優夏SS    4月5日   
醜さの爪痕    未来への誓い   想いの在処

//4月5日

沙紀「誠くん!ちょっと誠くん!!」

オレは体を揺さぶられて目を覚ます。

沙紀「ちょっと、いつまで寝ているつもり?」

目の前には沙紀がいた。

沙紀「もうお昼過ぎだよ?」

誠「・・・・・・・・・」

オレはせっかくの眠りを妨げられて少し不愉快になっていた・・・。

誠「そんなことで起こすなよ・・・」

オレは力のない声でそう言うとうつむいていた。

沙紀「大丈夫?すごく顔色が悪いけど・・・」

沙紀はオレの顔をまじまじと見ていた。

誠「たのむから放っておいてくれよ・・・」

沙紀「放っておけないわよ!!そんな顔見たらぁ・・・」

沙紀はますます心配そうにオレを見ていた。

沙紀「本当にどうしちゃったの?誰かと喧嘩したの・・・?
   それともまた悪い夢でも見たの・・・・?」

誠「沙紀には関係のない事だ」

沙紀「また、そうやって自分ひとりに押し込めようとするのね。
   悩みは人に相談する事も大切だってことを昨日言ったはずよ。
   誠くん・・・話してくれないかしら?
   私ねできるだけ誠くんの力になってあげたいの・・・」

沙紀は優しい声をかけながらオレの肩に手を置いた。

誠「・・・・・・・・・」

沙紀「ノーコメントですか」

誠「なあ、たのむから本当に放っておいてくれよ・・・」

沙紀「フフッ・・・本当にそういうところがあの子とそっくりよね・・・。
   まるであの子の生き写しのようだわ・・・」

また奴の話か!!!
オレは沙紀の言葉を聞いた瞬間、再びどす黒いものがオレのなかに生まれた・・・。
誠「今・・・なんて言った・・・!!!」

沙紀「え・・・?」

オレは怒り狂った野獣のような目つきで沙紀を睨んだ。
そしてすっと立ち上がると沙紀に向かって重い足取りで1歩1歩近づいていく・・・。

沙紀「ちょっと・・・どうしたの誠くん・・・?そんなに怖い顔をして・・・」

沙紀は震えながら後ずさりしていた。

誠「オレがあの優夏の初恋の奴とそっくりだって言ったよな・・・!!!」

沙紀「う、うん・・・」

誠「ふざけるな!!!沙紀!!おまえの目の前にいるのも石原誠じゃなくて
死んだ奴の幻影なのかよ!!!死んだ奴とオレを重ねるのもいい加減にしろ!!!」

沙紀「誠くん・・・落ち着いて・・・」

沙紀は壁に背をつけるとそのまま座り込んで言っていた。
しかし、沙紀の言葉もオレには聞こえていない・・・。

誠「所詮おまえも優夏と一緒だったのか・・・」

オレの握っていた拳からは血が流れていた・・・。
しかし今のオレには痛みなど感じなかった・・・。
もう何かもどうでもよくなった・・・とにかく沙紀の顔も見たくない!
オレはそう思うと部屋を後にした。

沙紀「誠くん・・・」

後ろからは沙紀の呼ぶ声が聞こえてきた。
しかし振り返ってやる気など毛頭無かった・・・。
そしてそのままロッジを後にするとあてもなく歩き出した。
                                                    
とにかくここから離れたい、一人になりたい・・・
オレはその思いでいっぱいだった・・・。

やがて目の前には見渡す限り真っ青な海が広がっていた・・・。
ここは・・・姫ヶ浜か。オレはいつのまにかそこまで歩いていたようだ。
オレは浜辺に座った。

―サーッ・・・サーッ・・・― 潮騒の音が聞こえてくる。
徐々にさっきまでの熱が冷めていく・・・。
そしてふと沙紀のことを考えた・・・。
たしかに沙紀は今のオレに対しては禁句に等しい優夏の初恋のあの子を話題に出して
オレはたまらない嫌悪感に襲われたのだ・・・。

沙紀「私ねできるだけ誠くんの力になってあげたいの・・・」

オレはその言葉を思い出すと拳を握り締めた。

誠「!!!」

オレは握り締めた手のひらに痛みを感じてきた・・・。
手のひらにできていた爪の食い込んだ跡はまるでオレの醜さを象徴しているようだった。
オレは自己嫌悪に陥った・・・自分の感情に振り回され
せっかくオレの力になろうとしていた沙紀を傷つけてしまったかもしれないからだ・・・。
そして優夏のことも考えた。
オレは嫉妬という感情に振り回され優夏を泣かせてしまった・・・。
最低だな・・・オレはそう思いながら砂浜に寝転んだ・・・。
―サーッ・・・サーッ・・・― 潮騒の音だけが当たりに響いていた。
まるでその音は子守唄のようだ・・・オレはそう思った。 このまま眠ろうかな・・・?オレがそう考えていると・・・

沙紀「誠くん!!!」

沙紀の声が聞こえてきた。
オレはガバッと起き上がるとあたりを見回した・・・。
なんとオレの左側から沙紀が走ってくる・・・。
夢か?オレは思わず頬をつねっていた。
やがて沙紀がオレの前に到着すると息を切らせながら言った。
沙紀「ごめんなさい、誠くん・・・あなたの気持ちも考えずにあんなことを言って・・・」

誠「いや・・・オレのほうこそおまえに八つ当たりをして悪かった・・・。
  おまえはオレの力になろうとしていたのにこんな形になってしまって・・・」

沙紀「ううん、誠くんが怒るのも無理がないわ!全部私が悪いのよ・・・」

沙紀はさっきから息を切らせながら必死に謝っていた。

誠「とにかく・・・少し休んだらどうだ?」

沙紀「うん・・・」

沙紀はそう言ってオレの隣に座った。
そして落ち着きを取り戻すとオレのほうを向いていった。

沙紀「私ね、誠くんが出て行った後、どうしても原因がわからなくて
   優夏に聞きに行ったの。そうしたら昨日の夜のことを聞いたわ・・・。
   私ねそれを聞いた瞬間ものすごく悔しかった。
   誠くんが優夏に対する思いを分かっているのに私は・・・
あんな事を言ってしまって・・・本当にごめんなさい!!」

沙紀はオレに深く頭をさげて謝った。
なんだか申し訳ないな・・・オレはそんな事を考えていた。

誠「気にするな沙紀。オレも大人気なかったからな・・・」

沙紀「誠くん・・・」
                                         
沙紀はうつむいてしまった。
そしてあたりは再び潮騒の音だけが響く静かな空間となった・・・。

沙紀「誠くん・・・その・・・こういうことを聞いていいのか分からないけど・・・」

誠「何だ、沙紀?」

沙紀「その、明日・・・優夏の事を守ってあげるの・・・?」

誠「ああ、もちろん優夏は守るつもりだ。
  死んでしまったあの初恋の子のためにも優夏は守ってやらないといけないと思う」

沙紀「・・・・・・・・・」

誠「ただな、勘違いはしないでくれ」
沙紀「え・・・?」

誠「オレが優夏を守るのは初恋の子のためだけじゃない。
  オレがそうしたいから優夏を守る・・・たとえこの命を失おうとも!!」

沙紀「それじゃだめよ・・・誠くん・・・」

誠「え?!」

オレは沙紀の言葉に驚いた。何がいけないのだろう・・・。

沙紀「死んでしまったらだめよ誠くん。それじゃ、あの子と同じになってしまうわ。
   誠くんが死んでしまったら優夏は悲しむと思うわ・・・。
   そして、再び過去に縛られながら生活する事になるのよ・・・」
誠「・・・・・・・・・」

オレは言葉を失った。
そうだ・・・オレは優夏を悲しませるわけにはいかない!
優夏を守ってもオレが死んでしまったら優夏を泣かせてしまうじゃないか!
オレはもう優夏を泣かせたくない・・・オレがそう考えていると・・・。

沙紀「誠くん、ひとつだけ約束してくれるかしら?」

誠「ああ・・・」

沙紀「絶対に生きて優夏を守ってあげて!!」

誠「ああ、もちろんだ!!」

オレは勢いよく答えた。

沙紀「絶対よ・・・絶対に生きて優夏と帰ってきてよ!!
   もしも優夏が助かっても誠くんが死んでいたら絶対に承知しないから!!
   葬式にも墓参りにも行ってあげないからね!!!」

誠「ハハ・・・きついな・・・」

オレは苦笑いをしていた。

誠「勝手に殺さないでくれよ・・・」

沙紀「そうよね・・・演技でもないことを言ってごめんなさい」

沙紀はクスクスと笑いながら言っていた。
オレはその笑いにつられるかのようにオレも声を出して笑った。
しばらく笑いあっているとオレは自分の胸の中がスッキリしていることに気付いた。

誠「ありがとう・・・沙紀。おまえのおかげで胸の引っ掛かりが取れたよ」

沙紀「それはよかったけど・・・引っ掛かりの正体は何なの?」

誠「え?言わなくちゃいけないのか・・・?」

沙紀「当たり前でしょう!相談に乗った以上ちゃんと最後まで聞かせてもらうわ!!」

誠「分かったよ・・・」

オレは息を吐くと静かに口を開いた。

誠「あのな・・・昨日までの引っ掛かりは、優夏はオレを石原誠として見ているのか
それとも初恋の子の幻影として見ているかという事だった・・・」
沙紀「そうだったの・・・」

誠「でもな、今ではそんなことどうでもよくなった。
  オレは優夏を守りたい!ただそれだけだ・・・」

沙紀「誠くんは優夏の恋人になりたいとは思わないの・・・?」

誠「まあ・・・確かにオレは優夏の事が好きだけど
  優夏のなかに初恋の男の子が残っている状態じゃ付き合おうという気になれないな。
  もし、オレが優夏を助けた後、優夏がオレを初恋の子と重ねるようだったら
  そのときは、優夏をあきらめるよ」

沙紀「そんな事って・・・」

誠「おかしいと思うか?まあ、実際にそうかもしれないけどな・・・」

オレは苦し紛れに笑った。
そしてオレは立ち上がると思いっきり背伸びをした。
そして沙紀のほうを振り向くと・・・

誠「本当に色々と世話になったな沙紀。この借りは必ず返すよ」
沙紀「そんな・・・借りだなんて・・・」

そう言って沙紀も立ち上がった。

沙紀「でも、元気になってよかったわ誠くん。
   それじゃ、私もしなくちゃいけないことがあるから・・・もう行くね?」

誠「しなくちゃいけないことって何だ?」

沙紀「内緒。じゃあね、誠くん」
沙紀はそう言って走り去った。
内緒か・・・オレは少し考え込んだが・・・

誠「ま、いいよな・・・」

などと言って考える事をやめた。
                                            
すがすがしい気分だ・・・オレはそう思いながら姫ヶ浜を歩いていた。
しばらく歩くとオレは空腹感を感じルナビーチへ向かうことにした。

誠「こんにちは」

いづみ「あら、いらっしゃい誠くん♪」

店内は静かだった。
オレはあたりを見回しながらイスに座った。

誠「いづみさん、くるみは?」

いづみ「どこかに遊びに行ったわ。くるみに用があったの?」

誠「いいえ・・・いつもならここにいると思ったので・・・」

いづみ「そうねぇ・・・最近はそういう日が多かったからねぇ・・・」

いづみさんはおっとりとした口調で言っていた。

誠「いづみさん、サンドイッチとコーヒーを作ってくれますか?」
いづみ「サンドイッチとコーヒーね・・・すぐに出来上がると思うから」

そう言っていづみさんは調理を開始した。
そしてその言葉どおり10分もしないうちに完成してオレに差し出していた。
オレはそれを黙々と食べるとこれもまた10分もしないうちに食べ終わった。

誠「ごちそうさまでした」

オレはそう言って席を立った。

いづみ「あら、もう食べ終わったの?」

誠「はい、腹が空いていたので・・・」

いづみ「そうだったの。でも、もう少しゆっくりしていてもよかったのに・・・」
誠「すみません、ゆっくり食べたかったですけどあまりにおいしくて
  食が思ったよりも進んでしまったので・・・」

いづみ「もう、うまいこと言っちゃって♪でも代金はまけないわよ?」

誠「ハハハ・・・」

オレは苦笑いをしながら代金をいづみさんに渡した。

いづみ「ありがとうございました〜♪」

いづみさんの明るい声を背にオレはルナビーチを後にした。
そしてそのままロッジへ向かって歩いていく・・・。
そして通りかかった姫ヶ浜を見るとそこには優夏と沙紀がいた。
どうやら沙紀が優夏に対して何かを言っているようだ。
オレは2人に見つからないように注意深く近づいた。
そして2人の声が聞こえる距離までさしかかると近くあった岩の影に隠れた。

沙紀「優夏!あなたは誠くんのことをどう思っているの!!」

優夏「どうって言われても・・・」

優夏は昨日の疲れが残っているのだろうか?
優夏の声はいつもと違って威勢がなかった・・・。

沙紀「あのね、優夏!あなたが誠くんをどう思っているかは知らないけど
   あんまりあいまいな態度で誠くんに接していると承知しないわよ!!」
優夏「あいまいな態度・・・?」

沙紀「優夏、もしかして誠くんが昨日怒った理由がまだ分かっていないの?」

優夏「だから沙紀がそれを教えてくれるって言うから一緒に来たのよ!
   分かるわけないじゃない・・・」

沙紀「もう!!あなたね、昨日誠くんと腕を組んで歩いていたとき何て言った!」

優夏「何って・・・なくしたものが戻ってきて嬉しいとかあの時を思い出すって言ったわ」

沙紀「あのね・・・誠くんはあなたがそうやって初恋の人の話をしたから怒ったのよ!」

優夏「え?!どうして・・・」

沙紀「本当に分からないの、優夏!!」

優夏「分からないよぉ・・・」

優夏は涙を流していた。

沙紀「誠くんは優夏が誠くんに親しく接するのが
初恋の人に似ているからだって思ったのよ!!
そう思うのも無理はないわよね・・・。
だって誠くんと一緒にいるときでもあなたはそうやって初恋の子の話しをするから」

優夏「そんなつもりはないよぉ・・・」

沙紀「そんなつもりがないですって!どこからそんな言葉が言えるのよ!!
   あなたねぇ・・・いつまで過去の事を引きずっているの?!
   優夏、あなたがそんな様子ならこの際はっきりと言っておくわ・・・」

優夏「何・・・?」

沙紀「優夏の初恋のあの子はもう死んだのよ!あなたを助けた後力尽きてね!!」

優夏「分かっていたよ・・・その事は・・・」

沙紀「え?!」

優夏「だから、誠と出会ったときあの子が戻ってきたと思ったの。   
そして嬉しかった・・・なくしたと思っていたものが戻ってきたから・・・」

―パンッ!!― 優夏が言葉を言い終えた瞬間、沙紀は優夏をビンタしていた・・・。

沙紀「あんたねぇ・・・いい加減にしなさいよ!!
   誠くんはあなたを守ろうと必死になっているのよ・・・!!
   プールで溺れた時も、木の枝が落ちてきた時も
   優夏を最初に救ったのは誠くんじゃない・・・!
   少なくともあの時あなたを守ったのは初恋のあの子じゃないわ!」

優夏「私を・・・守るために・・・」

優夏は沙紀のビンタを受けても呆けている様子だった・・・。
沙紀は優夏のその様子を見て呆れたように言った。

沙紀「もういいわ・・・ここまで言っても分からないようじゃ救いようがないわ・・・」

沙紀はそう言って優夏に背を向ける。そして沙紀が歩き出したその瞬間!!

優夏「待って沙紀!!」

優夏が沙紀を呼び止めた。

沙紀「何かしら?」

優夏「どうやったら・・・自分の過去にケリをつけることができるかな?」

沙紀「それは優夏個人の問題よ。私が口を出す事じゃないわ・・・。
   そうね・・・ひとつだけヒントをあげるなら
   優夏の想いを素直に誠くんに告白する事じゃないかしら?」

優夏「告白・・・・」

優夏はうつむいて考え込んでいた。
そしてパッと上を見上げると沙紀に言った。

優夏「私、やっと本当の・・・」

沙紀「そこまで!」

沙紀はそう言って優夏の口に手を当てた。

沙紀「そこから先の言葉は私じゃなくて誠くんに最初に伝えなさい」

優夏「うん・・・」

そう言って優夏は沙紀の手を取ると・・・

優夏「ありがとう・・・沙紀が言ってくれなかったら
   私・・・ずっと過去にとらわれたままだったかもしれない・・・」

沙紀「そう・・・でも、そのセリフは自分の過去にケリをつけてから言ってちょうだい」 優夏「うん・・・分かった・・・」

優夏と沙紀は並びながら歩いていた。
オレはその光景を黙って見つめていた・・・。

誠「過去にケリをつける・・・か」

オレはそう言うと再びロッジに向かって歩き出した。
そしてロッジに到着すると部屋に入りベッドに寝転んだ。
いよいよ明日か・・・オレはポケットに入っている鈴を取り出した。

誠「結局この鈴の意味はわからずじまいか・・・」

オレはそう言って鈴をポケットに直した。 しかし夢で見た亡骸はこの鈴を持っていた。
だからオレが持っている限り優夏は死ぬ事はないはずだ・・・。
オレはそう思っているのに身体は震えていた・・・。
とにかく明日、オレは絶対に優夏を亡くさない!
そう決意し、オレは時計のアラームを6:00にセットした。
そしてオレの意識は徐々に薄れていった・・・。
オレはそのまま何の抵抗をすることなく眠ってしまった・・・。        

4月6日へつづく







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