決意の日 裕(ゆう) |
「ここは・・・どこ?」 僕が目覚めて初めて目に入ったのは白い天井だった。 「ここは・・・病院?」 周りを見渡してみると白い天井、白い壁、白いベット。そしてこの薬品の臭いが僕の記憶に病院を呼び起こした。 “コンコン” 突然ドアをノックする音がした。 「だれ?」 “カチャ” ドアが開いて、30歳前後の男の人が入ってきた。 その男の人は白衣を着ていたが、なぜか医者という感じがしなかった。ここが病院ならば彼は医者のはずなのだが、僕の記憶がそれを否定した。 「桑古木 涼権クンだね?」 「・・・・・」 僕は警戒していた。彼は何者なのかと。確かに僕の名前は桑古木 涼権という。でも、僕には彼の顔には見覚えはなかった。だが、この感じは覚えている。いや思い出したといったほうがいいのかもしれない・・・・・彼はライプリヒの人間なのだと。 「ここはどこなの?」 僕は彼の質問には答えないで逆に質問をした。 彼は嘘をつくだろう。ライプリヒの人間なのだから。―ここは病院だよ―そんな言葉を笑顔で語り、その裏ではドス黒い欲望を隠すのだろう。 「ここは、ライプリヒの研究所だよ。」 「え!?」 僕は驚いた。考えていた答えとまったく別の答えが返ってきたのだから。 「君は3日も意識を失っていたんだよ。」 そんな僕を尻目に彼は話をはじめた。 「君はLeMUの事故にまきこまれて、七日間も閉じ込められていたんだよ。覚えていないかい?」 そのとき、僕はすべてを思い出した。 「そうだよ、僕は何でこんな大事なことを忘れていたんだ・・・あっ!他のみんなは?武は?優は?つぐみは?空は?・・・ココはどうなったの?みんな助かったんだよね?」 もしかして自分だけ助かったのではないかと不安になった。 「そのことで話がある。君が私たちを恨んでいるのは知っている。許してもらえるとも思っていない。だが、どうしても君の力が必要だ。私について来てもらえないだろうか?」彼の顔からは何も読み取れなかった。彼は部屋に入ってきてから一切表情変えていなかった。でも他のみんながどうなったかは、今は彼しか知らない。 「わかったよ、どこに行けばいいの?」 「ついてきてもらえばわかる。ただその前に一つ、聞いておきたいことがある。」 「なに?」 その時、初めて彼の表情が変わったように見えた。 「君の記憶は戻ったかい?」 “コンコン” 彼は、建物の奥まで僕を連れてきて、つきあたりの部屋をノックする。その間、彼は一言もしゃべらなかった。 「はい、どーぞ。」 部屋の中から男の人の声がした。 “カチャ” 彼はその言葉を聞いてから部屋のドアを開けて中に入った。僕も彼の後に中に入ることにした。そこには、50代くらいの男性がいた。 「先生、桑古木 涼権クンをお連れしました。」 「ありがとう。あとはこちらで話をするから、君は自分の仕事に戻ってくれたまえ。」 「はい、わかりました。その前に一つ・・・・・桑古木クンの記憶は戻っているそうです。」 「え!?」 そのとき部屋の隅から声がした。声がする方へ顔を向けると、そこには見知った少女がいる。 「優?優、無事だったんだね。よかった、他のみんなはどこにいるの?みんな助かったんだよね、僕みたいに他の部屋で寝てるだけなんでしょ?」 いつの間にか僕は優に詰め寄っていた。 「少年、落ち着いて、落ち着いてよ!!その前に記憶が戻ったって本当なの?」 優は僕の行動に驚いていたが、すぐに笑顔で僕の頭をなでてくれた。 「うん、そうなんだ。ところどころ曖昧な所もるけど、ほとんど思い出したんだ。僕がLeMUに来る前どこにいたのか、そして何故LeMUにいたのかも・・・・・。」 そう、思い出していた。でもこんな記憶なら思い出さないほうがよかった。 「どうしたの少年?記憶が戻ったのに浮かない顔しちゃって、嬉しくないの?」 「そうだね、どうせならあのまま戻らなかったほうがよかったかな。」 自嘲気味に笑ったその時、僕をここまで連れてきた男の人が答えた。 「すまない、謝ってすむ問題ではないが今はこれしか言葉がみつからない。しかし、これからは謝罪の気持ちを行動でしめしたいと思っている。そのために私はこれから行かなければいけないところがある。君の質問の答えはそこにいる先生と田中さんが教えてくれるはずだ。それでは先生、田中さんも、後はお願いします。私はこれで失礼します。」 「ああ、君も頼んだぞ。」 「はい。」 最後に彼は僕を見たが、何も言わずに部屋を出た。 「さて、桑古木クン。今君が知りたいことは、LeMUに閉じ込められていたほかの人達の安否だったね?」 「そうだよ、他のみんなはどうしたの?もしかして・・・・・。」 まただ、またいやな考えが心を支配する。 「まぁ、そうあわてるな。その前に私の名前を教えよう。」 「あなたの名前?」 「ああ、私の名前は八神 岳士。」 「ヤ・ガ・ミ?・・・・・もしかして、ココのお父さん?」 「ああ、八神 ココは私の娘だ。」 「じゃあ、ココの居場所を知ってるんだね。今ココはどこにいるの?」 「IBFに。」 「・・・・・え!?なんで、なんでココだけIBFに?」 「ココだけではない。倉成 武という青年もそこにいる。」 「じゃあ何ですぐに助けに行かないの?何でこんなところでのんびりしてるんだよ!!あなたはココのお父さんなんでしょ?ココを助けたくないの・・・・・・・・まさか、ココを見捨てたの?そうなんだね、なん・・・。」 “バーン” ココのお父さんが机をたたいて立ち上がった。 「君は・・・・・・・君は、私が平気だと思うのかね?ココは私の一人娘なのだよ。子供のいない君には・・・・・・・いや、すまない。取り乱してしまったな。もっと冷静にならなければいけないというのに。」 「い、いえ。僕のほうこそすいませんでした。でも、何か理由があるんでしょ?今、ココと武を助けにいけない理由が・・・・・それに、空とつぐみはどうしたの?教えてもらえるんだよね。」 「そうだな、まず何から話そうか。」 それから、八神先生と優に聞いた話は僕の想像をはるかに超えるものだった。 優の聞いた謎の声、BW、第三視点 僕らがキュレイに感染したこと 空はピピの持ってきたテラバイトディスクにデータが残っていたこと つぐみはすでに逃げてしまったこと そして、ココや武を救う方法・・・・・・・・・・・ 「17年!?しかも、僕が武に?」 「信じられないかい?」 「だって、そんなこと・・・あなたは信じてるの?」 「ああ、ココにその能力に似たものがある。それをライプリヒの連中が見逃すはずがない。私は自分で調べると証して、娘を奴等から守ろうと思っていた。あの日もそのために娘をIBFに呼んだのだから・・・・・君にも特殊な能力があるのだろう?」 「そう、そうだね。でも僕のはほんの少しの予知と人より理解力が速いだけだよ。」 だけどその能力で、僕はライプリヒの施設に入れられていた。 「五月一日、君もIBFに来る予定だったね?」 「うん。でも僕は逃げた。そして、途中で突然誰かに何かをかぶらされたんだ。でもそのおかげで、奴らの目から逃げられた。記憶を失っていたのは薬の影響か何かだと思う。」 「すまないな。私は、娘のことで頭がいっぱいだった。他にも君みたいに施設に入れられている人たちがいるのは知っていたのに・・・・・酷い人間だな。」 「・・・・・・・」 「その結果、娘を失うとは・・・これもむくいだな。」 「そんな!!失ったなんて、まるでもうココが助からないみたいないい方しないでよ!!」 「いや、そういうつもりで言ったのではない。私には17年もの時間が残されていないのだよ。もう娘には会えないのだ・・・・・だから、私は娘を失ったのだ。」 「病気・・・なんですか?」 ずっと黙って、僕と八神先生の話を聞いていた優が口を開いた。 「ああ、しかしそうでなくとも私は結構な年だ。どっちにしろ十七年後まで生きていられるかわからない。だから君たちに託したいのだよ。私の知りうる知識と、娘の未来を。」 「怖くはないのですか?」 優はなぜか八神先生の病気を気にしていた。 「死ぬことがかい?それは怖いさ。だが、もっと怖いことがある。娘の未来が奪われることが・・・・・私は娘のためなら死をも恐れない。そのためなら、君たちも利用しようとしている。」 「そんなこと!!私・・・・・私にはわかります!!あなたのその気持ちが。」 「ありがとう、そう言って貰えると嬉しいよ。」 優はもうこの計画に参加することを決めてるようだ。僕は・・・・・僕はどうするべきなんだろう。 「優?」 「ん!?」 「本当にできるの?」 「少年!!できる、できないの話しじゃないの。倉成とココを助けたいか助けたくないかの話なの。そして、助けたいのなら道はひとつしかないの。」 「・・・・・・・」 「少年?」 「僕の名前は、桑古木 涼権っていうんだ。」 「え!?」 「いつまでも少年はないでしょ。これから十七年、パートナーになるんだから!!」 もう僕は迷わない。 泣き言も言わない。 そう・・・・・・・・・・・・・・・・・十七年後の未来のために。 |
あとがき ここまで読んでいただきありがとうございます。 このSSは、優と桑古木だけであんなにだいそれたことができるか?と疑問に思ったときに考えたものです。みなさんは、どう考えているのでしょう?私の考えに共感してくれる人がいたら嬉しいです。 |
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