優夏SS    4月3日   
誠ノックアウト   恐怖のランチタイム  好き嫌い談義   カレーの後のお約束    優夏ご乱心!?   戦慄の閃光  

//4月3日
オレ目の前には永遠の暗闇が広がっている・・・。
どうしてオレはここにいるのだろう?オレはそんなことを考えながら歩いていた。

優夏「誠・・・」 突然オレの後ろから優夏の声が聞こえてきた。
オレは後ろを振り返るがそこには優夏の姿はない・・・。

誠「優夏!」

オレは思いっきり叫んでみた。
しかし、オレの声は暗闇のなかに響くだけで優夏の声はしなかった・・・。

誠「空耳か・・・?」

オレはそう考えながら再び歩き出そうとしたその瞬間・・・
優夏の声が再び聞こえてきた。
優夏「私・・・どうしても過去に戻りたかったの・・・。
   私はあの子に自分の想いを伝えたかった・・・」

過去に戻りたい、あの子に想いを伝えたかった・・・。
オレにはその言葉の意味がわからなかった。
しかし、どうしてだろう?優夏のその言葉を聞くとオレの胸は苦しくなってきた・・・。

―ガバッ― オレは思いっきり起き上がった。

誠「何だよ、あの夢は・・・」

オレはそう呟くと再びベッドに寝転んだ。
そして天井を見上げながら考えていた。
優夏が過去に戻って想いを伝えたいあの子とは一体誰だろうか?
しかし、もっと不思議なのは過去に戻りたかったという言葉だ。
まるで過去に戻れるなにかがあるかのような言葉じゃないか・・・。 オレはしばらく考え込んでいた。

誠「まあ、過去に戻るなんてことは不可能だよな」

オレはそう言って再び起き上がった。
時計を見ると 4月3日 WED 3:52 となっていた。

誠「まだ、起きるには早すぎるよな・・・」

オレはそう呟くと再び眠りについた・・・。
                                 
沙紀「誠くん、誠くん!」

オレは沙紀に揺さぶられて目が覚めた。

誠「あ、ああ・・・」

オレはそう言って起き上がろうとした瞬間
頭がぐらついて再びベッドに倒れてしまった。

沙紀「ちょっと誠くん!大丈夫?」

沙紀がそう言うとオレの額に手を当てた。

沙紀「熱はないようだけど・・・顔色が悪いわね。寒気とかする?」

誠「いや、ただ急に気持ち悪くなっただけだ・・・」

沙紀「昨日の疲れかしら・・・?」

誠「そうかもしれないな・・・」

沙紀「せっかく今日はみんなでテニスをしようと思っていたけど、その様子じゃ無理ね」
誠「ああ・・・悪いな」

沙紀「謝らなくてもいいわよ。とにかく何か作ってくるね」
沙紀はそう言って部屋を後にした。
そしてしばらくすると今度は優夏を連れて入ってきた。

沙紀「はい、誠くん。ロッジにある材料じゃスープしかできなかったけど・・・」

誠「いや、これくらいがちょうどいい。ありがとうな沙紀」

優夏「誠・・・私のせいでこんなことになってごめんね」

優夏は目にうっすらと涙を浮かべながらオレに言った。

誠「おまえのせいじゃないから気にするな。
あれくらいのことでこうなるのはオレの体力がないからだろうなぁ・・・」

オレは優夏に笑みを浮かべながらそう言った。
そしてスープを飲み終えると再びベッドに横になった。

沙紀「お口に合ったかしら?」

誠「ああ、ものすごくおいしかったよ。ありがとう」

沙紀「それはよかったわ」

沙紀は嬉しそうに言うと茶碗を持って部屋を後にした。 優夏「それじゃ・・・もう行くね」

誠「ああ」

優夏がそう言ってオレの部屋のドアに手をかけた。

優夏「お昼には私が何か作ってあげるね」

優夏はそう言って部屋を後にした。
誰もいなくなった静かなロッジでオレはボーッと天井を見上げていた。

誠「あの時は別に何ともなかったのになぁ・・・」

オレはそう呟いていた。
昼には優夏が帰ってきて何か作ってあげる・・・か。
いや、ちょっと待てよ。オレは4月1日のことを思い出した。
確か優夏の料理の腕は・・・オレには恐怖感が生まれた。
しかし、優夏の顔を見ていると断ることができるはずないだろう・・・。
まあ、なるようになれだ。オレはそう考えて眠りに入った。
                                             
―パッポ パッポ パッポ・・・― リビングの鳩時計が12時を告げた。
オレはその鳩の鳴き声で目が覚めた。
そして同時にロッジの扉が開けられる音も聞こえてきた。
そして足音がオレの部屋に向かってくる。
オレの部屋に入ってきたのは優夏だった。

優夏「誠、朝言っていた通りお昼ご飯を作りにきたよ」

誠「あのな、ノックくらいしろよ」

優夏「あ・・・そうよね」

優夏は再び部屋の外に出ようとしていた。

誠「おい、わざわざ戻らなくてもいいじゃないか」

優夏「そうよね」
優夏は照れ隠しに笑っていた。

誠「大丈夫か、優夏?」

優夏「うん。大丈夫大丈夫・・・」

そう言うと優夏はオレのほうへ歩み寄る。そして額に手を当てると・・・

優夏「熱はないのね。調子はどう?」

誠「ああ、だいぶ楽になった」

優夏「よかった♪それじゃ私が腕によりをかけておいしい物を作ってあげるね。
   材料もちゃんと買ってきたし期待してね♪」

誠「ああ」

優夏「たぶん30分くらいでできると思うから」

そう言って優夏は部屋を後にした。
たぶん1時間以上はかかるな・・・オレは苦笑いしながらそう思っていた。

優夏「おまたせ〜♪」

そう言って優夏が入ってきた。オレの予想通り一時間以上あとのことだった。
さて、作った料理は・・・何だこれ?

誠「優夏・・・これは何だ?」

優夏「一応ハンバーグのつもりだけど・・・やっぱりそう見えないわよね。
   でも形は悪いけど味はおいしいはずよ」

優夏はそう言うとハンバーグらしき物を一口大に箸で切ってそれを箸でつかむと・・・

優夏「はい、誠。ア〜ンして」

優夏はオレの口の前にそれを突き出した。
誠「バカ!自分で食える」

オレはそう言うと優夏の腕をつかんだ。

優夏「え〜!病人にはこうして食べさせてあげるのが普通でしょ?」

誠「そんなこと聞いたことがないぞ!」

優夏「つべこべ言わずにさっさと口を開けなさい!」

誠「だから自分で食べるって言っているだろうが!」

優夏「はは〜ん」

優夏は突然、顔をニヤつかせた。 誠「な、何だよ・・・」

優夏「誠、もしかして恥ずかしいの〜?」

誠「バッ、バカ!そんなことあるはずないじゃないか」

優夏「んもう、誠って意外とシャイなのねぇ・・・」

優夏はオレの肩をポンと叩くと嬉しそうに笑っていた。
オレは無性に恥ずかしくなってきた・・・。

誠「とにかく!早く食べさせてくれよ!!」

オレはそう言うと優夏の顔がにやけた。
ハッ!この展開はもしかして・・・

優夏「やっとその気になってくれた?それじゃア〜ン・・・」

優夏の奴・・・謀ったな!オレはまたしても優夏に上手を取られてしまった。
えーい!こうなったらヤケだ!オレは口を開けると優夏に食べさせてもらった。
誠「お!」

優夏「お、の先は?」

優夏は目を輝かせてオレの言葉を待っていた。
確かに優夏の作ったハンバーグはオレの想像以上においしいものだったが
さっきのことを含めて素直においしいというのもシャクかななどと思い・・・

誠「お水!」

優夏「へ?」

誠「水を持ってきてくれないか?」

優夏は何も言わずに立ち上がると部屋を後にした。
オレは心の中で大笑いしている。そして優夏が水の入ったコップを持ってくると・・・

優夏「水を渡す前に、ハンバーグの感想について聞きたいなぁ・・・」

クッ!そうきたか・・・。
しかし今のオレは疲れていて優夏に対抗する気力がない。

誠「オレが予想していた以上においしかったよ・・・ありがとう」

オレは素直な感想を言ってしまった。

優夏「嬉しい〜♪はじめておいしいって言ってもらえた〜♪」

だろうな・・・オレは心の中でそう思った。
そして優夏はオレに水の入ったコップを手渡すと再びオレの前に座った。

優夏「はい、誠。ア〜ンして」

誠「おい!まさか全部食べさせる気か?」

優夏「当たり前じゃない。ほら、どんどん食べて」

結局オレはこの後1時間以上優夏とハンバーグを食べさせられるはめになった。
こんなに恥ずかしくて時間のかかった食事は初めてだ・・・。オレはそう思っていた。 オレは再び寝ようと考えていたが目が覚めてしまって眠れなかった。
オレはベッドから起き上がりリビングへと向かうことにした。
リビングにやってくるとオレはとりあえずソファーの上に座った。
キッチンのほうを見ると優夏が鼻歌を歌いながら食事の後片付けをしていた。
よっぽど嬉しかったのだろうか?オレはそんなことを考えながらその光景を見ていた。
やがて優夏が後片付けを終わらせると、ふとオレと目が合った。

優夏「コラ〜!誠〜!!」

優夏がオレのほうへズンズンと歩み寄ってくる。
オレ何か悪いことでもやったか?オレはそんなことを考えながら思わず退いていた。

誠「どうした・・・そんな怖い顔をして・・・」

優夏「どうしたもこうしたもない!ちゃんと寝てなくちゃダメじゃない!」

なんだ、そんな事か・・・オレはホッと胸をなでおろす。

誠「もう寝ていなくても平気だから、別にいいじゃないか」

しかしそう言いつつもさっきから頭がクラクラして気持ち悪い。

優夏「ダメ!誠は平気だって言うけどさっきよりか顔色が悪くなっているじゃない!!」 ドキッ!オレは本当のことを言われ返事に困ってしまった。
そして次の言葉を考える間もなくオレは優夏に引っ張られ部屋に強制送還された。
そしてベッドに入ると優夏がオレのことをジーッと見ていた。

誠「なあ・・・そんなに見ることはないだろう?」

優夏「いいえ!誠がちゃんと眠るまでこうして監視させてもらうわ」

ハァ〜・・・どうやら本当に眠るしかないようだな。
オレは優夏に背中を向けると瞳を閉じた。
ふとオレは朝のことを思い出した。
そう、夢に出てきた「過去に戻りたい」という優夏の言葉だ。 オレは優夏に問いかけてみた。
誠「なあ、優夏?ひとつ聞いてもいいか」

優夏「ん、何?」

優夏はオレと目が合うと優しい笑みを浮かべながら返事をした。

誠「おまえは戻りたい過去みたいなものがあるのか?」

優夏「戻りたい過去?うん、ひとつだけ・・・あるよ」

誠「そうか・・・」

オレは相槌を打つだけで終わりにしてしまった。
本当はその過去の内容について知りたいと思ったのだが
優夏の優しかった目が急に寂しくて悲しそうな目になってしまい
その目を見ると内容まで聞く気にはなれなかったからだ・・・。

優夏「誠はそういうのがあるの?」

誠「オレか?オレは・・・・」

オレは今までのことを振り返って考えてみた。
後悔したことはあるがどうしてもというほどではなかった。

誠「特にないな。そんなことを考えたこともなかったし、大切なのは今だからな・・・」

オレはなにを言っているのだろう・・・。
オレは自分で言った言葉にわけが分からずたまらなく恥ずかしくなった。

優夏「そっか・・・いいなぁ、そういう思いがないのって」

あれ?オレは優夏の反応に少し驚いてしまった。
いつもなら「似合わないセリフ〜」とか「なにキザなこと言っているのよ!」とか
言われてもおかしくない状況なのに・・・オレはそんなことを考えていた。

優夏「もう聞きたいことはないの?」

誠「ああ」

優夏「そう・・・」

優夏は残念そうに呟くと再びオレを見つめていた。
そしてオレは瞳を閉じて眠りに入った・・・。
どれくらい時間が経ったのだろうか?
オレが目覚めると優夏の姿はなかった。オレはベッドから起き上がると背伸びをした。
いつの間にか不快感はなくなりどうやら治ったようだ。
                                                    
オレは部屋を後にしてリビングへと向かった。
リビングには夕日が射しており窓の外にはきれいな夕焼けが見えた。
オレはソファーに座りながらその夕日を見ていた。
こうして夕日をじっくり見るのは何年ぶりかな?オレはそんなことを考えていた。
―ガチャ― ロッジの扉が開いた。
どうやらテニスを終えてみんなが帰ってきたようだ。

沙紀「誠くん。もう起きても大丈夫なの?」

誠「ああ、もう大丈夫だ」
沙紀「そう、よかったぁ・・・」

沙紀は嬉しそうにそう言った。
くるみ「お兄ちゃん!治るのが遅いよ〜」
突然くるみはオレにそう言った。

くるみ「せっかく今日のテニスはお兄ちゃんとダブルスでやってみたかったのにぃ〜」

くるみは悔しそうに言っていた。

誠「別に今日じゃなくても別の日にできるだろう?」

くるみ「え!お兄ちゃん、くるみとテニスやってくれるの?」

誠「ああ、約束するよ」

くるみ「ワ〜イ、やったぁ〜♪」

くるみは嬉しそうに飛び跳ねていた。
オレはそのくるみの様子を見ていると心が和んできた。

優夏「コラ!誠!!ちゃんと寝てなさいって言ったでしょ!」

優夏は帰ってくるなりオレに怒鳴りかけた。

誠「治っているから起きていても平気だ!」

優夏「また、嘘をつくつもり〜!だいたい顔色が・・・いいわね」

優夏はオレの顔をまじまじと見ながらそう言った。

誠「ほらな。だいたいおまえは過保護すぎだ!」

優夏「そんなことない!いくら用心してもしすぎることはないって言うでしょ!
   おまけに私のせいでこうなったからちゃんと責任を取らなくちゃいけないの!!」

誠「・・・・・・・・・」
オレは思わず黙ってしまった。
優夏がそこまでにオレのことを考えていてくれたことが分かり
過保護などといったことが申し訳なく感じたからだ・・・。

誠「悪かった・・・」

オレは素直に謝った。
優夏はその言葉を聞くと嬉しそうに笑い

優夏「分かればいいのよ。でも、よくなったみたいだから、もう起きていてもいいよ♪」

優夏はそう言って部屋へと戻っていった。

いづみ「あれ、誠くん?体調が悪かったって聞いたけど・・・」

後からやって来たいづみさんがオレのほうを見て言った。

誠「今日1日寝ていたらよくなりました」

いづみ「そうなの。じゃあ、誠くんも晩ご飯はカレーでいいかしら?」

誠「はい、大丈夫です」

くるみ「今日の晩ご飯、カレーなのぉ〜!!」

くるみは嫌そうな顔をしてそう言った。

くるみ「お姉ちゃん、くるみによそうときはニンジンとタマネギは抜いてね」

優夏「くるみちゃん、ニンジンとタマネギ嫌いなの?」 くるみ「うん、あとピーマンも」 いづみ「くるみ!いいかげんにその好き嫌いを直しなさい!!」

くるみ「ぶぅ・・・」

優夏「でも私も納豆だけは苦手だな〜」

遙「私は・・・卵と牛乳・・・」

沙紀「私は味さえよければ別に好き嫌いはないわ」

億彦「僕は女の子との食事だったら何でも食べられるよ」

優夏「いづみさんは食べ物で好き嫌いとかありますか?」

いづみ「え?!私。そうねぇ・・・特にないわねぇ・・・」

くるみ「お姉ちゃんの嘘つき〜!!お姉ちゃんこの前の晩ご飯でカニ玉を作ったときに
    くるみにはグリンピースを入れたけどお姉ちゃんは入れていなかったじゃない」

優夏「え、本当ですかいづみさん?」

いづみ「うん・・・私、グリンピースだけは苦手なのよ・・・」

そう言っていづみさんはテヘッと舌を出した。
こういう仕草もするのか・・・オレはそんなことを考えていた。

くるみ「グリンピースが嫌いなお姉ちゃんこそ子供だよ!」

いづみ「はいはい・・・お姉ちゃんが言いすぎでした」

いづみさんはくるみをなだめるとキッチンへと向かいカレーを作り始めた。
カレーができるまでの時間、オレはみんなからテニスでの出来事を聞いていた。
そしてカレーが出来上がり食べ終わると、突然くるみが言い出した。
                                                
くるみ「ねえ、これからみんなで肝試ししない?」
誠「肝試し?この島にそんな場所があるのか?」

くるみ「うん。このロッジの近くの墓地」

優夏「え〜、墓地なの〜?!」

くるみ「だって、そういう場所じゃないと肝試しにならないじゃないですか優夏さん」

優夏「ならなくていいの!肝試しじゃなくてトランプとか色々あるでしょ」

沙紀「優夏、もしかして・・・怖いのかしら?」

優夏「そ、そんなことあるわけないじゃない!」

くるみ「じゃ、肝試しに決定〜♪」

優夏「え〜〜〜!」

優夏の奴・・・本当に怖いらしいな。
オレはそう考えながらくるみに続いてロッジを出て行った。
オレたちは林道を下りくるみの言う墓地へと向かっている。
先頭は意気揚々と歩くくるみ、その後ろに遙と億彦
そして優夏といづみさんが歩いている。あれ、沙紀はどこだ?

沙紀「誠くん」

さっきまで見当たらなかった沙紀が突然オレの後ろからポンと手を叩いて声をかけた。

誠「うわぁぁ!!」

オレは思わず横に飛び退いていた。

沙紀「シーッ!大きな声出さないで。それにそんなに驚かなくてもいいじゃない・・・」

誠「悪い。いきなりでびっくりしてしまったからな」

オレは沙紀に謝る。

誠「それより、用件は?」

沙紀「うん。あのね、肝試しってたいがい2人1組のペアになって行動するでしょう?」

誠「ああ」

沙紀「それでね。たぶん向こうに着いたらペア分けのジャンケンをすると思うのよ」
誠「なるほど。もしかして、グー・パー・グー・パーの順に手を出せとかそういうのか?」

沙紀「え?!どうして分かったの?」

誠「パターンだからさ」
沙紀「分かっているなら話が早いわ。私はその順で手を出すから誠くん考えておいてね?」

沙紀はそう言うとそのまま走り去ってしまった。
どうして沙紀はオレと組みたがっているのだろう?オレはそんなことを考えていた。

優夏「ねえ、誠・・・?」

今度は優夏がオレの後ろから声をかけてきた。
いったい、いつの間にオレの後ろに来たのだろう?オレはなんだか怖くなってきた。

誠「なんだよ、優夏?」

優夏「あのね、沙紀から誘われたばかりで言うのもあれだけど・・・」

優夏は指を組んだりほどいたりしてうつむいていた。

優夏「私もね、誠と組みたいなぁ・・・」

誠「え?」

オレは優夏の意外な言葉に思わず気のない返事をしていた。

優夏「だから!誠と組みたいの!私はチョキしか出さないから」

そう言って優夏は走り去ってしまった・・・。
どうする?優夏も沙紀も後が怖そうだぞ・・・。オレは考え込んでしまった。
やがて墓地に到着するとくるみが墓地について話したり、ルールについて話したりした。

くるみ「それと、今回はくるみとお姉ちゃんがみんなを驚かせる役だから」

誠「くるみは分かるけど、どうしていづみさんまで・・・?」

くるみ「だって、お姉ちゃんも井戸のある場所を知っているから
    お姉ちゃんと組んだ人はすぐに見つかってつまらないでしょ?」

誠「なるほどな・・・」

オレは相槌を打っていた。

優夏「なるほどじゃない!誠、分かっているの?!」

誠「何が?」

優夏「いづみさんも抜けるって言うことは、残っているのは
   私と、誠と、沙紀と、億彦くん、遙の5人よ!」

誠「そんな単純な計算、小学生でも分かるよ・・・」

優夏「話は最後まで聞いてよ!」

誠「はい・・・」

優夏「残った人数が5人という事は絶対に1人余りが出るじゃない・・・」

くるみ「フッフッフッ・・・優夏さん大正解!
    日本肝試し振興会発行の本年度版公式ルールブックによると
    『肝試し中は1人、もしくは2人で行動すべし』になっているから
    2・2・1の振り分けになるの」

誠「何だ・・・そんな事か・・・」

オレは優夏が熱弁していたわりには内容はたいした事ではなかったので
拍子抜けしていた・・・。

くるみ「それじゃ、ペア分けのクジを引いてね♪」

くるみはそう言ってクジを差し出した。

優夏「え?!クジで決めるのぉ〜」

沙紀「くじ引きだったの・・・」

億彦「ジャンケンじゃないのかい?くるみちゃん」

くるみ「フッフッフッ・・・その様子だとみんな誰かと組みたいって企んでいたでしょう?」

優夏と沙紀と億彦はおもわず退いていた。 くるみ「日本肝試し振興会発行の本年度版公式ルールブックによると
    『肝試しのペアは意図的に作ってはならない』ってあるもん。
    くじを引いてお目当ての人を当てられるといいね♪じゃ、まずは優夏さんから」

優夏「分かったわ・・・」

優夏はどこか緊張した足取りでくじを引いていた。
そしてくじを引いてオレのほうを向くと3と指であらわしていた。優夏は3番か・・・。

くるみ「次に沙紀さん」

沙紀「私?意外と早かったわね・・・」

沙紀はそう言いながらも手先が震えていた。
おいおい・・・くじ引きでそんなに緊張するなよ・・・オレはそう思って見ていた。
そしてくじを引いてオレのほうを向くと1と指であらわしていた。沙紀は1番か・・・。

くるみ「次にお兄ちゃん」

誠「え、オレか?」

くるみ「うん、そうだよ」

残っているクジは3本。優夏と組むか沙紀と組むか、もしくは1人になるか決まるのか・・・。
優夏と沙紀はオレのほうをジーッと見ていた。
マズイ・・・緊張してきたぞ・・・。オレはさっさとクジをつかむとそのまま引き上げた。

誠「1番だ・・・」
オレは後ろを振り返ると優夏の悔しそうな顔と沙紀の嬉しそうな顔が見えた。
まあ、これも運だ。恨まないでくれよ優夏・・・オレは心の中でそう思っていた。
くるみ「じゃあ、次に遙さん」

遙「うん・・・」

遙は静かに返事をすると歩き出した。

遙「3番・・・」

3番は優夏とペアだったよな・・・と、いうことは・・・。
オレは億彦のほうを横目で見る・・・億彦は青ざめていた。

億彦「もしかして・・・僕が1人かい?」

くるみ「うん♪」

億彦「そんな・・・」
運が悪かったな億彦・・・オレはそんな事を考えていた。

くるみ「それじゃ、お兄ちゃんと沙紀さん。スタートして」

くるみの言葉でオレと沙紀は歩き始めた。 沙紀は怖がる様子も見せずただ平然と歩いていた。
別に怖いからオレと組みたいというわけではなさそうだな・・・。

誠「なあ、沙紀?どうしてオレと組みたいって思った?」

沙紀「教えてほしい?」

誠「そりゃあ・・・な」
沙紀「じゃ、教えてあげる。誠くんに興味を持ったからよ」

誠「オレに?」

沙紀「そう、誠くんに」

オレは沙紀の言葉を聞いてドキドキしていた。
女の子にこういう言葉を言われたのは初めてだったからだ。

沙紀「たまにね、誠くんのちょっとした仕草や態度を見るとある人を思い出すの」

誠「ある人?」

沙紀「優夏の初恋の人よ」

誠「優夏の初恋の人・・・?」

オレは少しがっかりした。
沙紀はオレがその優夏の初恋の人に似ているから興味を持ったと思ったからだ。

誠「何が似ている?顔か?」
沙紀「ううん、顔は全然違うけど・・・なんて言うのかな。全体的な雰囲気というか・・・    まあ、そんなものよ」

誠「そうか・・・」

オレは特に興味のある話題ではなかったのでそれとなく返事をした。

沙紀「あ!もしかして不愉快にさせてしまったかしら?」
沙紀はオレの態度を見てそう思ってしまったようだ。

誠「いや、そんなことはない・・・」

沙紀「そう、それならいいけど・・・」

しばらく無言の空間が続く。

沙紀「ねえ、誠くん?優夏のことどう思っているの?」

誠「え?!」

オレは沙紀の突然の質問に少し混乱してしまった。

誠「それは・・・優夏はいい奴だと思っているよ・・・」

沙紀「それだけ。本当にそれだけなの?」

誠「ああ・・・」

沙紀「そう・・・。でもね誠くん?優夏はすくなくともあなたといるときは幸せそうよ。
   たぶん、なくしたものが戻ってきたからだと思うけど・・・」

誠「なくしたもの・・・?」

沙紀「それが、優夏の初恋の人なの」

誠「その人は・・・死んでしまったのか?」
沙紀「うん・・・私たちが中学3年の修学旅行のときにね・・・」

誠「そうか・・・」

沙紀「あ!誠くん。このことは優夏には言わないでね」

誠「え、優夏は知らないのか?」

沙紀「うん・・・」

誠「そうか・・・」

それっきりオレと沙紀の会話は途切れてしまった。
そして、井戸らしき建物の影が見えてきた。

誠「あと少しだな・・・」

沙紀「そうね・・・」

オレたちがそう会話をしたその瞬間!!
―ペチャ― 突然、オレの顔面に冷たくてぬるぬるしたものが当たった。

誠「うわっ!」

オレは思わず後ろに飛び跳ねたが慌てていたためそのままこけてしまった。

沙紀「大丈夫、誠くん?突然どうしたのよ・・・」

沙紀がオレに手を差し伸べようとしたその瞬間
さっきの妙な物体が沙紀の顔面にも当たっていた。

沙紀「キャッ!!」
沙紀も後ろに飛び跳ねるとオレと同じようにこけた。

誠「大丈夫か、沙紀?」

オレはそう言って沙紀に手を差し伸べる。

沙紀「ありがとう、誠くん」

沙紀はそう言ってオレの手を握ると立ち上がるなり叫んだ。

沙紀「くるみちゃんかいづみさんか分からないけど、いい加減に出てきなさい!!」

沙紀のその声を聞くと・・・

いづみ「ウフフ・・・ごめんね、誠くん、沙紀ちゃん」

いづみさんがテヘッと舌を出しながら出てきた。

沙紀「まあ、肝試しですから驚かせるのは当然ですけど・・・。
   ちょっとやりすぎじゃありませんか!」

いづみ「ごめんなさいね・・・私もそう思ったけど最初はもっとひどかったのよ?」

誠「え?」

いづみ「えーとね、最初にこのラジカセで断末魔の入ったテープを流したあと
    作り物の生首をあの木から吊るし下ろす予定だったのよ・・・」

沙紀「な・・・」

いづみ「でも、それじゃみんなに悪いから私がくるみに説得してこの企画は中止したの。
   そのかわり私の提案した『こんにゃく作戦』を実行したの」

誠「じゃあ、オレたちの顔に当たった物って・・・」

いづみ「そう、こんにゃくよ。こういうふうに竿につるしてね」

いづみさんはこんにゃくをつるしている竿を取り出した。

いづみ「私が驚かすのは誠くんと沙紀ちゃんの予定だったから私の役はもうおしまい。
    一緒に行動してもいいかしら?」

誠「オレは別に構いませんけど・・・」

沙紀「私も別に構いませんよ」

いづみ「よかった。それじゃ行きましょうか」
                                   
オレたちが歩き出そうとしたその瞬間!

優夏「キャァァァァァァァァ!!!」

億彦「ギョエェェェェェェェ!!!」

まるで断末魔のような2つの叫び声が聞こえてきた。
優夏と億彦の声だよな・・・一体何をされたのだろう・・・。
オレがそんな事を考えていると・・・。

いづみ「おかしいわ。くるみは億彦くんを驚かせてから
    優夏ちゃんたちを驚かせるはずよ。
    その億彦くんと優夏ちゃんの悲鳴が同時に聞こえるのはありえないわ・・・」

沙紀「億彦くんと優夏たちが途中で合流したと思いますよ」

いづみ「ううん。それはありえないわ。 
    この墓場には井戸に向かう道が3本あるの。
    くるみは誠くんと沙紀ちゃんには1の道、億彦くんには2の道
    優夏ちゃんと遙ちゃんには3の道を歩かせたけど
    どの道も井戸まで交わることがないのよ・・・」

誠「じゃあ、優夏はどうして悲鳴を・・・?」

いづみ「さあ・・・私にも分からないわ・・・。
    ただ、島の間では3の道には本物の幽霊が出るっていう噂があるけど
    まさかね・・・」

誠「いづみさん!その3の道にはどうやって行けばいいですか!
  オレ優夏の様子を見てきます!!」

いづみ「最初の分岐地点からしか入れないけど・・・
    ここからは井戸に行ってから戻るのが近いからそっちのほうがいいわよね。
    ここから井戸まで一本道よ。そして井戸に出たら一番右側の道が3の道よ」

誠「分かりました」

オレはそう言って早速、井戸に向かいその後3の道へと入っていった。
そして3の道に入ってすぐ泣きじゃくる優夏を支えながら遙が歩いていた。

遙「誠・・・重いから変わって・・・」

遙はオレの姿を見つけるとオレに言った。

誠「ああ」

オレは遙に変わって優夏を支える。

誠「一体、何があった?」

遙「優夏が子犬の首を生首と勘違いして悲鳴をあげたの・・・」

誠「それだけか・・・?」

遙「うん・・・それだけ・・・」

まったく人騒がせな奴だ・・・オレは心の中で思った。
そしてオレは泣きじゃくる優夏をなだめながら遙と一緒に歩いていた。
そして井戸が見えて後少しというところで・・・
―ヒュ〜ドロドロドロドロ・・・― 定番の音楽が突然あたりに響いた。

くるみ「一枚・・・二枚・・・三枚・・・」

突然、くるみの何かを数えている声が聞こえてきた・・・。
たしか・・・これって・・・

くるみ「八枚・・・九枚・・・あら、一枚足りないわ・・・」

やっぱり・・・それにしてもなかなかの演技だな。
オレはそんな悠長な事を考えていた。

くるみ「そこにいる方。私のお皿を知りませんか・・・」

遙「ううん、知らない・・・」

遙は当たり前のように答えていた。 もしかして・・・くるみだという事が分かっていないのか?

くるみ「いいえ・・・わからない事はありませんわ・・・。
    だって・・・私のお皿を取ったのは・・・」

遙「取ったのは・・・?」

くるみ「おまえたちだ〜〜〜!!!」

くるみが突然、懐中電灯を顔に下に当てながら出てきた。

誠「うわっ!!!」

遙「!!!」

オレと遙は思わす後に飛び跳ねていた。
オレはくるみだという事が分かっていたが驚いてしまった。
くるみの懐中電灯を顔の下に当てていた顔に驚いたからではない。
さっきまで声のしていた方向とはまったく別方向からでてきたからだ。

くるみ「大成功♪」

くるみは満足そうに笑っていた。

誠「なあ、くるみ。おまえさっきまでどこで喋っていた?」

くるみ「フッフッフッ・・・教えてあげましょう」

くるみはそう言うとオレの右側に建っている墓の隅からラジカセを取り出した。

くるみ「これに録音していた声を流していたの」

誠「なるほど・・・」

オレは感心していた。

くるみ「声のする方向へ相手を向かせておいて
驚かせる時は全く別の方向から登場して相手の不意をつく!!
どう完璧でしょ♪」

誠「まあ・・・な」

くるみ「わ〜い、やったぁ♪」

くるみは嬉しそうに言うとオレたちと一緒に井戸へ向かった。
そこには沙紀といづみさん、億彦が到着していた。
そして井戸に到着してみんなと合流した瞬間、優夏が口を開いた。

優夏「お皿・・・足りない・・・?くるみちゃんの生首・・・」

おい!まさか・・・!!!

優夏「キャァァァァァァァァ!!!」

優夏が再び断末魔のような悲鳴をあげた。
おいおい・・・遅すぎるだろう!オレはそう考えていた。

誠「優夏、落ち着け!!」

オレは優夏を必死になだめた。
しかし、優夏には落ち着く様子が見られなかった。
そして何を思ったか優夏は急にオレの首をしめてきた・・・。

誠「おい・・・優夏!やめてくれ!!」

オレは必死に優夏の手を首からはずそうとする。
しかし優夏の手を首からはずす事はできなかった。
これが火事場のバカ力というものだろうか?優夏の握力はとてもすさまじいものだった。

沙紀「ちょっと優夏!落ち着きなさい!!」

沙紀も加わりようやく首から手を離すことができた。

優夏「あれ・・・沙紀?誠・・・?くるみちゃんの首もちゃんとある・・・」

どうやら少しずつ落ち着いているみたいだな。

沙紀「何言っているのよ。くるみちゃんは最初から首があるわよ」

優夏「そう・・・よね?」

優夏は照れ笑いを浮かべながら言った。
本当に人騒がせな奴だ!!オレは首筋をなでながらそう思った。

沙紀「ちょっと優夏!誠くんに謝りなさいよ!!」

優夏「え?何を・・・?」

沙紀「あんたねぇ・・・本当に覚えていないの!?」

誠「沙紀!もういいから・・・」

オレはそう言って沙紀をなだめた。

沙紀「でも、誠くん・・・」

誠「無理に思い出させる事もないだろう・・・?」

沙紀「分かったわ・・・」

沙紀はそう言うと優夏から離れた。

誠「優夏、オレに謝ることはないから気にするな」

優夏「う、うん・・・」

優夏は静かにうなずいた。

いづみ「え〜と、ちょっと賑やかになったけど・・・もういいわよね?」

誠「はい」
                                              
くるみ「そ、それじゃ・・・肝試し終了♪」
くるみのその一言でオレたちは墓地を後にした。
今、オレたちの先頭を優夏とくるみと、いづみさん、その後ろに億彦と遙
沙紀は1人で歩いていた。オレは沙紀に歩み寄る。

誠「なあ、沙紀・・・」

沙紀「何かしら、誠くん?」

沙紀はオレに話し掛けられると微笑んでいた。

誠「その・・・さっきは悪かった。
  せっかくお前がオレのためにしてくれた事を棒に振る形にしてしまって・・・」

沙紀「そんな事気にしなくていいわよ。それにしても誠くん、ずいぶんとお人よしね。
   私だったらどんな理由があってもああいうことをされたら謝るまで許せないわ・・・」

誠「ハハ・・・確かにお人よしかもしれないな・・・」

オレは苦し紛れに笑いながら答えていた。

沙紀「それとも、優夏だからあんな態度をとったのかしら?」

誠「バ、バカ!そんな事ない・・・」

沙紀「あらあら・・・図星だったかしら?」

沙紀はよりいっそう笑みを浮かべながら言った。

誠「あのなぁ・・・たとえ優夏じゃなくておまえでも遙でも
  くるみでも、いづみさんでも・・・億彦でもあれくらいだったら許すよ」
沙紀「そう、それはたいそうな志ね・・・」

沙紀は適当に流しているようだった。
マズイ・・・完全に上手を取られている・・・。
このまま言ってもオレが不利になるだけだ・・・オレはそう思って黙ってしまった。
その様子を見ていた沙紀はクスクスと含み笑いをしていた。
オレは少し恥ずかしくなってきた・・・。
そして沙紀から視線をそらしたその瞬間!
―ピカッ!― またしてもあの閃光がオレの中を走った。

オレの目の前には優夏とくるみと、いづみさんの三人が歩いている。
そしてその後ろを億彦と遙・・・これはさっきまでの景色と同じじゃないか!!
オレがそう考えながら歩いていた。
―ホーホー・・・― どこからか梟の鳴き声が聞こえてきた。
近くにいるのかな?オレはそう考えて上を見上げたその瞬間!!
―ミシミシミシッ― そんな音とともに1本の巨大な枝が落ちてきた。
その枝はちょうど優夏の真上に向かって落ちている。
―ズドンッ!― 鈍い音をたてながらその巨大な枝は優夏の脳天を直撃した・・・。
優夏はピクリとも動かずドクドクと赤い血を流していた・・・。

沙紀「誠くん、大丈夫!」
―ハッ!― 沙紀に話し掛けられてオレの意識は覚めた。
オレは慌てて優夏を見る・・・大丈夫だ、元気よく歩いている・・・。

沙紀「大丈夫・・・顔色が悪いわよ・・・?」

誠「ああ、大丈夫だ」

オレは沙紀にそう言うと走り出した。
そしてオレが走り出したと同時に ―ホーホー・・・― 梟の鳴き声が聞こえてきた。
そして ―ミシミシミシッ― そんな音がオレの上で鳴っていた。
全てオレが見た光景と同じだ・・・オレはそんな事を考えながら必死に優夏に向かう。
そして優夏に近づくとそのまま優夏を突き飛ばしたその瞬間!!
―ズドンッ!― 鈍い音をたてて巨大な木の枝が落ちてきた。
間に合った・・・オレは安堵感で満たされた。

くるみ「大丈夫、お兄ちゃん、優夏さん!!」

いづみ「くるみは優夏ちゃんのほうへ行って!!」

くるみ「うん、分かった!!」

そう言ってくるみは優夏のほうへ向かった。
そしてオレのほうには、いづみさんがやって来た。

いづみ「大丈夫、誠くん!ケガはない?」

いづみさんはそう言ってオレの身体のあちこちを見ていた。

いづみ「億彦くん、手伝って!!」
億彦「はい!」

億彦はオレのほうへ駆け寄ると、いづみさんと一緒にオレを立たせた。
いづみさんはオレを立たせると優夏のほうへ向かった。

億彦「大丈夫か、石原!!」

誠「なんとかな・・・」

オレは億彦の意外な言葉に少し戸惑ってしまった。
いいところもあるじゃないか・・・オレはそう思っていると・・・

億彦「優夏ちゃん、今行くからね!!」

いつの間にか優夏のほうへ走り去ってしまった。
なんだ・・・結局はこうなるのか・・・オレはフーッと溜息をつく。

沙紀「誠くん!大丈夫」

沙紀が駆け寄ってきた。
ふう・・・こんなにも心配されるとかえってこっちが申し訳ないな。

誠「大丈夫だ・・・」

オレのそんな言葉を聞いても沙紀はオレの身体を見ている。

沙紀「それならいいけど・・・」

そう言って沙紀は優夏のほうを見ていた。

沙紀「誠くん。私・・・優夏のほうを見てみるね・・・」

誠「ああ」

そう言って沙紀は優夏のほうへと走っていった。
そしてしばらくすると優夏を連れてみんながオレの所へ来た。

いづみ「優夏ちゃんは大丈夫よ誠くん。傷ひとつ無いわ」
誠「そうですか・・・」
優夏「ありがとう、誠。誠が私を突き飛ばしていなかったら
   私・・・生きていなかったかもしれない・・・」

誠「おいおい・・・縁起でもないこと言うなよ!」

いづみ「でも事実よ誠くん。ほら、この枝を見て」

いづみさんは地面に落ちたはずの枝を指差していった。
オレはその枝を見ると寒気がした。
落ちていたとばかり思っていた枝が地面に突き刺さっていたからだ・・・。

いづみ「もしも優夏ちゃんがあのままだったらこの枝に串刺しにされていたわ・・・」
誠「そうですね・・・」
オレは震えながら見ていた。間に合って本当によかった・・・オレは心からそう思った。
そしてそのまま歩いていき林道に差し掛かると
いづみさんとくるみはオレ達に別れを告げルナビーチへと戻っていった。
沙紀も別荘に戻るのでここで別れた。
そしてそのままロッジへ戻るとオレはリビングのソファーに座った。

誠「ふぅ・・・」

オレはそんな溜息をついていた。
しかし・・・オレが見たものは一体何なのだろうな・・・。
オレはそんな事を考えながら天井を見上げていた。

優夏「誠・・・」

優夏がリビングへとやって来た。
そしてオレの姿を見つけるといきなりオレに抱きついてきた。

誠「お、おい!優夏・・・」

オレは焦った声を出しながらも腕はしっかりと優夏の体を抱いていた。

優夏「誠・・・今日はありがとう・・・本当にありがとう・・・」

そう言っている優夏はオレの胸の中で声をころして泣いていた・・・。
優夏の小さい肩が小刻みに震えている・・・。

誠「泣くなよ・・・それに今日の事は忘れたほうがいいぞ」

オレは優夏の頭をなでながらなだめてみた。
しかし優夏の身体の震えは止まらない・・・。
やっぱりこんな言葉じゃ慰めにならないか?オレがそう考えていると・・・

優夏「ありがとう・・・誠」

優夏はオレから離れると涙を拭いながら言った。
そして真っ赤な兎のような目で精一杯の笑顔を浮かべると・・・

優夏「ただ、どうしてもお礼を言っておきたかったから・・・。
   ごめんね、泣いたりして・・・」

誠「ああ・・・気にするな・・・」

しばらく無言の空間が流れる・・・。

優夏「それじゃ、おやすみ、誠・・・」

誠「ああ、おやすみ、優夏・・・」

優夏は静かに言うと自分の部屋へと戻っていった。
そして部屋の前にさしかかるとオレに振り返り笑みを浮かべながら部屋に入っていった。

誠「さて、オレも寝るかな・・・」

オレはそう言うとソファーから立ち上がり自分の部屋へと戻っていった。
そしてベッドに寝転がると今日のことを考えてみた。
オレはここのところ毎日、変な夢や妙な予知をする・・・。
そして、それらはすべて実際に起こったものとなった・・・。
もし、そうだとするならば4月6日に優夏が死ぬ事も事実となるのだろうか・・・?
いや、そんなことはさせない!現に今日だって優夏を守る事ができたじゃないか・・・。
そうだ、この調子で4月6日も優夏を守ればいい・・・できるはずだ!
オレは全て自分にとって都合のいい方向へと考えた。
そうしなければこの奇妙な出来事に心が押しつぶされてしまいそうだったからだ・・・。
そんな事を考えていくうちにオレの意識は徐々に薄れてきた・・・。
そして瞳を閉じると、オレはそのまま眠ってしまった・・・。                      

4月4日へつづく






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