『NEVER7 呪縛からの解放者』 |
作:木村征人様 |
四月二日。
夜中、神社の事をいづみさんから聞いた後。オレ、優夏、遙、億彦は、何となく月浜を歩いていた。 いずみさん達とわかれた後、すぐにロッジに戻る気にはなれなかったのでとりあえず月浜を散歩している。 波の音がなんとなく昼間より大きく聞こえる……そんな時。 鈴の音が鳴った――ような気がした。 優夏「――!!」 突然、優夏が声にならない悲鳴を上げた。 優夏「そんな……どうして……」 優夏の見つめる先には、大きく曲線を描く砂浜、夜空よりも暗い漆黒の波、そんな景色に全く違和感なく溶け込むようにして、一人の男が立っていた。 それが一枚の風景画のように…… ??「久しぶりだね……優夏……」 狼狽している優夏とは対照的に落ち着いた口調で優夏に話しかけた。 優夏「……涼……くん?」 涼「中学校以来だね……」 優夏「そんな……だって……」 優夏がなにか言おうとしたとき、またどこかで鈴が鳴った。 優夏「え…………う、うん。そうだね……でもどうしてここに?」 涼「一人でね……ここの島に旅行で来たんだ」 優夏「それじゃあ、あのホテルに?」 優夏は月屋ホテルの方角を指差した。 涼「う、うんそうなんだ」 優夏「そうなんだの。だったら――」 オレはなんとなく涼という名の男のことを品定めするように見つめていた。 多分、優夏と同じ年なんだろうけど、くるみほどではないにしろ年齢よりも少し幼く感じる。髪はオレと同じぐらいの長さで、白い長袖の上着がサイズに合わないのか時々、袖を気にしながら話している。優しい瞳で懐かしみながら優夏を眺めている。久しぶりに会ったから当然といえば当然なのだろうけど……どことなく……。 億彦「ウォーーッホン!」 億彦のわざとらしい咳払いで俺の考えは打ち消さられた。 億彦「感動のご対面で話しが盛り上がるのは結構だが、そろそろ帰らないか?」 遙もこくこくとうなずいていた。 優夏「そうだね」 涼「優夏はどこに泊まってるんだ?」 優夏「みんなでロッジに泊まってるの。場所は――」 優夏からロッジの場所を聞くと、涼は優夏がさっき指差した方向つまり月屋ホテルのほうへと帰って行った。 四月三日。
さわやかな朝と共に目が覚め、あくびをかみ殺しながら、リビングに行くと優夏とくるみがいた。 二人に挨拶を交わした後いづみさんが作ってくれた朝食を食べ終えた頃、遙がリビングに入ってきた。その後を追うように億彦が駆け込んできた。 ……………………… 昨夜、遙と約束した事で言い争っていると、涼が軽く手を上げながら入ってきた。 涼「おはよう! ってどうしたの?」 涼が不思議そうにみんなと顔をみあわせていると、少し遅れてバスケットをぶら下げた沙紀が入ってきた。 沙紀「お早よう、みなさん! 昨日はご心配をおかけしました!」 沙紀のどこかノーテンキな声に、俺達は拍子抜けしてしまった。ただ、一人を除いて、 涼「……朝倉……沙紀……?」 昨日優夏と出会った時とは違い、涼は沙紀の登場に驚いていた。 沙紀「誰?」 いきなりフルネームで呼ばれた沙紀は、少し睨みながら涼を指差した。 優夏「やだなぁ! 沙紀。忘れちゃったの? 涼くんよ! 永沢涼くんよ!」 沙紀「ええ? だってそんなはず無いじゃない。だって――」 まただ! また鈴がどこかで鳴った。 沙紀「――本当に涼くんなの?」 涼「ああ。そうだよ。月屋ホテルに泊まってたんだけど昨日偶然優夏と会ったんだ。」 遙「行きましょう、誠」 誠「え、ああ」 オレは遙に引っ張られながらロッジを出て行った。 誠「なあ、遙」
遙「なに?」 誠「さっきロッジで鈴の音聞かなかったか?」 遙「聞かなかったけど?」 誠「そうか……」 という事は優夏やくるみ、沙紀、億彦、それに涼も聞こえてなかったかも知れないな……つまり、オレだけ聞こえてたというわけか……どういうことだ? その後、釣りの最中に遙が『キスにしたことある?』という質問や遙の額にキスしたという事があって、いつしか鈴の事など忘れていた。 ロッジに帰った後、しばらくして億彦の声が聞こえた。テラスのほうへ行くと、億彦は遙の両肩をつかんで強く話している。
遙「私達は信じ合ってるの。億彦にはわからない」 億彦「遙ちゃんこそ石原のこと、わかってないよ」 遙「私と誠のことは、億彦には関係ない」 億彦「いや、ある! 関係あるよ! 遙ちゃん、僕は君のことを……!」 遙「億彦、いたい」 億彦は興奮して遙の肩をつかんでいた手に力が入ったのだろう。遙が顔をしかめる。 誠「やめろ! 億彦」 オレは遙の肩から億彦の手を引きはがした。 億彦「うるさい。おまえには関係ない!」 遙「私と誠は信じ合ってるの。だから誠は優しくしてくれたし、キスもしてくれた」 遙がいきなりとんでもないこと言った。 その瞬間。億彦のパンチが俺の顔を直撃した。急襲されたオレはリビングの窓枠に足を取られそのままバランスを崩して倒れた。 億彦「…………ふん!」 億彦はオレが倒れたのは予想外らしくそのまま外へ飛び出して行った。 遙「大丈夫? 誠」 誠「ああ。大丈夫だ」 億彦が去った場所後、テニスのラケットを持った優夏とくるみ、そして涼が姿を現れた。 優夏「どうしたの? なにかあったの?」 誠「いや、何でもないよ」 涼「でも、すごい勢いで億彦が出ていったけど。沙紀は億彦の後を追いかけていったし……」 誠「なんでもねぇよ!」 オレは涼を睨みながら言い放った。オレはなんとなく涼という男が気に入らなかった。 その後、いづみさんが晩御飯を作りにロッジにやって来てくれた。その一時間後、億彦と沙紀は戻ってきた。
億彦はオレと目を合わせずにリビングのソファにドサッと座った。 沙紀「一体、何があったの?」 どうやら億彦は沙紀に何も言ってないらしい。 オレ達はいづみさんが手作りのカレーをご馳走になった後、くるみの提案で肝だめしをすることになった。 墓地の前に着くとくるみはグループ分けする為にじゃんけんするように言った。 その結果、オレと沙紀。優夏と涼。遙といづみさん。億彦となった。 くるみはちょくちょく墓地に来ているのでここで待つことになった。 トップバッターのオレ達はうろうろと墓場の中をさまよっていた。オレとしては沙紀がパートナーというのは好都合だった。とにかく涼のことを聞き出したかったから…… 誠「一つ質問していいか?」 沙紀「なに?」 誠「あの永沢涼いう男はどんな奴なんだ?」 沙紀「どうしてそんな質問を……あ、フフフフフなるほどね」 沙紀はなぜか一人で笑いながら納得してしまったらしい。 沙紀「涼くんとは中学の頃クラスメートだったの。神話が大好きで、おとなしいとはちょっと違うかもね。どこか大人びて、落ち着きのある男の子のだったの。 でも……優夏といるときはよく笑っていたのを覚えてる。優夏によく引っ張りまわされていたわね。本当に性格が正反対だったけど、似たもの同士だったかも知れない……」 沙紀は懐かしむようにだけど少し複雑な表情で言った。 誠「ふ〜ん」 オレの印象とは全く逆に見えたけど……時間が経てば人の性格も変わるか…… 沙紀「そういえば、誠くんと涼くんは似てるかもね」 誠「それってどうい――」 ――と、その時だった。 ??「キェェェェェェェェェアァァァァァァァァァァ!!」 背後から聞こえた凄まじい叫び声にオレと沙紀は振り向いた。優夏だった…… 優夏「うわ〜〜〜〜〜んっ!!」 泣き声をあげながら、こちらに向かって猛スピードで優夏はオレ達の間を駆けぬけていった。その後方で優夏に負けず劣らずのスピードで涼は優夏を追いかけていた。 涼「優夏〜〜〜〜。まってくれ〜〜〜〜〜〜」 そして、優夏と涼は暗闇の中へと消えた。 誠「あれのどこに落ち着きがあるんだ?」 沙紀「あは、あははははははは」 沙紀は乾いた笑いをあげていた。 その後へとへとになった優夏と涼を引きずりながら帰り道、いづみさんが近くに温泉があると教えてくれた。
さっそくオレ達はロッジに水着を取ってきて入ることになったが、くるみと涼はロッジに残ると言い出した。 くるみは『お江戸でガッテン』を見るといいだし、涼は、 涼「オレは水着を持ってきてないから遠慮するよ。それに女の子一人残していくのもなんとなく気が引けるしね」 ということだった。 そしてオレ達は温泉で疲れを癒し、もっとも優夏は相変わらず悪酔いしていたが…… ロッジへ戻ってすぐオレは眠りについた。 四月四日。
オレは優夏と一緒に桜を見に行くことになった。 桜並木でオレは優夏から初恋の話しを聞いた。 それが中三の春だった頃。美術室でよく絵を書いていたこと。鳩時計の絵を書いていたこと。美術室に男の子がいきなり入ってきて、絵を書きなおしたこと。キザなセリフをいった事。ずっと片思いだったこと。今でもその人のことがが忘れられないこと。オレとその男の子が似ていること。 色々話してくれた。なんとなくその男の子が永沢涼だということは見当がついていた。その話を聞いていたオレは少し複雑なやりきれない気分になった。 優夏「それでね――」 優夏が何かを言いかけたその時、優夏の肩越しに涼が姿を表した。 涼「ここにいたのか」 優夏「どうしてここに?」 涼「途中くるみちゃんと出会ってね。桜見物に言ったって聞いたから。 ひょっとしてお邪魔だったかな?」 優夏「ううん。そんなことないよ。ね?」 優夏がオレに顔を向けて聞いてきた。 誠「あ、ああ。それより優夏何を言いかけてたんだ?」 優夏「ううん、いいの。それじゃあいきましょう」 オレと優夏と涼で展望公園を立ち寄った後、オレ達はルナビーチへ戻った。 優夏かがオレの心の内に気付かないまま…… そして日が沈んだ頃バーベーキューの準備が完了した。
バーベーキューで、俺は出来るだけ涼に話しかけた。 遙がフナムシをぶちまけたりという事件もあったが、バーベキューではおおいに盛り上がった。 優夏「あははははは、あはははははははははははははは」 例によって優夏は思いっきり酔っ払っているが…… 涼「相変わらずだな、優夏は……」 酒が飲めない涼はジュースを飲みながらつぶやいた。 誠「どういう意味だ?」 涼「中学の頃、体育倉庫に隠れてこっそりとみんなで……そうだな六、七人くらいかな。ビールを飲もうということになったんだ。オレはもちろん断ったけど、その時優夏がガブ飲みしてな……酔っぱらって暴れまくった……」 誠「………………」 表情を崩さなかったが、額に汗が浮かんでいたのを見逃さなかった。おそらくその時のことを思い出しているんだろう。 バーベーキユーも最高潮に盛り上がった頃、 沙紀「あっ!」 涼「えっ?」 水がはねる音がした。 沙紀が謝ってコップをこぼし、涼の顔にかかってしまったのだ。 沙紀「ご、ごめん! 涼くん」 涼「ひどいなぁ。いくらオレが酒を飲めないからって顔にかけなくてもいいのに」 顔を拭きながら涼がぼやく。 億彦「ま、『水にしたたるいい女』って言うじゃないか?」 涼「オレ、男なんだけど……」 なんていうことがありながら、バーベーキューは終了した。 いづみさんとくるみとは、そのままルナビーチで別れ、涼はオレ達といっしょにロッジに戻る事となった。どうせ明日、ロッジに行くのが面倒といっていたが、おそらく優夏にまたおいとけぼりをくらいたくないのだろう。 たぶん、最終日まで居付くつもりだろう。 結論、やっぱり涼とオレは似てない。 このまま平穏に終わると思っていた、しかし事件は起きた。くるみが行方不明になった。ソファで寝ていた涼も飛び起き、みんなで探すことになった。 とりあえずいづみさんはルナビーチで待機してもらい。オレ達五人で探すことになった。 オレは姫ヶ浜や展望公園とかの島の南側。優夏は月浜の周辺。遙は港と商店街とかの東側。億彦は温泉、テニスコート、墓地。そして、涼は月浜ホテルの周辺と港となった。 みんなとわかれた後、どこを探してもくるみはいなかった。 誠「一体……どこに……待てよ。……くるみは神社にいきたがっていたな…… もしかしたらそこにくるみがいるのかも知れない」 オレは司紀の杜神社へ向かった。その時、優夏とばったり出くわした。 優夏「誠、見つかった?」 誠「いいや、でも心当たりがあるんだ」 オレと優夏は神社へ向かった。 オレと優夏は神社の中でくるみを見つけ、階段を降りようとした時、階段の近くに涼を見つけた。 誠「なんでここに?」 涼はそのまま暗闇の中へと消えた。 優夏「どうしたの?」 誠「いやなんでもない」 なぜかオレは涼のことを黙っていた。 そして、くるみをルナビーチへと連れていき、そのままロッジへと戻った。 涼は神社にいたことについて何も話さなかったし、オレも何も話さかった。 涼「もうすぐタイムリミットか……」 そんな涼のつぶやきを俺ははっきりと聞いた。 四月五日
遙は釣りに、億彦は沙紀の所へ出かけた。 オレと優夏と涼はルナビーチで朝食をとった後、あちこちへと散歩した。だけど、少し涼のことが気になって上の空だった。どうも出会ったときから涼の行動には釈然としないものがあった。 考えがまとまらないままオレは横になった。 四月六日
優夏「だれ?」 涼「オレだよ。いまいいか?」 優夏「いいけど……どうしたの?」 涼「少し外にでないか?」 優夏「でも雨降ってるし……」 涼「大事なことなんだ」 優夏「わかったわ。ちょっと待ってて」 涼「ああ」 俺は眠れず、そのまま体を持ち上げた。リビングに出ると同時に鳩が五回鳴いた。
誠「もうすぐ夜明けか……」 水道の水を飲んだ後、部屋に戻ろうとしたがオレのすぐ隣の部屋つまり優夏の部屋の扉が少し開いていたのに気付いた。優夏の部屋を覗くが優夏はいない。俺はその時気付いた、ソファに寝ているはずの涼もいないことに! オレはロッジを飛び出した。その時! ??「誠くん!」 オレは誰かに呼びとめられた。 優夏「ここって……」
涼「一昨日、来ただろ?」 優夏「ええ……」 涼「あの時の返事聞いてないよな?」 優夏「返事?」 涼「ほら、修学旅行のとき、俺が優夏のこと好きだったって」 優夏「あの時のこと……あれ? でもあの時は……変ね……記憶がかみあわ……ない……」 涼(暗示の効果が薄くなってきたか……おそらく沙紀もとっくに――) オレを呼びとめたのは沙紀だった。余程急いでいたのか傘も差さずにずぶぬれになっている。
沙紀「涼くんいる?」 誠「それが……いないんだ! 優夏といっしょに」 沙紀「そんな! いいよく聞いて。涼くんは既に死んでるの。」 誠「なんだって? どういうことだ? だって現にここにいたじゃないか!」 沙紀「そうだけど…………思い出したの! なぜかはわからないけど…… 寝ていたんだけど、いきなり目が覚めて……涼くんが修学旅行の時に死んだことを。今でも明確に思い出せるくらいに! それに月屋ホテルに連絡したらそんな人は泊まってないって言っていたわ!」 誠「優夏が危ない!」 沙紀「え?」 誠「沙紀はロッジで待っててくれ!」 沙紀「え、ええ」 オレは駆け出した。場所は大体想像ついていた。司紀の杜神社だ。くるみがいなくなった時、涼は司紀の杜神社に来ていた。くるみがこの神社に来たがっていることは知らない。だったら何故あそこにいたのか! 簡単だ。あそこに何かあるからだ。 オレはいづみさんの言葉を思い出した。 いづみ『『死鬼の神』というのは、文字どおり『死をつかさどる鬼神』の意味で、人々を呪い殺したり祟ったりする凶暴な邪神の事』 いづみ『実は、その神隠しがね? その神社で起こるらしいのよ』 もしかしたら涼がその邪神なのかも知れない。少し前のオレならこんなこと信じなかったのだが、いまならそれも現実味が出てくる。 恐怖感で自分が覆われているのがわかる。だけど失いたくなかった。優夏を! そして神社の前まで来た。 誠「二人は中か?」 神社の中に入ったが誰もいなかった。 誠「いない……違ったか?」 ??「……なさい……わた……」 ??「し……ないね……」 誠「………………話し声か?」 オレは話し声がするほうへ行くと初めて神社とその建物の間に広い空間があいているのに気付いた。神社の壁には小さな穴がある。今までは、建物の裏に隠れて見えなかったのだ。それは人ひとりがようやくくぐり抜けれるぐらいの四角い穴だった。 オレは中腰のまま、その小さな穴をくぐり抜けた。 まるで断崖絶壁の場所に優夏と涼がいた。 誠「優夏!」 優夏「誠?」 涼「やはり来たか、誠」 涼はにやりと笑った。 誠「いいか優夏。よく聞け! 涼という男は既にこの世にいない。もう死んでるんだ!」 優夏「でも、ここにいるじゃない。うそよね、涼くん」 涼「………………………」 涼は目を閉じたまま何も言わなかった。それは黙認ととれる。 涼「だったら……どうする?」 涼はまたにやりと笑った。 誠「おまえが何者か、何を考えているのかは知らない。だが、優夏は絶対に渡さない。優夏はオレが守る」 すると涼は突然優しい笑みを浮かべ。 涼「その言葉忘れないよ。 優夏、おまえにかけた暗示も消えたようだしな」 優夏「暗示?」 涼「オレが生きているという暗示をね。 分かっていると思うがオレはあの時に死んだ。 だけど、優夏はオレのせいでずっと縛られたままだった。そんな時、時つかさの神がオレにほんの一時の間生き返らせてくれたんだ。特別な力をもてるおまけつきでね」 優夏「…………」 涼「君のことが、優夏のことが好きだから、優夏のことを好きになれて幸せだったから。 だからオレは君を自由にする……束縛された君を解き放つ、解放者になったんだ」 何も言えなかった。オレはこんな人間を疑っていた。なによりも優夏の事を思っていた涼を。 たぶんくるみが行方不明になったとき、わざとオレに姿を見せたのも、ここへ導く為だろう。 涼「優夏に再会できて、柄にもなくはしゃいじゃって……でも、もうタイムリミットが近づいている」 優夏「そんな!」 涼「本当ならここにいない人間なんだよ。仕方ないんだ。 オレはあの修学旅行の時から時間は止まったまま動けないんだ」 優夏「君を、涼くんを忘れる事なんて出来ないよ!」 涼「忘れられないなら、忘れなければいい。言ったはずだよ、君を束縛されたものを解放するんだって、それは決して忘れる事だけじゃないはずだ。 現実はからは逃れられない。現実を怖れてはいけない。縛られたままじゃ、自由になれない。自由になりたいなら怖れてはいけない。 それに君はもう共に羽ばたいてくれる人がいるよ」 その言葉には前と違いキザったらしい感じはなく自然な願いが込められていた。 そして涼は優夏と再会した時と同じ優しい瞳でオレを見つめた。 オレは無言で『優夏の事を任せてくれ』という意味を含めてゆっくりとうなづいた。 その時、水平線の向こうから朝日がゆっくりと昇っていく…… 涼「時間だ……」 優夏「!!」 誠「!!」 涼の体がまるで煙のように、いや霧のように少しずつまるで朝日に吸い込まれるように体が消えていく。 涼「優夏……これを……」 涼は袖を肘までまくり肘と手首の中間あたりに赤い紐でくくられた鈴があった。 それを器用にはずしながら優夏の掌に乗せた。 優夏「これは?」 涼「俺の生きていた証に……また、小さなプレゼントになっちゃったけど……」 そして涼は優しく優夏を抱きしめ…………消えた。 誠「優夏……」 オレは優夏近づこうとしたのだが…… 優夏「来ないで! お願い……もう少し……もう少しだけ時間を頂戴…… そしたらきっと笑顔で誠といられるから……」 そう言って肩を震わせていたが、オレはなにも出来なかった。 オレ達は合宿を終えもとの日常へと戻った。 大学の中で時折優夏をみかけたが、声をかける事はなかった。 優夏がいないとここまで日常が退屈なんて思いもしなかった。 でも、オレは待つしかない、待つしか出来なかった。 そして季節は巡り夏が来た。――そして夏休み再びゼミの合宿でこの島に来た。
メンバーも前回と同じと聞いて正直余り気が進まなかった。優夏に会えるのは嬉しかったが、それ以上に気まずい雰囲気になるのではないかと不安でいっぱいだった。 オレは前となにも変わっていないロッジの玄関に立ち、ゆっくりとドアを空けると、 優夏「これからよろしくね! 誠」 優夏が満面の笑みで迎えてくれた。手首には赤い紐のついた鈴がくくられている。 誠「ああ、よろしくな! 優夏」 オレも笑顔で答えた。 |
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