優夏SS    4月6日   
悪夢を断ち切るために   目覚め   治るものも治らない   お墓参りに

バカ野郎!!そんなことを考えている場合か!!!
オレは震える身体に自分の拳を叩きつけた!
オレはあの夢で見た光景を避けるためにここに来たはずだ!!
そのオレが震えてどうする・・・まったく・・・本当にバカだなオレは・・・。
でも、優夏を守る事よりも先にしなければならない事がある・・・。
そう、優夏にもオレの想いを伝える事だ!!
オレは優夏の小さな肩をそっと握り優夏を身体から引き離すと
優夏の瞳だけを見つめて口を開いた。

誠「優夏・・・オレもお前のことが好きだ!!
  オレもお前とはずっと一緒にいたいし離れたくない!!
  優夏・・・お前もオレにとってかけがえのない大切な存在だ・・・」

オレは自分の気持ちを素直に告白していた。
普段ならこういうセリフを言うと恥ずかしくて目をそらしたくなるが
オレは恥ずかしがる事などなく優夏の瞳を見続けていた。

優夏「嬉しい・・・」

優夏はそう言って再びその大きな瞳から大粒の涙が流れてきた。
オレは泣きじゃくっている優夏を何も言わずに抱きしめた。
優夏はオレの胸の中で泣いていた・・・幸せをかみしめるように・・・。
―ザァァァァァッ― オレたちの周りでは激しい雨が降っていて
オレたちの身体も濡れていた・・・でもその雨は今のオレにとっては幸いだった。
オレも優夏を抱きしめながら泣いていた・・・でも、その涙は雨に紛れてしまうからだ・・・。
―コロンコロンコロン・・・― 突然、崖の上から小さな石が転げてきた。
!!!オレは幸せの絶頂から地獄のどん底へと叩き落された気分になった。
ついに・・・ついにこの時が来た!!
優夏「痛い・・・!」

オレは優夏を抱きしめていた腕に思わず力を入れすぎていたようだ。

誠「悪い・・・」

オレは謝りながらも視線は崖の上を向いていた。
―コロンコロンコロン・・・― 2個目の石が転がってきた。

優夏「大丈夫・・・誠?顔色が悪いよ・・・」

優夏はオレの顔をまじまじと見ながら言った。

誠「ああ、大丈夫だ。それより・・・おまえに言っておきたいことがある」

優夏「何?」

優夏は嬉しそうな笑みを浮かべて聞いていた。
―コロンコロンコロン・・・― 崖の上からは3個目の石が転がってくる。

誠「もし、これから何があってもオレはお前を守る!
  そしてオレは絶対にお前を残して死なない!お前に涙を流させない!!」

優夏「ど、どうしたの・・・?突然そんなことを言って・・・。
   でも・・・嬉しい」

優夏はそう言って再びオレに抱きついてきた。
そしてオレの胸に顔をうずめてくる・・・。
オレの胸は優夏の鼻が当たってくすぐったい・・・。
オレの身体には優夏の暖かさが伝わってきて
今すぐにでもその細くてしなやかな身体を抱きしめてあげたい!

誠「クッ!」

オレは拳をギュッと握り締めた!
バカ野郎!!今はそんなことをしている場合じゃないだろう!
―コロンコロンコロン・・・― 4個目、5個目、6個目の石が転がってきた。
そう・・・運命の時間は刻一刻と迫っているのだ!!!
オレは優夏を引き離して再び言った。

誠「だから・・・これから何があってもオレのことを頼りにしてほしい!
  オレにはもうおまえしかいない!失いたくない!!」

優夏「うん、もちろん誠のこと・・・頼りにするに決まっているじゃない。
本当に嬉しい・・・誠がそこまでわたしのことを想ってくれて・・・」

優夏は満面の笑みを浮かべていた。
―コロンコロンコロン・・・― 7個目の石・・・いよいよ次だ!!
オレはグッと身構える。
―コロンコロンコロン・・・― 8個目の石が転がってきてオレの横を通ったその瞬間!!
―ゴォォォォォッ― 大地がうなりあたり一面が激しく揺れた。
オレが夢で見たとおり地震が起こった。
―ミシミシミシッ― 社が崩れ落ちようとしている・・・。
マズイ!このままじゃ下敷きになってしまう!!
                                            
その刹那!迷いなどなかった!!
オレは優夏を抱きかかえるとそのまま真っ暗な海へと飛び込んだ!
オレは優夏を守るようにして抱きかかえながら真っ暗な海へと落ちていった・・・。
―ドボーン!!― オレが海に着水したその瞬間!

誠「グワッ!」

オレは声にならない叫び声を上げていた。
オレは全身に激しい痛みを感じてしまいそれだけで気を失いそうになった。
しかしこのまま力尽きるわけにはいかない!!
オレは歯を食いしばりそして泳ぎ始めた。
が、この暗闇の中では何処が浜辺なのか皆目見当がつかない!
徐々に冷たい海水に体温を奪われオレは寒さのあまり海面上に顔を出す事ができなくなり
海の中に潜った。オレが抱きかかえている優夏はさっきから何も反応していない・・・。
おそらく飛び込んだときの衝撃で気絶しているのであろう・・・。
不思議だ・・・海面上はあんなに寒く感じていたのに海中は暖かい・・・。
オレは海中で徐々に意識が薄れてきた・・・くっ!これまでなのか・・・。
オレはそんなことを考え始めた。
徐々にオレと優夏の身体は海底へと沈んでいく・・・。
いや・・・最後まで絶対にあきらめない!
オレはさっき優夏を守ると言ったばかりじゃないか!!
そう思ったオレは再び海面上に顔を出し大きく息を吸い込むと再び海中に潜った。
潜水して泳ぐほうが楽だったからだ・・・。
海水が目に入っても水を飲んでもそんな痛みは今のオレにはなかった。
優夏を守って優夏とこの世界で一緒にいたい!この思いでいっぱいだったのだ・・・。
すると急にオレの目の前に銀色の物体が見えた。
なんとその物体は、さっきオレと優夏が海に投げ捨てたはずのあの鈴だったのだ・・・!!!
それも互いの紅の紐を絡ませながらふたつ一緒になっていた。
やがてその鈴は潮の流れに乗ってオレ達の遥か彼方へと流れていった・・・。
いつの間にかオレはその鈴を追って泳ぐことに夢中になっていた・・・。
そして気が付くとオレの足が地に着いた。なんと浜辺の浅瀬まで到着していたのだ。
―ザーッ・・・ザザーッ・・・― 波に流されてきたその鈴を拾うと
オレは優夏を抱きかかえて最後の力を振り絞って立ち上がった。
そして浜辺へとあがりしばらく歩いてから優夏を抱き下ろした。
ここなら波にさらわれる事もないだろうな。
オレはそう思いながら優夏の首筋に手を当てる。
―トクトクトク・・・― 優夏の首筋からは命の鼓動が感じられた。
そう・・・オレは死ぬ事もなく優夏を助ける事ができたのだ・・・。
あの男の子には達成できなかった事をオレが果たしたのだ・・・。
オレは握っていた鈴を天にかざした。

誠「ありがとう・・・君には最後まで助けられたな・・・」

そう呟くとオレの目の前は急に暗くなってきた。
しかし目の前に広がる暗闇からは恐怖感は感じられなかった・・・。
いまオレの心は満足感と安堵感で満たされている・・・。
オレにとってこれほど満たされたものは初めてだ・・・。
そんなことを思いながらオレの意識は途絶えていったのだ・・・。


                                 
//4月10日

―チリ〜ン・・・― どこからか鈴の音が聞こえてきた・・・。
ここは何処だろう?オレの目の前には一面の暗闇が広がっていた・・・。
オレは鈴の音がする方へ歩いていく・・・。
オレの目の前にはあの銀色の鈴がふたつ一緒に落ちていた。
オレは何も思わずその鈴を手にとって拾い上げたその瞬間!!
―ピカッ!― 突然その鈴が発光しあたり一面の暗闇に一筋の光の道を作り上げた。
オレはその光の道を歩いていく・・・そして出口らしき場所に到着すると
それまでオレを包み込んでいた周囲の闇が一瞬にして無くなった。
そして出口を越えてオレが見たものは・・・優夏が涙を流している悲しい顔だった。
しかし次の瞬間には涙こそ流れていたがその顔は満面の笑顔になった。

優夏「誠!!!」

優夏がいきなりオレに抱きついてきた。 オレはあまりに突然の事に混乱してしまった。
そしてオレの胸の中で泣きじゃくる優夏の頭を優しくなでながら周囲を見回した。
ここは・・・どう見てもロッジじゃないよな?
オレは優夏に聞こうと思ったがさっきから泣いてばっかりで聞きにくい雰囲気だった。
オレは何も言わずただ優夏を抱きしめていただけだった・・・。
―ガチャ― ドアの開く音がした。
そしてオレのほうに向かって足音がしてくる。
入ってきたのは・・・沙紀だった。

沙紀「誠くん!!気付いたの!!!」

沙紀はオレを見つけるなりそう言ってオレの元に駆け寄った。

沙紀「よかった・・・本当によかった・・・」

そう言って沙紀も涙を流していた。
ますます状況がわからなくなってくるオレ・・・。
オレは目の前で2人の女の子に泣かれてかなり焦ってしまった・・・。
しかし沙紀は涙をすぐに拭うと口を開いた。

沙紀「誠くん、優夏を助けたあの日からずっと意識が無かったのよ。
   4月6日の朝9時ごろロッジに島の警察から
   浜辺に誠くんと優夏が倒れていて診療所に運ばれたって電話があったの。
   たまたまみんなはロッジに来ていて急いで診療所に向かったわ。
   その時は誠くんも優夏も意識が無くて先生は様子を見るしかないって言ったの。
   だから私たちはその日、診療所にずっといたの・・・。
   確か・・・お昼の1時ころだったと思うけど優夏の意識が戻ったの。
   私たちはみんな喜んだわ・・・でも、誠くんは意識が戻らなかったの。
   診療所では手に負えなくなって次の日に本土の病院に運ばれることになったわ。
   そして誠くんはやっと気がついたのよ・・・。
   もし今日も気付かないようだったら危ないって言われていたわ・・・」

誠「その・・・今日は何日だ?」

沙紀「4月10日よ」

誠「そうか・・・」

オレは沙紀の話を聞いてある程度状況は分かった。
それにしても・・・4日間以上意識が戻らなかったのか・・・。 オレはそんなことを考えながら優夏を抱いていた。

沙紀「じゃあ・・・後は優夏と2人で・・・。みんなには気が付いたことを伝えておくね。」

誠「ああ・・・」

沙紀はそう言って部屋を後にした。

優夏「グスッ・・・グスッ・・・」

優夏はまだ泣いている・・・。
しかし、さっきよりかだいぶ落ち着いてきたようだ。
オレは優夏を身体から引き離すと優夏の肩を取り優しく話し掛けた。

誠「なあ、優夏?」

優夏「グスッ・・・何、誠?」

オレに顔を上げた優夏は顔から出るもの全て出していた。
それほどまでに嬉しかったのか・・・。
オレはそう思いながら近くにあったタオルで優夏の顔を優しく拭いた。

優夏「あ!ごめんね誠・・・」

優夏はそう言ってオレの持っているタオルを自分で持とうとしていた。
オレはもう片方の手で優夏の手を優しく制すると・・・

誠「気にするな」

オレは優夏に優しくそう言って顔を拭き続けた。

優夏「ありがとう、誠・・・」

そう言った優夏の目には再び涙が浮かんでいた。

誠「お、おい!泣くなよ・・・せっかく拭いたのに・・・」

優夏「ごめんねぇ・・・でも・・・どうしても涙が止まらなくて・・・」

優夏は必死で泣くのをこらえていた。
意地悪だったかな・・・?オレはそう思って優夏に言った。

誠「悪かった・・・好きなだけ泣いてもいいぞ」

オレはそう言って再び優夏を抱きしめた。

優夏「ごめんね・・・ごめんね誠ぉ・・・!!」

誠「そんな事は気にするな・・・とにかくおまえが落ち着くまでこうしているからな」

優夏「うん・・・・」

オレと優夏が抱き合ってどれくらいの時間が経っただろうか?
やがて落ち着きを取り戻した優夏が口を開いた。

優夏「誠のバカ!!どうしてこんなに心配かけさせるのよぉ・・・!!!」

優夏はいきなりオレに怒鳴りつけてきてポカポカとオレを殴り始めた。
おいおい・・・いままでのあの態度とはまるで違うぞ・・・。
オレはそんなことを思いつつも必死に優夏の攻撃を食い止めていた。

誠「バ、バカ!!しょうがないだろ・・・オレだって好きでこうしていたわけじゃない!」

しかしオレの声はいまの優夏には届いていない・・・。
優夏は攻撃の手を休めることなくオレを殴っていた・・・。
最初は痛くなかったが、だんだんと数が増えてくると徐々に痛くなってくる・・・。
そしてオレがそんなことを思っているうちにようやく優夏の手が止まった。

優夏「今回は100発で許してあげるけど・・・今度はそうはいかないからね!!」

優夏はそう言ってオレからツン!と顔を背けた。
100発・・・優夏はそう言っていたがオレにはもっと多く感じられた。
だいたいちゃんと数えていたのか?オレはそんなことを思っていた。
でも、優夏のさっきまでの様子を見ていると
どれだけ優夏がオレのことを心配していたかがよく分かる・・・。
さっきまでの優夏の様子が本当の気持ちで今のはおしおきといったところだろうな・・・。
オレはそう考えると自然と笑いがこみ上げてきた。

誠「心配かけさせて悪かったな優夏」

オレはさっきからオレに背を向けている優夏に優しく言った。

優夏「本当に・・・そう思っている?」

優夏は横目でオレを見ながらそう言った。

誠「当たり前じゃないか」

優夏「もう・・・二度と私にこんな心配をかけさせない?」

誠「ああ、もちろんだ」

優夏「じゃあ・・・その証明にキスしてくれる?」

誠「え?!・・・キスだって・・・!」

オレは優夏の突然の言葉に驚いてしまった。

優夏「キスしてくれないならいつまで許してあげないから!!」

そう言ってさっきまで横目でオレを見ていた優夏は再び顔を背けた。
おいおい・・・本気なのか?
オレはそう思いながら優夏を見ていた。
しかし5分ほど経っても何も言わないオレに優夏は絶対に振り返る事はなかった。
どうやら本気らしい・・・オレはそう思った。
どうする?オレは少し考え始めた・・・。
ハッ!オレは何かに気付いたように上を見上げた。
バカだなオレは・・・考える必要はないじゃないか・・・。
オレは優夏のことが好きだ・・・そしてその想いはいつまでも変わらない。
その優夏とキスをしたって別にいいじゃないか・・・何を迷う必要がある・・・。
オレはそう思って優夏に話し掛けた。

誠「じゃあ・・・キスするぞ?」

そう言ってオレは立ち上がった。

優夏「うん・・・」

オレの様子を見た優夏はオレのほうに身体を向き直した。
オレは優夏の元へ1歩1歩ゆっくりと歩み寄る・・・。
そして優夏の元にたどり着くとオレは優夏の肩を優しく握った。
その小さな肩は小刻みに震えていた・・・。
緊張しているのだろうか・・・?オレはそんなことを思っていた・・・。
しかし、そんなことを思っているオレの両腕も震えていた。
しばらくオレと優夏はこの状態で硬直していた・・・。
しかしいつまでもこうしてはいられない!オレはそんなことを思って優夏に静かに言った。

誠「じゃあ・・・いくぞ」

優夏「うん・・・」

優夏はそう言って静かに瞳を閉じた。
オレの目の前には優夏の艶やかなみずみずしい小さな唇が待っていた。
オレはその唇に向かって静かに自分の唇を徐々に近づけていく・・・。
そしていよいよ互いの唇が後少しで重なろうとしていたその時!!

くるみ「うわぁぁぁぁ・・・」

突然くるみの声が聞こえてきた。
その声を聞くとオレと優夏はバッ!と離れた。しかしもう遅い・・・。
オレの目の前にはくるみをはじめ沙紀、遙、億彦、いづみさんが立っていた。

いづみ「コラ!くるみ!!も〜う、後ちょっとだったのにぃ〜」

いづみさんは後ろのほうで静かにそんなことを言ってくるみをゆすっていた。

くるみ「だってぇ〜・・・!」

くるみが何かを言いかけていたがいづみさんが慌ててくるみの口を手で塞いだ。

いづみ「あ!ごめんなさいね誠くん・・・気にしないでね」

誠「はぁ・・・」

億彦「今度は本当にお邪魔だったようだね」

億彦はオレと優夏を交互に見ながら言った。

遙「優夏・・・顔が赤いよ・・・」

優夏「そ、そんな事ないわよ!!」

優夏はそう言っていたが優夏の顔はゆでたタコのように真っ赤だった。
そして優夏は次の瞬間にはみんなに背を向けていた。

沙紀「まったく・・・本当に仲のよろしいことで・・・」

沙紀は微笑みながらオレと優夏を見て言っていた。

いづみ「でもよかったわぁ・・・誠くんが元気になって」

くるみ「本当だよ!くるみね学校に行ってもお兄ちゃんのことが気になって
    勉強なんかやっていられなかったもん!!」

いづみ「それはいつもの事でしょう?」

くるみ「もう!お姉ちゃんは黙って!!」

いづみ「はいはい・・・」

オレはくるみと、いづみさんのその様子をほほえましく見ていた。
それからオレたちはオレの意識がなかった4日間のことについていろいろ話してくれた。
やがて話が終わると億彦と遙は予定があるとのことで病室を後にした。

億彦「じゃあお先に失礼するよ」

遙「さようなら・・・」

遙は億彦の後をついていくようになっていた。
合宿中はあんなにも億彦の一方通行だったのに・・・。
億彦のアプローチが実ったのか?オレはそんなことを考えていた。

いづみ「くるみ、そろそろ私たちも帰りましょうか?」

くるみ「え〜!くるみまだここに居たいよぉ」

いづみ「わがまま言わないの。誠くんはまだ起きたばっかりで疲れているのよ?」

くるみ「うん、分かった!」

オレの顔を見たくるみは納得したように頷いて立ち上がった。
オレ・・・そんなに疲れている顔をしていたか?
オレはそんなことを思っていた。

くるみ「早く元気になってねお兄ちゃん♪」

誠「ああ」

オレは笑ってくるみを見送った。

いづみ「それじゃ、さようなら。誠くん優夏ちゃん、さっきはご馳走様でした♪」

優夏「いづみさん!変なこと言わないで下さいよぉ〜!!」

いづみ「フフフ・・・」
                                   
いづみさんは満足そうに笑って病室を後にした。
そしてしばらくしてから沙紀が口を開いた。

沙紀「誠くん、リンゴでも食べない?」

沙紀は持っていたバックから真っ赤なリンゴと果物ナイフを取り出した。

優夏「ちょっと沙紀!何でリンゴなのよ!!」

そう言って優夏も持ってきたバックから何かを取り出そうとしていた。
まさか・・・優夏も・・・。

優夏「せめてリンゴ以外の果物にしてよね!!」

オレの予想通りだった。優夏も真っ赤なリンゴと果物ナイフを持ってきていたのだ。

沙紀「だってお見舞いの果物の定番はリンゴでしょ!!」

優夏「だからって沙紀が持ってくる必要はないじゃない!!!」

沙紀「そんなの私の勝手でしょ!私は誠くんに食べさせてあげたいから持ってきたのよ!」

優夏「私だってそうよ!!」

優夏と沙紀は口喧嘩をやり始めた・・・。
オレこの2人の口喧嘩は苦手だよなぁ・・・オレはそんなことを思っていた。

優夏「じゃあここはひとつ勝負をしない?
勝ったほうが誠にリンゴを食べさせてあげるの」

沙紀「望むところよ。それで勝負の内容は何かしら?」

優夏「リンゴの早剥き競争よ!」

沙紀「リンゴの早剥き競争!?優夏、あなた中学の時のことを忘れたの?
   家庭科の授業の時にもリンゴの皮剥きがあって私が最初に剥いて
優夏は最後になったあげく指を切っていたじゃない!!」

優夏「いつまでもあの時の私と思っていたら大間違いよ!
   私の成長を見て驚かせてあげるわ!!」

沙紀「ふ〜ん、自身満々ねぇ・・・その自信を打ち砕いてあげるわ!」

おいおい・・・なにやらすごい雰囲気になってきだぞ・・・。
オレの目の前では果物ナイフを持って睨み合っている優夏と沙紀の剣幕が恐ろしく見えた。
いや・・・手に持っているリンゴを見るとそうでもないか・・・。
オレがそんなことを思っていると・・・

優夏「誠!スタートの合図をお願い!!」

優夏が突然オレにそう言った。

誠「ああ・・・じゃあいくぞ・・・」

その言葉を聞くと優夏と沙紀はリンゴに果物ナイフの刃を当てた。

誠「スタート!!」

―シャリシャリシャリシャリ・・・― スタートの合図と同時に
そんな音をたてながら優夏と沙紀のリンゴは恐ろしいスピードで皮が剥けていった。
2人ともかなり熟練した手つきだ・・・そのスピードはほぼ互角だった。
そんなことを考えている間にも2人のリンゴの皮は剥けていく・・・そして・・・


優夏「できた!!」
沙紀「できたわ!!」

2人は同時にリンゴの皮を剥き終えた。
どうする?オレの目には同時にしか見えなかったが・・・。

優夏「私のほうが速かったでしょ、誠?」

沙紀「私のほうが速かったわよね、誠くん?」

誠「いや・・・2人とも同じだったよ・・・」

優夏「そう・・・やっぱり同じだったの・・・」

沙紀「悔しいけど・・・優夏、かなり成長したわね」

優夏「ううん・・・私がこうなれたのも沙紀のおかげだよ・・・」

沙紀「何言っているのよ!優夏の努力の賜物でしょう」

いつの間にか2人は仲良くなっていた。
さっきまでの光景は何処へ消えたのやら・・・オレはそう思っていた。

優夏「はい、誠。ア〜ン・・・」

いつの間にか優夏はリンゴを切っていた。
そしてそのリンゴをオレに食べさせようとしていた・・・。

沙紀「ちょっと優夏!誰が先に食べさせていいって言ったのよ!!」

そう言っていた沙紀もいつの間にかオレの前に切ったリンゴを差し出していた。

沙紀「誠くん・・・その・・・食べさせてあげたいから口を開けてくれないかしら・・・?」

誠「え?」

優夏「沙紀!!これは私だけが誠にやっていいことよ!!!」

沙紀「別にそんな事決まっていないでしょ!」

優夏「いいえ!決まっているの!!!」

再び優夏と沙紀は口喧嘩を始めた。
もう勝手にしてくれ・・・オレはそう思いながらその光景を見ていた・・・。
結局オレはこの後2人の剥いたリンゴは自分で食べるということで幕を閉じた。
しばらくしてオレは看護婦さんに呼び出され診察を受ける事になった。
オレは優夏と沙紀を病室に残し診察室へと向かって行った。
診察の結果は異常無しでもう退院してもいいと言われた。
オレは早速、身支度を整えようと病室に戻っていった。
オレが病室に入ろうとするとドアの隙間から優夏と沙紀の話し声が聞こえてきた。
オレはその声を聞くとドアの隙間を除いて聞いていた・・・。

沙紀「それで・・・結局過去にケリをつけることはできたの?」

優夏「うん・・・もう、私のなかにあの男の子はいないよ」

沙紀「ふぅん・・・それで・・・誠くんには想いを伝えたの?」

優夏「うん・・・それで誠も私のこと好きって言ってくれたの・・・」

沙紀「そう・・・よかったわね」

優夏「うん・・・」

優夏は幸せそうに笑っていた。

沙紀「まったく・・・やっぱりあの時に言わなければよかったわね!」

優夏「何を・・・?」

沙紀「優夏の過去にケリをつけるためのヒントよ。
   あれを言わなければ優夏は本当の気持ちに気付かなかったかもしれないでしょ?
   そうなったら私が誠くんと付き合おうと思っていたのに・・・」

え?!オレは思わず声に出しそうになった。
沙紀がオレと付き合おうとしていた・・・嘘だろう?
オレはそんなことを考えながら話を聞き続けていた。

優夏「え!?冗談だよね・・・沙紀?」

沙紀「冗談じゃないわよ。だって誠くんが優夏に尽くす姿を見ていて
その対象が私だったらなって羨ましい限りだったもの・・・」

優夏「ダメ!誠は私のものだからね!!沙紀には絶対に渡さないから!!!」

沙紀「じゃあ誠くんのことをしっかり捕まえておきなさい。
   誠くんには優夏しか見えないくらいにね・・・」

沙紀は優しく優夏に話していた。

優夏「うん・・・分かった・・・ありがとう沙紀・・・」

沙紀「べ、別にお礼を言わなくてもいいわよ!!
   ちょっとでも誠くんを逃がしたら私が奪い取るつもりでいるから・・・」

優夏「も〜う、からかわないでよ〜!沙紀ぃ〜!!」

沙紀「フフッ・・・」

優夏と沙紀は楽しそうに話していた。
オレはその話を聞いているとたまらなく嬉しくなってきた。
オレの心は言葉では表せない何かで満たされていた・・・。
そしてオレは何事もなかったかのように病室に入ってきた。
入ってきたオレを見るなり優夏と沙紀は慌ててイスに座った。
オレはその様子を見ていると思わず笑いがこみ上げてきた。

優夏「診察の結果はどうだったの?」

誠「異常無しでもう退院してもいいってさ」

優夏「よかったぁ・・・」

優夏はオレに満面の笑みを浮かべていた。
そしてオレは優夏のその顔を見ながら身支度を整えた。

誠「じゃあ、行くか」

優夏「うん・・・そうだね」

沙紀「そうね・・・」

オレたちは病室を後にすると手続きを済ませ病院を後にした。
やがて出口が近づいてくると沙紀が突然こんな事を言った。

沙紀「はい。これを受け取って」

沙紀はそう言ってなにやら地図の書いてある紙を差し出した。

誠「沙紀・・・これは何だ?」

沙紀「優夏の初恋のあの男の子の墓の場所を示した地図よ。
   報告を兼ねて墓参りにでも行ってきたほうがいいわよ?」

優夏「ちょっと沙紀!誠のまえでその子の話はしないでよ・・・」

優夏は慌ててオレの顔を見ていた。

誠「別に怒らないよ優夏。お前の想いはちゃんと分かっているから」

優夏「誠・・・」

優夏はそう言ってオレに近づいていく。
そしてそのまま優夏はオレの腕に自分の腕を絡ませてきた・・・。

沙紀「はい、そこまで!その続きは私がいなくなってからしてちょうだい!!」

沙紀の一言で優夏はバッ!とオレから離れた。

沙紀「まったく・・・本当に仲のよろしいこと!!」

沙紀は何だか皮肉たっぷりに言っていた。

沙紀「それじゃ、私はここで失礼するわ」

そう言って沙紀が出口に向かおうとしたその時、優夏に何かを囁いていた。

沙紀「優夏。お幸せに・・・」

優夏「うん・・・ありがとう・・・沙紀」

オレには沙紀が優夏になにを言ったのかは分からない。
しかしオレはたいして興味を持たすその様子を見ているだけだった。

沙紀「誠くん」

誠「何だ、沙紀?」

沙紀「これ、誠くんが浜辺に倒れていた時に落ちていたよ」

沙紀はそう言ってオレに2つの銀色の鈴を差し出した。
そうだった・・・オレは大事な物を忘れていた・・・。
そして沙紀からその2つの鈴を受け取るとそれを握り締めた。

誠「ありがとう、沙紀」

沙紀「そんな・・・ただ預かっていただけだからそんなにお礼を言わなくてもいいわよ」

誠「ああ、でもオレにとっては大切なものだったから・・・」

沙紀「優夏よりも?」

誠「バ、バカ!そんな事聞くなよ・・・」

沙紀「フフッ・・・」

沙紀は出口へと走っていった。
そして沙紀は笑いながらオレたちに手を振り別れていった・・・。

優夏「本当にありがとう・・・沙紀・・・」

誠「ん?何か言ったか?」

優夏「ううん、何も言っていないよ。それじゃ早く行こうよ!」

誠「ああ、そうだな!!」
                                              
オレたちは早速、沙紀に渡された地図にある男の子の墓場へと向かった。
一時間後オレたちはその墓場へと到着した。
オレたちは到着するなり早速その男の子のお墓を探し始めた。

優夏「あったよ誠!」

オレは優夏の元へ向かった。
しかしそのお墓は草が生い茂っていて花も供えられていなかった。

誠「せっかくだから墓掃除でもするか」

優夏「当たり前でしょ!ほら、さっさと草を抜く!」

誠「はいはい・・・」

オレたちはもしものことを考えて買っておいた鎌などの道具を使い
草を刈っていった。そして草を刈り取るだけでかるく2時間は経過した・・・。

誠「ふぅ〜、草は刈り終えたな」

そう言ってオレは刈り取った草をまとめるとその草の山に座った。

優夏「こらぁ〜、誠〜!サボらないの!!」

誠「少しは休ませてくれよ・・・」

優夏「ダメ!ほら今度は花瓶を掃除して!」

誠「はいはい・・・」

オレは優夏に言われたとおり花瓶を洗った。
結局この後、オレは優夏にさんざん働かされた。
それから30分ほど経過してようやく花も供えて墓はきれいになった。

誠「・・・・・・・・・」

優夏「・・・・・・・・・」

オレたちは何も言わずに男の子の墓に向かって手を合わせていた。
そしてオレと優夏は立ち上がるとその墓を見ながら話をした。

優夏「私ね・・・誠と付き合うことになったことをちゃんと報告したわ」

誠「そうか・・・」

優夏「誠は何を報告したの?」

誠「オレか?オレは・・・お前のことをちゃんと守り続ける事を報告したよ」

優夏「そうなの・・・嬉しいな・・・」

優夏はオレの手を握った。
オレは何も言わずに優夏の手を握り返した。
そしてオレはふとあることを思い出した。
そう、優夏を助けたあの日にオレが持っていたあの2つの鈴の事だ!
オレはポケットに手を入れると冷たい2つの感触を感じ取った。
そしてそのままそれをポケットから取り出した。
―チリ〜ン・・・― この音色は久しぶりに聞くな・・・。
オレはそんなことを考えていると・・・

優夏「あれ・・・誠・・・その鈴・・・捨てたはずじゃ・・・?」

誠「ああ。だけどお前を助けるために海に飛び込んだときこの鈴を見つけて
  オレはそれを追いかけて泳いでいった・・・。
  そしてこの鈴はオレたちを浜辺へと導いてくれた。
  結局あの時も優夏はあの子に助けられた事にもなってしまうな・・・」

オレはそう言って優夏のほうを見た。
優夏はオレと目があると優しく微笑んでこう言ってくれた。

優夏「でも私を最初に助けてくれたは誠だもん」

優夏は顔を赤らめながら言った。
オレは優夏のその表情に胸の高鳴りを感じた・・・。

誠「それで考えたけどこの鈴は男の子に返さないか?」

優夏「うん・・・そうだね。捨てるよりかはマシだもん」

そう言ってオレは男の子の墓の前に小さな穴を掘った。
そしてその穴の中に2つの鈴を埋めると再び手を合わせた。
そして立ち上がると優夏に言った。

誠「そろそろ帰るか?」

優夏「うん・・・」

オレと優夏は腕を組みながら墓場を後にした。
いつの間にかあたりは闇に包まれていた。
どうやらこの墓場は山の斜面に位置していて上のほうには山の頂が見えている。

誠「なあ、優夏?」

優夏「ん?何、誠?」

優夏は笑みを浮かべながらオレを見上げた。

誠「せっかくだから頂上に上ってみないか?」

優夏「うん・・・誠と一緒だったら何処にでも行っていいよ・・・」

カーッ・・・オレはその言葉を聞くとかなり嬉しくもなり恥ずかしくもなってきた。
オレはうつむきながら優夏とその山を登っていった・・・。
20分も歩かないうちにオレたちは山の頂に到着した。

優夏「うわぁ〜きれいな景色」

誠「ああ・・・そうだな」

オレはその言葉を出すのが精一杯だった。
眼下には広がっている街の灯がそして頭上には満天の星空が広がっていた・・・。

優夏「うわぁ〜・・・あの島以外でもこんな星空を見ることができるのねぇ・・・」

誠「ああ・・・オレも驚いた・・・」

オレたちはしばらくこの満天の星空を見上げていた・・・。

優夏「ねえ・・・誠・・・?」

優夏が突然口を開いた。

誠「何だ、優夏?」

優夏「私のこと・・・好き?」

誠「あ、当たり前だろ!そんな事聞くなよ・・・」

優夏「それじゃダメなの!ちゃんと言ってよ!!」

優夏は真剣な眼差しでオレに向かって言った。

誠「優夏・・・お前のことが好きだ・・・」

オレは何だか恥ずかしくなって神社で言った時のように力強くは言えなかった。

優夏「もう1回・・・」

誠「もう1回!?」

優夏「お願いだから・・・もう1回だけ・・・」

優夏は目を潤ませた。
オレはその目を見るのが耐えきれなくなり・・・

誠「好きだよ・・・優夏・・・」

オレがそう言ったその瞬間、優夏が抱きついてきた。

優夏「嬉しい・・・幸せだよ・・・誠・・・」

優夏はオレの胸の中で静かに言った。
優夏のぬくもりがオレの全身に伝わってくる・・・。
今度は我慢しなくてもいいよな・・・オレはそう思った瞬間、優夏を抱きしめていた。
これが幸せというものだろうな・・・
オレが抱きしめているのは笑ったり、泣いたり怒ったりする優しくて暖かい優夏だ・・・
そう、夢の中で抱いていた冷たい優夏ではないのだ・・・オレは幸せをかみしめていた。

優夏「ねえ、誠?さっきのキスについてだけど・・・」

誠「ああ・・・」

オレはドキドキしながら優夏の次の言葉を待っていた。

優夏「さっきはみんなに邪魔されて悔しかったけど・・・今はみんなに感謝しているの」

誠「どうして・・・?」

優夏「だって・・・こんなにすてきな場所になったから・・・
   病室の中よりかはロマンチックな場所だもん・・・。
   今度は誰にも邪魔されないよね・・・?」

誠「ああ・・・」

オレはその言葉を出すのが精一杯だった。

優夏「誠・・・」

優夏はそう言って静かに瞳を閉じた。

誠「優夏・・・」

オレは静かに言ってそのまま・・・優夏と唇を重ねた・・・。
輝く満天の星空の下、オレたちはいつまでも幸せをかみしめていたのだ・・・。    







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