2034年5月7日BW発現・・・・・・



「お父さんは・・・・・・死んでしまったんだ・・・・・・」
気がつくとぼくは浮島にいた。
そして頬をつたう、この熱い水滴・・・「涙」・・・。
ふと傍の木の陰に一人の男が立っているのに気づいた。
彼の名は桑古木涼権。ぼくや沙羅を危険な目に遭わせた張本人だ。
ぼくは彼のもとに駆け寄り怒鳴った。
 「どういうつもりなんだ!」
桑古木からの返答は無い。にらみ合いが数十秒続き、桑古木から出た言葉は実に殊勝
なものだった。
 「これで、終わったと思うなよ?」
 「すべてはこれから・・・・・・」
 「そう・・・・・・これから、始まるんだからな」 

そう。彼の言う通りすべてはここから始まったのだ・・・・・・。


ホクト編バッドエンド
                              やまちゃん


空に呼ばれ、田中先生・・・田中優美清春香菜のもとへとぼくは導かれる。
側には優・・・田中優美清秋香菜がいて彼女の母親と対峙していた。
春香菜は開口一番こうである。
 「何か・・・質問は?」

数分とも数光年とも感じられるほどの時間が過ぎ去った。
すべてを語り尽くした春香菜は、口を閉ざし沈黙した。
その表情は悲痛と沈痛につつまれていて、とても痛々しい。
彼女が悪意を抱いてこの計画を実行したのではないことは最早明白な事実である。
ぼくは、・・・いや、ボクはついに真実を知った。
何ということだろう!
この計画が、ぼくにとって憎むべきとも言えるこの計画を計画したのは、他でもない
ボクだったのだ!
武とココを救うためのこの恐ろしい計画を!

事実を知ったぼく、いやボクなのだろうか?
長い年月を経て(実際には数日なのだが)「ぼく」と「ボク」は同一化してしまった
のだろうか。そんな風にも感じられる。
それが現状なのだ。
いずれにせよぼくであるボクが事実を知った今、とるべき行動は一つだった。
そう、武であるお父さんとココを助けにいくことだ!

島中を駆け回り、海底119mに向かう道具を探す。
あたりに潜水艇はない。
とその時、石の塊がゴロゴロといくつか転がっていることに気づいた。
全部で九つからなるその石塊には文字が書かれていた。
「天国はどこにある?
           空の上と、あなたの足元に・・・・・・」
有名なゲーテの詩である。
以前、石碑の話を優としていたとき、優がさも自慢げに教えてくれた。
 「!待てよ・・・。この石碑使えるかもしれない!」
考えるが先か行動を起こすが先か、ボクであるぼくはこの石を身にまとい何を血迷っ
たのか海にダイブした。
どうやら、ボクは意識担当であり、激情家のぼくが困ったことに行動担当らしい。

 ドボン!!

まさにドボンであった。
手も足も出ないこの状況をドボンというのだ。
ギャンブラー達が好き好んでこの三文字熟語を使うわけが徐々に分かってきた。

耳が痛い!
体が裂けそうだ!
肺が破れそうだ!!

 「ゴボッ」

肉体担当のぼくが耐え切れずに口を開いた。
肺に大量の水が流れ込む。
誓ってもいいが、意識担当であるボクは口を開けろなどとは指示していない。
そこのところを勘違いされては困る。
ボクの名誉のためにも言っておくが、あくまでもこの状況に耐えられなかったのはボ
クではなくぼくなのだ。
絶望的な状況下、ぼくは本当に天国に行きかけているようだ。
ボクは必死にぼくが天国に行かないように制御する。
そうこうしているうちに、IBFを発見した。
 
 バシャンッ!!

飛び出した。そして走る。
走る。走る。
そして、とうとう着いたのだ!
ココのもとに!
武のもとに!
ぼくはお父さんの解凍スイッチを押した。
ボクはココの解凍スイッチを押した。
 「ポチっとな」
 
やがて、時が来てどちらも目覚めてもいい頃合いになった。
 「うーん」
先に目覚めたのは武のようだ。
と同時に、
 「う〜ん」
ココも目覚めた。
 「ココ!」
ここぞとばかりにココに話しかけるボクの勇ましきことこの上なし。
意識担当の特権である。
 「・・・・・・だぁれ?」
 「ココ!ボクだよ!!」
 「あ・・・」
 「ああっ・・・!」
 「やっぱり助けにきてくれたんだ・・・!!」
ココがボクの体に抱きつく。
抱きつかれたのはホクトであるぼくの方なのか?
否!
BWであるボクに決まっている!!
何たる役得・・・・・・!
やはり天国は足元にあったのだ!!

そしてここが事実上の天国となるとは・・・・・・

それはココがボクに抱きついてきた瞬間のことだった。
 プシュー
突如治療室のドアが開き、春香菜が入ってきた。
 「おっとっと、私はお邪魔だったかしら♪
  さっ、武!邪魔しちゃ悪いからひとまず潜水艇に戻りましょ♪つぐみと空も上に
いるわ♪」
 「もしかして、優か!?」
 「くわしい話はあとあと♪さっ!はやく♪」
入ってきてすぐに出て行く春香菜を尻目に、続けて優が入ってきた。
 「!!」
 「そ、そんな・・・!ホクト・・・!嘘でしょ!ねえ!嘘だといってよ!ねえって
ば!」
優は泣いていた。「ぼく」には何が何だか訳が分からなかった。
 「ホクトの馬鹿ぁ!!」
 バチンッ!
強烈なアッパーカットをはなち、泣きながら出て行く優。
ココと呼ばれる少女はまだ抱きついている。
続けざまに今度は沙羅である。
 「ねぇ、お兄ちゃん。なっきゅ先輩泣きながら潜水艇に戻っていったけど、どうし
た・・・・・・!!」
 「沙羅!それはこっちがききた・・・」
 「お兄ちゃんってそんな人だったんだ!最低!!」
 ボコッ!
今度は強烈なローキックが炸裂した。
 「お〜い!ホクトー!」
桑古木の声がする。
 「ホクトー!そろそろ行くぞー!ホク・・・!!」
 「OH!MYGOD!!」
卒倒する桑古木。
 「オレの17年を返せ〜〜オレの17年を返せ〜〜〜」
謎のつぶやきを無限にくりかえす桑古木。
そして、強引にココをボクから奪い取り、潜水艇へと戻っていった。
彼は最後につぶやいた。
 「あいにく潜水艇は6人乗りなんだ・・・ハハハ・・・ハハハハハ・・・・・・」
 
 ガチャーン!!

どうやら潜水艇のハッチが閉められたらしい。
そういえばここの研究所ってTBウイルスの研究してたんだっけ・・・。

どうもさっきから体がだるい。風邪だろうか?
ツツツー。
鼻から何かがたれてきた。
手でこすってみる。
赤いねっとりした液体が手についた。
鼻血だった。
 
 「どうして・・・・・・」

それはぼくの言葉だったのだろうか?
あるいは・・・・・・別の誰かの?
いや、今となっては、そもそもそれが「言葉」だったのかどうかさえ疑わしい。
ここには何も無かった。
音も無く、色も無く、風も無く・・・・・・。
まるで、白濁した液体の中をゆらゆらとさまよっているような感覚だった。
ただ、とても熱くて・・・・・・。
息を吸い込むたびに、肺や気管が、乾いた音を鳴らして凍りついていくようで・・・
・・・。

ああ、優・・・。ここはゲーテの言うとおり本当に天国なのだろうか・・・?
それとも嘘だったの?優?
 
 ビチャッ!!

どこからか・・・・・・、
ピーピーガーガーと、掠れるような通信音を聞いた。

それが、倉成ホクトの聞いた、最後の音だった。



   This story is not an end yet..
 Because only you are in the infinity 
loop.









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