BATTLE FISHING
                              三月の花
―2034年5月03日 LeMU内―

俺、桑古木 涼権は救護室のベットで横になっていた。
この時間は何もしなくても良い……少し寝るか。


「倉成倉成!!」
大声で救護室に入って来たのは田中優美清秋香奈……略して優――
倉成と言うのは―倉成 武―と言う人物に、ある事情により俺が成り切っているのだ。
「なんだよ、せっかく人がめくるめく安眠の世界に入ろうと……」
「寝ている時ではござらぬ!良いものを見つけたのでござるよ!!」
優の後ろからヒョコっと出て来たのはツインテールの女の子、松永沙羅だ。
「良いもの?」
「食べ物よ食べ物!、タツタの鮪以外にあったのよ!!」
「な、なにー!」


俺達はここ、LeMUに閉じ込められている……事実は閉じ込められているように計画をした。
17年前、置き去りにしてしまった仲間を助ける為に……その事実を知っている者はこのLeMU内には俺しかいない。
しかも現状、今のLeMU内での食べ物と言えばマグロのタツタサンドしか無く、タツタの具もマグロしか無いハズ――
「一体何処にあったんだ!?」
「拙者となっきゅ先輩が散歩をしていたところ!、偶然に発見したのでござるよ!!」
「いや、だから!何処にあるんだよ!!」
「でもね、女の子じゃとてもとても取れない所にあるの〜」
「俺の発言無視ですかい……」
二人のトークに加わる事が出来ない俺……
「そこで!、倉成の出番よ!!」
「はぁ?出番?何の?」
「拙者達の代わりにマグロに変わる食べ物を取って来るでござる〜」
「なんで俺がそんな事…優と沙羅の2人が取って来れば良いだろ」
「言ったじゃない、か弱い乙女には無理なのよ〜、ねー、マヨ?」
「ねー、なっきゅ先輩」
「か弱いって……沙羅は兎も角、優はな〜」
「い・い・か・ら・黙って来い!!」
「ぐぼべぇー!!」
優のコークスクリューをモロに喰らった俺は引きずられるがままに連行されてしまった――


「痛痛〜…優!、お前なあ!!」
「文句を言うなら取って来てからにしなさい」
周りを見れば俺は配管室に連行されていた。


「ったく、それでマグロ以外のタツタ材料ってのは何処にあるんだ?」
「この下だよ」
沙羅の指差したそこは既に浸水した通路だった、底は暗くて何も見えない。
「何も見えないぞ」
「私となっきゅ先輩が見た時はいたよ」
「そうそう、多分浸水の時に紛れ込まれたのね……ほらあれ!」
優が指差した場所には確かに魚の影が薄らとだがあった――


「確かにいたな、しかもデカそうだ……因みに俺に取って来いと言うのは……」
「「もちろん、潜って!」」
「なんで潜って取って来なきゃならん!、釣り道具は!?」
「ここに釣り道具があるとでも思う?」
優の爽やかな笑顔……ある訳無いよな……こんな事になるなら用意しておけば良かっ
た――

「と言う訳で、レッツ、ゴー!」
「ゴー!」
「待て待て待て!、俺は潜るなんて一言も言ってない!!、それに結局魚だろ、マグロで
も良いだろが!!」
「つれないな〜、倉成は」
「拙者達はずっとマグロを油で上げ、パンと挟んで食べて来たでござる……たまにはマグ
ロ以外のタツタも食べたかったでござる……」
「マヨー!」
「なっきゅセンパーイ!」
2人の厚い抱擁……そしてうるうるとした瞳で俺を見る。
まるで俺が悪者見たいじゃないか……武なら……武ならこんな時どうする……
「解った解った、潜れば良いんだろ、潜れば」
「それじゃ頼んだわよ、倉成」
俺のその一言でいつもの状態に戻る2人。
オイコラ、もしかして演技か?演技なんだな!!……してやられた……
「でも潜っても素手じゃ捕まえられないぜ」
「その点なら、ノープログレム、マヨ!」
「了解でござる」
そう言って沙羅は一旦配管室を出た。


――数分後
「持って来たでござる」
何かを引こずって戻って来た、それは――
「これが武器よ、名付けて『凍れる大剣、魔虞炉露駆(マグロロク)』!!」
「って、ただの冷凍マグロだろ!!」
「つ・べ・こ・べ・言わずにとっとと行ってこーい!!」
「ばくべらぁー!」
優に魔虞炉露駆…基、冷凍マグロと共に浸水した場所へと蹴り落とされた。
(優の奴、後で覚えとけよ…)
そう思いつつ俺は冷凍マグロを持って………沈んだ。


(お、重い〜…)
俺は沈まない様に必死で足をバタつかせた。
すると何かが来るのが解った。
見えた訳じゃない、だけど解る……これは……
その時、俺の横をもの凄いスピードで何かが通過した。
(なんだ!?)
辺りを見回したが………やはり見何も見えない。
俺は冷凍マグロを抱え、防御に徹した。
あのスピードからしていくら水中とは言えかなりのダメージがあるだろ――
何かが来る気配、俺は気配を感じた方向へ向いた。
その瞬間、その何か……謎魚が冷凍マグロを抱えた俺に突っ込んだ。

(ぐっ、こ、これは!)
謎魚は冷凍マグロに体当たりをして、そのままもの凄いスピードで泳いだ
(は、離れない……何故だ!?)
謎魚が冷凍マグロに噛み付いたのか、一部が冷凍マグロにくっついたのか、一向に離れよ
うとしない。
俺はもの凄い水圧を耐えた……しかし……
(く、空気が……ヤバイ!)
人間の潜水時間には限界がある、しかも体中から水圧が襲いかかってくる

(ぐはっ!!!)
その時、背中に強い衝撃が走った、壁にでもぶつかったのだろうか。
(俺はこのまま死んでしまうのか……ココや武を救う事が出来ずに……否、ダメだ、俺が
ここで諦めたら今までの苦労が水の泡に……)
俺は無意識に謎魚に拳で一撃入れていた。
謎魚は暴れ出し冷凍マグロから手を放しそうになったが、しっかりと抱えもう一撃喰らわ
せた。
(こいつで……トドメだ……抹殺のラストブリット!!)
全神経を一点に集中させ殴った。
謎魚はそのまま動かなくり浮かび始めた。


俺は水中から顔を出し、空気を肺一杯に吸い込んだ。
「ぷはぁ!!……スーー……ハーー……」
「倉成、大丈夫?」
優が少し心配そうに俺を見る。
「心配するな大丈夫だ……俺は……俺は死なない」
俺は浸水場所から上がると疲れ果て座り込んだ。
「あのさ倉成、こう言っちゃなんだけど……」
「なんだ、言ってみろよ」
そう言うと沙羅は浸水場所を指差した。
振り向くと俺が仕留めた謎魚が浮かんでいた……冷凍マグロを突き刺して――


「この魚って何処からどう見ても………」
「………カジキマグロ」
俺が命懸けで仕留めた謎魚の正体はカジキマグロだった。

「な〜んだ、やっとマグロ以外の魚が食べられると思ったのにな〜」
「がっかりでござる」

優と沙羅は残念そうに配管室から出て行った。



何の為に命懸けで………こいつと死闘を繰り広げて……俺って一体……

配管室から出た優が入口からひょっこり顔を出し――
「倉成、せっかくだからそのカジキマグロ、売店で捌いて食べさせてよね」



俺は意識が遠くなりそのまま倒れた。


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