「ねえ、優ってさ、もうバイクには乗らないの?」

今にして思えばなぜそんなことを聞こうと思ったのか・・・

「!!!・・・何いってんの?ホクト」
「だって、暴走族やってたんだよね?」

“口は災いの門”とはよく言ったものだ・・・

「な、なんでそんなことを?」
「沙羅に聞いたんだけど・・・」

思えばこのとき思いとどまっていれば・・・

「ちっ、マヨか・・・」
「どうかしたの?優」

女性の過去を詮索するようなマネをしなければ・・・
でも、現役の彼氏としては気になるのも当然なわけで・・・

「ああ、苦麗無威爆走連合のことね」
「うん、沙羅がいってたんだけど総長だって」

僕の知らない優を妹が知っていることに嫉妬していたのかもしれない。
沙羅からこっそりと聞き出すのではなく、本人に直接たずねようとしたのは僕のせめてもの礼儀のつもりだったのかもしれない。


我こそは“七代目”
                             雪だるま


彼女にしては珍しく額にしわを寄せて、困ったような表情を作った。

「うーん、できればホクトには知られたくなかった」
「えーと、あの、ゴメン、怒った?」

うつむいて僕から視線をはずす優。
僕は不快な思いをさせてしまったであろうことについて詫びた。

「いいよ、別に、マヨの兄貴なんだから、いつかはわかることだから・・・」

どうやら、優は最近になって沙羅がしゃべったと思ったらしい。
ほんとは記憶を失っているときに成り行きで聞いたのだが、そのことは黙っておこう。

「はじめは沙羅の冗談かと思ったんだけど」
「あのね!ホクト、よく聞いてね」

優が身を乗り出して、すごんできた。

「言い訳するわけじゃなくて、あれは仕方がなかったことなのよ」
「ど、どういうこと?」

あまりにもオーバーなアクションをまじえて迫る優の勢いに押されて後退しながら、僕は素直に聞き返した。

「B・W計画のために、私は17年前の母さんと酷似した行動をとらなくちゃならなかったわけよ」
「う、うん。そうだったね」

そう、僕の父・倉成武と八神ココという少女を救うべく計画されたB・W計画には17年前の事件と同じ状況を演出する必要があった。その計画は、要約すると僕に2034年を2017年と錯覚させてB・Wを発現させるというもので、優の母親と桑古木によって実行され、優も17年間計画のために自分の出生について知らされていなかった。

「だからね、母さんは私をLeMU内で自分と同じような行動をとらせるべく、私を母さんと同じように育てたに違いないのよ」
「???」

B・W計画のためには17年前の事故と同じ状況を作り出さなければならなかったことは知っているけど、それが優の育ち方、ましてや苦麗無威爆走連合とどういう関わりがあるというのか僕には理解できなかった。僕の頭上に“?”が浮かんでいるのを確認したかのように優は説明を続けた。

「あのね、桑古木は17年前の武さんを知っているからそのとおり演じることができるけどけど、私は17年前の母さんを知らないのよ。いくら遺伝子が同じだからって私が17年前の母さんと正確に同じ行動をとると思う?」
「い、いや、思わないけど・・・」

なおも熱弁をふるう優に逆らうのは得策ではないと判断し、僕は適当にあいづちをうった。でも確かにそうだ。同一遺伝子を持っていても、同一人物ではない。故意に同じ行動をとることはできても、優(秋)が知らずに17年前の春香菜さんとまったく同じ行動をとることはありえない。

「でしょ、きっと少しくらいなら、桑古木が誘導する手筈だったんだろうけど、何もかもってワケにはいかないじゃない?だから、私を17年かけて少なくとも田中優美清春香菜と同じ行動パターンの娘に育てる必要があったワケなのよ」
「・・・なるほど、そうだね」

そうか、僕がだまされていたのはほんの数日だったけど、優は今までの人生ほとんどがB・W計画のために真実を知らされていなかったんだ。自分の生い立ちさえも。実の母親によって隠されて、いや、嘘で固められていたんだ・・・。
つらいことを思い出させてしまった僕は、無神経な自分に対する怒りがこみ上げるのと同時に目の前にいる少女がとてもいとおしく思えた。

「それでさ、遺伝子が同一なんだから、あとは環境が同じならほぼ同じ人間ができる理屈になるわよね」
「うん、理屈ではね」

優は僕の胸中などお構いなしに話を続けた。

「つまり、母さんが苦麗無威爆走連合の総長であった以上、私にも同じ経験をさせておく必要があったのよ」
「!・・・え?」

優のお母さんが、春香菜さんが、苦麗無威爆走連合の総長?あの落ち着いた雰囲気の女性が・・・?バカな!僕は自分の想像をはるかに超えた優のことばに耳を疑った。

「あー!その目は信じてない。あの落ち着いた雰囲気の人が・・・なんて思ったでしょう」
「え?・・・いや、そんなことないよ」

やばい、顔に出てたのか。優が少し怒ったような、拗ねたようなまなざしで僕を見た。

「あれは単なる年の功!私だってあんなふうになれるって証拠よ、ホクトってほんっとに年上が好きなのね」
「え?あ、いや、何いってんのさ、優ってば」

や、やばいな。話が妙な方へ流れていってるぞ。なんとかしなくちゃ。

「まあ、いいわ。5年もたてば分かるでしょ。とにかく今は母さんが総長だった話!」
「う、うん。そうだね」

助かった。優が追求をやめて話を元に戻してくれた。それにしても春香菜さんが総長か、今の優(秋)と同じ雰囲気だったらしいけど・・・しまった、B・Wのときに確認しておけばよかったな。

「とにかく!母さんが苦麗無威爆走連合の総長だったから、私も総長になるようにこっそりと母さん達に誘導されてたのよ」
「ほ、ほんとに?」

反射的に僕は聞き返していた。説得力はあるが、にわかには信じがたい。

「ほんとだってば、・・・たぶん(小声)。だいたい私は“7代目”よ」
「あ!そういえば」

僕は優の気性から自ら望んで総長になったとイメージいたが、確かに“7代目”では旗上げした“初代”が別にいるはずだ。そして普通、総長は先代から襲名されるから優(秋)を人為的に総長にさせることは不可能ではないはずだ。

「つまり、母さん達が、私の性格を強引に“春香菜”に似せるために、強引に総長にしたのね」
「じゃあ、苦麗無威爆走連合をつくった“初代”は春香菜さん?」

僕はごく当然のように質問した。自分の娘を暴走族にする思い切ったことをする女性なら、関東をまとめてしまえるような気がしたからだ。関東愚連会・苦麗無威爆走連合“初代”田中優美清春香菜、言われてみれば、あの落ち着きも、戦隊ヒーローのラスボスのような威圧感もうなずける(笑)。

「ところがそうじゃないの」
「え?」

予想に反した優の返事に僕は戸惑った。

「考えても見てよ。“初代”なんて名前がずーっと後輩に語り継がれちゃうでしょ?だから“初代”は別にいるの、母さんは“二代目”、まあ結成当時からメンバーだったことは違いはないけど」
「あ!そうか・・・・でもさ、それじゃ特攻服なんかに歴代の総長の名前が刺繍されたりしなかったの?」

次々と明らかになる苦麗無威爆走連合の歴史に僕はもう何に驚いていいのかわからなくなってきていた。

「んー♪いい質問ね、ホクト。ここからが重要なんだけど、“7代目”の私なんか可愛いものよ。あのね、ウチ連合には初代から受け継いだ特功服がないの」
「え、普通はあるでしょ?」
「普通はね。でも“初代”は特攻服なんて着る必要が無かったの、ううん、着る意味が無かったの」
「どういうこと?」

妙な事を言い出す優に尋ねてみた。

「“初代”はねバイクじゃなくて都バスで暴走してたらしいのよ」
「!!!都バス!?」
「そう、母さんが心臓病でお世話になった人の娘さんでね、大学の講師なんだって」
「うそ!」

講師ってその大学大丈夫なのか?
絶句する僕とは対照的に優は急に真面目な顔になって僕を見つめる。

「嘘みたいだけど本当なのよ。“初代”のころはスゴかったらしいよ。舎弟達もフェラーロに乗ったどこぞの財閥の御曹司やら、スケバン刑事みたいな名前のヒステリー女幹部とか、一番キてるのは“夏”とかね」
「夏?」
「私と母さんの他にもう一人“優”がいるのよ。長い名前かどうかはしらないけど、キてるわよ〜。なにしろフェリー強奪して無免許で操舵したらしいからね」
「うわー・・・」
「しかも酔っ払って」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





「コホン!」

長い長い沈黙の後、優が僕の意識をつなぎとめるかのように咳払いをした。
それから、真剣な表情をもう少しでキスができるほどの距離まで近づけた。
驚いた表情のままの僕に言い聞かせるように優は口を開いた。
僕の瞳の奥を覗き込むような優の目には逆らえない何かがあった。
でも少し悲しそうだな・・・

「だからね、ホクト!私は母さん達にむりやり総長にされたの、いい?」
「う、うん」

こんなに間近で真剣なまなざしを向けられたら、頷くしかない。

「しかも、先輩たちに比べると私なんかおとなしいくらいなのよ」
「そ、そうだね・・・」
「・・・・・・・・・・・・・いいわけじゃないのよ」
「・・・・・・・・・・・・・うん」
「よろしい♪」
「!?」

優はまだ少しぎこちない笑顔になって顔をはなした。
今僕は驚いたような残念なような非常に複雑な表情に違いない。

「ホクト!仲なおりにどこかにいこう!」

優は目にしているであろう僕の表情については何もいわず、彼女本来の太陽みたいな満面の笑顔で僕の手をとった。
“仲なおり”ってことはやっぱり怒ってたのかな?
やっぱり暴走族だったこと気にしてたんだろうか?
・・・・・・・・・。
少し気になったけれど優はもうごきげんみたいだ。
僕は今の優が・・・その、好きだし、今の優をつくった昔の優もみんな好きなんだけど・・・
そのことをいまここで優にいうのは少し恥ずかしい。
代わりに握った彼女の手を少し強引に引き寄せながら・・・

「うん!行こう」

と負けないくらいの笑顔で答えた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


       












「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・ねぇ、優?」

車窓の外の流れる景色を眺めていた僕は、違和感を感じて隣の優にたずねた。

「何?ホクト」
「僕らどこに向かってるの?」
「どこっていわれても・・・目的地はとくにないわよ」
「なんで?それに、このバス変じゃない?」
「どこが?」
「だって、僕らの他に誰もお客さんいないし・・・停留所に全然とまらないし・・・」
「そりゃそうよ、この都バスは先輩のマイカーだもの」
「え?」

優は凍りつく僕を無視して運転席のすぐ側に移動して、運転手に何かをささやき僕にふりかえった。
落ち着いた雰囲気のいかにもオトナって感じの女性が運転席から身を乗り出し僕に手を振ってくる。あ・・・美人♪・・・ってハンドル握ってないよ、運転手さんっ!前見てっ。

「紹介するね、さっき話した苦麗無威爆走連合“初代”総長・守野いづみさんで〜っす♪」
「よろしくね、ホクトくん」
「さっきホクトが残念そうな顔してたから、頼み込んで来てもらったのよ。私今まで族上がりってことにコンプレックス持ってたんだけど、ホクトがこういうのが好きなんだって分かったから自信を持ってこの道を進んでいけるわ!私もいつかは先輩達に負けないような立派な総長になってみせるわ。たのしみにしててね♪」
「・・・あ、あの、あれはそういうことじゃなくて・・・」
「じゃ、先輩、今日はよろしくお願いしまーす」
「まかせて♪秋香菜ちゃん。さ〜て、いくわよ〜」

テンションがさっきと違う!これは優の狂犬モードと同じ!

「あの、僕降ります、降ろしてください。お願いします。」
「走り出したらとまりませーーーーん」
「!★?※☆△@▼〒◇◎・・・・」


なぜあの時、僕は優の過去をきくなんてバカな真似をしたんだろう。
なぜ、沙羅にたずねるという手段をとらなかったのだろう。
そうすれば・・・そうすれば愛する人が道を踏み外すこともなかっただろうに・・・
声にならない、絶叫をあげ、戦慄する僕の手から、いつのまにか握り締めていた
鈴が・・・こぼれ落ちた・・・・・

「たすけて・・・infinity」






あとがき

読んでくださってありがとうございます。
みなさまの作品に感化されて、はじめてSSというものを創作してしまいました。雪だるまです。
自分で創作してみて初めて、難しさってわかるものですね。みなさまみたいに盛り上げられない(涙)。

このSSは前作N7のキャラとE17のキャラとの間に何らかの関わりをもたせたくてつくりました。しかも前作のドラマCDを聞いていない人にはさっぱりわかんないオチ付けてしまいました。白状します、最後のセリフを言わせたかったためだけにひっぱりました。ごめんなさいm(_ _)m。

雪だるまでした。


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