天国に涙はいらない
                             刀華


もう、、、身体が、、、動かないな、、、

ここはIBF、、、
暗い暗い、冷たい冷たい海の中。
ここには届かない、太陽の光さえ。

もう、長くないかな、、、
そう、自分でもわかっている。
助かる確率は、ゼロ。
できることはすべてした。
その結果の数字。
それがゼロ。
死ぬことに、恐怖はない。

だから、これからのほんのちょっとの時間を、自分に素直に生きてみようと思う。

この空間にはもう、私と倉成の二人しかいない。
少ない可能性に掛けてココ、少年はハイバネーションしている。
つぐみは、何か一言言い残して去って行ってしまった。

私と倉成。
ふたつの灯火。
ここにはふたりぼっち。

重なり合う、2つの手。
倉成の手は、もうほとんど冷たくなっていたけど、大きくて暖かかった。
まるで、木漏れ日の中にいるように。
重ね合わせた手から、倉成の鼓動が伝わってくるような気がした。

とくん、、、とくん、、、とくん、、、

ひとつになれた気がした。
倉成と、ひとつに。

子供みたい。

ふふふ、、、
声には出なかったが、自然と笑みがこぼれた。

そういえば、恋するなんて初めてかも。
光栄に思いなさいよ、倉成。
私の初恋の相手になっちゃったんだから。

力が入らない右手で、倉成の左手を握り締めた。

おい、倉成。
ふつ〜は男のほうから握るもんだぞ。

わずかだけど
ほんのわずかだけど、倉成が握り返してくれたような気がした。

ありがとう、倉成。
倉成はやっぱり優しいよ。
いつも、何も考えてないようで、何も考えてなくて
バカっぽくしてるけど、やっぱりバカで
でも、みんなのこと考えてて
自分のことを考えずに、仲間のために一生懸命になれる。
やっぱり倉成は倉成だね。

闇が、堕ちてきた。

真っ暗な、真っ暗な闇が私を包んだ。

、、、怖い
、、、怖い
、、、怖い

どうしてだろう。
死への恐怖なんて、もう無いと思っていたのに。
出口の見えない闇。
冷たい闇。
恐怖。

、、、怖いよぅ、、、怖いよぅ、、、怖いよぅ、、、

怖かった。
恐ろしかった。

「、、、ゆ、、、う、、、」

光が、光がさした。

力強く握られた倉成の手。

そう、私が怖かったのは倉成と離れ離れになっちゃうこと。
でも、倉成は私のそばにいてくれる。
それだけで私は、私は、、、

ゴゴゴゴゴォーーーーー

天国への扉が開く音。
ねえ、倉成。私たち、天国に行けるかな?

ゴゴゴゴゴォーーーーー

ああ、まだやりのこしたことがあった、、、
まだ、死ねない。
もう少しだけ、もう少しだけ。
神様、もう少しだけ、時間をください。
神様、もう少しだけ、生きる力をください。

最期の力を、身体にあるすべての力を振り絞って身体を起こす。
不思議だね。
さっきまでまったく動けなかったのに。
神様が小さな奇跡をくれたのかな。

愛しい、倉成の元へ。
徐々に、徐々に。
二人の距離が、どんどん縮まる。

「倉、、、成、、、私ね、、、倉成のこと、、、好きだよ、、、」
やっと、言えた。
やっと。

「ゆ、、、う、、、守ってやれなくて、、、ごめん、、、な、、、」
倉成らしいな。
こ〜ゆときは、俺も好きだぜ、とか言うもんだよ、倉成。

でも、、、嬉しいよ。

不意に、倉成の腕が動いた。

「、、、え、、、?」

殆ど動けるはずの無い倉成の腕が、私の背中にまわった。

信じられないほど強い力で、倉成は、私を、ギュッって音がするくらい、強く強く抱きしめてくれた。

「これ、、、ぐらいしか、、、してやれなくて、、、ごめん、、、な、、、」

ううん、十分だよ、倉成。

「ん、、、」

キス。
唇を重ね合わせるだけの、軽いキス。

こら、倉成、心の準備もまだなのに、、、

「ありがとう、、、倉成、、、」

「ああ、、、」

ゴォォォーーーー!!!!

天国への扉が、一際大きく開く音。
でも、もう、恐怖も、寂しさもない。
私は、倉成と一緒だから。

「倉成、、、天国で、、、会おうね、、、」

不思議と笑みがこぼれてきた。
それにつられて微笑む倉成。

「ああ、、、またな、、、」

あ、、、
どうしてだろう、、、
悲しくもないのに、、、
涙が、、、

でも、今だけは泣いてもいいよね、倉成。

天国に、涙はいらないから、、、





あとがき
優春救済SSのはずが、、、こんな重いお話に、、、
つぐみんバットエンドが個人的に結構好きなんですけど、もうちょっと優春が救われても良いかな、と思いまして、、、
でもやっぱり、重ひ(涙 


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