カウントダウ ン 
                             作 とおか



 早く。
 速く。
 端役。
 破約。
 羽薬。
 芳養区。
 焦れば焦るほど、御返還――じゃない誤変換を起こす。
 あの変換もこの変換もみーんなこの国――いやこの星に普及したOSの日本語変換システムのせいだ。
「西沢人間ミサイルランチャー」
 誰だ、こんな辞書を入れやがったのは。折角うちの会社に偉い人が来てくれるのに、その文書に「人間ミサイルランチャー」等と書かれていたら、そしても し、その責任が俺の身に振りかかったら――恐ろしくて想像することも出来ない。
 俺の家には、俺の家には――人の行動を分単位でみっちり監視するゲーペーウーの如き妻と、彼女といる時間が家族といる時間より長いアッシーかコード君と しか思えない息子、おまけに脳内の配線を間違った(失礼)シナリオライターの脚本に登場するお兄ちゃん大好きっ子の娘――ではなく、容姿端麗でしっかりと した妻、若いがその責任感は誰にも負けない息子、天才ハッカーと呼ばれる娘が待っている。彼らのことを考えると、仕事に身が入る。
「レイをして退出」
 来たよ。また来たよ。何故、退出する際に母親のクローンが必要なんだ!?
 その瞬間、俺を焦らせている2人が脳裏に浮かんだ。そしてソレは一気に爆発し、奴あたりと言う最終的手段に展開する。
 だれだ、こんな辞書を導入したのは!?オタクだな!!
 俺の脳内は沈黙の限界点を突破し、叫んだ。
「おい、塚本!」
「呼びましたか、倉成課長」
 叫ぶと同時にうちの課で最強のオタクであると言われる、塚本がやってきた。
「お前だな、こんな辞書を導入したのは」
 と、人間ミサイルランチャーの変換を見せる。
「はは、わたしであります!」
「えばるな!いいか、ワークステーションは仕事で使うものなんだ。明日の出社までに消しておけ!」
「わかりました、以後気をつけます!」
「オマエな、わかってそう言ってるのか!?ちゃんと実践しろよ」
「わかりました、以後気をつけます!」
 取り敢えず矛先を納め、1人呟いた。
「まったく、これだからオタクは――」
「あの変換を見ただけでオタクワードだってわかる課長も相当ですよね」

  ガーン(ネガポジ反転)

 うちの課一の美少女、根本友紀が呟いて去って行く。
 俺の精神的ダメージは日本海溝よりも深く、弾丸重量150グレインの308NATO弾の直撃よりも強く、箪笥の角に足の小指をぶつけた時よりも痛かっ た。
 いかん、復活せねば。
 ぷれぜんtrてsy−ん。
 今度はタイプミスだ。
 幾ら焦っても仕方がないのに。
 バックスペースキーを叩きすぎて、大事なところまで消してしまう。
 落ちつけ、落ちつけ倉成武。焦っても退社時間は来ない。落ちついて、仕事をするんだ。落ちつけばきっと大丈夫。
 落ちついて、そう、かろやかに。良い感じだ。そう、鼻歌まででてきて。
「フーフフフンフンフンフンフーン、フーフフンフンフンフンフーン。ちゃらら〜らっらら〜ちゃ〜ららっららっら〜(アメリカ合衆国国歌)」
 しかし、鼻歌と言うものは何時までも持つものではない。
 途中から歌に変わる。
「あー○は、あー○は、あー○はもしか○て、ほお○、なーげ○、ぶーめらん!(著作権上の理由により一部歌詞に修正を加えています)」
「課長うるさい」

  ガーン(雷効果音)

 うちの課一の美少女、根本友紀が呟いて去って行く。恐らくコピー人間と化してストレスが溜まっているのだろう。
 俺の精神的ダメージはマリアナ海溝よりも深く、弾丸重量700グレイン、初活力約2トンの12.7ミリ弾の直撃よりも強く、壱拾七分割よりも痛かった。
 いかん、おんなじ展開だ。
 ふと気付いたら既に仕事は終わっていた。
 ん?なに?
 仕事が終わっている、だって?

  たけしは しごとを おわらせた
  (レベルアップの効果音)
  ほうしゅう として ぼーなすに いっぽ ちかづいた

 俺の精神的喜びは、バベルの塔よりも高く、レギオンよりも多く、トイレから出た後より素晴らしかった。
 よかった。これでなんとか間に合いそうだ、後は退社時間を待つだけ――。
 なんだって?
 タイシャジカン?
 ソレハイッタイナンデスカ?
 そう、その時間にならなければ帰れない。下手をすれば――以後シュミレーション
「あれ、企画7課の倉成君?今暇?、そうなの、それじゃあこれやってくれないかな」
 ――シュミレーション終了。
 そう、誰かにあってしまった瞬間、タイムオーバーとなるのだ。例え俺が暇でないと言っても、タイムオーバーとなるのだ。そういうところなのだ。

  ガーン(銃撃音)

 俺の精神的ダメージ、そうそれは、先ほどの喜びを破壊する。
「いざ我等舞い降り かしこにて彼等の言葉を乱し 互いに言葉を通ずることを得ざらしめん」
 バベルの塔は破壊される。バベルの塔より高いものなど言語道断。
 なんとかしてこの非常事態を脱却しなければ。なんとかして。
 うーん。
 こーなったらスクロールバーがおともだちだ。
 スクロールバー、一緒に遊ぼう!

  用語解説 スクロールバーがおともだち
 退社時間を待つ人間、主にプログラマが行う行為。いかにも忙しそうに見せるためスクロールバーを上にやったり下にやったりとす る。じっと見られるとば れるため背後の警戒を怠らないことが基本。
 また、「暫くお待ちください――」のダイアログにダラダラとプログレスバーの数値が上昇するだけのプログラムを書く知能犯もい る。

 そうこうしているうちに退社時間となった。
「お先に失礼します!」
 と、普段しない挨拶をして、部屋を出る。エレベーターを待っていては遅いのでその横の非常階段に滑り込んだ。
 階段を降下しつつ、上着を脱ぐ。流石に室内と言えども寒い。
 続いてワイシャツのボタンを外し、これも脱いでバッグに丸め込む。バッグからラガーシャツを出して着た。
 踊り場でズボンを脱ぎ、綿パンに穿きかえる。
 全部バッグに突っ込んで、ブルゾンで身を固めた。
 超ラフな恰好で外に出る。
 タイムリミットまでもう少し。
 いや、既に戦争は始まっているかもしれない。

 そうこうして、品川駅についた。
 俺はみどりの窓口で凍りついていた。
 なんだっけ。
 紅い眼鏡、黄色いハンカチ、白い下着、青のレクイエム、灰色の貴婦人――いや、ちがう。そう、色ではなくそれに似たもっと、こう、意味合いのある言葉 だ。
 そう、あれだ。
「青春18きっぷ1枚!」
 思い出した。
 係員がマルスを操作する。マルスとは旧国鉄の発券管理システムでマルチアクセスリザーブシステムの略だ。先にマルスという名前がついて、後から略称にし たらしいが――まぁモビール・オペレーション・ゴジラ・エキスパート・ロボット・エアロタイプ通称モゲラよりはましだろう。
 これを使っていてもダブり(重複販売)が起きるのだから謎だが、そんなことはどうでもいい。
 11500円と引き換えに俺は乗れば乗るほど安くなる魔法のチケット「青春18きっぷ」をゲットした。
 さぁ、急いでホームに行かなければ。

 ホームに辿りつくと、既に何人もの人が真夜中の列車を待って列を作っていた。俺は任務に忠実なシェーファーフントを探し出す。 いた。
 列の一番前に、高貴なる姫君の忠実な僕となった男が、モロッサー(軍用犬)のように任務を遂行している。
「桑古木」
 俺が呼ぶと彼は振り向いた。
「交代だ」
 俺が彼の元へ近づくと、彼は立ち上がり、任務を俺に引き継いだ。
 彼の任務はまだまだ続く、今度は姫君達を回収し、ここまで輸送しなくてはならない。

 深夜。
 人々は家路へついて行くのに俺は列車を待っていた。
 それは、席を取るためだ。
 3週間前――
 京都へ行こうと言い出した優春が、近所のみどりの窓口で失神した。
 既に、快速「ムーンライトながら」の指定席券は奪われていたのである。
 新幹線、航空機等の利用は財政面から言って困難であり、夜行バスの利用も難しい。
 彼女は直ちに忠実な下僕、桑古木涼権に命令し、通称「大垣夜行」の席取りを命じた。
 事前の調査で猛烈な椅子とりゲームが開始されることを知った桑古木は3時からこのホームで大垣夜行を待ちつづけていたのである。 彼の疲労を考えた俺 は、交代要員としてここに来たのだ。
 2時間前――
「倉成?今ご飯食べ終わったトコ。これから映画見ていくから、後2時間半ぐらいでそっちに着くね」
「あ、ああ」
「武」
 愛する妻の声が、この街に広がる電波を通して俺の耳に届く。
「風ひかないでね」
「ああ」
「それじゃ」
 心配するなら来てくれなどとは口が裂けても言えない。その台詞を口にした瞬間、ウロトロピン、硝酸、氷酢酸、無水酢酸および硝酸アンモニウムの反応によ り生成された発火点は335度、9120m/sの爆速を誇る高性能爆薬シクロテトラメチレンテトラニトラミン通称HMX20kgの爆発をゼロ距離で受ける よりも強いエネルギーが俺の鳩尾を攻撃することは間違いない。

 俺は品川駅にちらつく雪を見ながら、冬の古都に思いを馳せていた。





  あとがきみたいなもの

 ギャグだかなんだかわからなくなりました。
 取り敢えず、笑ってくだされ。
 感想等待っています
 ではでは。



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