注:この作品は”素直な自分に”の続編になっています。
端的に言いますと「沙羅は桑古木に興味がある」という設定を引継いでいます。
その辺を念頭に入れれば、未読の方でも読めると思います。
それでは、どうぞ。














twilight
                            シュラム


「桑古木のことぉ?」
田中先生がすっとんきょうな声を上げた。
「…そんなに変ですか?」


わたし、倉成沙羅は田中先生の研究室がある、桜巳(おうみ)学院大学に来ていた。
あの事件後に先生は鳩鳴館女子から、この大学に移ったと耳にしていた。
『「いい加減、考古学にも飽きたし」だって。
 なんだかんだで、お母さんも学者だからね。 知識に対して貪欲なのよ、私と同じで』
苦笑いしながら先輩は言っていた。

ここまで来るのはとても大変だった。
通っている学校から直接来たため、わたしは制服を着ていた。
大学には制服なんかないわけで、こんな格好をしていると嫌でも目立ってしまう。
途中、何人もの男の人に声をかけられたが、全速力で逃げてきた。
髪を乱してまで来てこの反応。つい、むっとしてしまう。
…本当はただの照れ隠しだったりするんだけど。


「変って訳じゃないけど…。 それが聞きたいことだったの、沙羅?」
口には出さずに、わたしはうなづいた。
「でも、どうして桑古木のことが?」
「それは…」

理由は…。正直なところ、よくわからない。
あの公園での出来事があってから、ずっと気になっていた。
どうして彼に興味を持っているんだろう。

「なんとなく、です。 わたしは”本当”のあの人についてよく知らないし…。」
心のモヤモヤをうまく説明できないので、わたしは適当に答えた。
「…ふ〜ん。 まぁ、いいわ。 それじゃ、明日出直してきてくれる?」
「え? 今、話してくれないんですか?」
「昔から言うでしょ。 『百聞は一見にしかず』って」










翌日の放課後に再び研究室に訪れた。…もちろん私服に着替えて。
「見学、ねぇ…」
白衣を着た桑古木が、わたしと田中先生の前に立っている。
その表情は複雑でわたしには読み取れない。
「そ。 沙羅が『大学教授って、普段何してるんですか?』ってね」
「う、うん。 なんか興味があるんだよ」
先生のアイコンタクトに合わせる。
「…まぁ、俺には関係ない話だしな。 好きにしてくれよ」
「何言ってるのよ。 今日は貴方の様子を見学するの」
「はぁ?」
「ええー!?」
思わず大声で聞き返していた。『私に合わせて』としか聞いてないし。
「付き合ってあげたいんだけど忙しいのよ。 私の代わりに付き合ってあげなさい」
止める間もなく、田中先生は書類を持って出て行ってしまった。

「…ったく、何考えてんだよ、アイツは」
腕組をしながら桑古木は頭をかぶり振った。
なんだか邪魔しているみたいで、少し憂鬱な気分になる。
「いや、うるさいのが居なくて集中できるか」
「あの…!」
「ほれ」
ハンガーに掛かっていた白衣を渡される。
「サイズは…。 合ってないが勘弁してくれ」
「え?」
「見学。 後で『やめとけばよかった』とか言うなよ」



「なぁ、退屈じゃないのか?」
モニターから目を離さずに桑古木が言う。
「…ちょっとだけ退屈かも」
あれから30分は経ったけど、桑古木はパソコンをいじくっているだけだ。
はっきり言って、つまんない。
「ねぇ、わたしも手伝おうか?」
見たところ、データ処理をしているみたいだった。これならわたしにもできる。
「いいのか? ただの雑用だぞ」
「うん。 このままだと眠っちゃいそうだし」
「じゃあ、頼む」
椅子から立ち上がった桑古木が書類を持って、こちらに歩いてきた…。

ドスン!

「…なにこれ?」
「何って、打ち込むデータだが」
「そういうことじゃなくて…」
量が半端じゃなかった。厚さが六法全書くらいある。
「安心しろよ。 終わらせろとは言わないさ」
「当たり前だよ…」
安請け合いはするものじゃないなぁ、と思ってしまった。



「いつもこんなことしてるの?」
黙々とやっていては気が滅入ってしまうので、桑古木に話し掛けてみた。
「大抵はそうだな」
「なんだか、普通の会社員と変わらないんだね」
「そんなことはない。 他にも仕事はあるぞ」
「他って、なに?」
桑古木が立ち上がって壁の掛け時計を見る。
「講義。 これからだが、オマエもついて来るか?」










『一応、俺は非常勤講師ってことになってる。 
 週に1,2回講義をして、それ以外は優のサポート。 これが俺の仕事だな』
先ほどの会話を思い出しながら、わたしは教鞭を振るう彼の姿を眺めていた。
周りの人は講義の内容を書き留めている。
内容は「デバイス工学論」。
ICとか、LSIとか、聞いたことのある話だったけど、ここまで専門的には知らなかった。
なんだか不思議な感じがする。
とてもあの人とは思えない。パパのフリをしていた時とは大違いだった。
「…とまぁ、こういうわけだな。 この内容は次回のアタマに復習するぞ。
 それじゃ、今日はここまでだ」
講義が終わった開放感に包まれていくのがわかった。ざわざわと騒がしくなる。



「頭、良いんだね」
教壇で帰り支度をしている桑古木に近づいて行く。
「まあな」
「ここは謙遜するところじゃない?」
「そうかもしれない」
手を止めずに桑古木。
「元々、こういうのは得意なんだ。 図面を読むのがうまいって優に言われたことがある。
 ライプリヒに就職しなければ、こういう道を進んでたかもな」
『根っからの理系なのさ』と付け足す。

複雑な心境だった。
わたしの知らない一面を見れて満足したけど、なんとなく気まずくなってしまった。
「またオマエはそんな顔をして。 いい加減、俺に気を使うな」
表情に出てしまったのか、桑古木の方が気を使ってきた。
「あの17年間は、俺がやりたいようにやった時間だ。
 人生を犠牲にしたなんて思っちゃいない。
 だからそんな顔を見せるな。 本当に無駄に過ごした気がしてくるだろ」
「うん…。 ありがとう」
「…さっさと戻ろう。 書類の山を片付けたい」
無愛想に返事をして、先に行ってしまった。

やっぱり不思議だ。
ものすごく大きな存在に見える時もあれば、子供みたいに見える時もある。
照れ隠しが下手だなぁと考えながら、わたしは彼の後を追いかけた。










「あれ〜、少ちゃんにマヨちゃんだ〜」
「わん!」
廊下の先から女の子が歩いてくる。
八神ココ。パパと一緒に深海の研究所から救出された子だ。
胸には電子犬のピピを抱えていた。
「ココか。 久しいな」

自分のとなりに目が行く。そこにいたのは、見たことのない表情の彼だった。
笑っていた。
普通に笑っているだけなのに、今まで見たのものとは違うように見えた。
パパのフリでもなく、気取っているわけでもなく、本当の笑顔のように見えてしまった。

「一体どうした、こんな所で?」
「ピピの”けんこーしんだん”だよ。
 どっか悪いとこがないか、なっきゅに見てもらう予定だったんだけど、なっきゅいないんだ」
「まったく、無責任な奴だ。 …ちょうどいい、俺がメンテしてやるよ」
「ほんとー! さっすが少ちゃん! 太っ腹ぁー!」

ふたりは楽しそうに話している。
いつもだったら軽口でも叩いて輪の中に入っていくけど、
今のわたしにはそれが出来なかった。
理由はわからないけど、蚊帳の外にいる様な気がする。

立ち尽くしていたわたしに桑古木が声をかけた。
「どうした、沙羅? ラボに戻るぞ」
「…ごめんね。 わたし、約束あったんだ」
目を見て話せなかった。今、彼のそばにいるのはとても辛く感じた。
「約束って…」
「本当にごめんね…!」
一方的に話を打ち切って、わたしはその場から逃げ出した…。










きれいな夕焼けだった。目ではそう見ているのに、心は違うように観ていた。
とても、儚いものに観える。
あと、10分もしないうちに景色は闇夜に変わっていく。
火を吹き消される直前のロウソクみたいだ。
消えてしまえば何も残らない。あるとするなら、それは深淵の闇。
そんな風に感じたことは何度もあった。
今の暮らしの前、家庭の温かさを知る前はよく感じていた。

「黄昏って時ってヤツか」
屋上の扉を開け放つ音が聞こえた後、良く知る人の声が聞こえた。
「ちなみに英語では”トワイライト”と言うんだ」
彼の英語は下手だった。棒読みに近い。
「上手いとは思わないか?」
「…うまいって?」
「”トワイライト”。 ”永久いライト”。 ”永久の光”。
 永遠に消えない光。 今、この瞬間は消えてしまうが、また明日がある。
 明日になれば、また灯る光。 朽ち果てることのない、”光”」
詩を詠うように彼は言った。

本当に不思議な人だ。
わたしと同じ景色を見て、この感想。
前向きなのか、バカなのか。それとも、わたしの考え方を否定しているのか。

「…そんなことバカなこと考えるのは、桑古木だけだよ。
 大体、夕焼けって毎日起きないじゃん」
振り向いたわたしは、彼を見ながらそう言った。
「手厳しいな、倉成家の長女さんは」
「でもね…」
正直、照れる。
顔がりんごみたいになってるんだろうなぁ、と考えたけど意識しないようにした。
「…いいんじゃないかな、そんなバカっぽい考え方も。
 わたしは…。 好きだよ」
「…驚いたな。 俺には文学の才能もあったらしい」
「ダジャレ、じゃなくて?」
「かもしれない」

いつの間にか、わたしも桑古木も笑っていた。
(ああ、そうだったんだ)
彼の笑い方っていろいろあるけど、ひとつだけ共通点がある。
(とっても、優しい目をしてる)



笑い終えて、急に疑問が浮かんできた。
「そう言えば、ココちゃんは?」
「出直してくれって言っといた」
「帰っちゃったの?」
「…オマエが急にいなくなるからだ」
ボソリと彼が一言。
なんとなくうれしいけど、やらなきゃいけないことがある。
「うむ。 では急ぐでござるぞ、桑古木殿! まだ間に合うやもしれぬ!」
「追いかけるのか? 何でまた?」
「ピピ殿は、お父上とココ殿の命を救った忍犬ゆえ、恩返しがしたいでござる」
「忍犬ってなぁ…」
「ささ、行くでござるよ〜!」
「お、おい! 袖を引っ張るのは止めろって、前にも言っただろ!」

夕焼け空の下、文句を言う彼を無視してわたしたち駆け出した………。





追記のようなあとがき

沙:はい! あとがきのコーナーですよ〜。 
  今回のゲストは桑古木涼権さんです。 どうぞー!
桑:……。
沙:なんかノリ悪いねぇ、桑古木。 どうかしたの?
桑:…つ、ついにやっちまったぞ! 主役から降板じゃねぇか!
  これから、俺はどうしたらいいんだ!?
沙:まぁ、今までが奇跡みたいなものだし、いいんじゃない?
桑:けッ! いいよなぁ〜、属性能力があるやつは!
  ツインテールに妹に制服に…。 全部萌えポイントじゃねぇかYO!
  …こうなったら俺も属性付加しかないZE!
  拳燃えの属性の習得だぁー! 抹殺のぉ…ラストブリットーッ!!!

沙:なんで声優ネタなのかなぁ…?
  まぁ、あいつはほっといていいか。
  そんなわけで桑&沙のラブラブ未満SSです。
  この作品は”素直な自分に”の続編ってことになってます。
  …え? 前はあんなに嫌がってたのにって?
  まぁ所詮は桑古木だしね。 遊びってことで付き合ってあげてるんだよ。
  一応、この後の話も少し考えてるらしいんだけど、
  「HHSS同盟に後ろから刺されるのはイヤダ!」だってさ。
  続きがあったとしても、パパやママみたいにラブラブにはならないみたい。
  今回の話の感想、意見等あったら、お待ちしてま〜す。
  それでは、さらばでござる〜。


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