ゲーム本編と同じように
<武視点><少年(ホクト)視点>で進みます。
優の記述は以下のとおりです。

<武視点>
優(春)→優(春)
優(秋)→秋香菜

<ホクト視点>
優(春)→田中先生
優(秋)→優(秋)












「このままじゃいけないと思うの」

始まりはこの一言だった・・・
久しぶりに顔をあわせた時に優(春)が言い放った一言だ。
いや、きっとそのために呼び出したのだろうが・・・
優(春)の行動はいつも唐突だ。
そして、それに従わざるをえない。
そう、それもいつものことだ。



動物園へ行こう
                             雪だるま


<武視点>

「・・・・・・・・・・・」
「いきなりなんなんだよ?優」

至極当然といったように俺は彼女に聞き返す。
優(春)の話は、たいていは単刀直入で要点をえているが、端的すぎることがあり、誰かが話を進めてやる必要がある。

「私たちLeMUの事故から、みんなでテーマパークとかに行くことを避けてるじゃない?」
「・・・・・・・・・・・」

確かにそうだ。新しい生活が新鮮だったし、それなりに忙しかったのは事実だが娯楽を忘れているわけじゃない。ホクトと沙羅は恋人や友達と遊びにいくこともある。しかし、俺たちのグループでテーマパークやらレジャー施設へいくことは無意識に避けていた。
つぐみはトラウマになっても仕方がないほどの経験をしてるわけだしなぁ。

「2回目の事故は、私と桑古木が故意に起こしたものなんだから、くだらない理由で人生の楽しみを減らすことはないわ」
「でも優、私はもともと騒がしいところは好きじゃないわ。紫外線も厄介だし・・・」
「つぐみ!あなたはそうでも、子供達は残念でしょうね」
「!」
「若い子ってなんだかんだ言って、遊びたいものよ。あなたもせっかく見た目17歳なんだから、一緒に楽しんでても違和感ないわよ。武!あなたもね・・・」
「「・・・・・・・」」

これでつぐみは落ちたな・・・。家族のささやかな喜びはつぐみの最も望むものだ。
俺を引き合いに出されて驚いた(照れもした)が、確かに家族で遊びに行くのは楽しい。そして娯楽のために造られた施設に遊びに行って楽しくないわけがない。しかも、家族で出かける唯一のネック「年齢差による違和感」は俺たちには適応しない!

「そうだな、これからの人生にまでライプリヒに影響されることもないだろう」
「・・・・・・・うん」
「奴らのせいで、人生の楽しみをひとつなくすなんて癪だしな」
「・・・そうね、武」

つぐみが承諾の言葉を口にしたとたん・・・

『やったーーーーっ!』
「「!!」」

俺とつぐみ以外のみんな(ホクトと沙羅まで)が歓声をあげた。
どうやら俺たち以外には事前に話がとおっていたようだな。・・・さすが優。しばらく(俺にとっては)見ないうちにずいぶんと手回しがよくなりやがって。ん?ということは・・・

「というわけで、今度休みを調整してみんなで遊びに行くわよ!いいわね」

やっぱりか・・・すでに決定事項なんだな。一同をを見回して優が言い放つ。そして、俺の隣をびしぃ!と指差して・・・

「つぐみ!紫外線の件はわたしがなんとかしてあげるから、“アレ”着てきちゃダメよ」

と言い放った。なるほど、“アレ”か・・・確かに世間の目が気になるな・・・

「・・・・・・・・」
「をい、つぐみ!返事は?」
「・・・・・・・ダメ?」
『ダメ!』

つぐみ以外の全員の声がこだました。
つぐみ・・・まさかとは思っていたが気に入ってたのか・・・“アレ”

「え〜つぐみんの“アレ”かわいいのに〜」

あ、ココの声は聞こえなかったな・・・




<ホクト視点>

「ところでさ、テーマパークってどこ行くのさ」

僕が手を挙げてたずねた。まあ手を挙げる必要はなかったけど・・・
田中先生に今回の計画(お父さんとお母さんも連れ出す計画)を聞いたとき聞かされていたのはここまでだった。

「おっ、拙者“手裏剣村”に行きたいでござるよ」
「やはり“LeMU”がよろしいかと・・・」
「ココはね〜、“動物園”とかがいいな、ふれあい広場なんかで本物とヒヨコごっこするの」
「ココに賛成」

う〜ん、やはりこれだけの人数がいると意見もばらばらだ。しかし、これだけで誰のセリフか分かるってのもすごいな。僕は優(秋)と一緒ならどこでもいいんだけど(・・・これじゃ、桑古木といっしょだ)。

「はいはいはい、わかったわかった」

田中先生が手を叩きながらその場を納める。いったいどうするんだろう?

「さすがに全員の希望をかなえることはできないわ。ここは・・・順番ね」
『順番?』
「そう、こういう時は最年少の子供の希望を優先するものよ、テーマパークに限らず、みんなが楽しめる娯楽施設ならOKということにしましょう」

さすが先生、確かに大人の趣味で子供を娯楽施設で連れまわすってのは、かっこ悪いな。
でも、この中で最年少というと・・・?

「ということはどうなるんだ、優?」

お父さんがちょうど僕の疑問を口にしてくれた。
それぞれがお互いの顔を見回した。

「拙者でござるな」

うれしそうに沙羅が声をあげる。

「ちがうわ、ココよ!倉成とココの眠ってた17年間をカウントするのはアンフェアでしょ、それと空は24歳で固定」

田中先生が、“ゴメンね”という表情で沙羅に答える。

「む、無念でござるぅ〜」
「まあまあ、沙羅次回は“手裏剣村”なんだから・・・」
「・・・うぅ、そうでござるな兄上」

やっぱり、見た目も精神年齢もココちゃんが一番子供っぽいしな・・・。
崩れ落ちる沙羅をなだめながら納得した。当人に目をやるとココちゃんは桑古木と手をつないでぐるぐる回りながら喜びを全身であらわしている。
こうしてみると無邪気な妹と、妹に甘すぎる兄に見えるよなァ。

(君も他人のことは言えないだろう・・・)
「!」

なんだ?いまの・・・BWの声が聞こえたような・・・いや、気のせいだよな。うん。

「・・・というわけで“動物園”に決定したけど、できるだけ対象年齢の広いところを選ぶから安心して、ココもそれでいい?」
「いいよ〜、いろんな動物ごっこしようね〜」

あ、田中先生がまとめにはいった。これだけの人数をまとめ上げる先生はいつもながら凄いと思う。優もいずれこうなるんだろうか?

「じゃあ、詳しくは後から連絡するから、今日は一応解散しましょう」

田中先生の言葉でみんなが肩の力を抜く。別に緊張する必要はなかったんだけど“解散”って聞くとそんな気になるのはなぜだろう。あ、でもココちゃんはいつもどおりみたいだな・・・っとくだらないことを考えていると優が田中先生となにやら話している。そういえば優、今日は静かだったな。・・・怪しいくらいに。田中先生と何話してんだろ?あ、お父さんも気になるんだ、二人に近づいていく。よし、僕も・・・

「(ヒソヒソ)・・・・・・フフフ」
「(ヒソヒソ)・・・・・・うまくいったわね、お母さん」

「何話してんだ?」
「何話てるの?」
「「!!」」

僕が声をかけたら、二人して1メートルぐらい後ろに飛びすさった。お父さんが冷たい眼差しを二人の優にむける。

「・・・何か、たくらんでやがるな?」
「フッ、たくらんでるなんて人聞きの悪い」

田中先生はやれやれといった感じで、受け流す。

「じゃあ、何だったんだよ?」
「そうね、もう決定したんだし・・・いいわね」
「???・・・・何が?」
「順番よ!わたしと優(秋)の順番がきたら、“世界の闘争&拷問展覧会”や“超暗黒オカルト博物館”に行ってもらうわ」
「「なにぃ!?」」

な!そんな施設があるのか?いや、それよりもそんな物騒で怪しげなところに連れて行かれるのか?

「順番よ、順番!わたし達だけ希望を却下されるなんて、ひどい事はないわよねぇ」
「くっ、はかったな、優」

お父さんが“してやられた”といった様子で後ずさる。

「あのさ、どうしてわざわざみんなでそんなところへ行くのさ?」
「そうだ!どうしてお前達だけで行かないんだ?」

ぼくが当然の質問をすると、お父さんも気を取り直して聞いてきた。

「あのね、うら若き乙女だけでそんなところにいけると思う?」
「そうよ、ホクトと二人だけで行っても、私に主導権があるのが一目瞭然なんだから」

う・・・優、頼りなくてゴメンよ。

「一人では行きにくい、私たちはそっくりだから二人で行ったら余計目立つ!」
「こうなったら大勢で“シャレで来ました”って、演出するしかないでしょ」
「それと誤解しないで!みんなで遊びに行くことがメインよ、私たちの計画はオマケ」

なるほど・・・しかし、BW計画ほどじゃないにしてもなんて壮大かつ巧妙な計画だったんだろうか。うら若き乙女がそんなに闘争やら拷問やらオカルトやらが見たいのだろうか?・・・シャレではなく本当に興味があるんだろうな・・・。物騒&怪しげなテーマパークに異常なまでに執着するうら若き乙女・・・世界に何人くらいいるのだろうか?決して多くはいないだろう・・・そっくりな笑顔でうれしそうに微笑む二人を見て、お父さんがつぶやいた

「やっぱり・・・お前たちって・・・・」









<武視点>

「つぐみー、用意できたかー?」
「んー・・・、もうちょっとー」

玄関先から奥の部屋に声をかけた。今つぐみは優からもらった化粧品で紫外線対策をしている。数時間おきに化粧直しが必要だが、見た目は普通の基礎化粧品だった。つぐみは化粧品を受け取るときにまで“アレ”ではダメかって聞いていたが・・・

「まっだかな?まっだかな?」
「沙羅、落ち着いてよ」

沙羅はとうに準備をすませて迎えが来るのを待っている。外で何度も迎えを探してあたりをみまわす。ホクトも妹をなだめているようだが、唇の両端が微妙に上がっている。二人ともラフな格好で今にも足踏みでも始めそうだ。やれやれ・・・しかし喜んでいるようで何よりだ。

「お待たせ、武」
「おー」

あらわれたつぐみは、子供達と違っていつもどおりのワンピースだった。まあその辺がらしいっていえばつぐみらしいな。かくいう俺も普段着だけど・・・

「・・・武?どうしたの?」
「・・・いや、なんでもない」

いぶかしむつぐみに笑顔で応えてやる。
服こそいつもの黒いワンピースだが、陽光の下で見るのは初めてだ。着飾るよりもむしろ新鮮だったかもしれない。つい見とれてしまっ・・・・いやいや、そんなことは・・・ない・・・こともないか、認めよう。

「その、つぐみとお日様の下を歩けるなんてな・・・優に感謝だな」
「・・・そうね、夢みたい」
「・・・あのさ」
「何?」
「何ていうか・・・新鮮だよな」
「・・・・・・・バカ」

照れているのか(照れてるんだろうな)うつむいたつぐみ(きっと赤くなってる)に“お前のせいだぜ”なんて言葉をかけて、もっといじめてやろうか・・・とか考えていると・・・

「おまたせー、倉成ー、つぐみー、イチャつくのはもういいかなー」

優の呼ぶ声がした。なにぃ、いいところで!いや、いつの間に?・・・まぁいい、いつものことだ。“お約束”ってやつだな。

「お、おう!すぐに行く」
「あ!武、待って」

優たちのところに駆け寄ろうとするとつぐみが“待て”をかけた。

「どうした?つぐみ、まだ何かあるのか」
「ううん、この荷物置いてくるわ」
「荷物?」
「一応持って行こうと思ってたけど、やめておくわ」
「なんだそれ?結構、大荷物だな」
「“アレ”よ」
「持って行く気・・・だったのか?」
「もういいの、今日の私には必要ないみたい。・・・武のおかげでね♪」
「!!!・・・・(照)」

くっ、見事なカウンターだ。油断したぜ!さすがつぐみ!言葉を失って立ち尽くす俺を尻目に“アレ”を玄関に押し込んでみんなの所に向かう。戸締りをして俺もつぐみに追いつく。

「じゃあ行くわよ。倉成、戸締りとガスの元栓は大丈夫?」
「おう、戸締りもしたし、水道を出しっぱなしにしてきたから火事の心配もない」
『・・・・・・・・』
「冗談だ」

凍りついた場をどうしようか考えていると、天然二人組みがそれぞれフォローしてくれた。

「にゃははははははは、たけぴょん、ナイスコメッチョ」
「はっ!く、倉成先生、今のは“ないすつっこみ”を入れるべきだったのでしょうか?」

ココ、コメッチョって普通の冗談とどう違うのか分からないが、とにかくありがとう。
茜ケ崎くん、素直な生徒をもって私は幸せだよ。
大ウケしてくれたココと、真面目にうろたえる空に対して俺は感動を禁じえない。
妻や子供達は頭を抱えているが、君達がいて本当によかった。どうやら俺も子供達と同じようにハイになっているのかもしれないな。

「とにかく、出発するわよ」

優(春)がそれまでのいきさつを完全に無視して一同を促した。無視されるのもツライぞ、優!

「倉成、運転できるわよね?」
「ん、車で行くのか?」

確かに普通車が3台、田中親娘と桑古木が運転してきたんだろう。

「ホントはバス借りたかったんだけどね、運転できるわよね?」
「ああ、できるけど、どう振り分けるんだ?」

「俺は、ココと一緒がいい」
「ぼくは優(秋)と・・・」
「あたしもおにいちゃんと・・・」
「倉成さんと・・・」
「やっぱり夫婦は・・・」

ああ、やっぱり収拾つかなくなってきた。

「はいはいはい、みんな落ち着いて」

優(春)が手を叩いてみんなを落ち着かせる。
なんか引率の先生みたいだぞ、優。・・・いや、実際その通りか。

「みんなが納得できるように私が振り分けてあげるわ・・・フフフ」






振り分け完了

1号車
運転手:武 助手席:つぐみ 後部座席:優(春)&空

2号車
運転手:優(秋) 助手席:ホクト 後部座席:沙羅&ココ

3号車
運転手:桑古木 助手席:ココ、の荷物 後部座席:その他みんなの荷物







「をい!」

桑古木から突っ込みがはいった。まぁ当然だろうな。

「何?」
「言わなきゃわからんか?」
「私が聞けば状況が変わるとでも?」
「・・・・・・・」

まったくやれやれだぜ。さすがにそれは哀れだろう。ここは弟分を助けてやるかな

「まあまあ優、荷物はトランクに入れればいいんだし・・・」
「ダメよ、トランクはにおいが移るから」
「なんでそんな車を用意したんだよ?」
「借りようと思った車が、借りれなかったから急いで用意したの」
「しかし、一人ってのは寂しいだろう」
「助手席にココの荷物を配置してあげたんだからいいでしょ」
「意味あんのか?それ」
「そうだよ、ありがとう、武」

話し合う俺たちのところに2号車からココがやってくる。

「ねえねえ涼ちゃん。一人は寂しいでしょ」
「ココ〜、ありがとう〜」

感激してココの手をとる、桑古木。

「だからね〜、ピピを涼ちゃんに貸してあげるね」
「え???」
「ホントはピピも一緒がよかったけど涼ちゃん寂しいもんね」
「あの・・・だったら・・・」
「ココは〜ココの荷物のお菓子を引き取るから〜」
「だからさ、ココ・・・」
「お菓子は涼ちゃんにも分けてあげるね〜」

ココは桑古木の悲哀の声を素で受け流し。3号車から自分の荷物を引っ張り出した。さらに入れ替わりにピピを助手席に乗せると、お菓子をいくつか取り出してこれも助手席に乗せた(きっと桑古木の分だろう)。そして悠々と2号車に帰ってゆく・・・。
そして、その後姿を呆然と見送る桑古木・・・。

「なあ・・・」
「・・・・・・」
「あの・・・さ」
「・・・・・・・・・」
「つぐみからチャミも借りようか?」

もう、彼にかけることのできる言葉は他に無かった。






無事?に車に乗り込んで目的地に向かう。運転にもなれてきた頃、ふとあることに気づいて優(春)にたずねる。


「そういえば優!場所知ってんのお前だろ?なんで俺が運転手なんだ?それにナビも空の得意分野じゃないのか?」

俺が後部座席の優と空に訪ねる。助手席のつぐみは・・・あ、眠っちまってる。こいつ、実は楽しみで眠れなかったんだろうな。遊び目的でにレジャー施設に行くなんて経験は初めてだろうし。

「私たちが、倉成の運転する車に乗ってみたかったのよ」
「そうです倉成さん」
「大人4人がみんな一緒で、2号車は未成年ばっかりだぞ」
「大丈夫、秋香菜の運転技術は私が保証するわ」
「はい!“七代目”ですものね」
「何だよ?それ」
「腐腐腐」
「気味悪い笑い方するなよ」
「今のがヒントよ、怖怖怖」
「はぁ?」

何を言ってるんだ?

「それと、助手席にはつぐみを乗せておくことで、余計な揉め事を回避したの」
「私がナビをするって申しましたら小町さん、きっと怒りますものね」
「そうかもな・・・」

子供のように眠りこけるつぐみの寝顔を横目で見ながら、運転中であることを少し残念に思った。









<ホクト視点>

「到着、到着〜」

動物園の駐車場に着いた。優の運転はお父さん達の車が先行していたからか(予想していたより)安全運転だったし、おしゃべりも楽しかった。
ココちゃんが“ピロピロピンポンドォ〜ン”っていうトランプ遊びをやろうと言い出したり、車酔いするからやめようって反対したり、、そもそもそれは“神経衰弱”じゃないのか?いやいや、“スーパーめくりんちょ”のはずだとか言い争って結局“神経ピロりんちょ”の呼び方にに落ち着いたり、じゃあ、動物園に着くまでどうするのか考え込んだり、ココちゃんのコメッチョを聞いたり、無難にしりとりをはじめたら3周したところで飽きたり、桑古木は一人寂しくどうしているのか予想してみたり(ちなみにこれが一番盛り上がった)、ココは田中先生のことを「なっきゅ」って呼ぶけど優(秋)はどう呼ぶのかとか、前方を走るお父さん達の車の中の四角関係はどうなっているのか(実は結構おだやかだったらしいけど)話し合ったり、もうなにやらわけが分からなくなったところで目的地に着いた。
文字通り若い娘が三人集まった以上の姦しさを抑える大人はいなくて、僕らは大騒ぎしながらお子様グループのひと時を楽しんだ。そういえば正確にはココちゃんが一番年上なんだよなァ・・・一番年下に見えるんだけど・・・

「ほほ〜い、なっきゅ〜、たけぴょ〜ん、空さ〜ん」

ココがすでに駐車して、車から降りてきたお父さん達のところに駆け寄って行く。

「おう、ココ、無事に着いたか?」
「たけぴょんもね〜」

お父さんは駆け寄ったココちゃんの頭を大きな手のひらでグシャグシャとなでた。
お父さんとココちゃんのやりとりをみていると、血のつながりがあるんじゃないかと思えるときがある。本当に血のつながりがあるのかどうかはBWを発現させた僕には“否”とはっきり答えることができるのだが、僕や沙羅よりも両親との相性がいいように感じられる時がある。お父さんもお母さんもココちゃんとはとても仲がいい、実の息子として嫉妬を感じさせないのはココちゃんの人柄だろうか?ココちゃんならいいかな?とか思ってしまうのだ。

「ピピと涼ちゃんは、まだかな〜?」
「じきに来るでしょ」

そっけなく言い放つ田中先生には、何の感情も感じられない。田中先生と桑古木の関係って実際のところどうなんだろう?“恋人”ではないし、“助手”は近いかもしれないけどそんな事務的なものじゃない気もするし、あ、“相棒”っていうのも近い気がする。“奴隷”っていうのは可哀想だし・・・。そうだな“姉弟”っていうのが一番近いような気もする。弟の方は姉に逆らえないみたいだけど、ココちゃん以外の2017年のみんなにとっては彼はいつまでも“弟”な立場は変わらないのかもしれない。

「あ、きたよ・・・」

ココちゃんの示す方向に桑古木さんの車が見えた。ココちゃんにもらったのか“すこんぶ”を食べつつ・・・。なんてかわいそうな姿・・・。“すこんぶ”はやりきれない気分の時に食べるもんじゃないよね。桑古木さんちょっと泣いてるし。

「ね、ココちゃん、桑古木さんが着いたら、ピピより先にお迎えしてやってね」
「なんで?」
「・・・・・・いいから、お願い」
「うん、いいよ〜」

少しは救われたかな?到着して「ピピ〜♪」じゃあ哀れすぎる。

・・・・・・・・・・・・・


「そろったわね。じゃあ入場するわよ」
「入場券はもう準備しています。皆さんどうぞ」
空から僕たちは入場券を受け取った。

『超絶アニマル天国』
広大な敷地に通常の動物園に加え、サファリパークの要素も取り込んだ動物たちの楽園。


なるほど、対象年齢が広いところを選ぶと言ってたけど、グッドチョイスだ。案内パンフを見る限り動物園とサファリパークが合体したようなところなんだな。ネーミングはいまいちだけど・・・





「さってと・・・どうしよっか?」

そう言い出したのは優だ。

「このまま歩いてても、大所帯じゃない?」
「それもそうですね。また分かれましょうか?」
「車とは違ったわけ方でな!」

少し怒気をはらんだ声があがった。

『・・・・・・・・そうだね』
「ハモるな!哀れんだ目で俺を見ないでくれ、泣きたくなってくる」

誰の声とは言うまい・・・・。

「まっ、適当に歩いてて、面白そうな動物がいれば、好きに分かれましょ」

優が歩き出し、先導する靴が小気味よい音を立てる。僕たちもそれに続いて歩き出した。それもそうだよな。

「来てよかったわね、武」
「つぐみも楽しみにしてたみたいだな、夜も眠れないほど・・・♪」
「!!!なによ、知ってるってことは武も起きてたんじゃない」
「つぐみほどじゃねえよ」
「もう!」
「まぁ、このメンツがそろって何事もなく、休日を楽しめるのはいいことだな」
「ごまかしたわね。ったく、まだ来たばかりよ。どうかしら?」
「縁起でもないこと言うなよ」
「あら、わからないわよ。なにしろ“このメンツ”だから」
「LeMUみたいに事故るってか?まさか・・・」
「そこのバカ夫婦、物騒な会話してるんじゃないの!」
「まったくだぜ」

(たぶん)平和な言い争いが聞こえる。やっぱり来てよかったな。
しばらくの間、みんなでサルやらキリンやら基本的?な動物のオリを見物して一休みしていると・・・

「・・・ぐす・・・あ、う〜・・・ぐす・・・」

一人で泣きながら、ふらふらと歩いている男の子が僕らの前にあらわれた。
気づいた優が近づいて行く。優って姉御肌っていうか、面倒見がいいところあるよな。やっぱ惚れ直しちゃうかも・・・なんてね。

「・・・う〜・・・ひっく」
「どうしたの、君?大丈夫?もうこわくないから」

優が少年の前にしゃがみこんで同じ視線からやさしく話しかける。

「・・・えっぐ、えっぐ」
「もう大丈夫だから・・・ね。泣くのはやめよう、ね」
「・・・うん、・・・グス」

よかった少年も泣きやんだみたいだ。ゆっくりと安心の表情に変化していく。優、すごい。
僕たちも少年を怖がらせないように気遣いながら優と少年に近づいた。
優が泣きやんだ少年に話しかける。

「ねえ、君、どこから来たの?名前は?」

少年の表情が少し変化する。狼狽の気配だ。

「・・・・・・あれ?」
「どうしたのかな?」
「・・・・・・わからない・・・なにも思い出せない・・・」

『やばい』

それは“このメンツ”にしか理解できない恐怖だっただろう。記憶をなくした“少年”との遭遇は僕たちに恐怖を抱かせるに充分だった。

「あの・・・おねえちゃん」

迷子がなにやら言いかけたがそれどころではなかった。このままでは命に関わるかもしれない。僕たちはこの状況から脱するべく、本能の告げるまま全力で走り続けた・・・・と思う。どこをどう走ったのかは覚えていない・・・









<武視点>


・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・ふう、やれやれ」

まったく、薄情なやつらだぜ。まあ無理ないかもしれんけどな。
悲鳴を上げながら走り去ってゆく、愉快な友人達の背中を見送って俺はため息をついた。
逃げ遅れた?のが俺一人じゃないのが幸いといえば幸いだ。つぐみが俺の左腕にしがみついている。あ、ココが笑い転げている。

「なあ坊や、本当にわかんないか?とーちゃんかーちゃんや友達は坊やのことなんて呼んでんだ?」

つぐみのことはさておき、迷子に話しかける。秋香菜みたいにしゃがみこめない(なにしろつぐみが力いっぱいしがみついてる)かわりに頭をくしゃくしゃとなでてやりながら、スキンシップをはかる。

「・・・え〜とね・・・んと」
「うん」

やっぱり、心細くて混乱してただけなんじゃないか、まったく。
一所懸命に思い出そうとしている迷子に寄り添いながら焦らず答えを待つ。

「なあ、坊やの服とかに名前かいてないか?」
「え?」
「坊やくらいの年なら、多分かいてるぞ」
「・・・服?」

迷子が自分の涙とよだれでぬれた服の襟元を摘み上げる。そのとき襟元から何かが見えた。

「坊や、それは?」
「?」

迷子の首からかけられているそれは“迷子札”だった。アホらしい。しっかり本人と両親の名前、住所、連絡先まで記載してある。

「・・・石原くんか」
「うん♪」

迷子札を見てなんとなしに読み上げてみた。確認したわけではなかったのだが、坊や(石原くん)が返事をしてくれた。
これでこっちの問題は解決したわけだ。俺はポケットから携帯を取り出した。








『本当にありがとうございました』

迷子くんは無事、父親と再開することができた。石原親子からお礼の言葉を受け取ると、俺たちはもうひとつの問題を考えなくてはならない。

「さて、これからどうしようか?つぐみ?ココ?」

振り向いて、2人だけになってしまった同行者に話しかける。

「よかったね、武♪」
「たけぴょん、かっくい〜」
「ありがとよ」

俺の質問を無視して発せられた。賞賛の言葉を素直に受け取る。女性に褒められるのは気持ちがいいものだ。

「それで、他の連中はどこへ行ったんだ?」
「さあ?」
「・・・だよな」
「どうする?武、ここで待つ?」
「う〜ん」

くそ、連中にも迷子札をぶら下げておくんだった。だが今から悔やんでも遅い。さっきは携帯が使えたが、この動物園は基本的に電波が届きにくいようだ。八方ふさがりか?

「ねえねえ、つぐみん、たけぴょん。みんなを探しながら遊ぼうよ〜」
「・・・そうね」
「・・・そうだな」

ココから建設的な意見が出された。確かにそれが一番いい。元々ココの希望で動物園になったんだから楽しまなければ損だ。

「はやく〜♪いこいこ」

はしゃぐココを追いかけるようにして、俺とつぐみは歩き出した。

「なあ、つぐみ」
「うん?」

俺はふと疑問に思ったことがあったのだ。ココはいつものマイペースであわてふためく連中をみて大笑いしていたが、つぐみは俺を放してなるものかとばかりにしがみついていたのだった。

「なんでお前は逃げなかったんだ?お前はLeMUで一番悲惨な目にあってるだろ、怖くなかったのか?」
「・・・・・・・・・・ばか」

予想外どころか俺の質問をまったく無視した言葉がボソリと告げられた。

「ばかとはなんだ。ばかとは」
「ほんとにばか」
「なんで?」
「怖かったけど、もう武とは離ればなれにはなりたくなかったからにきまってるじゃない」
「!!!」
「・・・どんな事故が起こってもね」

そう言い残してつぐみは驚いて絶句する俺に背中をむけて手を振っているココの方へ走っていった。
なんか今日のつぐみは・・・素直?大胆っていうのか、な?太陽の下に出られてごきげんになっているのだろうか。いいことなんだけど、ちょっと調子が狂うな。・・・・・・・新鮮なんだけどな。

「たっけぴょ〜ん」
「武〜」

いつのまにかつぐみとココが一緒になっててを振っている。早く来いということらしい。

「へいへ〜い」

やれやれといった態度を装って俺は歩を速めた。実は俺様もごきげんなのだ!
今日は楽しもう!










<ホクト視点>

『ハァ、ハァ、ハァ』

誰の呼吸音かは分からない。肩で息をしているのは誰も同じだ。

「もう、大丈夫・・・・みたいだね」

爆発しそうな心臓を何とかしずめながら、あたりを確認する。前方を走っていた桑古木さんに誘導されるように走り続けてしまった。速かった、さすがはキュレイ。1回は故意とはいえ2回もLeMUの事故を経験してるんだもんな、桑古木さんは・・・。必死にもなるよな。田中先生はもちろん優も両手をヒザにして呼吸を整えている。この親娘もすごいな。沙羅は・・・

「あーん、もう足いたーい。腕も真っ赤でござるよ〜」

地面に座り込んで、右腕をぶらぶらさせている。あのパニックのなかで、逃げ遅れ、つまづきそうになっていた沙羅の腕をつかみ、引っ張ってこれたのは自賛してもよいと思う。妹を見捨てる気はもちろんないけど、気遣う余裕をもてたのは我ながらよくやった。

「それにしても、ここはどこかしら?」

優が状態を起こしてあたりを見回した。ずいぶん景色が違っている。

「かなり遠くまで走り続けたようですね」
「携帯も“圏外”みたいよ」

空がなんとか冷静に答えた(空も急な運動すると疲れるみたいだ)。田中先生が携帯をチェックする。

「それにしても、何も起こらなくてよかったわね」
「ああ、まったくだぜ」

優がやれやれ一安心といった表情をつくり、桑古木さんがそれに賛成した。
2度あったことが3度あるとは限らないんだな。

「あの迷子くんを救護室とか迷子センターとかに連れて行ったら何か起こったかも・・・」

優がまたいぶかしむ表情になった。そうかもしれないなとか考えていると、田中先生が驚きの声をあげた。

「大変!倉成とつぐみとココがいないわ」
「はぐれたのか?」
「ええ、たぶん」
「どうしよう、パパとママは・・・」

不安顔になる沙羅を落ち着かせるように田中先生は対処方法を探し始めた。

「携帯は使えないし・・・空、衛星から位置を確認できない?」
「あ、そうでした。おまかせください・・・・」

空はやわらかに微笑むと両目を閉じて検索を開始した。

『・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・・・・・」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふう」

空が目を開いた。少し表情がこわばっているような気がする。

「どうだった?空」

みんなが真剣な眼差しを彼女に向ける。

「みなさん、倉成さん達は無事のようです。私たちが走り始めた位置からほとんど動いておられません」
「あ〜よかった」
「これで、一安心ね」
「ニンニン」
「空なら位置がわかるんだろココたちと合流しようぜ」

みんなが表情をゆるめて、肩の力を抜いた。桑古木さんは早くココちゃんに会いたくてたまらないようだ。

「みなさん、落ち着いてよく聞いてください」

空がこわばったままの表情で僕たちを見つめる。

「・・・・いいですか?倉成さんたちの居場所はわかりました。問題ありません。問題なのは私たちのいる場所です」
「え?」
「空?僕たちの場所わからないの?」
「いいえ、わかるから、問題だと申し上げたのです」
「空、まさか・・・?」

田中先生が表情を変えた。空は田中先生の心を読み取ったかのように残酷な事実を発表する。

「・・・そうです。私たちはサファリパークエリアの危険地区に入り込んでしまったようです」
「!!!そんなバカな!」
「きっと夢中で走ってましたから気づかなかったのですよ♪桑古木さん」
「“ですよ♪”って今はその笑顔が残酷だよ、空」

まさか、とは思っていたが認めたくはなかった事実。しかし僕たち、どうやって入り込んだんだろうか?

「と、とりあえず、位置は把握できてるんだから。動物園のエリアに戻りましょ」

田中先生が口元を引きつらせながらも、唯一とるべき行動を示してくれた。確かにそれしかない。本来、安全が確保された乗り物で訪れるべきエリアに生身でやってくるなどありえない。きっと無数の危険動物がうろついているに違いないのだ。

「空、危険な動物の位置はわかる?できるだけ安全なルートで出口へ案内して」
「はい、できる限りやってみますが、皆さんも、彼らを刺激しないように気をつけてくださいね」
「うん」
「了解」
「わかったわ」
「御意」
「OK」

僕らはいつになく真剣にうなずいた。
そして、空の案内にしたがって危険地域から脱出するため歩き出した。







・・・・・・・・・・・・・・・・

「(ヒソヒソ)・・・・ねえ、空?」
「(ヒソヒソ)はい、何ですか?」
「(ヒソヒソ)私、安全なルートでって言わなかった?」
「(ヒソヒソ)はい、うかがいました」
「じゃあ、この状況は何!?」
「しっ!だめですよ、大声を出されては、ルートそのものは安全だったでしょう」

そう、僕たちは今、少なくとも安全な状況にはいない。だが出口は見えている。説明すると茂みの中で息をひそめてすぐ近くまで迫っているサファリパークエリアの出口の門をながめている。問題は僕たちのいる茂みと出口の距離が微妙であることだ。何が微妙かというと付近に“百獣の王様”がいらっしゃるのだ。しかも、どうやら空腹でご立腹のご様子・・・臣下の者が現れたら、激怒して暴君になってしまわれることだろう。飼育係の持ってくる食事の時間でも待っているのだろうか?

「おい優!どうすんだよ?」
「うっさいわね、今考えてんのよ」

桑古木が田中先生に毒づいている。確かにこのままではいけない。他の危険動物もやってくるかもしれない。なんとかいい考えはないものか・・・・。

「(ヒソヒソ)ねえ、マヨ。ケムリ玉とか、しびれ薬の吹き矢とか持ってない?」
「(ヒソヒソ)無念でござる。拙者、本日ただの動物園と思っておりましたゆえ・・・」
「(ヒソヒソ)沙羅、家でそんなもの作ってたの・・・・」
「(ヒソヒソ)あ、兄上、冗談でござるよー」
「(ヒソヒソ)ほんと?」
「・・・・・・・・」
「(ヒソヒソ)返事は?」
「・・・・・・・ニンニン」
「(ヒソヒソ)ごまかさないでよ」

「(ヒソヒソ)ちょっと、あなたたち!こっちへ来て」

僕たちがくだらない相談をしている間に田中先生が何かを思いついたようで、僕らを手招きしていた。僕たちは茂みの中に身を寄せあって耳を傾ける。

「(ヒソヒソ)いい?みんな、もうこれしかないわ」
『ゴクリ』
「(ヒソヒソ)幸い出口は近い。あのライオンがもう少し出口から離れてくれたら扉を開錠してエリアの外へ脱出できるわ」
「(ヒソヒソ)そうですね」

真剣な表情でみんながあいづちを打つ。

「(ヒソヒソ)でも、あのライオンは何かを待っているのか扉の側を離れようとしない・・・」
「(ヒソヒソ)ええ」
「(ヒソヒソ)つまり、あのライオンを扉から離すことができればいいのよ。もうわかったでしょ?おとり作戦よ!誰かがあのライオンをひきつけ遠回りして出口に戻ってくる。その間他のみんなが脱出して、めでたしめでたし」
「(ヒソヒソ)でも、田中先生?」
「(ヒソヒソ)何?空」
「(ヒソヒソ)“おとり”って、いったい誰がそんな危険な役を・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

一陣の乾いた風が僕らのなかを吹き抜けた。








<武視点>

「へ〜い♪ソフトクリーム3つお待ち!動物にはあげちゃいかんよ」
「わかってるよ、おっちゃん」

売店のおっちゃんからソフトクリームを1つずつ受け取り、リレーで俺→つぐみ→ココとまわってゆく。動物園エリアを一応ひとまわりしたがみんなの姿は見えない。一休みしようということで都合よく空いていた売店でソフトクリームを調達することにしたのだ。若いバイトではなくおっさんがソフトクリームの売店を出しているというのに違和感を覚えたが、熟練の技なのかクリームの巻きっぷりが見事だった。

「あんたら親子なのかい?ずいぶんと若く見えるねえ〜」
「ええ、まあ。よく言われます」

俺たちの関係を説明するのも面倒だし、説明する必要もないのでそういうことにしておく。
おっさんは気をよくしたのか、“若作り夫婦”の娘に声をかけた。

「嬢ちゃん、キレイなママと男前のパパでよかったな」
「ふぐふぐ」

ココのほうはおっさんを力いっぱい無視してソフトクリームに没頭していた。

「そうか、そうか。よかったな」

なにが“よかった”のかは判らんが、無視されたというのにさらに機嫌をよくしたらしいおっさんは呵呵と笑った。

「武、私たち親娘に見えるのね」
「なぜだ?ココくらいの娘がいるような年には見えないと思うんだけどな」
「実の娘はもうすこし年上なんだけどね」

つぐみは苦笑してそう付け加えた。嫌そうではない。いや、むしろうれしそうだ。

「それはね〜。たけぴょんはパパらしくて、つぐみんはママらしいからだよ〜」

ココに声をかけられて、おっさんの言うところの“娘”を見やる。う〜ん、せいぜい“妹”だと思うんだけどなぁ。

「それでね〜、日本国憲法の・・・」
「ココ・・・それはもういいから」

ココの言い出すことを察した俺は続きを制した。なにしろ2017年には何度も聞いている。ココと俺にとってはついこの間のことだ。

「ココ、鼻の頭にクリームついてるぞ」
「え?」

話をそらしてやる。しかし、以前のようにつぐみと二人がかりでココを説得するような気にはならなかった。実際につぐみと夫婦になったからかもしれない。

「武、うれしそうね」
「そうか?・・・・・・・うん、そうだな」

つぐみにそう言われ、自覚する。“パパらしい”今の俺には最高の褒め言葉かもしれないな。ホクトと沙羅に親らしいことをしてやれなかった後ろめたさを消し去ってくれるような言葉だ。それにつぐみ自信もうれしそうだったから、この気持ちはいいことだと思うことにする。

「それにしても、他の連中はどこに行っちまったんだろうな」
「気になる?」
「少しはな。まぁあれだけにぎやかなのが揃ってるんだからそのうち見つかるだろ」
「・・・そうね」

なんとなしに、二人して青い空を見上げる・・・・・・・

「ところでつぐみ・・・」

さりげなくつぐみに声をかける。

「なに?」
「お前も鼻の頭にクリームついてるぞ」
「え!うそ?」
「ご愛嬌だな。可愛い可愛い♪」
「もう!」

すねたつぐみをからかいながらもう一度空を見上げた。
ほんとに何してやがんだろ?あいつら・・・・









<ホクト視点>

「っぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」

田中先生に茂みの外へ蹴り出された名誉ある“おとり役”は暴君と化したライオンに追いかけられていった。ガンバレ・・・
だれが“おとり”になったのかはあえて言うまい・・・

「あんまり遠くへ逃げすぎると戻ってくるのがしんどいよー」

無責任に危険エリア“外”からありがたいアドバイスを送る田中先生。恐ろしい女性だ・・・。
さすが優の“母親”にして“分身”。僕は優の“彼氏”でよかったと心から感謝した。

「お母さん、はじめからそのつもりだったでしょ」
「お腹へらした肉食獣がいたら“エサ”を与えて逃げようって?」
「うん、そうなんでしょ?」
「さすが、我が娘。思考パターンもそっくし♪」
「それって褒めてんの?」
「当然♪」

やっぱり・・・。あわれ桑古木さん。キュレイでよかったね。







「・・・・・・・・・・・・・・・死ぬ」

“おとり”が力尽き崩れ落ちる。ここは安全エリアだ。

「桑古木さん、お疲れさまでした」
「忍者も真っ青な走りっぷりでござったな」

空と沙羅の賞賛も聞こえていないようだ。ほんとに食われかかってたもんなぁ。

「お〜い、生きてる?」
「だめよお母さん、すでに死んで・・・・」
「・・・ねェよ!」
「よかったわね♪よくやったわ、さすが桑古木!」

桑古木さんが起き上がって肩で息をしながら必死の表情で田中親娘につめよった。あ、血の涙・・・

「いきなり、なんてひでえコトやがんだ」
「しっかり役目を果たしたわね、立派よ!」
「そうよ、カッコいい♪」
「死ぬとこだったじゃねェか!」
「でも、死んでないわね!」
「よっ、不死身の男!」
「1回組み伏せられたんだぞ!」
「ライオンの肉球は気持ちよかった?」
「いや〜ん、うらやまし〜い」
「食われるところだったんだぞ!」
「巴投げでライオン投げるなんてすごいわね、桑古木!」
「次の金メダルはいただきね!桑古木」
「・・・・・・・・・・もう・・・もういい」

ダメだ。あ、あきらめた・・・ガックリ肩おとしちゃって・・・あ〜あ、泣きそうだよ、かわいそうに
もはや何も言ってやれない・・・

「さあて!もう時間も遅いし、倉成たちと合流するわよ〜」

沈み込む桑古木と反比例してはつらつとした表情の田中先生が拳を空に突き上げて士気を高める。

『おーっ』

一名を除いたみんなが応える。もうみんなあの人の不幸体質に慣らされちゃったかな?
そして僕は自分の幸せをかみしめた・・・あぁ“彼氏”でよかった。










<武視点>

「お〜、どこいってたんだよ?お前達、探したぜ」

やっと連中を見つけたと思った時にはもう太陽が沈みかかっていた。
俺たちは結局ずっと“ふれあい広場”で小動物とたわむれていた(つぐみは他の動物に見向きもしないでチャミをいじり続けていた)。ココが行きたいと言っていた場所なのでみんなも探しにくるかと思ってたんだが・・・

「結構怖かったですね、なっきゅ先輩」
「終わってみるとスリルがサイコーって感じだよね」

どうやらサファリパークに行ってきたらしい。俺たちが歩き回ってるあいだ車でライオンやらトラやらを見てきたのだろう。まったくいい気なもんだ。桑古木が少しやつれてるみたいだけど、どうせ女性陣にこきつかわれたんだろうな。お、ホクトはどうだったかな?

「どうしたホクト?お前はあんまりこき使われなかったみたいだな」
「・・・・・お父さん、僕って幸せだね」
「??・・・・・よくわからんけど、お父さんも今日は幸せだと思ったぞ」
「・・・・うん」

少し気にはなったが、なにやら人生について悟ったらしい息子をみて、余計なことは言わないほうがよいだろうと思った。

「桑古木さん、元気出してください」
「・・・・・・・・・・・・・うん」

桑古木が空になぐさめられている。どうしたんだろうまぁ、あいつは打たれ強いからすぐに立ち直るだろう。きっとココがいなかったからなんて理由なんだろう。

「そんじゃ、帰るわよー」
「おう」

優(春)の呼び声につぐみと腕を組みながら応える。

・・・ああ、いい一日だった・・・・・


いちおう、おわり!







あとがき

また長いSSを作成してしまいました。

武、つぐみ、ココの組み合わせは一番親子らしいのでは?

と思ったのでこんなSSになりました。

武視点・ホクト視点というより、倉成夫妻ほのぼのルートと桑古木不幸ルート

という気がしますが・・・

はっきり登場はしませんがN7の彼らも偶然訪れていたという設定です。

迷子の“石原くん”ですが母親はだれなんでしょうね?


それと、落ちがなかったのでむりやりつけました。(↓)

よろしければ読んでみてください。

「またこれかい」って感じですね。

おそまつさまでした。m(_ _)m






*****************


おまけ<ホクト視点>

「あら、ホクト君に秋香菜ちゃんじゃない?」

どこかで聞いた声に呼び止められて振り返る。

「!!!」
「あ!先輩」

“あの人”が“そこ”に微笑んで立っていた。以前、優に紹介された“初代”が・・・

「先輩も来ていらしたんですか?」
「ええ、私が昔大学で受け持ってたゼミの同窓会みたいなものよ」
「そうだったんですか。あ、母にも会ってやってください。おかーさ〜ん!」

嫌な予感に立ち尽くす僕に気づかないで優は声をあげた。“二代目”田中先生が気づいてやって来た。

「なぁに?ん!あれ?いづみさん!今日はこちらへ?」
「ええ、“あの”ゼミの同窓会なの」
「だからだったんですね?お車お借りできなかったのは」
「そうなのよ、ごめんなさいね」
「そんな、いいんですよ」
「そうだ!帰りはご一緒しましょう♪ごちそうするわよ」
「え?でも車が」
「また取りに来ればいいじゃない」
「・・・・・・・・・・そうですね♪」

きっと桑古木に取りに来させる気だ。いや、絶対。3台も。

「それじゃあ、お言葉に甘えまして・・・」
「ええ♪」
「お〜い、みんな〜」

田中先生がみんなを呼び集めている。予定の変更を説明しているようだが僕の耳には入ってこなかった。
ハハハ、きっともう逃げられないだろうな、あの運命から・・・

「・・・・というわけで、お邪魔させていただくことになりました」
「よろしく、みなさん♪わたしの生徒達にも紹介するわ」

ああ、事態は僕をあざ笑うかのように進行してゆく・・・。
お父さん、ダメだよ・・・止めて・・・止めなきゃ・・・

「それでは、みなさ〜ん♪わたしの“都営バス”に乗り込んでくださ〜い♪」
『え゛?』

お父さんたちの表情が変わった。
・・・あぁ、終わった・・・・



ほんとに おわり


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