この作品を読む前に、明さんのイラストの制服シリーズ「空編」をご覧になると臨場感が増します。 もうすぐ終わりに近づく2学期の学園生活、恥じらいを見せながらも想い人を呼び止める一人の少女。 彼女にとって残された時間は後わずか…。 |
勇気はきっと…… 作者:やまちゃん |
これまで過ごしてきた日々……。私にはかけがいのない時間。でも彼には何のことない時間。 私は決めたのだ。もう迷いはしないと。今日こそ想いを告げるのだと。 授業の終わりを告げるベル。私にはこれがスタート。ゴールの先には何が待っているかは分からない。 「起立、礼!」 日直の声が聞こえる。どうやらホームルームは終了だ。 いつもなら騒がしいこの教室も今日は静かだ。教室の騒音よりも自分の鼓動の方が大きく聞こえる。一体何が原因なんだろう? 私は私にそっと尋ねてみる。答えは分からない。でも本当は……。 もうすぐそれも明らかになるだろう。私はその事実を知っていた。何故なら私は答えを知っているのだから……。 教室を出た。階は3階。隣には彼のクラス。 毎日廊下を横切るたびに彼のクラスを覗く。そして彼の笑顔を見る。 いつも笑っている彼。怒っている彼。ときには真剣な彼……。 私は今まで色んな彼を見てきた。2年間ずっと……。 でも今日は見ない。もし教室に彼が居なかったら怖いから……。 私は階段を下りる。1階まで。 いつもなら3分で着く玄関も今日は果てしなく遠い。 おかしい…。こんな階段を下りるだけでもう胸が苦しい。 私はたどり着けるのだろうか? こんなことならやめた方がいいのだろうか? …………いや、私は決めたのだ。 もう迷わないと。 後悔はしたくないと。 何があってもこの想いだけは彼に伝えてみせる……。 1階に着く。ふと腕にした時計を見た。 時間にして2分くらいだろうか。いつもなら3分かかるところを2分で着いてしまったのだ。 周りを見る。まだ人は少ない。 男同士で帰る人たち、女の子同士で話しながら帰る人たち……様々な人が目の前を通り過ぎていく。 彼はまだ来ない。 人気者の彼がいつもクラスで遅くまで話していることは知っていた。 今日も遅いのだろうか……。 ふと見上げると私の前には二人の男女がいた。 腕を組んで仲が良さそうに話しながら歩いている。 今日の終業式はどうだったとか、昼飯なんにしようかとか……たわいも無い話。 でも今の私にはそれが羨ましい。 ………… 頭に浮かぶ彼と私の姿。腕を組んで歩いている。 そして二人仲良く話している。 今日の昼食の話。 彼につくる昼食。 料理は苦手な方ではない。 家に着く。 彼は私のつくった昼食を美味しそうに食べている。 手にしたタツタサンドは私の得意料理。それが受け入れられることが心の底から嬉しかった。 ………… 5分経った。 玄関はもう人でいっぱいだった。 外は暑そうだ。 プールに行ったら涼しいだろう。 彼とのプール……。 それは涼しいがきっと熱いものになるだろう。 時計を見る。玄関に着いてからもうすぐ10分が経つ。 ……彼はもう帰ったのだろうか? ふとそんな考えが頭をよぎった。 確かめに行こうか? 3階まで言ってみればいい話…。 でもそれは出来ない。 それは私が私にした約束。 それに今ここを動いたら私にはこの機会は二度と訪れないだろう。 私の私に対する約束なのだから……。 遠くから足音が聞こえる。 賑やかな声と共に。 聞きなれた声。楽しげな笑い声。優しい笑顔……。 彼だ! それは直感ではない。 彼は友達と歩いている。 楽しそうに話しながら。 そしてこっちに来る。一歩…また一歩…それは確実に……。 私の胸はその度に張り裂けそうになる。ドクン…ドクン…。 頬が熱い。 耳が熱い。 顔が真っ赤になってゆくのが自分でも分かった。 彼はもうすぐ目の前に来る。 言わなくちゃ……。 目の前にいる。 言わなくちゃ……。 そして通り過ぎる。 言わなくちゃ!! 「あの……。」 彼が振り向いた。いつもの優しい笑顔で。 「なんだい?」 「あの…。あなたと一緒に帰ってもいいでしょうか?」 |
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