Where is Heaven?
“Another Story”

                              ショージ


Everlasting finale

おまけ



それはもう1つの終わり
 そして、それは永遠に終わらぬ終幕曲
 もう1度、冷静になって事実を確認―――しようとした。
 できるわけがない。
 開け放っていた窓から見える大切な人の姿。
 空が、暗い闇の中にいる。
 これ以上何を考えるのだろうか。
 それに躊躇うはずがなかった。
そして、窓枠に足をかけて月と星の輝く夜空へと飛んだ。
 3階だったが都心のビルとは違い、実際は4階ほどの高さがあるのだろう。しかし、それは僅か数秒の出来事で思考など働かせる隙もなく、地面へと落ちるだけだ。
 左足を犠牲にした。
「……ぐっ!!」
 片足の着地では衝撃を支えきれず、身体が地へと吸い寄せられる。みっともなく大地に抱かれ、訪れた弱い衝撃には視界を揺らされた。
 下が砂浜で助かった。それに、こんな時はキュレイであることにも感謝するべきだろう。
立ち上がり、前を見据える。そこには昼間とは異なった顔を見せる、月明かりが雲で遮られ、暗い闇と化した海が広がっていた。
目眩など感じている暇さえなく、数歩先の海に足を踏み入れる。季節に似合わないくらいに水温は低く、その冷たさが起こした寒気は暗い闇が足元から這い上がり、身体に巻きつく感触を髣髴させた。
だがそれは、所詮一瞬の思考でしかない。
強い心の想いに掻き消され、何の音も耳には届かず、無音の世界の中でひたすら彼女を助けようと必死だった。恐怖心など取り払うこともなく、遥かに上回る感情が全てを忘れさせている。
精神力が全てを凌駕していた。
やがて暗闇から浮き上がり、目に入ったのは海面から天を目指して伸びている1本の腕。腕だけだ。彼女の一部でしかない。
手を伸ばしているのは助けを求めている証拠。しかし、空の意思に反して、闇は待ってくれなかった。制限時間が近付いてくる表れとして段々と下がっていく。
僕はその腕を、いや、華奢な手を………。


「ほら、起きてください」
 シンプルな紺色のエプロンをし、長い髪を後ろで纏めた彼女はベッドに寝ている彼を揺りかごのように優しく揺すっている。口から徐々に呻き声が聞こえてきた。
「う〜っ、……昨日は朝から早く寝ようとか言ってくせに………」
 彼の頭は寝惚けているせいか、何を言っているのか自分でもわかっていない。
 だが、それを聞いて彼女は顔を真っ赤に染めていく。
「ち、違います!誤解を招くような言い方しないでください!」
「ん、ああ、そうだ。確か、帰りが遅くなるかもしれないって言ってるにも拘らず、笑顔で『早く帰ってきてくださいね』って言われたんだ。あれは誰だったかな………?」
 ようやく目が覚めてきたようで彼の発言も現実味を帯びてきた。
「それは全然意味が違うじゃないですか!」
「じゃあ1人で寂しく寝たかったのかな?」
 ニヤリと意地の悪い笑みで聞き返す。
「それは………」
 口ごもる彼女の唇を彼は塞いだ。瞬間、紅い顔に更に赤みが増す。かなりの数をこなしてきたはずなのに、未だ『おはようのキス』には慣れていないらしい。
「……冗談だよ。空は相変わらず可愛いな」
 ベッドの隣にある机から眼鏡を取り、掛ける。
「えっ、あ、もうっ……早く降りてきてください!」


「おはよふああぁぁあっ」
 ドアを開け、リビングへ入った途端、堪えきれずに欠伸が出てきてしまった。どうやら眠気は完全に取れていないらしい。
 袖口のボタンを止めていた手を慌てて離し、手で口を隠す。
 コーヒーの香りと香ばしい匂いを鼻が捉える。
「何ですか、それ」
 朝食の準備をしていた空は笑い顔で困りながら尋ねてきた。
「いや、ごめん」
 欠伸の余韻を感じながら謝る。
 もう慣れ、通常と認識しつつあるいつもと変わらぬ朝の光景がここにはあった。
椅子に腰掛けながらキッチンで調理をしている空の後姿を観察する。結ってある髪は朝しか見られない貴重なものだ。それに髪が揺れて時々見えるうなじは自然と見とれてしまう神秘的なものであった。
「あれ?『宙』は?」
 問いに空は振り向くと玄関の方が騒がしいことに気がつき、出掛かっていた言葉を飲み込む。同時に僕の中でも答えは出ていた。けれど、彼女がやってくる方が早かった。
「はい、おかーさん。新聞取ってきたよ」
 ドアを少し乱暴に開けて入ってきたのは遅れて導き出された答え通り、宙。
 空をそのまま小さくしたようにも思える外見。思えば、自分に似ているところがないのではないか。今年で5歳になる彼女は朝からフリルのついた可愛い洋服を着ている。その姿はまるで人形だ。
 宙が何故そんな格好をしているのかは知っているが、まさか朝食の前から着ているとは思わなかった。
「ありがとう、宙」
 新聞をテーブルの上に置いたところを見計らって、空が労いの言葉をかける。
「あ、おとーさん。やっと起きたんだ」
 宙は僕を見つけると親譲りの優しい笑顔を見せてくれた。
「ああ、おはよう……ところで、もう着てるんだね」
「うん!」
 嬉しそうに力強く返事をし、向かいの席に座った。
「宙は1番だったんですよ。今日は私が起こされちゃいました」
 そう言いながら空はエプロンを脱ぎ、焼きあがったトーストを皿に載せて僕の目の前に置く。
「おやおや、あまりお母さんに迷惑かけたら駄目じゃないか」
 優しく頭に手を置いて、優しいまま撫で回す。
「だって、今日のこと楽しみにしてたんだもん!」
 これ異常ないほどの子供らしい笑顔で力強く言った。
 それは宙の格好を見ればわかること。
 今日は日曜日。いつ約束したかは忘れてしまったが、今日のこの日に家族3人で揃って遊園地にいく約束をしていた。これは空の受け売りだが、『一家の大黒柱たるもの家族サービスも忘れてはならない』……らしい。
 休みの日も大学に行く習慣はなくなったため、いつもなら任せられる大量の仕事をゆっくりと片付ける機会は減り、毎日が忙しく充実するはめになってしまった。まあ、事情が知れ渡り始め、段々と減ってきてはいる。
「そうだね。お父さんもお母さんも楽しみにしてたよ」
 正直な気持ちだ。2人と出かけるのは何よりも嬉しい。
大切な家族。
「じゃあいただきましょうか?」
 空が宙の横に座る。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」「いただきまーす」
 僕の挨拶に揃った声が続いた。まるで、ステレオ。
「あ、『ソラ』。ソース取ってくれないか?」
 やはり目玉焼きにはソースだと思う。言うまでもなく、空も同じくソース派である。けれど彼女は塩・胡椒も捨てがたいと言っていた。最近はその回数が増えてきた気がするのは気のせいか。
「あ」「あっ」
 声が重なる。
 空と宙がお互いにソースに手をかけていた。
「ふふっ、どっちですか?」
「どっちなの?ねぇ、おとーさん」
片手でソースの入った容器を鷲掴みにした空が笑顔のままで額に『怒りマーク』を浮き立たせ、口元に手をやりながら訊いてくる一方、宙は歯を食いしばりつつ一生懸命両手で上から押さえ込んでいる。そこを中心にして周囲には禍々しい空気が広がり始めていた。
何故だか知らないけれど、気がつけばいつからか2人は激戦を繰り広げていた。こうした光景は今日に限らず、頻繁に起きている。理由はわからないがとにかく積極的に僕に接しようとしているのだ。
空と少しでもラブラブ(宙談)すれば宙に拗ねられ、今までに「私はおとーさんの子供じゃないんでしょ!?」とまで言われたこともある。
逆に、宙に過保護気味(空談) になれば「私への愛は偽りだったんですね。……実家に帰らせていただきます」と散々な言われようだ。
1番安全なのは『ソラ』と言い、どちらとも判別のつかないようにすること。
「あ、いや、どっちでも良いんだけど………」
 そう言って、そんな中で頭を掻く。
「そ、宙……お母さんに譲りなさいっ………!」
 微笑みと静かなる怒りを表情に出し、娘を威嚇。
「うぅん、ぜったい、ヤダ……っ!」
 首を何回も横に振り、強い否定を表した。
 依然として決着のつかない闘いの前で、朝の優雅な時間は過ぎていく。


 
「さてと、準備はいいかな?」
 玄関で靴を履き終えた彼が立ち上がり、聞きました。
「あ、待って。ちょっとトイレ………」
 宙が慌てて履きかけていた靴を脱ぎ捨てて、奥のトイレに走って行きます。その姿が子供らしくて何とも可愛らしかったです。
「慌てなくても、ちゃんと待ってるから。ゆっくりでいいから」
「はーい」
 ドアを閉めると同時に聞こえた宙の安堵を宿した声。私はその間に頭の中で戸締りの確認と忘れ物がないかチェックしていました。
「なあ、空」
「はい、何ですか?」
 突然声をかけられて、頭の切り替えに一瞬を要したために反応が遅れた私は気を遣って素早く顔を向けます。
 すると肩に手を置かれ、軽く寄せられる形で抱かれました。
「あっ………」
 不意打ちだったので少しだけ焦ります。心拍数も正常時より、僅かに上がっていました。軽い目眩に襲われましたが、身を任せていたので気にも留めません。
「君は今、幸せ?」
 顔が私の頭に近づいた証拠に、先程より声がよく聞こえます。嗅覚は私の大好きな匂いを捉え、更に深くそれを求めていました。
「……ええ、とても幸せですよ」
 どうして、人はわかりきったことを訊くのでしょうか。いえ、私もよく答えのでている質問をするので心境はよくわかります。
 それは確認。
 心を読み取れないから……相手の心の内を感じ取るだけでなく、相手自身の口から聞きたいから、人は問うのです。
「僕を愛してくれているのかな?」
内面に秘めていた笑みが思わず外に出てこようと動き出し、私には制御が利かなくなりつつありました。こうして、笑顔が現れます。
「当たり前じゃないですか」
 今の問いかけも確認でしょう。
 人は心よりも言葉を信じ、言葉よりも行動で信じます。でもこれは現実的な概念であり、理想的なものは、心の段階でお互いに信じあえることが最良なのです。
「僕もだ。君を愛してる」
 匂いが強くなり、遂に嗅覚だけでは手に負えなくなってきました。
「1つだけ、聞きたいことがあるんです………」
 我慢をして意味のない質問を投げかけます。言うまでもなく、答えが出ていることに意味がないのであって質問するという行動自体にはしっかりとした意味は存在しているのです。
 あの場所とは違う、私の居場所。そしてそれは、永遠に『ここ』に在り続ける。
「天国はどこにある?」
 心の中で同じ質問を自らにリフレイン。
「空の上と、僕の隣に……」
 私の味覚が動き出す前に、彼の方が先に解除をしました。
 味を、確かめる。
 そう、私達はここにいるのです。


               そして、天使は問う
              「天国はどこにある?」




Where is truth?
There are two ends in this tale.
It does not say that which is right and only your truth is in the direction which thinks that you are right.
However, it is only it.


END



あとがき

 空は人間です。
 ドラマCDなんて嘘だーっ!(叫)
 武×つぐみで、ホクト×秋香菜で、春香菜×桑古木で、ココ×BWで、空×彼でいいんだーっ!……沙羅は置いといて(ぇ

 はい、心の叫びはココまでにして。
 宙は彼と空の子供です。え?だって空は人間じゃないですか。
 そりゃあ、よく似てますよ。以上、おまけの解説終わり。

 終わりましたね、やっと。ええ、終わりました。
 終わってしまうと何だか書いていたという実感はないもので、半分ほど妖精さんが書いていた気もします。
 稚拙すぎて泣く気も起きませんが、これで一区切りつけられたわけですから自分の中では良しと。
空には幸せになって欲しかった一心で書き始め、2つの結末を迎えましたが、どちらが僕の本心かというとAnother Storyかもしれません。新しい恋に生きて欲しかった、というのもあります。
 数多くの感想を読ませてもらいましたが、人によっては気に入っていただけたようでもありますし、嬉しいと同時にありがたいです。厳しい感想もいただけて日々精進するきっかけにもなりました。
 そして思い返せば、このSSを書き始めようとしたのは明さんの素敵な絵に魅了されたからであり、再び創作に目覚めさせてくれたことには何とお礼を言っていいことか………。

 応援をしてくださった皆様、本当にありがとうございました。

ではでは。




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