・登場人物と、これまでの状況 つぐみ:マルシアと名乗る人物と遭遇、武と合流。 武:エレノアと名乗る人物と遭遇、つぐみと合流。 |
Cure(s)! 豆腐 |
6、 「――つまり、つぐみはこの巨人に嫌がらせを受けていたわけか」 こちらの首に向かって伸びてくる黒い手を押し戻しながら、武は尋ねた。 ゆっくりと、つぐみがうなずく。 彼女の視線は、向かいの席、黒人女性(マルシアとかいうらしい)の隣りに腰かけている金髪童顔の少女(エレノアだったか)にそそがれていた。 親指で彼女を指し示しながら、確認するような心地でつぶやく。 「で。俺がこの小娘に殺されそうになってたわけだ」 「誰が小娘ですの?」 「後半は認めるのか……」 紅茶の入ったカップを置き、睨んでくるエレノア。 マルシアの方は、椅子とテーブルの隙間が狭いのか、さきほどから身じろぎを繰り返していた。 エレノアが誇らしげにふんぞり返る。 「わたくしのないすばでーを理解できない殿方がいるなんて、信じられませんわ」 「ハハ。」 「きえーっ」 奇声をあげて包丁を突き出してくるが、腕が短いのか届かない。 「キィー」 「…………」 悔しそうにテーブルを叩くエレノアを無視して、武はマルシアの方に視線を向けた。 「なあ。あんたら二人、もしかして知り合い同士なんじゃないか?」 「なぜそう思うの?」 「なぜって言われてもな」 店の前で四人が遭遇し。 仕方が無いので喫茶店の中に戻って話をまとめようという事になったのが三十分ほど前か。 つぐみから彼女の事情を聞いた武は、同じように彼自身の事情を彼女に教えた。 そしてその状況は、驚くほどに酷似していたのだ。 すなわち。 謎の女性に遭遇し、 悩みはないかと問われ、 断ったにも関わらず付きまとわれている。 悪徳商法か何かだろう、と思った。 その真偽は定かではないが、マルシアとエレノアはどうやらお互いがお互いを知っているらしい。 というか、二人ともお互いに対してなんら興味を持とうとしないのだ。 つまり、既知の仲だという事ではないか? ――と、いうような事を武はマルシアに言った。 すると…… 「ええ。私達は同じ組織に所属する者よ」 「組織?」 あっさり認めたマルシアに尋ねる。 答えてきたのはエレノアだった。 「『人類愛護団体』ですわ」 「…………」 聞き取り様によってはとてつもなく駄目である。 駄目駄目である。 「帰れ」 「きーっ」 ふたたび奇声を上げて突いてくる。 が、届かない。 「ううううう」 悔しそうにテーブルを叩くエレノアを放置して、武はマルシアに向きなおった。 「帰れ。俺たち夫婦は、お前らを必要としていない!」 「それはできないわ」 「なんで」 「あなた達が、私達を必要としているからよ」 「しとらんと、何度も言ったはずだ」 「しているわ。少なくとも、これから必要になる」 「――――?」 「私達とてそれほど自由があるわけではない。 恐らく、これが最後の警告となってしまう。 いい? 可能な限り武装しなさい。少なくとも、町内最強を名乗れるぐらいにね」 「馬鹿らしい」 悪徳商法になど捕まってはいけない。 遺伝子技術の進歩の裏で、悪人の質の悪さも進歩しているのだから。 「つぐみ、行こう」 言う。――が。 「つぐみ?」 反応しない彼女の眼前で手を振ってみる。 硬直していた彼女が、ビクリと肩を震わせた。 ゆっくりと首を回してくる。 「……たけし」 「どうかしたか?」 「……ううん、なんでもない。行きましょう」 言って席を立つつぐみ。 二人で喫茶店を出ようとすると―― その背に、声が掛かってきた。 「本当にね。死ぬわよ。――倉成夫妻?」 「なんで……」 憎悪の感情で振り向く。 マルシアが鋭い視線でこちらを睨んでいた。 エレノアはというと、外の風景をぼんやり眺めていてその表情は読み取れない。 憎悪の感情で。声を出す。 「なんで、俺達の名前を……」 「警戒するべき相手は、私達ではないのよ」 これ以上の会話は無意味だ。 むしろ、関わるべきではない。 武は顔を険しくし、つぐみの手を引いて店を出た。 7、 つぐみは思う。 あまりにも似すぎていた、と。 それゆえに、逆に確信が持てなかったのだ。 あの、エレノアとかいう少女。 顔立ち、雰囲気など、外見の年齢は10代。 どう考えても20代ではないだろう。 もちろんその可能性がまったくないというわけではないが。 (変わってない。いえ、多少の変化はあった……) 数年分の成長。そして停滞。 本人である可能性としては大いにあった。だが、こんな場所で会うはずがない。 あの、少女に。 かつて父の都合で渡米し、 そこで出会った――。 8、 辺りがすっかり暗くなって。 「うわ、見ろ見ろっ、つぐみ!」 「……えっ?」 つぐみが顔をあげる。 その顔にみるみる驚きが広がっていくのを、武は満足げに見ていた。 例の二人組みと出会って以降、彼女になんとなく元気がない事。 今日一日共に歩き回っていればそんな事は分かった。 だが、それが何故なのか、彼女が言わぬなら聞くつもりはない。 だから今はただ、彼女の支えになる。 「雪……」 「おお。ホワイトクリスマス、ってやつだ」 暗くなった空から、ちらちらと、真っ白な結晶が舞い降りてくる。 周りの恋人達も、嬉しそうに空を見上げていた。 ……それをやったのは無意識。 つぐみの肩を抱き寄せる。 「や、ちょ、たっ、武……?」 「黙っとけって」 ほほ笑みかけると、彼女は黙り込む。 頬を赤らめ顔を伏せる彼女が、あまりにもかわいいから。 武は、彼女の肩に回した手に力を込めた。 チラリと横目で人込みの先を見やる。 変装したホクトと沙羅、それとなぜか優の娘が、顔を真っ赤にしてこちらを見ていた。 なんだか無性に楽しくなって、武は白い歯を見せた。 9?、プロローグA 2035年 12月 「つまり、護衛というわけね」 「そうだね」 うなずく彼の気配は、相変わらず薄い。 そこに本当にいるのか。まれに自信が持てなくなる。 マルシアは目を閉じ、肩をすくめた。 「オーケイ。もとより断れないんだから」 彼が、ほほ笑んだ。 無邪気と言うより――そう、無表情に。 無表情に、ほほ笑む。 「それで、あなたはどうするの?」 尋ねたが。 そこにいると思っていた相手の姿は、すでになかった。 「……人の話は最後まで聞くものよ。フェイブリン」 ため息を残し、マルシアもまた、夜の闇に姿を溶かした。 To be continued... |
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