人と違うことというのは罪なのだろうか?
人と違うということはそもそもその人の特徴となり、その人の存在を示す有効なことではないのだろうか?
しかし、私の場合においては人と違うということはプラスにはならなかった。

信じる力
                              作者:やまちゃん

私には暗闇というものが存在しない。
人は皆、暗いところが怖いと言う。彼らが何を怖がっているのか私には分からない。
「暗いって何だろう?」
幼い頃私はずっと疑問に思っていた。
あれは何歳の時だっただろうか・・・ちょうど真っ暗闇(私には別に何も感じられなかったが)の中で幼い私は施設の中で友達と鬼ごっこをして遊んでいた時のことだ。
私はふとその疑問を口に出してみた。
「皆何を怖がってるの?」
「何が怖いって、やっぱり暗いと何も見えなくなるところだよ」
私に手を引かれて一緒に逃げている施設の友達が言った。

私は施設に預けられていた。何故施設に預けられていたのか?どうやら私には親がいないらしい。物心ついた時から私はこの施設にいたのだ。
そんな私にも肉親がいる。たった一人のお兄ちゃん・・・。そのお兄ちゃんとも今は離れ離れ・・・。

話を戻す。暗闇が怖いと言う友達に私は再び尋ねた。
「ええっ?何が見えないの?」
「何がって・・・この暗闇の中で何も見えないままやる鬼ごっこだからヤミオニっていうんだろ?」
「何も見えないって、億彦君には今何も見えていないの?」
「当たり前だろ。沙羅だってそんなの同じだろ?」
「うそー、沙羅には全部見えるよー」
「嘘つくなよ。」
ゴンッ!
そう言って友人だった億彦君はしたたかに足元にあった箱にしたたかに足をうった。
「いてててて・・・」
「あはははは、何でそんなすぐ近くにある箱に足をぶつけるの〜。注意しないからだよ〜。」
「そんなこと言ったって見えないんだから仕方ないだろ!見えないんだから!」
「私には見えてたのに〜?」
「だから、嘘つくなって!この暗闇の中見える訳ないだろーが!」
「あっ、億彦君、気をつけて!鬼の優夏ちゃんが来るよ!」
「何でそんなこと分かるんだよ!」
「だってこっちに来るのが見えるんだもん。」
「はあ〜?俺にはまったく見えないぞ。」
ゴンッ!
そう言って彼は鬼である優夏ちゃんにぶつかった。
「ああ〜!億彦君見〜つけ!」
「嘘っ!何で!?何で分かったんだよ!?沙羅?」
「見えたからだって言ってるでしょ。」
「見えたって何が?」
「おい優夏ちゃん聞いてくれよ。沙羅はこの真っ暗な中で何もかもが見えるって言うんだぜ。」
「ええ〜、嘘でしょう?沙羅ちゃん。」
優夏ちゃんは見当違いな方向を向いて私に話しかけている。
「ええっ?優夏ちゃんにも見えないの?」
その時、パッと電気がつき部屋がさっきより見えやすくなった。
「こら〜!こんな遅くに何やってるの!」
施設の管理をしている、いづみおばさんである。おばさんに無断でヤミオニをしていたのだ。就寝時間はとうに過ぎている。
それから、ヤミオニをしていたメンバーを集めて説教が始まった。
その説教中、億彦君が私が暗闇で全てが見えるということを話した。
「それなら僕にだって、見えるけど?」
お兄ちゃんである。
おばさんや他の皆が私達に対して聞いてくる。「本当なの?」とか「嘘だ〜」とか。
そのうちこんな声が出始めた。
「じゃあホントかどうかちょっと実験してみようよ。」
むきになっていた私は実験に応じてしまったのである。

思えばこの時この実験に耳を貸さなければ今の私は少し変わっていたかもしれない。

実験は至って簡単なもので、暗い中で紙に書かれている絵や文字を皆が出して、私がそれに答えるというものだ。
私の回答はパーフェクトだった・・・

次の日から私達は皆から不気味がられた。
昨日のヤミオニの時まで仲良く遊んでいたのに・・・。
人間とはこうも残酷なものなのだろうか・・・。
そんな私にもたった一つの救いがあったのは幸いと言うべきか。
どんな時もお兄ちゃんだけは私の味方だったのだ。
私がいじめられている時は体を張ってかばってくれたし、何かと私を励ましてくれる。
お兄ちゃんは私にとっては救世主とも言うべき頼れる存在。その気持ちはお兄ちゃんと離れ離れになった今でも変わることは無い。

暗闇が見えるという私の「人との違い」がもたらした災厄はこれだけに留まらない。

ある日のこと、ライプリヒ製薬という会社の人が私達に一緒に来ないかと誘いをかけてきた。
お兄ちゃんは「ここでこのまま施設でつらい目を見るよりこの人について行ってみよう」と施設に別れをつげる。
この選択がこの後、私達にどれほどの苦痛を与えることになっただろう・・・

私の人と違う能力がライプリヒという巨大企業で私に与えた苦痛の数々・・・
そして最愛でありただ一人である肉親のお兄ちゃんとの別れ・・・
私にはお兄ちゃんと違う能力があるらしい。
人々は私の理解力の良さに驚愕し、彼らは私の普通の人間よりも格段に上と言う理解力をコンピューターに生かした。
コンピューターは私に合っているようだ。私はめきめきとコンピューターの扱いがうまくなった。
しかし、コンピューターを人より使いこなせたからなんだと言うのだろう?
この能力が諸悪の権現なのではないだろうか。

私は自分の能力を呪い、そしてまたこんな能力を持った私を生んだ顔も知らぬ親を恨んだ。

「人間とは信じられないもの・・・」

いつしか私はそう思うようになっていった・・・・・・。



2033年・・・
鳩鳴館女子高等学校・・・
晴れた土曜日の放課後・・・


一人の女子生徒が私に近づいてくる。
「ヘイ、そこのカノージョ!」
部活動勧誘ということは一目見て分かった。
「私はどこにも入部しないって決めているんです。」

・・・数分後
抵抗むなしく私は彼女が所属する「ハッキング同好会」連れてこられてしまった。
「・・・・・・」
ここは夢の島なのだろうか・・・。
6畳ほどの「ハッキング同好会」なる怪しげな集団のアジトには所狭しとケーブルが張り巡らされ、ディスクにプリント、くまんぱぴに核兵器の発射ボタンやらが散乱している。
・・・どうやって歩けというの・・・
構わず踏み進んでいく田中と名乗った先輩に倣い、私もその未開の地に進軍した。
中にはこれも怪しげなもう一人の女子生徒の影。
ゲームしかしていないようである。
「ここはハッキング同好会なのにゲームしかしないんですか?」
当然の質問が口から飛び出した。
「うーむ、そこなんだなあ・・・。私達の部にはプログラミングできる人はいないの。」
田中先輩が答える。
この人達も私を利用しようというのだろうか?はっきり言ってこの人達もライプリヒと大差ない。
「・・・私に関わるとロクなことがないですよ。」
もうこれ以上人と関わるのは御免だ。
尚且つキーを叩かせようとする彼女らの執拗な期待に応え、私は「ハッキング同好会」のパソコンすべてをシャットダウンさせることにし、混乱する彼女達の姿を尻目に同好会室から脱出した。


人間とは残酷で信用ならない生き物・・・。
今、私はあの頃感じていた疑問に答えを出している。
「暗いって何だろう?」
暗闇・・・それは私にとっても見えなくて怖いもの・・・
そして真の暗闇・・・それは人間の内に存在しているもの・・・
人間の憎悪・欲望・悲しみが闇となり恐怖という形となって現れ私に襲いかかる。
人間は暗闇を怖れる。
闇は人間の本性をも表す。そして人間はその本性と対峙するのが怖い。
だから人々は私を排除する。
願望でもあり、また憎悪と欲望の元でもある私を。
人と異なる私を。

そんな人間を信じることが出来るだろうか?


いずれにせよ、今回の件で彼女達も嫌気がさして関わりを断つだろう。


翌日・・・
今日は平穏な日々が続いて終わりそうだ。
「松永さ〜ん!」
「えっ!?」
彼女だった。田中先輩・・・。
「どうして・・・。」
正直理解に苦しむ。昨日あんなことがあってもう私には利用価値がないとわかったはずなのに・・・。
「松永さん!今日は逃がさないわよ!」
「どうしてです!?私に関わるとロクなことが無いと言ったでしょう?あんなことがあってもまだ私を誘う気ですか?」
「あんなこと?あぁ昨日のあれね。あんなことが出来るんなら尚更我が同好会に入ってもらわなきゃ!」
「先輩は・・・先輩は私が不気味ではないんですか?」
「ええっ?何が不気味なの?むしろそんなすてきな力を持っているんだからこそこうやって仲間になってって頼んでるのよ♪」
「そんな・・・。何でそんな考えになるんです・・・。」
「えっ?何?聞こえなかったんだけど?」
「・・・いえ、何でもありません。とにかく私は同好会に入る気はありませんから。」
「あっ!待ってったら!」
田中先輩の声を振り切り私は学校から出てくる。


帰り道、私はずっと考えた。
・・・「仲間」・・・利用価値のある「もの」としてではなく「仲間」・・・
・・・「すてきな力」・・・少なくとも私はこの力を「すてき」だなんて思ったことは無かった・・・
むしろこの忌まわしい能力を恨んだ・・・。

「自分の力を恨んだ」?
・・・暗闇とは憎悪・・・
自分の力さえも恨んでいる私が、暗闇から脱することができるというのだろうか?
むしろ闇をつくりそこに引き篭もっているのは私自身ではないのか?
私の「人との違い」がプラスになっていないのは私自身が自分の特徴である「人との違い」を、そして「人との関わり」をマイナスと捉え自分を否定しているからではないのだろうか・・・?
プラス思考でいくには自分からアピールしなくてはいけない。
引き篭もっていては駄目だ。

「・・・・・・・・・・・・」

長い沈黙・・・
私は何度も何度も自問自答した。

自分の存在・・・
自分の存在は・・・自分でアピールすることでプラスになっていく・・・
人任せではいけない。
それには「人との関わり」が大切となる・・・
そして「人との関わり」に大切なのは人を信じること・・・


「人と違うことはその人の特徴であり、その人の存在を示す有効なこと」・・・それは私も同じ!・・・


私なりに結論が出た時、私は来た道を引き返し「ハッキング同好会」の戸を叩いていた。



それは海のように青い空のもとでの
             私の新しい一日のはじまり・・・・・・



あとがき

まず初めに読んで下さった方ありがとうございます。
かなり重ためな話ではありますが、敢えてギャグは封印しています(笑)
今回のSSは一応、HHSS展開に伴う沙羅メインのSSです。
沙羅が暗い過去に決別し新しい自分に生まれ変わろうとする・・・というようなことを書いてみましたが、どうでしたでしょうか?
あっ、それと余談になりますが、施設の子供とおばさんはNEVER7から友情出演。
悪役で申し訳ありません。
全然友情じゃない・・・(苦笑)

HHSS 忍の0号 


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