。
 
 人は他人の心を知る――ましてや見るなどさえ不可能。しかし好奇心か、または不便なせいからか、人というものは不可能を可能にしようとする。後のことを真剣に考えず、一時の自由を求めるばかりに行動をしてしまうのはあまり良いとは言い難い。
 そもそも心とは他人の踏み込んではならない個人個人の領域だと考えられる。領域の中で人は自由に生き、考え、思いを巡らせ、世界を創造するのではないか。他人との共有や侵食も不可能な1人だけの場所。そして、そこには本当の自分がいる。
 話を戻すが、何も『永遠に』相手の心を知る必要はない。僕は『その時の』相手の心を知りたいのだ。要するに自由にワンシーンの間だけ垣間見ることができさえすれば十分だということ。
では何故、永遠を望まないのか。
理由は簡単。人の心は見えないから面白い、だ。ありきたりな理由。しかし、ありきたりとは大切な言葉である。
見えないから面白いと言っているにも拘らず、心を知りたいというのは矛盾しているかもしれない。けれど、自らが望んだ時の――相手の心を知りたい。いくら押さえつけても起き上がる欲と人は日々闘い続けているのだ。人間の生活がどんどん便利になっていく中で新たに生まれてくる欲望。
僕の欲望は、空の心を知――いや、何より……空が欲しい。
 何よりも……他の何よりも欲している。しかし、手に入れることはできない。そう、彼女の心が読めたのならもっと僕という存在が近付くことはできたのかもしれないから。そうすればまるで肥大化の如く、空の中での僕が大きくなるに違いないと思った。
 今日、田中家を訪れて良かった。彼に会えたのだから。
 彼――倉成武は教えてくれた。

「だったら、空を振り向かせてみろ」

 その一言で十分だった。
 そんな僕は今、天国へと向かっている。


                   
             天国へ続く道の門は開かれた
                  しかし
           足を踏み入れることは許されていない
                  そう
                何故ならまだ
          天国への扉は固く閉ざされているのだから



 目の前にはドア。そして、彼のほぼ目線上には1枚の木製のプレートが吊るされている。プレートに書かれている文字はこう語っていた。
 空の部屋、と。
 たった4文字が不思議な威圧感を身体に感じさせる。じわりと染み渡っていくのではなく、圧縮された空気が1つの穴から物凄い勢いで衝突してくる感触。それは必ず正面から受け止めなければならない。逃げてしまっては自らが求めるものと違うものを得てしまう。
――僕は空の心を決め付けていたのだろうか?
 彼は疑問を抱き、自ら問い掛ける。
――なら、心を知るにはどうすればいいのだろう?
 倉成武は教えてくれなかった。言わないという行動は「自分で探せ」とも間接的に言っている。引き出した記憶によれば、彼は護りたい人がいると確かに言っていた。それなら、どうやって相手の心を知るのだろう。
――思いつかない……僕の考えつかない方法………?
 特別な手段、名案などは何ひとつ浮かび上がらない。だからこそ迷う必要などあるわけがない。
 天国へ続く道の門に手を掛ける。そして、静かに鉄扉と化した木製のドアを押し開いた。そこまでの失態といえば、ノックをしなかったことだ。ちなみにその失態には部屋の中を1通り見渡した3秒後に気づいた。
「空、――――」
 視界に入ってきた光景を見て、言い掛けた言葉を自ら遮り、呑み込んだ。
 声が反響し、余韻が残っている世界に空はいた。
 彼女は彼の直線上にあるベッドに……寝ている。
耳を澄ませば彼女の寝息は聞こえるだろう。事実、聞こえていた。
「…………」
 部屋の中に身体を滑り込ませると、音を立てないよう注意しながらドアを振り返らず
閉めた。その間、一時も空から視線を離さない。
 ドアの付近からでは細かな表情は窺えなかった。少なくとも確認できたのは空が目を寝ていることと、安らかな表情をしているということ。
 1歩、また1歩と、彼女の眠るベッドへと歩を進めていく。近づく度に不思議と自分が彼女の部屋の領域を侵している感覚に襲われた。無断で部屋に入ってしまったのだから尚更だ。密かに彼は心の奥底で空が目覚めないことを願っている。
 目が覚めてしまえば事態が悪化してしまうのは目に見えていた。しかし、危険を承知で彼は一瞬でも長く、空を見ていたかったのだ。
 遂にすぐ横まで来た。
 眠る天使。そんな印象を受けるその姿に神々しさまで感じられる。先程は見えなかった細かい表情がやっと彼の目に映っていた。
 安らかな表情―――の影に、1つの感情は隠されていた。

 空は―――泣いていた。

 涙が横に流れている。それは寝ている時に流れたという証拠。
――空……僕は君を苦しめて………。
彼はベッドの隣にしゃがみ込み、止まっている涙を指でそっと拭う。
 気がつくと、彼も泣いていた。数分前にも流していた涙と同じ涙が頬を伝って流れている。相変わらず声は出てこなかった。


間奏曲は終わりを告げ
終幕へと向かう




 あとがき

 短いですね(爆)
はい、メインはお互いの心中です。
 2人が何を思っているのか、などなどを書いたつもりですが上手く伝わったかどうか心配だったりします(滝汗)

 途中で偽空(?)が出てきましたね。って、何を他人事のように言っている自分。

 サブタイトル『Interlude again』は本当なら『An interlude again』となるらしいです……多分……。英語力無いので(泣)

 それでは後編で。
 ではでは〜♪




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