少年の目の前で、妹に放たれた銃弾。
それは、少年が当たり前だと思っていた日常を壊すのには十分すぎるものだった。
そして、少年は永遠に続くだろうと思っていた平和が
一瞬のうちに崩れ去ったのを
実感するほかなかった。
妹を助けることが出来ず、
自分が無力だと知らされた少年は、
今、大切なものを守るための翼を手に入れようとしていた。




『 ソ ラ ノ カ ケ ラ 』
                              チョコシュー

PHASE 2 始まり






「・・あなたたちに見せたいものがあるのはここよ」
そう田中先生は言って、狭く暗くそして無機質な通路の先にある分厚い扉の前で立ち止まった。
いや、これは扉というより何かのゲートに近い。
「見せたいものって一体何なの優?」
お母さんが顔を険しくして少し口調を強めて言う。
「あわてないで、つぐみ。今開けるわ。」
そういうと田中先生は、どこからか出てきたホログラムのキーボードに入力し始めた。
『GATELOCK PURGE  GATEOPEN』
無機質な声があたりにこだますると、大きな音を立ててゲートのロックが解除される。
そして、ゲートが開き始める。
先ほどまで、暗く狭い通路にいたためゲートの先から流れ込んでくる光に目の調節が追いつかない。
目がやっと慣れてきたと思ったら、なんとそこには先客がいた。
「やっと来たな、優。準備は出来てるぞ。」
「やっほー、なっきゅ!」
「田中先生、カルマの出航準備は完了。戦闘機も全機整備終了しました。」
桑古木にココに空だ。田中先生に何かを報告しているようだが・・よく分からない。
「ご苦労様、みんな」
そう言うと田中先生は視線を目の前にある巨大なものへ移す。
先客のことにとらわれすぎて今まで気づかなかったが・・
「あれが皆に見せたいものの一つ、潜水空母『カルマ』よ。
まあ簡単に言うと戦闘機等を収納した巨大な潜水艦ね。」
田中先生は皆にそういった。皆がそれぞれに何かを考えながら巨大潜水艦を見ている。
確かに「潜水艦だ」と言われると、潜水艦に見えなくもないが今までにあったような潜水艦とまるで形が違う。
自分が今まで見たことのある潜水艦は、みんな筒状の棒のような形状しかしていなかったが、
これは、まるでアニメに出てくるような戦艦の形なのだ。
そして何より大きさが違う。この大きさはまるでエンタープライズ級空母だ。
「優、これは見せたいものの一つだといったな。もうひとつは一体なんだ?」
お父さんが、潜水艦から田中先生へと視線を移して言う。
顔から必死に状況を飲み込もうとする意志が感じられるが、どうやら今ひとつの見込めないようだ。
しかしそれはお父さんだけではない、田中先生を除いたここに来た全員が状況を飲み込むことが出来ない。
「もう一つの見せたいものは、この『カルマ』の中よ。ついて来て」
そうして、また僕たちは歩き出す。
しかし、妙なことはこれだけではなかった。
「お帰りなさい艦長!」
「艦長!第六機動歩兵隊いつでもいけます!」
「同じく、第三空挺師団いつでもいけます!」
『カルマ』の中を歩いていると、田中先生のことを艦長と呼び、そして会う人みな敬礼していた。
「優・・お前は一体・・」
お父さんが質問をしたがその答えは今は帰ってこなかった。
「・・・ここよ」
気がつくと僕たちは格納庫らしき場所に立っていた。
周りには、連合軍が使用している戦闘機や小型輸送機等が並んでいた。
そしてここにいる人たちも、田中先生が姿を見せた瞬間、田中先生に対して敬礼をしていた。
「全員休め。さて、もう一つの見せたいものはこの戦闘機よ」
田中先生の視線の先には連合軍が使用している戦闘機の中に混じって、
カラーリングの目立つ戦闘機が四機あった。
しかし、この形状の戦闘機は連合軍にもライプリヒ軍にも存在しない。
「つぐみ。あなたが聞きたがっていた質問に答えるわ。
この戦闘機に乗って、ライプリヒ潰さない?
勿論武とホクトくんも一緒だけど」
あまりに唐突だった。お母さんですら凍りつくほどの。
しかし、お母さんは数秒後当たり前だといわんばかりの顔で言った。
「ええ、いいわ。でもなぜ戦闘機に乗る必要があるの?
私の場合歩兵のほうが性にあってると思うんだけど…」
「俺も戦闘に参加することはかまわないが、なぜ歩兵ではなく戦闘機パイロットなんだ?」
確かにその通りだ。僕たちキュレイの身体能力と自己再生能力があれば最強の歩兵として活躍できるだろう。
ただ、個人の能力だけを考えるのであればの話だが…
「その理由は簡単よ。理由は二つ。まず一つ目は、つぐみ。あなたの性格よ。」
「私の性格?どういうこと優」
お母さんが怪訝そうに言い返す。
まあ、普通の人間でも「性格に問題あり」みたいな事を言われれば誰でもこうなるが…
「その点については…ホクトくんが答えられるんじゃないかしら。
なんか、分かる気がするって顔してたし」
「え?!僕ですか?」
いきなり話を振られて声を上げてしまった。
みんなの視線が自分に集まるのでかなり恥ずかしいものがあったが、
とりあえずお母さんに田中先生のいった意味を教えてあげることにした。
「えっと…質問するけど、お母さん誰かと一緒に戦うのって好き?」
「…いいえ、あまり。でもそれが一体何の関係が…」
「お母さん、それが歩兵として戦うにふさわしくない十分すぎる理由だよ。」
「??」
お母さんはよく分からないと言いたげだが、かまわず話を続ける。
「お母さんって、一人で戦ってきたでしょ。
だから、誰かと一緒に戦ったことがない上に
一緒に戦うのが嫌いって言うのはかなり問題があると思う。
だって、一緒に命がけで戦ってお互いの命を預けあう関係になるのに
信頼できないっていうのは話にならないよ。
それに、戦争とかの軍事行動は全部全体行動での戦闘が基本中の基本。
スパイじゃないんだから、個人プレーで戦われてもものすごく迷惑なだけだし、意味がないしね。
作戦目標は成功しましたけど、自分ひとりしか生き残りませんでしたー。じゃ作戦としては失敗なんだよ。
なんでって、拠点強襲とかの作戦だとすると拠点奪ったはいいけど
一人じゃ、どんなに強くても物量作戦で絶対に負けるから
取り返しに来た部隊に負けて
結局取り返されちゃいましたじゃ意味ないでしょ?
歩兵じゃなくてスパイだったらあうと思うけど…
それだと直接ライプリヒ潰せないからお母さん嫌だと思うよ。
だから、田中先生は戦闘機のパイロットにしようとしたんじゃないかな。
ついでに、もうひとつの理由も見当がつくよ。
あの戦闘機は性能が高すぎて、普通の人間じゃ扱えない。
違いますか?田中先生」
田中先生に聞き返したが、田中先生をはじめ周りにいる全員が唖然としている。
勿論、お父さんとお母さんもだ。
…何か変な事言ったかな…
「…?田中先生?」
もう一度呼びかけると、田中先生は我に帰ったかのような反応をした。
「え…ええ、その通りよ…普通の人間では動かすことさえ出来ない…」
「ホクト…おまえミリタリーオタクだったのか?」
お父さんがいきなりかなり失礼なことを言ってきた。
この程度のことでオタ呼ばわりされてたまるか。
「お父さん、普通に考えれば誰でもわかるようなことだと思うんだけど…?」
少し怒りを込めた声で、僕は言った。
「あ、ああ…すまん…」
「と、とにかくつぐみこの戦闘機に乗ってくれる?」
「え、ええ。いいわよ…」
「お、俺もかまわないぞ」
…何かみんなの様子がおかしい気がする。
変なことは言った覚えはないんだけど…
「あの…僕もいいですよ」
「それで決まりね。それじゃ桑古木、倉成たちを部屋に案内してあげてくれる?」
田中先生が桑古木のほうをみる。
「ああ、わかった。それじゃ武、こっちだ」
僕たちは桑古木の後についていって、格納庫を後にした。


格納庫を後にした後、艦の壁から何かの駆動音が聞こえてくるようになった。
桑古木に聞いてみたところ、あの後田中先生が艦を発進させたらしい。
「…そういえば桑古木。私たちの部屋の割り当ては?」
お母さんが艦内の通路を歩いているときに、ふと思いついたように言った。
僕たちの今いる艦内の通路は、かなり広くまるで戦艦の中とは思えない通路だった。
「ああ、言うのを忘れてたな。勿論つぐみと武は一緒の部屋だ。
ついでだから言っておくか。チームは空と一緒だ。所属は第44義勇飛行隊でチーム名はレミュウ。
勿論リーダーは空。あいつが一番経験あるからな。」
「あれ、桑古木は?」
「俺は、機動歩兵隊のほうだ。
これでも隊長やってるんだぞ?」
「「「ええーー!!??」」」
僕たち三人は一斉に声を上げた。
だって、桑古木が隊長なんて似合わな過ぎる。
「うそだろ…桑古木のくせに…俺より人気ないくせに
隊長なんて……作者…殺す…(ボソ」
お父さんがものすごいショックを受けて、へこんでいる。
「……」
お母さんもショックを受けたらしく口を開けてポカーンとしている。
「…話し続けていいか?ホクトについてなんだが…」
僕について?なんだろうか…
「僕についてって何?」
「部屋の話の続きになるんだが、部屋は三人とも俺たちの近くだ。だが…
ホクトだけは別のチームで、部屋も…そのチームメイトと相部屋なんだ。
所属も第44義勇飛行隊ではなく、第45義勇飛行隊だ」
…は?今何かイイマシタカクワコギサン…
桑古木が言った言葉に一瞬固まってしまった。
相部屋と聞いた瞬間に「女?相手は女なの?」と思ったからだ。
「…なんだって?」
不安を押し殺して僕は桑古木に聞いてみる事にした。
「いやだから、相部屋」
…限りなくこの作者の性格からするといやな予感がバリバリなんだけど…
「…ちなみに桑古木、誰と相部屋になるの…?」
僕はこの不安を消すために恐る恐る聞いてみた。
「ホクト、今一緒の部屋になる人が女だったら秋香菜に殺されるって思っただろ」
心を読めるなら分かってるよね…クワコギサン…
「わかっているなら、男だよね?一緒の部屋の人」
「残念だがホクト、相手は女だ。しかも二人」
…クワコギサン…ボクガシヌトキアナタモミチズレニシテヤル…
…絶対に戦争が終わる前に僕の命が終わりそうだよ…
沙羅…ごめん、骨だけは拾ってね…
「安心しろホクト。秋香菜の了承はとってあるから。
まあ、あいつの友達らしいしな」
…それでも、命が最前線の戦場よりも危険にさらされるのは同じだ…
「…まぁ、今のお父さんの状況と一緒か…」
「ちょっとまてホクト。今のセリフは一体どういう意味だ?」
お父さんが僕に聞いて来る。気づこうよ、さすがに…
「お母さんVS空VS田中先生の究極の対決がいつでもどこでも起こると思わない?
この狭い艦内の中、部屋まで近いんだからいつ襲いに来てもおかしくない…」
「桑古木!この部屋の割り当ては誰が?!」
お母さんが急に声を上げた。
「優だけど…」
「こんな状況をも味方にして、罠をしかけるなんて…上等じゃない優。フフフフ…」
お母さんが、不敵な笑みを浮かべる。
返り討ちにする気満々だ。
「艦だけは壊すなよ、つぐみ。
ホクト、部屋行って来いよ。荷物運んであるから」
「あ、桑古木。沙羅は…」
「大丈夫だ、すでに研究所から艦に運んである。
艦内の設備はそんじょそこらの病院なんかより数倍いい。
だから心配するな」
「そう…じゃ、部屋に行くね」
そう言うと僕は自分に割り当てられた部屋に向かった。
命の危険を覚悟し、死ぬ覚悟を決められないままで…



「17」僕の部屋の番号だ。
…不吉だなぁ。僕が生まれるきっかけになった
本来であれば喜ぶべき数字でもあるけれど…
今は、僕も「お父さんのようにゴタゴタに巻き込まれろ」か、
「女性関係に永遠に悩まされ続けるのだ」と、
僕にはそういう意味がこめられているとしか思えない…
「…よし!」
僕は意を決してドアの横にあるインターホンを押した。
「…はい、誰ですか?」
…桑古木の言った事が嘘でありますように…
といまだに思っていた僕の願いをあっさり打ち砕くように、
モニターに同じ年の感じのロングへアーの女性がうつった。
「あ、あの。今度一緒にチームを組む事になったホクトです」
「…あのRシリーズに乗る……どうぞ中に」
カチ と言う音がドアから聞こえる。
どうやらドアのロックが外れたようだ。
インターホンと同じ位置にあるドアの開閉ボタンを押して
僕は部屋の中に入る。
「し、失礼します」
部屋の中は広く、かなりきれいに整頓されていた。
そして僕の前に、ショートへアーの女性とロングへアーの女性がが立っていた。
「ホクトさんですね。」
ロングヘアーの女性の方が僕に歩み寄ってくる。
「はじめまして。私は、チームメイトになる神凪 綾です。一様リーダーって事になってます。
これからよろしくお願いしますね」
神凪さんは律儀にお辞儀までしてくれた。かなり礼儀正しい人らしい。
あわてて僕も自己紹介をする。
「こ、こちらこそはじめまして、倉成ホクトです。呼ぶ時はホクトで。よろしくお願いします」
今度はショートへアーの女性が自己紹介をしてくれた。
「はじめまして、安藤 玲名です。よろしくお願いします」
どうやら安藤さんの方はちょっと暗いらしい。
「神凪さん、安藤さん。いろいろご迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします」
緊張しているせいか、言葉がちょっと堅くなってしまった。
「あ、ホクトさん。私のことは綾でいいです」
「私の方も玲名で…」
「分かりました。綾さん、玲名さん」
…本当にこの人たちは兵士なのだろうか?
僕はこの後、二人と話をしているうちにそう思うようになっていた。
二人とも…失礼かも知れないがただの女の子にしか見えないのに、戦場で人を殺すのだろうか…
自分も戦闘に参加する以上、人を殺さなければならない。
自分にその覚悟はあるのか。自分は人を殺せるのか。
そう思いながら二人と会話し、そして艦内で始めて夜を明かした。
その間にも艦は確実に戦場へと近づいて行った。






自意識過剰の編集後記


えっと、チョコシューです。
ソ ラ ノ カ ケ ラ PHASE 2やっと書き終わりました。
途中でホクトくんがものすごく、自意識過剰になってしまいました…
とどめにものすごく読みにくい!!はぁ…練習せねば…
いきなりですが!ここで皆様にお詫びと訂正をしなければなりませんTT
誤字、脱字については申し訳ありませんでした!
そして挙句の果てには、PHASE 1の方の年代が思いっきり間違ってました!!
誤 ライプリヒ軍の宣戦布告「2035年5月8日」
正 ライプリヒ軍の宣戦布告「2032年5月1日」

誤 戦闘に巻き込まれる「2038年 5月1日」
正 戦闘に巻き込まれる「2034年 8月1日」

です。本当に申し訳ありませんでした!!!

ご意見、ご感想お待ちしております。
それでは、また・・


/ TOP  / BBS /  








SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送