*お読みいただく前に*
前作からの続編的要素も交えてあるため、前作をお読みいただくことを推奨いたします。




怪傑キュレイ団
                              作者:やまちゃん

〜明日への脱出〜

★裏切られた密約★


ドンドンドン! ドンドンドン!

激しいノックが町内に響き渡る。
まだ早朝と呼ばれる時刻……。
部屋には早くも陽光が差し込み今日も暑くなりそうだ。
外を見ると一人の明るそうなショートヘアーの女性がドアを叩いている。
この女性、近所迷惑など考えてもいないらしい。
「お母さん! お母さん! 早く開けなさいよ!」
ここは事務所。そして入り口にはこう書かれていた。

『地上最強を誇る愛と正義の秘密結社キュレイ団本部』

……と。
看板に偽り……ありそうだ。
職種はまったくもって判然としない。
そもそも秘密結社のくせに大っぴらに事務所を構える程度のものなんだよ、ここはな。

「大体本部って何よ! 支部があるって言うの!?」
ぶつぶつぼやきながら快活な女性はどこから持ち出したのか、チェーンソーを装備している。
きっとこういうことなのだ。



2分前……

『ここは武器の店だ。どんな用だい?』
 ↓
『買う』
 ↓
『チェーンソー』
 ↓
『ここで装備していくかい?』
 ↓
『はい』

「あれ? 私何でこんなものを? やっちゃった〜。また某ゲームみたいなYESNOクエッション形式にやられちゃったわ。はい、いいえで訊かれるとどうしてもはいって答えたくなっちゃうのよね〜。でも、結局こんなもの持ってても私って戦士じゃないから装備出来ないわ……。外そーっと。」

『さくせん』
 ↓
『そうび』
 ↓
『チェーンソー』
 ↓
『はずす』


『なんとチェーンソーは呪われていて外すことができない!!』


「………………………………はい?」
「なんで? なんでなのよ!? キーーー!!」

ヒステリー起こしてるし。
というよりかお嬢さん、あなたきっちりと装備できているではないですか。
戦士の素質、充分にお持ちなのでは?




気づくと突貫工事が始まっていた。
何と形容すればいいのだろう。
チェーンソーを持って厳重にロックされてあるドアを切り裂くこと鬼神の如し。
バリバリと砕け散るドアはLeMU圧壊時の11倍以上の音がしたように思われた。

「…………今日も平和だ。」

バコーン!!

「っ痛!?」
「バカ言ってんじゃないの。それにその格好何?」
つ、痛恨の一撃……
何ですか? その物体は…。俗に言うフライパンですか?
一瞬お星様が目の前を制しました。とってもとぉーっても痛おございました。

「くそ〜、この恨み、はらさでおくべきか……。」
「いいから。」
「いくねーよ! それに勝手に人の頭叩いといてなに顔赤くしてんだよ。」
「あんた、キュレイでしょ? でもいくらキュレイだからって……」
「お前もだろうが!」
「そ・ん・な・こ・と・よ・り。」
「な、なんだよ。気色悪い声出して……。」
「黙って見てないで早く娘を止めてきなさーい!!」
「は、はい! 閣下!」

耳を劈く優の破壊的な声は瞬間、5000デシベルにも到達し、俺の鼓膜はあっけなく敗れ去り優の前に服従を誓うしかなかった。我ながら情けない話だが、事実、まったく奴には敵わん。

階下では空がおろおろとしていた。
きっとあの女戦士に対応出来ずに困っているのだろう。
俺は何故か飾ってあったみゅみゅーんの横に並んだ。

「フ……俺って何でこうもダンディーなのだろう。鏡で見てみたいな。」

「あ、倉成さん。」
「おう、空。どうした? そんなに慌てて。」
分かってはいるが何となく訊いてみる。だって僕ってそういうお年頃だから。
「それがあのぅ……。」
「ああ、外でチェーンソー持って暴れてる女戦士のことだろ?」


 ――――――――――――――――――――――――――


「え? 何で分かったんですか? 倉成先生ってやっぱり凄いです!」
「あははは、分かりきったことじゃないか〜、茜ヶ崎君〜。」
「倉成先生……」
「茜ヶ崎君……」


 ――――――――――――――――――――――――――


「…………フフフフフ……」

「え、女戦士って何のことでしょうか?」
「へ?」
「私、今ココちゃんとかくれんぼして遊んでいるんです。良かったら倉成さんも一緒に遊びませんか? そ、その前に倉成さんはすることがあるかもしれませんが……」

俺の妄想プラン、見事に打ち破れたり・・・!!
にしてもどうなってんだ? この会社は。
かくれんぼが仕事とは俺も知らなかった。
……しかし、空まで顔を赤くしちゃって……。朝からボケちゃってるし故障している、とかじゃないよなぁ。
む、もしかして……
「ボケとナイスツッコミを取り違えてんのか!?」
いくらなんでもそんなはずないよな。我ながらアホらしい。
そうこうしているうちに敵はこちらの第一防衛ラインを突破してしまったようだ。

ズーン……と鈍い音が耳に入った。

いや、ツヴァイトシュトックのクヴァレが圧壊したとかクラゲゴンドラが空を飛んでいったとかそんな奇想天外な話ではない。ただ、目の前のドアが切り倒されただけだ。
この期に及んでも空はまだココとかくれんぼをしているのだから彼女の神経はきっと俺よりも図太いに違いない。それにしてもさっきからココは俺のすぐ横にあるみゅみゅーんの巨大着ぐるみの足元にうずくまっているのだが……。空は見つけられないようだ。神経は太いが機転が利かないのか、灯台下暗しというやつか……。

ギュイーン!!

「うおっ!?」
「お母さんはどこ?」
まるで昔のヤクザ映画を見ているかのようなギャップ。戦慄を感じえずにはいられない。手にしたチェーンソー。丸太を置いたら切って実演してくれたりするのだろうか? どうせなら今晩のおかずにしようと目論んでいた冷凍マグロでも持ってきてみようか。そんな考えが脳裏をよぎる。

そして横では空が、
「倉成さん、ココちゃんはどこなんでしょう?」
目にはうっすらと涙が浮かんべている。こんな表情をされたら、俺……
「いかんいかん! いくら遊びといえども真剣勝負! ここでココを売るような真似は俺には出来ないんだ。すまんな、空。」
「いえ、いいんです……。いつまでも見つけられない私が悪いんです。」
そういって空の目は再び泳ぎ始めた。
……おいおい、すぐ前にいるっちゅーの。下見てみぃ、下。

ギュイーン!! ガリガリガリガリ!!

さらに目の前では信じられない光景が繰り広げられていた。女戦士はこの建物を支えている柱に装備品をあてがうとスイッチを入れ始めたのだ。
おいおい、まずいんじゃないのか、これは。分かっていても誰も止めようとしないあたりが素晴らしいところだ。自由放任主義だからな、我が社は。

ガツーン!!

「っ痛!?」
「何やってんのよ!」
ほ、本日二度目の痛恨の一撃……
もう薬草ないんですが…。僕の目の前にお花畑が広がってましたよ?
それに何ですか? その物体は…。俗に言う鉄バットですか? しかも釘が満遍なくついているんですがどういうことか説明してくれませんか? 
「あんたさっき何聞いてたのよ。」
「何も聞いていなかった。」
「来月の給料もカットね。」
「…………」


「あ! お母さん!」
「朝から元気ね、ユウ。一体どうしたって言うの?」
「お母さん、ホクトを返してちょうだい。」
「な、何の話かしら。」
「とぼけないでよ! お母さんから電話があって呼び出されたってホクトは言ってたわよ。ホクトをどこにやったの?」
「う……記憶が……」
「はあ〜?」
「こらこら、下手な芝居はやめとけ。つぐみ、いるんだろ?」
横のみゅみゅーんの目がキュピーンと音を立てて怪しげに光った。
「ばれてたの?」
「いくらそんな着ぐるみの中に入ったからって俺様の目はごまかせないぜ。俺にはいつか洞窟で拾ってきた千里眼の巻物があるんだ。これさえ読めばおまえのように可愛いアイテムは一目瞭ぜ」
「そうね。ここまで来たら教えるしか無さそうね。」

……無視ですか。

「空、説明してあげて。」
「え、でもまだココちゃんが見てからないんです。」
涙を浮かべ訴える空。まだココの存在に気づかないらしい。
「ココならここにいるわ。」
……非情な売国奴が一名。
「つぐみん、教えちゃ駄目でしょ〜。」
「あ……ごめんなさい。」
「いいよ〜だ、後でつぐみんともう一回一緒にやってもらうから。」
何故かいじけつつも嬉しそうなココと複雑な表情を浮かべるつぐみ。仕方ない、つぐみがやるなら俺もやるか。フッフッフ……。色々と野望が湧き出てきたぞ〜。そう、例えて言うならば、合体スライムがキングスライムへ変身するような、酒池肉林の展開……。
「どういうことか教えてよ、空。」
「それではご説明いたします。」


………………


空は優に説明した。内容をかいつまんで話すとこういうことである。


ある朝、沙羅が某国の悪の秘密結社オックマンズに拉致された。その情報をキャッチした優はホクトに急いで電話をしてその旨を伝える。当然ホクトはすぐに駆けつけ、外国行きのチケットを受け取り勇ましくも無謀に単身出撃した……


そんな内容だった。ちなみに空のデータの書き換えがすでに終了しているらしいことは宇宙一頭の良い俺には明瞭な事実である。沙羅とホクトが任務により出向中とのことはつぐみから聞かされていた。確かに今の優が事実を知ったらどうなるだろう……。キュレイ種といえどもただでは済みそうにありません。想像しただけでチェーンソー食べちゃいそうです。あな恐ろしや……。

「……ということで良いわよね、武。」
「ん? あ、ああ。」
あらぬ妄想に耽っている間に話が進んでいたようだ。
「じゃあ頼んだわよ、武。」
「空ー、用意出来そう?」
「用意出来ました。はい、倉成さん。」
「ん、これは一体何の真似だ?」
手渡されたものは航空チケット。
「はい、これも渡しておくわ。」
専務から受け取ったパスポート。俺にはさっぱり意味が分からないのだが。
「武、すぐ戻ってくるのよ。」
「おい、つぐみまで一体何言ってんだよ。」
「何ってあなた、ホクトたちを救出しにユウと出征することに決まったでしょ? それにあなたさっき『ああ』って返事したじゃない。」
「なぬー!? そんなことになってたとは知らなかったんです!」
小学校の頃、先生の話はきちんと聞きなさいってよく言われたけどもやっぱり事実だった。田中先生は知らぬ間に計画を実行するエキスパートなんだったっけ。
額から嫌な汗がにじみ出る。
「じゃあ、行きましょうか。武さん。」
「お、おいおい、ユウ、そんなに引っ張ったら服がのびる。」
「え? 武さん、服着てませんけど?」
「ぐわーーー!?」

暑くて寝苦しかった昨夜、俺は服を脱いで寝たんだ。
優や空が言ってたのはこのことかよ! にしてもつぐみ…顔色一つ変わらんかったな。さすが俺の妻。いつまでたっても表情は変わらないままだ。ひげをはやし、耳を突き出し……
「おい、いい加減脱げよ、それ。」




「いってらっしゃ〜い。」
「気をつけて下さいね。倉成さん、田中さん。」
「早く帰ってくるのよ。」
「ああ、分かったよ。じゃあな。」
「ホクト、すぐ行くから待っててね!」


★かけがえのない想い・・・再び★


「ふぅ、行ったわね。」
「何だか朝から大変だったわね。」
「ああ! 大変です!!」
「どうしたの? 空。」
「……渡したチケット……松永さんに渡したものと違いました……。」
「え゛」
「……で、どこ行きのなの?」
「それが……桑古木さんに渡したチケットと同じところ行きです。」
「桑古木?」
(しまった! 今空から聞くまであいつの存在を忘れていたわ!)
「ね、ねえつぐみ、そんな人いなかったわよね。」
「え・・・?」
(そ、そういえば彼と連絡をとっていなければ給料もあげていなかったわね……)
「う……記憶が……」
「私も……記憶が……」
「………………」
(この人たち、鬼ですね……)





つづく



あとがき

今回も読んでいただきありがとうございます。
第5作目となった「キュレイ団」〜明日への脱出〜お楽しみいただけていれば幸いです。
今回はギャグオンリーで、武編。
なっきゅファンの皆様にはお待たせいたしました。ついに秋香菜登場です。彼女にはこれから充分に暴れまわってもらう予定です。

ちなみにデシベルなどの単位使っておりますが、私は5000デシベルがどのようなものかまったく理解しておりませんゆえ、あくまで武の主観でということで御了承下さい(汗)

次作もお付き合いのほどよろしくお願いします。

それでは♪


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