永遠の七日  後編   
作:まる



AM 10:26


「・・・あのね・・・?」
優夏がついに、話を始める合図を発する。
俺は、それに対して穏やかに、頷いた。
・・・俺の不安感は、いつのまにか嘘のように消え去っていた。
「・・・夢をね?・・・・夢を・・・見たの・・・」
・・・・!!
「ゆ・・・め・・・?」
再び、強烈な不安感が俺を襲う。
不安感の原因・・・・今朝、俺が夢をみていたせいもあるだろう。
しかし、やはりそれの一番の理由は俺たちの体験したあの『4月1日』にあるのだ。
あの時の夢は・・・夢ではなかった。
ただの、今まで俺と優夏が繰り返してきた過去の記憶に過ぎなかったのだ。
つまり・・・・未来に起こりうる現実・・・
「誠、誠ぉっ!!」
「・・・ん・・・どうした・・・?」
鬼気迫る形相で、優夏が俺の名を呼んでいた。
「どうした、じゃないでしょっ!?私が声をかけても誠が全然返事してくれないからっ・・・!!」
・・・涙が浮かんでいた。
「ご、ごめん、優夏っ!!」
手を伸ばして涙をそっと拭ってやる。
「ううん、いいの・・・私が異常なほど臆病なだけだから・・・」
精一杯の微笑なのだろう。
優夏は涙をまた溢れさせながら微笑んだ。
その拍子に零れた涙に気付いたのか、優夏は指で目に溜まった涙を何回も拭った。
「・・・無理する必要なんかないんだぞ・・・?」
無理して笑う必要なんてない。
そんな悲しい笑顔は見たくない。
無理して夢のことを話す必要なんてない。
そんな辛そうな優夏は見たくない。
・・・・だが優夏は・・・・
「無理してるのは誠。そんなことに気付かない私じゃないよ」
そう言って、柔らかく微笑んだ。
思わず優夏を抱きしめたくなる衝動にかられたが、今はそんな場合ではないことにはっと気付く。
「・・・優夏には敵わないな」
俺の言葉に、へへへ・・・と鼻の頭を掻きながら笑う優夏。
どんな時でも心を安らがせてくれる優夏を、その時俺はとても愛しく感じた。
と同時に・・・・優夏だけは護らなければ、という強い意志が身体の奥底に満ち溢れてきたのだ。
「夢・・・・話、聞かせてくれないか、嫌なら良いけど・・・・」
絶対に聞かせてくれ、とはやはり言えなかった。
たとえそれが優夏と俺の未来に関わってくるとしても・・・
・・・それでも、優夏に無理をさせてまで聞きたくはなかった。
「無理なんかしないよ。話したいから話すの」
「そっか」
「・・・・それにね・・・・話さなくちゃいけないから。話したくなくても・・・話すべきことだから」
・・・優夏の口調に、強い意志が込められていた。
それがどんなことに対しての意志かはわからない。
だが、それは決して揺るぎないものだと容易に理解できた。
それに・・・優夏の方が話すべきだというのなら、俺は・・・
「俺も聞くべきことなんだろうな」
優夏は俺の呟きに、言葉の代わりとして首を縦に振って答えた。
・・・なら、俺も・・・
「じゃ・・・・俺にも話すべきことがあるから・・・先に話して良いかな?」
こちらが先に話すべきだと俺は考えた。
なぜか、と言われても分からないが・・・・なぜだかそう思ったのだ。
そして、優夏は少しの間黙って下を向いていたが・・・
「うん、いいよ♪」
と笑顔で承諾してくれた。


AM 10:51


繰り返し、波が浜に打ち上げられる。
俺たちは、月浜に来ていた。
打ち寄せられる波を、二人でぼんやりと眺めながら、俺は優夏に今日の朝見た夢の一部始終を話していた。
なぜこんなに落ちついた気持ちでいられるのか・・・
・・・全ては優夏のおかげだ。
優夏の存在自体が落ち着く理由でありながら。
その優夏を護るという決意が更に俺を冷静な態度にさせていた。
・・・浜辺を抜ける風が二人の間をすり抜けてゆく。
優夏の短めの髪が、風に流されてゆらゆらと揺れている。
・・・同じように、優夏の心も、表情とは違ってゆらゆらと不安な気持ちに揺れているのだろうか。
今の優夏の穏やかな表情からは、なにも読み取れはしなかった。
「・・・で、俺は最後に力なく崩れ落ちて・・・・」
そして・・・
・・・そして・・・
「・・・・・・優夏も・・・俺の上に重なるように崩れ落ちたんだよ・・・」
そう・・・俺が一番悔しいのがここ・・・優夏までもが死んでしまうというようなシーン・・・
これさえなければ、俺はこんなに取り乱したりはしないかもしれない。
・・・あはは・・・俺って自分の命よりも優夏の命の方が大事なんだな・・・
「これで俺のほうの夢は終わり」
「そっか・・・」
優夏は海の彼方を見つめながら、揺れる髪を右手で軽く抑えていた。
そして、不意にこちらに振り向き、そして・・・・
・・・眩しいほどの笑顔で微笑んだのだ。
「・・・なぁ、優夏・・・」
「なに、誠?」
「・・・不安な気持ちはないのか?俺には優夏には全くそういうものがあるように見えないけど」
いつからか・・・優夏からは不安そうな表情が消え去っていた。
それが不思議で仕方なかったし・・・
・・・二人は同じ気持ちでありたい、という不可思議な気持ちから、優夏にも不安であってほしい、という思いもあった。
・・・全く、ひねくれてるな、恋愛って。
「どうなんだ、優夏は?」
俺のその言葉に、優夏は「あはは」、という答えを返してきた。
「不安な気持ちがない訳ないじゃない、死んじゃうかもしれない、なんて」
「じゃあどうして、そうやって笑っていられるんだ・・・?」
ちっちっち、と指を振る優夏。
「それは愚問ね、誠」
「・・・誠がいるからに決まってるじゃない・・・」
・・・顔を少し赤らめて優夏はぼそっとそう言った。
・・・・・・
・・・こっちの顔も少し赤くなっているかもしれない・・・
「・・・なるほど、優夏も俺と同じって訳か・・・」
「ん・・・なにが?」
「俺がわりかし落ち着いていられるのも、優夏がいるからだから」
二人が更に顔を赤くする。
全く・・・
「俺たちってさ・・・」
『バカップル?』
・・・二人の声が見事に重なった。
その瞬間、二人の笑い声が二人の耳に入った。
・・・今日・・・朝日を見たとき以来、ようやく本当に笑えた気がする・・・
「あはは・・・・ふぅ。・・・で、優夏の方の夢は?やっぱり俺と同じ夢?」
こくり、と優夏が頷く。
「ほとんどね。でも、誠が言ってなかったとても大切なことが私の夢にはあったの」
「大切なこと・・・?」
「うん」
はっきりした声で、優夏がその『大切なこと』を告げた。
「・・・本当か、それは・・・」
「うん・・・間違いないよ、目の前にあったから・・・」
「それとね、誠・・・」
もう一つ、優夏にあることを告げられた。
「・・・なんで・・・」
「知らないよ・・・でも、そういう風だったから、そう告げただけ」
分からないよな・・・・
・・・でも、そのことは、未来を変えるのに、大きな手がかりとなりうる事実に違いない。
「よし、分かった。ありがとう優夏」
「いえいえ、おたがいさま」
おたがい微笑みあい、視線をまた海に戻す。
穏やかな海の上を、2羽の鳥が飛んでいた。
2羽は、隣り合って一緒に飛んでいた。
・・・つがいかもしれない。
もし・・・もしおれが、あんな風に自由な翼をもっていられたなら。
優夏を連れて、ここから遠くに、どこまでも遠くに連れて行けるのに。
・・・少し、鳥をうらやましく思った。
と、そのとき、優夏が俺の服を引っ張った。
「ん、なに、優夏」
「ほら・・・誠、あれを見てよ・・・」
優夏が、一点を凝視したまま、指でその一点を指す。
俺が、その指をたどって視線を動かすと、そこには・・・

銀色に光る、二つの鈴・・・

「・・・あったな、鈴」
「・・・うん、あったね」
波打ち際、波に何度も拾われながら、鈴はそこで俺たちを待っていた。
・・・何も言わず、ただ立ち上がる俺と優夏。
そして、鈴を目指し、歩いていった。
砂を踏む足音が、そこの空間に流れていた。
・・・・・
目の前に鈴がある。
俺たちの不幸の象徴、また同時に、幸せの象徴でもある、あの鈴が。
「さて・・・今回はどちらをもたらしてくれるのか・・・」
「ん、なに、誠?」
「いや、気にしなくていいよ。じゃ、拾うか・・優夏は右のを、俺は左のを拾おう」
「うん、わかった」
腰をかがめて、手を伸ばして・・・・鈴を・・・
・・・・拾った。
そして、そのまま二人は座り込んで鈴を見つめる。
二人の手の中で、きらりと鈍く光を放つ鈴。
再び戻ってきたのだ、この鈴は。
・・・帰るべき人間の場所へと。
「・・・これで、優夏の言ってたことが本当になりそうだ・・・」
「うん・・・鈴が戻ってきちゃったもんね・・・」
・・・戻って『きちゃった』・・・か。
どうやら優夏はこの鈴をあまり歓迎していないらしい。
でも、それはそうだろう。
さっき言ったように、鈴は幸せの象徴でもあるが、同時に不幸の象徴でもあるのだ。
優夏には、鈴が『無限ループの象徴』として、印象強く残っているに違いない。
だが・・・
「・・・鈴はな、俺たちのために戻って来てくれたんだぞ、きっと」
今の俺たちがここにあるのも、鈴のおかげなのだ。
「・・・そうだね、鈴のおかけだもんね、私たちがここにいられるのも」
にっこりと微笑んで、優夏がそう言った。
そうだぞ、優夏。
いつでも笑っていてくれるのなら・・・俺は優夏を絶対に護ってみせるから。
その笑顔、忘れないでくれよ。
「・・・・・・そろそろ行こうか、こんな所でぼけっとしててもどうにもならないし」
「うん、そうしよっか」
先に立ち上がり、優夏の手を引っ張って立つことを手伝う。
優夏が立ち上がったところで、手をはなした。
・・・が。
優夏が離した手を再び掴んできた。
・・・不安そうな表情で俺の目を見つめる。
俺は、握られた手に力を込める。
そして、二人は穏やかに微笑み合って、手を繋いだまま歩き始めたのだった。

・・・・笑顔。
俺の夢にはなかった『大切なこと』。
優夏は夢で見た最後の俺たちも笑顔だったと・・・そう言っていた。
そして、目の前には鈴が2個、転がっていたとも言っていた。
どういうことかは分からない。
・・・だが、それがどういうことを意味するにしても、関係ない。
俺は誓ったのだ。
優夏を絶対に護ることを。

・・・優夏の笑顔に、誓ったのだ・・・


AM 11:23


誰もいないロッジについた俺たちは、リビングで少しビールを飲みながら話し合っていた。
・・・加えて、ビールを飲んでいるが、優夏はあまり飲もうとしない。
きっと、真面目に考えて、自分が酒を飲むのはこの先に悪影響が出る、と考えたのだろう。
ビールを飲まない優夏には違和感を覚えるが、優夏が自分で考え、決定したことだ。
それに俺がとやかく言う必要はないだろう。
・・・やはり少し寂しいのは事実だが。
「でね、誠、やっぱりこういう時は、きちんと今ある情報を整理してみた方がいいと思うのよ」
「同感」
物事を理解しないまま、次のことをするのはかなり危険だといえる。
敵を知らずして、なんたらかんたら、という言葉もあるし。
・・・この場合は敵じゃないが。
「じゃ、まずは・・・」
「待って!!・・・その前にぃ・・・」
俺の言葉を右手で制して、優夏がニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
「ご飯、食べよ♪」
「・・・作るのか?」
「あったりまえじゃない、誠と私しかいないんだから、女性である私が作るのが当然でしょ?」
・・・敵は意外なところに潜んでいた。
「あのな、優夏・・・今はそれどころじゃないだろ?」
「なに言ってるのよ、腹が減っては戦は出来ぬっ!」
やぁっ!!と優夏が槍で人を突く真似をする。
・・・やばい、このままではまた地獄を見る羽目に・・・
「でもな、女性がご飯を作るものだ、なんて考えは、もうとっくの昔に終わってるぞ?」
抵抗を試みる。
「昔の女だよ、私は。もう何億年・・・無限の時を歩き続けてきたんだから」
「ぐぐ・・・分かったよ、・・・飯、食べようか」
負けてしまった。
あからさまに肩を落として見せる俺。
・・・そんな俺に、優夏は微笑みながらこう言った・・・
「・・・あの日の私のご飯、美味しくなかったでしょ?」
・・・は?
今、不味かったか、と言ったな・・・
・・・じゃ、優夏は自分で不味いと分かってて、あの日ご飯を出したんだな?
「どういうことだよ、優夏・・・」
少し体裁悪そうな表情。
「あはは・・・実はね、あれ、とことん不味くなるように作ったんだ〜」
・・・おい、ちょっと待て、不味くなるように作るっておかしいだろ。
「・・・ちょっとした意地悪で・・・。ほ、本当は美味しいご飯作れるんだからね!?」
「ほう・・・」
・・・そういえば、前に遙がキャベツの芯の料理が美味しかった・・・とかいってたような。
キャベツの芯で美味しいものが作れるんなら・・・なるほど、本当は上手いのかもしれない。
「・・・じゃ、早速作ってみせろよ・・・死ぬつもりで食べてやるから」
「むむ・・・誠、見てなさいよ、絶対見返してやるんだからっ!!」
・・・話が微妙に本題からそれてる気もしなくもないが・・・
ま、難しいことをずっと考えるのも良くないか。
・・・・・・
うう・・・難しいぞ、優夏の料理・・・


AM 11:47


「出来たよ、誠」
キッチンの方から、優夏が俺を呼ぶ声がする。
重い腰を上げてキッチンへとむかう。
・・・・
優夏は、エプロン姿だった。
格好は似合うんだが・・・・
・・・料理はやはり、すごく心配だった。
「・・・で、その料理はどこにあるんだ・・・?」
恐る恐る聞いてみる。
「座って待ってて、今もってくるから」
優夏が椅子を指し示したあと、キッチンに再び消えていった。
仕方なく、テーブルの椅子に、腰をおろす。
・・・どんなものがやってくるやら。
と、向こうから足音がこっちにむかってきた。
「はーい、まずは、普通に卵焼き」
皿を置いて、キッチンへ。
・・・卵焼きは、普通に綺麗だった。
多分、だし巻きだと思う。
『思う』と言ったのは、優夏だから何があるか分からないから・・・
「はーい、次は、シンプルにチンジャオロースー」
・・・ちょっと待て、チンジャオロースのどこがシンプルなんだよ。
いや、中華料理の中ではかなりシンプルだが。
し、しかしこれは・・・普通に美味そう・・・
「はいはい、お次はシチュー」
シ、シチュー!?
ありえないだろ、この短時間でシチューは!?
し、しかし・・・シチューだ、どっからどう見ても。
「そして最後に、ご飯とお味噌汁っと」
うう・・・これも普通にご飯と味噌汁だ・・・
・・・まじですか、優夏さん・・・?
「さーて、食べよっか、誠♪」
にこりと微笑んで、優夏。
俺はその笑顔につられて、卵焼きに手を伸ばした。
・・・が、口の手前まで持ってきたところで、嫌な過去が思い出される。
・・・・・・あれは不味かったぞ、優夏・・・モンスターかと思った。
しかし、優夏の期待いっぱいの視線を受け、ついに俺はそれを口に入れた。
もぐもぐ・・・これは・・・
「・・・普通に美味いじゃないか・・・」
「えへへ、でしょぉ?」
照れながら優夏が俺の顔を見つめている。
そして、俺は次々と料理を口にした。
・・・そして・・・ことごとく、その料理は美味しかったのだった。


AM 12:15


「どうだった、誠、私の料理は?」
ご飯を食べ終え、再びリビングへと戻ってきた俺たちは、ソファーに座って少しのシエスタを過ごしていた。
「うん・・・いや、普通に美味しかったよ・・・」
全く、普通なんてものじゃないが、実際は。
あの短時間であの美味しさは尋常じゃないぞ・・・
「ふふふ・・・分かった?私の料理の腕♪」
力こぶを作って、ぱんっ、とその腕を叩いてみせる。
「ああ、わかったよ・・・十分すぎるほど」
優夏は満足そうな表情をしていた。
「しかし・・・あのシチューは・・・作ったんだよな、レトルトじゃなくて」
「うん、好きな人にレトルトなんて出さないよ、私」
「だったらさ・・・・あの短期間でどうやって野菜煮込んでルー入れて・・・なんてやれるんだ?」
すると、優夏はふふん、と鼻を鳴らして得意げな顔をする。
「本格的な圧力鍋と電子レンジがあればなんてことないよ」
「ふ〜ん・・・」
・・・くだらないことを聞いている場合じゃない。
・・・そんなことよりももっと、俺には聞きたいことがひとつあった。
それは、何故優夏が突然あの場面で無理にでもご飯を食べさせたのか。
あくまで推測だが、優夏は・・・
「・・・諦めるなよ」
「え・・・?」
「優夏、お前、今日が記憶のある俺といられる最後の日になるかもしれない」
「そう思って、俺に自分の料理、食べさせたんだろ」
・・・・・・
優夏が体裁悪そうな顔で、顔をそらした。
・・・やっぱりそうか・・・
「そうだよ・・・だって、次また過去に戻っちゃったら、今の記憶を覚えてるとは限らないから」
「・・・ううん、覚えてない可能性のほうが高いんじゃないかな・・・」
悲しそうに、不安そうに表情に影を落とす。
・・・実際俺も、もし過去に戻ってしまったら、記憶はまた失われているんじゃないか、そう思う。
しかし・・・しかしだ。
「弱気になったら負けだろ、優夏が優夏らしくないと、俺も俺らしくなれない」
「優夏のために、俺は生きてるんだからさ」
立ち上がり、優夏の目の前で腰をかがめ、目を見つめる。
全ての想いを込めて、優夏を見つめた。
・・・・
・・・・
「信じろ」
一言、ただそう言った。
しかし、その瞬間、優夏の瞳に光が戻る。
そして・・・
「信じるよ、誠」
優夏が真っ直ぐに、俺のひとみを見据える。
「ああ」
俺はその眼差しに、にっこりと微笑んで、額に軽くキスをして答えた。


PM 12:39


再び隣に座って、優夏の髪をなで続けていた。
撫でていたかったし、撫でてあげたかった。
しかし・・・いつまでもこうしているわけにはいかない。
今日のいつ、夢の出来事が起こるかは、分からないのだ。
だったら、少しでも時間に余裕を持ったほうが良い。
「・・・さて・・・今ある情報を整理しよう」
髪を撫でる手を止め、唐突に本題に入り込んだ。
しかし、唐突だとしても、しなければならない話なのだから仕方ない。
「・・・うん、そうしなきゃね」
優夏が俺の肩に預けていた頭を上げて、俺のほうを見た。
そして、二人とも気持ちをすっと入れ替える。
・・・この話は俺たちの未来を左右する話なのだ。
生半可な気持ちで話し合っては、悪い結果を生むだけだろう。
「・・・まずは・・・夢を整理しよう」
「うん、わかった」

・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・

二人の夢から分かったことは、まず、遙たち5人が自分たちから離れていくこと。
その後、二人とも崩れ落ちること。
やがて、息が消えること。
その時、俺たちは笑顔だということ。
そして、目の前には鈴があるということ。
夢の中で大事だと思われる事はこれくらいだろう。
なんだか漠然とした夢だが・・・仕方がない。
これだけの情報があるだけまし、と考えよう。
「・・・じゃ、次は、今の俺たちの状況を考えよう」
「うん」
頷くと、優夏はポケットに手を入れて、何かを取り出した。
「まず、私たちには、鈴がある」
俺もそれを見て、ポケットから鈴を取り出す。
「ああ、これで万が一の時にも、俺たちは助かると思う」
そして、その鈴を同時に机の上におく。

チリーン・・・

二つの鈴がぶつかって、独特の音を発した。
「そして、このロッジには誰もいない。それも、朝早くにいなくなった」
「で、ルナビーチにもいなかったんだよね・・・」
・・・・
・・・・
「・・・現状があまり理解できてないようだぞ・・・俺たちって」
「・・・そうだね・・・これじゃあ次の行動が決められないよ」
二人でうーん、と唸る。
それはそうだ。
朝日を見に行って帰ってきたら、すでにそこには誰もいなかったんだから。
「・・・とりあえず、今の状況を把握するために、自分の部屋・・・いや、このロッジ全体を一度見回ってみよう」
「おっけー、誠」
二人、それぞれ自分の部屋へと歩いていく。
途中で分かれて、俺は自分の部屋へ。
ドアをあけ、中を詮索してみたが・・・
全く、変わったところはなかった。
「おーい、優夏ー!!そっちはどうだー!」
大きな声で、優夏に訊ねる。
「ううん、何も変わったところはないよー!」
そっか・・・
「なら、いろいろなところ、見回ってみるぞ!!」
「おっけー!!」
優夏との会話を終え、俺は次に、遙の部屋を見てみることにした。

部屋の前にたどり着き、中に入ってみるが・・・
「・・・なんだ、これは・・・」
綺麗な部屋だった。
綺麗も綺麗、ベッドの上の布団は綺麗にかたづけられ、その他、全てがここに始めて来た時の俺の部屋のようなのだ。
・・・つまり、なにもない。
ごみ箱のごみもない。
もちろん・・・・
・・・遙の荷物もなかった。


PM13:20


全てを見回って、リビングに集まると、優夏がいきなり声をかけてきた。
「大変なのよ、誠!誰の部屋にも荷物がないの!!それに、部屋の中が綺麗にここに来たときのままなのよ!!」
かなり不安そうな表情だった。
「・・・ああ、分かってるよ・・・俺が見た部屋も全部そうだった」
肩を抱いて、引き寄せる。
優夏は、やはり俺の肩に頭を預けてきた。
そしてそのまま、口を開く。
「一体どういうこと・・・?」
「・・・・分からない、分からないけどな・・・・・・・」
・・・・
・・・・
「・・・とりあえず、確認しておこう・・・・荷物を持って、どこかに出かけるか、普通」
「・・・出かけない」
「部屋をあんなに綺麗に片付けてどこかに出かけるか、普通」
「・・・・・・出かけない」
そう、こんな状態で出かけるはずがないのだ。
ならば、みんなこのロッジに残っているとでも?
・・・いや、それこそありえない話だ。
荷物を隠して、ロッジ中を綺麗にして、それで自分たちは隠れて俺たちを不安にさせて喜んでいる・・・?
そんなこと、あの5人がするはずない。
俺だって、多少はみんなのことも分かったつもりだ。
億彦でさえ・・・そんなことをする人間ではない。
まして、いづみさんがそんなことをするわけがない。
・・・ならば・・・
「・・・みんなは、荷物を持っていかなければならない場所にいる、ということかな・・・」
「うーんと・・・誠、そんな場所ある・・・?」
・・・ないな・・・
「うーん・・・」
考えるために、視線をきょろきょろと動かす。
そしてふと、視界に時計の『4月7日』の文字。
・・・そうだよ・・・今日は4月7日・・・
永遠の時を超えて、ようやく7日に辿り着けたんだ・・・
・・・・・・
・・・・・・!?
「しまった!!そうか!!そういうことか!!!」
「え、どうしたの、誠!?」
俺は今日起こった事の全ての全容にようやく気付き、急いで自分の部屋に走った。
部屋に入り、荷物を抱えて優夏の元へ一直線に走る。
そして、リビングでただ戸惑っている優夏のそばに立つ。
「優夏、話は後だ!!いいから荷物を持って急いで来い、外で待ってる!!」
「え、ちょ、ちょっと、誠ぉ!?」
あたふたとしながら、優夏はそれでも急いで自分の部屋へと走った。
俺も、テーブルの上の鈴を二個、ちゃんと持ってロッジを出た。


PM 13:54


空を見上げた。
雲が少しある程度の、晴れ渡った空。
「誠、荷物持ってきたよ!!」
自分の荷物を全部持ってきた優夏が、息を切らして俺の隣に立ち止まった。
膝に手を突いて・・・相当疲れてると見た。
「これ渡しとくぞ、優夏」
右手に持った鈴のひとつを、荷物で使えない右手の代わりに、左手に持たせる。
まだ、納得がいっていないようすの優夏だったが、説明してる暇はない。
「じゃ、いくぞ、優夏!!」
「どこにいくのよぉっ!?」
優夏が、俺の後について走り出しながらそう疑問をかけてくる。
俺は答える。
大声で。
「帰りの船だよっ!!」


PM 14:18


はぁっ、はぁっ!!
ま、間に合うか・・・!?
「ま、誠っ!!ふ、船、船がまだいるよ!!」
俺の後ろを必死でついてくる優夏が、息を切らしながらそう叫んだ。
「い、急ぐぞっ、優夏!!」
船まであと100Mといったところか!
二人、同時にラストスパートをかける。
が・・・しかし。

ブゥォォォォーーーッ

・・・船が、船が動き始める合図が・・・汽笛がなってしまった・・・
「諦めないで、誠っ!!まだ間に合うよ!!」
「そ、そうだな!!」
二人で、最後の直線を駆け抜ける。
・・・船着場、到着・・・・
・・・船は・・・もう、10Mほど先にいた・・・
・・・
「はぁ、はぁ・・・・間に・・・合わなかった・・・」
視界に入るのは、船の上で口々にいろんなことを言っているみんな。
『石原ぁ!!』だの、『本当にドジね、誠君』だの。
・・・ああ・・・離れていくみんな・・・そして・・・

ばたっ!!

荷物を放り出し、地面の上に仰向けになる俺・・・
・・・はっきり言って、疲れた・・・
「はぁ、はぁ・・・わ、私も、もうだめぇ・・・」

ばたっ・・

優夏が、俺の上に重なるようにして倒れこむ。
二人の荒い息が妙に耳につく。
あと・・・あとさ、優夏さん。
か、顔、近すぎると思うんですけど・・・
「ね・・・誠ぉ・・・はぁはぁっ・・・船だって分かってたんだよね、夢・・・」
「あ、ああ・・・はぁはぁ・・・ここに向かってたときには・・・・分かってたけど・・・」
「だったら・・・ふぅっ、なんで鈴・・・持ってきたの?・・・必要・・・ないじゃない?」
「ふぅっ、い、いや・・・やっぱりあれって俺と優夏の・・・想い出の品だからさ・・・」
「・・・俺と優夏の、想いの証・・・っぽいから」
「・・・そっか・・・。・・・誠・・・ごめん、我慢できない・・・」
・・・その瞬間、全てが正夢となった。
・・・俺と優夏は唇を重ね。
ひとつに握られた優夏の左手と俺の右手からは、鈴が2つ、ころころと転がっていった。
そして、長いキスのせいで、二人の息は遮られていた・・・
・・・二人の息は、その刻のみ、とまっていたのだった。
完全に、夢のとおりに。



・・・未来は変えられなかった、ということなのかもしれない。
・・・しかし、変わらなくて良かった・・・と思った未来が、ここにある。
初めて訪れた4月7日。
今、全ての想いを込めてしたキスも、4月7日のひとつ。
このとき、この瞬間の出来事は、俺と優夏のもの。
・・・俺たちの4月7日は、大切な想い出に。
二人の大切な想い出・・・・・・永遠の七日だ。



FIN



真面目なあとがき

ども、時間なくて全然続きがかけなかった、まるです。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。
お疲れでしょうが、まあ、最後まで作者の戯言を聞いてやってくださいな。
えっと、ですね。
この作品は、ネバー7をあるお方から借りて、やらせていただいた時(つまり、1月15日くらい)に書き始めたものですが・・・
なんでこんなに間があいとんねん、というつっこみも多々あるかと。
説明いたしましょう、ええ、させてくださいませ。
受験生だから。おわり。
説明不足ではないでしょう、この一言は。
この一言に全てが、私の想い全てが!!
なんてことはどうでもいいですね。
では、こんなSSを読んでいただいて、ありがとうございました。
同時に、お疲れ様でした。
この後はくだらないものが書いてありますので、お読みになられてはいかがでしょうか?
ではでは、このへんで。
ごきげんはお〜♪


早崎かんなと、白樺あやねの、ちょこっと質問答えちゃう!!のコーナー♪


どーも、ネバ7担当のかんなって言うんだ。で、質問に答えんのが、あたしの隣にいるあやねだ。

A.どうも、あやねと申します、以後、よろしくお願いします。

・・・いちいち「A」だすな。

A.これは、『アンサー』のAじゃなくて、『あやね』のAだから仕方がないじゃない・・・

・・・ややこしいな・・・今度まるに文句言って締め上げとこ。
・・・んじゃ、作品中の疑問が、早くも HN朝倉沙紀さまさまさま から、声で届いてるから、紹介することにするかな。

Q.どうして午前中、私たちが出演できなかったのか教えないよ!!答えるまで話さないで!!
・・・蘭姉ちゃん、なにしてるの?ちょ、ちょっとコナン君!!今はだめ!!ものまねしてるの!ふ〜ん・・・変な蘭姉ちゃん。

・・・いや、答えるまで話さないでって・・・話さなきゃ答えられないだろーが。
あと・・・余分な声が混じっちまったところは、きちんと消去しろよ・・・
質問の意味は、『どうして、沙紀たちはどこにもいなかったのか』、だよな?
・・・じゃ、答えろ、あやね。

A.わかったわ。
えっと、いなかったのではなく、ただたんに、すれ違っていただけです。
朝日を見ている時に、沙紀たちはルナビーチへ。
誠たちが道路からルナビーチに行けば、沙紀たちは浜を通ってロッジへ向かって、そこですれ違います。
誠と優夏はものまねで、沙紀たちは海の方を見ていたので気付かなかったというわけです。
その後は、誠たちがロッジに向かっている間に、沙紀たちは荷物を持って船に行き、そこで誠たちを待っていた、というわけです。

じゃ続いて HNマジカルさゆりん から、簡単な疑問がはがきで届いてるから、紹介するぞ。

Q.この物語の主人公が智也さんに見えますよー、あははーっ♪

・・・・

A.そうではないことを祈ります。

最後に HNエルクゥの血に目覚めたあんですとー!! からの疑問のはがき。
・・・どうでもけどよ、このHNのやつ、やたら強そうだな・・・・・・一戦交えたいぜ。

Q.ロボットに心は必要か。・・・!?・・・グガァァ!!ウンコフンデシネ!!

・・・大丈夫か、こいつ・・・?
あと、血文字ではがきを出すのはやめろ。
それと、この質問は全くネバー7に関係ないだろ。

A.あなたは君望DC発売を待ってください。

・・・さって、ハガキも終わったし、帰るとすっかぁ〜。
あやね、もういいから、締めちまえよ。

A.分かった分かった・・・もう、せっかちね、かんなは・・・
・・・ではでは、この辺で終わりとさせていただきます。
また、あえる日を。ごきげんよう、さようなら〜♪

じゃあな!!
(まるのやつ、ネバ7SSこれから先、書くことあるのか・・・?)
(書かなきゃあたしら、これでさよならだぜ・・・・・・やっぱり締め上げとこ)







SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送