かなりの爆走系&死にまくりストーリーです。
  武x優春や鉄砲が好きな人はどうぞ。

















紅いEver17
                              作 とおか



「どうする」
 桑古木は尋ねた。
「……やはり動くか」
「うん」
 ここは都内の某ビルの一室。この部屋には桑古木と田中優美清春花菜しかいない。
「みんなを、集めてくれる?」
 蒸し暑い8月の風が、窓ガラスのなくなった部屋に入り込んでくる。
「それと、つぐみと武には武器を」
 優は続けた。
「私の口座からお金は全部おろしていいわ。保険も――解約してくれる?」
「ただではすまない」
「わかってはいる……でももうこうするしかない。違う?」
 桑古木はソファーから立ち上がり部屋の隅に置かれた、黒電話に向かった。
 ダイヤルを回し、相手を呼び出した。

 海洋テーマパークLeMUの地上階――インゼル・ヌルに彼等はいた。
 身体は武が手配した、特殊戦用の戦闘服に包まれている。ココはストラップで肩から下げた突撃銃(アサルトライフル)MPiKM。サイドアームはワルサーPPK。頭にはヘルメット、顔を覆う目出し帽(バラクラバ)。身体の要所ににはプロテクターを装着している。
 誰がどう見ても、こんな時にこんな場所で曝すべきではない姿だった。
 それを隠すため彼等は荷物搬入用コンテナに隠れている。
 全部で9人。これを召集した田中優美清春花菜を筆頭に、その娘田中優美清秋花菜。倉成夫妻とその子供。桑古木涼権がそれに続き、最後には八神ココが控えていた。
 なぜこのような姿でここに来ることになったのか――それは実に単純なことであった。
 ここにいる全員が17年間を隔てたLeMUの事故に関わっている事は周知の事実であり、事件の真相を隠すため彼等はライプリヒ製薬の解体と同時に口封じのために殺される。
 そういった情報を優春が手に入れたのが51時間前。彼女は直ちに危険人物を召集し、最良の手段を編み出した。警察の保護は望めない。それどころか優春は逮捕されてしまうだろう。キュレイキャリアとして生体実験の玩具にされることは回避できない。数時間に渡る議論の結果、彼等は凄まじい案を生み出した。「LeMU占拠による亡命」である。
 この計画の概要は次の様になる。まず、LeMUを総力をかけて占拠し、一部の人質(もちろん抵抗力のない女子供に限定)を残し立て篭もる。次にIBFに残されたウィルスを盗み出し、船に搭載。本土への特攻を仄めかす。それを手土産に第3国に逃げ込む――という物だった。
 そして、今が突入のチャンスだった。
「もうすこしよ」
 つぐみが覗き穴から外を見て、様子を覗っている。客の入場と同時に、つぐみと武が突入するという計画だ。
「武、気をつけてね」
 優春が呟く。
「わかった」
 武がそれに答えた。つぐみは嫉妬を隠してSIGの銃把を握り締める。
「いくわよ」
 コンテナの扉を開放して、武とつぐみが飛び出した。脅威的な脚力で、舗装された資材搬入路を走って行く。
「あたしたちも行くわよ」
 優秋が第2陣の先頭を切って飛び出した。
 つぐみは客の行列の最後尾に向かって走る。最大限に近づいたとき、彼女は跳躍した。オリンピックに出れば金メダル間違いなしの跳躍力で、客の列を飛び越える。着地先にはみゅみゅーんの着ぐるみがいたが、蹴り飛ばした。
 そのまま突撃し、加圧室へ向かう。加圧中であるらしく扉が締まっていた。
「遅かった!」
 つぐみは後ろを向いて地面に向けて一発発砲する。驚いた客達が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。
 武がヒトラーの電動鋸(ヒトラーズバズソウ)と呼ばれたMG42を電磁ロックに向けトリガーを引く。1分間1500発の発射速度を持つ機関部が弾帯を巻き込んで薬莢と硝煙を撒き散らし、その喇叭型の銃口の周りにはあの独特の銃火が形成され、7.92mm弾を電磁ロックに叩き込んだ。2秒に満たない短い砲撃のあと、武はその重い扉をこじ開ける。
 優春が飛び込んできて、加圧に当たっていた係員を脅した。
 哀れな女子大生だろうか、バイトの係員はその端整な顔立ちの顎にヘッケラーコック社の傑作短機関銃MP5シリーズの小型タイプ、クルツの9mmパラベラム弾を吐き出すその銃口を当てられ、今にも泣き出しそうになっている。
「今すぐにここから出なさい。私がこの引き金を引く前に」
「ホクト、行くわよ!」
 優秋が叫んで、やはりヘッケラ―コック社の傑作狙撃銃PSG1を抱えた沙羅とドイツ軍正式突撃ライフルG36Eを持ったホクトが走ってくる。
 武がMG42で電磁ロックを吹き飛ばし、3人が突入した。
「武、先にHIMMELに向かって!」
「了解!」
 つぐみに言われた武が3人の後を追う。
「つぐみ、やっぱり時間がなさそうだわ、全員人質にしてドリットシュトックの広場に押し込めるわよ。桑古木、作戦変更、IBFでウィルスの奪取を」
「了解」
 つぐみは速射で襲いかかってくる警備員を脅しつけ、エルストボーデンへと向かった。
 優春は扉を閉める。
「ココ、溶接を始めて。私は「宣言」に行くわ」

「空、ごめんね――」
 空が音声などで攻撃してくるのは周知の事実だったのでいち早く警備室へ向かって、LEMMIHをダウンさせ始める。
「マヨ、このウィルスを走らせればいいのよね」
「そうです、先輩」
 扉を警戒していたホクトが叫ぶ。
「お父さんまずいよ、こっちに人が沢山来る!」
「わかった、G3をよこせ!」
 武が通路に飛び出してG3を掃射した。
 弾丸が襲いかかる人々に当たり、鮮血を撒き散らしていく。
「死にたくなければ、ドリットシュトックのいこいの広場へ行け!」
 人々が散り始める。
「倉成、時間が無い、先にHIMMELに向かって」
「おい、そんなこと言われてもなぁ」
「早く!今人を撃てるのはあなたしかいないのよ!」
「――わかった」
 武が飛び出していく。
「なっきゅ先輩、あとは私が」
「マヨとホクトは人質の管理。ここは私でもなんとかなる」
「は、はい!」
 二人は飛び出して行った。

 武がEIに乗り込むと既に桑古木が到着していた。
「待って!」
 優春がMP5Kを持って走りこんでくる。
 彼女が入り込むと扉を閉めた。
「ふぅ」
 間もなく無線機がノイズを奏で始める。
「なに?」
「こちらつぐみ。ココがやられたわ」
「嘘!」

 つぐみは既に生気を失ったココの身体を抱えていた。
「ごめんなさい、もう手遅れだった」
「そんな………………………」
 優春の驚愕が無線機を通して聞こえてくる。
「気をつけて、優。情報が漏れてるわ、そっちにも行くとおもう」
「どういうこと……!」
「だから、私たちの奇襲は既に奇襲ではなくなっているわ!」
「……………了解」
 無線機のスイッチを切って、ココの両手を胸の前で合わせる。
 そして、立ち上がった。来る敵に備えて。

 EIが3階に到着する。
 優春は走り出した。
 それを追うようにして、二人の男が走り出す。
 前に立ちはだかる警備員の姿。
「どけえぇぇぇぇぇぇええええええええええええええ!」
 トリガーを引いた。
 MP5から放たれた9mmパラベラム弾が圧縮空気を切り裂いて驀進する。
 立ち向かってくる警備員が身体から血飛沫を撒き散らして倒れた。
 まだピストルカートリッジという時代遅れの弾丸を装備しているが、防弾チョッキを装着しない警備員には充分過ぎた。
「倉成、頼んだわよっ!」
 優春はそう言って、中央制御室に向かった。
「桑古木、来いっ!」
 武は桑古木を後ろに連れて、走る。
 ヒンメルの扉はすぐそこだった。

 EIを待っていたホクト達につぐみが追いつく。
「作戦変更。人質の管理より退路の確保を優先しなさい。爆薬の設置も同時進行で」
「りょ、了解」
 そう指示を下して、つぐみは走った。
 彼女は薄々と感づいていた。
 天性の、カンのよさで。

 C4プラスティック爆弾が爆音と共にヒンメルの合金扉を引き千切る。
 すぐに武は扉の端に隠れた。
 MG42を背中において、サブウェポンであるワルサーP99を手にしている。
 ゆっくりと、正確にカッティングパイを進めていった。
 思いきって部屋の中にエントリーし、桑古木と適当な距離を取って進入する。
 すると、残っていたのだろう。研究員が銃をこちらに向けていた。
 だが視線が定まらず、手が揺れている。
 武は相手のコールドゾーンに飛び込んで、素早い手捌きで拳銃を奪いとって相手を射殺する。
 続いて、P99を手にして加圧室の扉をブチ破る。
 突入して、リフトのところに来た。
 すると、イヤホンにノイズが走った。
「倉成……………マズったわ」
 優春の声が響くがその声は酷くやつれていた。
「優!?どうした!」
「ごめんなさい、もうダメだわ」
「ダメとか言うな!そこにいろ!」
 そう言って、桑古木の方を向く。
「武、優の所に行って」
「わかった」
 武は、走り出した。

 つぐみのイヤホンに桑古木の声が響く。
「優が撃たれたらしい」
「なんですって!?」
 つぐみは大声を上げた。
「人手が足りない、IBFに来てくれ」
「…………………………わかったわ」
 答えるまでの間は他でもない。武に対する不審とそれを打ち消す時間だった。

 沙羅とわかれてテキパキとセムテックス爆薬をセットしていく。
 レミを使って貨物船には通信した。
 これで逃げ出す準備は整ったのだ。
 ホクトは後ろから稀に襲いかかってくる警備員達を撃ち殺して対処する。
 
「優、優!」
 武は中央制御室に踏み込んで、コンソールに持たれかかっている優春の姿を見つけた。
「優、大丈夫か?」
「………………………倉成………」
 優春の身体を持ち上げる。
 コンソールにはどす黒い血がべっとりとついていた。
「優、しっかりしろよ。すぐ救護室に連れていってやるから」
「……………うん」
 武はMG42を捨てた。そして優春を背負って、走り出した。

 システムダウンに成功した優秋がホクトのところに到着する。
「どう?」
「すぐ、終わる」
「そう」
 その時、桑古木の悲痛な声が耳に入った。
「騙された!」
「どうしたの!?」
 数人の声がイヤホンに入る
「ウィルスなんて初めからなかったのよ、やつらが私達をここに誘き寄せたんだわ」
 落ちついたつぐみの声。
「優秋、ホクト、沙羅。早くインゼルヌルに行って逃げなさい!」

 つぐみは通信を切った。
 すかさず桑古木が声をかける。
「俺はこれからツヴァイトのセムテックスを仕掛けに行く。つぐみはエルストボーデンにセムテックスを」
「……………わかったわ」

 武は優春を医務室の下に設けられた加減圧室のベットに寝かせた。
 ボンベで凌いできた優春のマスクを外せるところはここしかない。
「おかしいな、これくらいの傷ならすぐに埋まるはずなんだが…………」
 キュレイの感染者はそう簡単に死ぬはずがない。
 取り敢えず弾丸の摘出は専門家に任せることにして、拝借した軟膏を塗って被覆して置くことにした。
「…………………………倉成………………私を置いて逃げて………………」
「アホなこと言ってんじゃない!」

「お兄ちゃん!」
 ホクトの元へ沙羅が駆け寄ってくる。
「沙羅!」
 沙羅はホクトの近くまで来て来た方向を向いて倒れ込み、足を広げて伏射の姿勢に入った。
 轟音が響いてPSG1から放たれた7.62mm弾が追いかけてきたらしい、特殊部隊風の男たちを撃ち倒す。
「なに、あいつら」
 優秋が率直な感想を述べた。
「わからない――けど、強い」
 沙羅が答える。
「逃げるぞ」
 ホクトが締めた。

「…………………倉成……倉成、あのね」
「?」
「私、知ってたんだ」
「知ってた?」
「うん」
「なにを?」
「ここにはウィルスなんかないって事」
「!」
「…………………………」
「じゃあ、何故、お前!」

「桑古木、セムテックスの装着は済んだのかしら?」
 つぐみの声に驚いて、桑古木は医務室のなかにある扉に張りつけていた耳を放した。
「つぐみ、ここに来て、ここに耳を当ててみろ」
 つぐみは珍しく、大人しく、桑古木の言ったことに従った。

「仕方なかったじゃない、そうするしかなかったのよ!」
 そう吠えると、優春は泣き出した。
「倉成に覚えていてもらいたかった、せめて、一緒に死ねば、倉成の記憶に留まっていられる。そう思ったのよ!」
 彼女は犬のように、泣いて、吠える。

 つぐみの眉がひそめられて、扉を開けようとした。
 その手を桑古木が押さえる。
「放しなさい!」
「ダメだ」
「放しなさい!」

「…………………倉成………………私死ぬんだよ……………」

「武は私に幸せを教えてくれた人なの。わかって」
「わかってだと?他人にそういう事を強要するな!……………貴様に、貴様に俺の何がわかる」
「何だって言うのよ!」

「ホクト、そこ、開けるのに時間かかりそう?」
「少し、ね」
「なっきゅ先輩!来ます!」

「バカ!死ぬとかそう簡単に言うな!」

「俺がわかったのは自分の名前だけだ、俺は自分の名前がわかっただけで他のなにもわかりゃしない。何をすれば良いのかわからない。でもな、優は俺に俺のやるべきことをくれたんだよ!」
「ならそれで良いじゃない。どいて」
「俺は優のことが好きだ。だから、せめて優の願いを叶えてやる」

「うおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
「死ねええええええええええええええええええええ!!!」
「あああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

「…………………倉成、せめて、最後に、好きって言って………………」

「どかないなら、力づくでどかすわよ」
「どかしてみろ!俺がこのスイッチを押せばLeMU中に設置されたセムテックスの震撼が作動して、爆風がわかる暇もなく酸素を求めて暴れ回って、全て、終わる」

「残弾30!」
「残弾5!」
「残弾1、但し、腹ん中にね」

「優………………………」

「そんなことして、どうなるの!」
「さあな!」

「………………………」
「ホクト、マヨと一緒に逃げなさい」
「お兄ちゃん、逃げて。私も足にケガしてるの」

「好きだ」

「お前何様のつもりだ?空や優が納得ずくでお前達の家庭を祝福していると思っていたのか?好きな人がその人の好きな人と居られるよう、そうしているだけだ」
「…………………………」

「必ず戻ってくる」
「必ず戻ってきて」
「また、戻ってきてね、お兄ちゃん」

「ありがとう」

「俺は、優のために、この、スイッチを押す」
「やめて!」

「出しますか?」
「…………………………ああ、頼む」
 にわかに大きくなるヘリのローター音。

 最後のキスを、武は優に。

 任意に設定された周波数から暗号コードを圧縮して送信したリモコンに反応して、システムはコードの展開と復号を開始する。コードが真であることをコンピューター特有のスピードで確認し、撃針に電流が走る。そして、LeMU各部にセットされたセムテックス爆薬が発火した。大量の軍用爆薬による爆風は耐圧隔壁を貫通して、圧縮ガスが充填されたLeMU内に大量の海水を引き込む。大量の埃や破片、血や肉や骨を撒き散らして、LeMUの海中構造物は最後の時を迎えた。
 インゼルヌルの全てを遺して。 
 
 だがそれ以外にも残った物があったのを、今は、誰も知らない。






   あとがきみたいなもの

 如何でしたでしょうか。随分前にやったゲームなので人物はかなり曖昧になっています。いい加減ですね。
 ちなみに本文中に出てくる銃の名前は全部ドイツ製です。たぶん。
 LeMUをふっ飛ばして何をするつもりなのか。題名や台詞でピンと来た方はもうおわかりでしょう。
 では次回作「Ever17・ホクトの番犬」でお会いしましょう。(嘘です)
 いやまずはラジオドラマ「紅いEver17を待ちつつ」かな?(大嘘です)


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