優夏SS    4月6日   

//4月6日

―ピピピピッ ピピピピッ・・・― 時計のアラームの音とともにオレの目が覚めた。

誠「いよいよだな・・・」

オレは自分の頬をパン!と叩くと着替えを済ませ部屋を出ようとした。
とにかく優夏を今日1日外に出さなければ何の問題もなく優夏を守れるはずだ!
オレはそう考えながら部屋のドアを開けると・・・。
―カサッ― ドアの隙間から二つに折られた紙が落ちてきた。
オレはそれを拾い上げ開けてみる・・・。

誠「!!!」

オレは言葉を失った・・・。
その手紙にはこう記されていたからだ・・・。

「誠へ。まずは今までごめんなさい・・・。
 私は誠の言った通り誠を初恋のあの子と重ねていたの・・・。
 でも、私昨日沙紀のおかげで気付いたの。
 私の本当の気持ちを・・・。
 それを今日、伝えたいの。目が覚めてこの手紙を読んだら
 神社に来てほしいの。略地図を書いておくからそれをたよりにしてね。
 私は誠が来るまでずっと待っているから・・・。  ―優夏―」

オレはその紙を握り締めた!
優夏の指定した場所はオレが夢で見た神社だ・・・。
そして今は6時3分・・・運命の時間まで後50分しかない!!
オレは稲妻のごとく走った。
オレがもっと早く起きていれば!昨日、優夏に神社に行くなと伝えていれば!!
後悔の念が頭の中をよぎる・・・しかしもう遅い。とにかく今は神社に向かう事が先決だ!
外は大雨だったがオレは傘をさすこともなくただ走り続けているだけだった・・・。
そしてオレの目の前にはあの石畳の階段が見えてきた。
オレは石畳の階段を勢いよく駆け上りながら時計を見た。
4月6日 SAT 6:17 時計にはそう記されていた。
そしてオレは鳥居をくぐって神社の中に入ると優夏の名を呼んだ。

誠「優夏!どこだ!!返事をしてくれ!!!」

―ザァァァァァァッ・・・― 雨音だけがあたりに響いた・・・。
優夏はここにはいないのだろうか?いや、そんなはずはない・・・。
―ピカッ!― オレの頭のなかに閃光が走った!
誠「そうだ!夢で見た景色が正しければ・・・!!」

オレは社の中に入ると抜け穴を通って断崖絶壁にそびえ立つあの足場に向かった。
そして穴を出た瞬間、そこには優夏が立っていた・・・。

誠「優夏!」

オレは優夏の名を叫ぶとすぐに穴を抜け出し優夏の前に立った。

優夏「嬉しい・・・来てくれたのね・・・」

優夏の目には涙が浮かんでいた。

誠「ああ・・・」

オレは静かにうなずいた。

優夏「じゃあ、順番に話していくね・・・」

オレはコクンと首を縦に振る・・・。
優夏「私・・・最初に誠と出会った瞬間から初恋のあの子のことを思い出したの・・・。
でも、私はあの子が死んでしまった事を知っているから  
できるだけ誠と重ねないようにしていたの・・・。
でも、誠と過ごしていくうちに少しずつあの子の影が強くなってきて
いつの間にか私は誠として見られなくなってきたの・・・」

誠「・・・・・・・・・」

優夏「そして誠を初恋のあの子と重ねてしまった決定的な出来事が起こったの・・・」

誠「決定的な出来事・・・?」

優夏「4月4日の朝にね・・・私・・・夢を見たの。
   それは中学三年生の修学旅行で起きた・・・
   そう・・・あの子が死んでしまったホテル火事の出来事の夢だったの・・・」

誠「!!!」

オレは優夏のその言葉を聞くと冷汗が流れてきた。
確かオレも4月4日の朝に火事の夢を見たよな・・・そう考えていると・・・

優夏「その夢はあの時の光景そのままだった。
私が火事になっているホテルの中に取り残されて私は必死に助けを求めていたの。
そして・・・あの時と同じように私を呼ぶ男の子の声が聞こえてきたの。
私はあの男の子が来たと思ったわ・・・。
でも助けに来たのはあの男の子じゃなかったの・・・」

まさか・・・まさか・・・!!!
オレは震えながら次の言葉を待っていた・・・。

優夏「助けに来てくれたその人の顔は・・・誠だったの・・・」

誠「・・・・・・・・・」

オレは黙ったままだった。本当は何かを言いたいところだが言葉が思いつかない。
オレはあの夢で助けた女の子の正体が優夏だということは沙紀によって分かっていた。
しかし、優夏も同じ日に・・・しかもオレと同じ夢を見ていたのだ!
こんな偶然があるのだろうか・・・?オレはそんな事を考えていた・・・。

優夏「それからは・・・誠を見るたびに初恋のあの子のことが意識から離れなくて
   私は誠を誠として見ることができなくなっていたの・・・」

誠「そうか・・・」

優夏はうつむきながら話していた。
オレはそんな優夏を黙って見ているだけだった・・・。

優夏「誠が4日目の夜に私に怒ってからずっと私は悲しかった・・・。
   初恋のあの子に捨てられた感じがしたから・・・。
   でも、間違っていたの・・・私は沙紀に言われてやっと気付いたの!!」

それまでうつむきながら話していた優夏が突然顔を上げた。

優夏「私を今まで助けてくれたのは誠だった!!
   私が酔っ払って溺れた時も・・・木の枝が落ちてきた時も・・・
   みんな・・・みんな私を最初に助けてくれたのは誠だった・・・」

優夏はむせび泣いていた。
それでも泣き崩れないように必死に立ってオレを見ながら言い続けた。

優夏「それなのに私は・・・過去のことをいつまでも引きずっていて
   本当の気持ちになかなか気付かなかったの・・・。
   でも、やっと気付いたの!私・・・私・・・」

ゴクン!オレは生唾を飲み込んで優夏の言葉を待っていた。

優夏「誠のことが好きなの!初恋のあの子に似ているからじゃない!!
   私を助けた時・・・誠はずっと私の前で笑ってくれた・・・。
   パニックになって誠の首をしめた時も何も言わずに許してくれた・・・。
   そして木の枝が落ちてきた時は誠も危険だったのにそんな事を全く考えないで
   私のことを一番に助けようとしてくれた・・・。
   そんな優しい誠が・・・大好きなの!!!」

―ヒュゥゥゥゥゥッ― 激しい風が吹いてきた。
―ザッパァァァァン― 崖の下では波の砕ける激しい音がした。
それらは優夏の言葉の力強さを象徴しているかのようだった・・・。

優夏「そして・・・今から私は過去にケリをつけるわ!」

優夏はそう言ってポケットから何かを取りそうとしている。
オレはその様子をじっと見つめていた・・・。
そして優夏はポケットから出した握り拳をオレの目の前に持ってきて開いた・・・。
誠「!!!」
戦慄が走る!!オレの全身は震え、額からは冷汗がにじみ出てきて口がカラカラになった。
優夏の持っていたものはなんとあの銀色の鈴だった・・・。
震えているオレを尻目に優夏は話した・・・

優夏「この鈴ね・・・死んでしまったあの子が私にくれた物なの・・・。
   あの子が持っていたものとおそろいだったの。
   たった1つのあの子との思い出の鈴・・・私の宝物だった・・・。
   でも・・・これがあるから私は今まで過去に捕らわれ続けていたと思うの。
   だから・・・私はこの鈴を捨ててあの子との思い出を完全に断ちきるわ!
   私にとって一番大切な人は誠だもの・・・。
   あの子との思い出がなくなるのは悲しいかもしれないけど
   私・・・誠と一緒にいるとものすごく幸せなの・・・。あの子が夢で言った、
   捕らわれているものを解き放たないとその人とは結ばれないという言葉・・・。
   本当にその通りだよね・・・誠は私のなかにあの子が残っていると
   誠は幸せになれないのよね・・・」

誠「・・・・・・・・・」

優夏「沙紀から聞いたの・・・誠は私のなかにあの子が残っていると
   私とは付き合う気になれないことを・・・。
   でも、そんなの嫌なの!誠と離れるなんて嫌なの!!
   私は大切な人を失いたくないの!!もう無くしたくないのよ!!!」

優夏はそう言ってそれまでオレの前で広げていた手のひらに乗せていた鈴を
再び握り締めそして・・・その鈴を投げようと振りかぶったその時!

誠「待ってくれ!!」

オレは鈴を投げようとした優夏を止めた。

優夏「どうしたの・・・?」

誠「オレも・・・その男の子にケリをつける!!」

優夏「え・・・?」

そう言ってオレはポケットの中から鈴を取り出した。

優夏「どうして・・・どうして誠がそれを持っているの・・・?」

誠「分からない・・・もしかしたらあの男の子は優夏がケリをつけるときに
  オレにも手伝わせたくてこの鈴を持たせたのかもしれないな・・・。
  だって、この鈴はお前とその男の子との思い出だったよな。
  その男の子との思い出を全て断ちきるならふたつ一緒に捨てたほうがいいだろう?」

優夏「うん・・・そうだね」

優夏は涙目を流しながら声を絞り出すようにして答えた。

誠「それじゃ、いくぞ!」

優夏「うん!!」

そう言ってオレと優夏は思いっきり鈴を投げた。
―チリ〜ン― 鈴は最後の音を響かせて崖下へと落ちていった・・・。
そして優夏は涙を袖で拭うと兎のような真っ赤な目で笑顔を浮かべた。

優夏「これで・・・私からはあの子が完全にいなくなったよ。
   私は過去にケリをつけたの・・・。だから・・・お願い・・・」

優夏はそう言うなりオレに抱きついてきた。
そしてオレの胸の中で囁いた・・・。

優夏「私とずっと一緒にいて・・・離れないで・・・永遠に・・・」

優夏はオレの胸の中で再び泣いていた・・・。
オレは・・・優夏のことが好きだ!優夏にそう言おうとしたその瞬間!!
―ピカッ!― 
一筋の閃光がオレの頭をよぎった。
それは4月4日にこの神社で見た光景だった・・・。
ゾクッ!オレの頭のなかにあの底知れない絶望感が再び甦ってきた・・・。
そして優夏がオレに言ってくれた
「私のことを一番に助けてくれようとしてくれた」という言葉を思い出した・・・。
そしてその言葉を思い出すとオレは複雑な心境になった。
優夏・・・それは違うよ・・・オレは・・・夢の中でお前を殺した・・・。
おまえのことを一番に考えずに、オレ自身が助かることを最初に考えた・・・。
そんなことを考えるとオレの身体は震えてくる・・・。


    A  『バカ野郎!!そんなことを考えている場合か!!!』

    B  『・・・・・・・・・』







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