優夏SS    4月6日   

「・・・・・・・・・・」
オレは・・・優夏のことが好きだ!優夏にそう言おうとしたその瞬間!!
―ピカッ!― 一筋の閃光がオレの頭をよぎった。
それは4月4日にこの神社で見た光景だった・・・。
ゾクッ!オレの頭のなかにあの底知れない絶望感が再び甦ってきた・・・。
そして優夏がオレに言ってくれた
「私のことを一番に助けてくれようとしてくれた」という言葉を思い出した・・・。
そしてその言葉を思い出すとオレは複雑な心境になった。
優夏・・・それは違うよ・・・オレは・・・夢の中でお前を殺した・・・。
おまえのことを一番に考えずに、オレ自身が助かることを最初に考えた・・・。
そしてそのことを考えるとオレは優夏に対する返事が遅れてしまった・・・。

優夏「やっぱり・・・ダメだよね・・・。
   だって、私・・・誠の心に深い傷をつけたから・・・」

優夏はうつむいていた。
違う!優夏!!オレはもうそんな事気にしていない!!
だいたいおまえはあの子のことにケリをつけたじゃないか!!!
しかし、この言葉を口に出す事ができなかった・・・。
オレの頭の中は社の中で見た夢が走馬灯のように走っている・・・。
オレはあの夢の恐怖感に襲われて体が震えていた・・・。

バカ野郎!!オレはそれを阻止するためにここにいるはずだ!!!
でも・・・体が全く動かない・・・。

優夏「でもいいの。私は過去にケリをつけることができたから・・・。
   でも・・・でもっ!」

そう言っている優夏の瞳からは大粒の涙が流れていた。
オレはその優夏の様子をただ黙って見ているだけだった・・・。
オレの耳には激しい雨音と泣きじゃくる優夏の声だけしか聞こえていない・・・。
そんな時間がしばらく経過したときピタッとオレの全身に生じていた震えが止まった・・・。
それはまるで神がオレに与えてくれた優夏に告白する最後のチャンスのようだった。
今、オレの意識の中にあの夢の恐怖感は微塵もない。
「今ならオレの気持ちを優夏に伝える事が出来る!」
そう思ったオレは優夏の名を叫ぼうとしたその時・・・!
―コロンコロンコロン・・・― 聞き覚えのある絶望への音が崖の上から響いてきた・・・。
その瞬間・・・オレは優夏の名を叫ぶ事が出来なくなっていた・・・。
変わりにオレの口からは言葉でなく恐怖に怯える荒い息遣いが出ていた・・・。
オレは神に与えられた最後のチャンスを逃してしまったのだ・・・。
オレの全身は再び震えだす・・・その震えはもう二度と止まらない・・・。
―コロンコロンコロン・・・― もはやオレには何個目の小石が転がっているのか

さっぱり分からない・・・ただ、その音は時計の秒針のように刻々と
絶望の時間への訪れを告げている・・・。
―コロンコロンコロン・・・!―
―ゴォォォォォッ― ・・・ついに絶望への時間が訪れた。
大地がうなり辺り一面が激しく揺れる・・・すべてあの夢の通りだ・・・。
オレはもはや成す術もなく抜け殻のように立ち尽くしていた・・・。
―ミシミシミシッ― 社が崩れ落ちようとしている・・・と、その時!

優夏「誠ぉっっっ!!!・・・」

そう叫んだ優夏がオレの身体に抱きついてきた。
いや・・・抱きついてきたというよりかは突き飛ばしたという感じだろうか・・・?
しかし・・・今のオレにはどちらなのかは分からなかった・・・。

誠「優夏・・・」

オレはうすれていく意識の中でそう呟いていた・・・。
そしてオレの意識は真っ暗な闇の底に沈むかのように途絶えていった・・・。

―ザーッ・・・ザザーッ・・・―
オレの意識の中に潮騒の音が聞こえてきた・・・。
「夢か・・・?」オレはそんな事を思っていた・・・。
「たしか・・・地震があってその後・・・!!!」オレはガバッ!と身を起こす。

誠「優夏・・・優夏は何処だ!!!」

そう思ったオレは辺りを見回した。
しかし、オレの周りには果てしなく広がる海とそれを包み込むような砂浜しか見えない・・。
オレは足をふらつかせながらも必死に走り回った。
しかし、行けども行けども優夏の姿は見当たらない・・・。
オレは無我夢中で捜しつづけていると何かに躓いてその場に倒れこんでしまった。

誠「クソッ!今はこけている場合じゃないだろう!」

オレはそんな事を言いながら立ち上がろうと体を手で支えようとしたその時・・・

―ムニョッ・・・― オレの手に砂にしては妙に柔らかい感触が伝わった。

オレは何気なく手元に目を向けたその瞬間・・・オレは我が目を疑った!
オレの手は・・・倒れている優夏の身体に触れていたのだ・・・。

誠「優夏!!!」

オレは力の限りそう叫んだ。
しかし優夏の身体はピクリとも動かない・・・。
そしてオレは優夏の顔に触れた・・・。
その顔はとても白くて美しい・・・しかし、とても冷たかった・・・。
オレは優夏の首筋へと優夏の顔から手をなでおろしていった。
その細くてしなやかな首にトクトクと脈は走っていなかった・・・。

優夏はもう・・・息絶えていたのだ・・・。

誠「優夏ぁ・・・」

オレは力のない声を出すとそのまま優夏の身体に顔を伏せた。
そして声を上げて泣いた・・・。
―ピカッ!― オレの頭の中を一筋の閃光が走った!
次の瞬間にオレの頭の中に浮かんだもの・・・それは神社での出来事だった。
そこには刻々と迫る絶望の時間に何の抵抗もなく震えているオレの姿と
泣きじゃくっている優夏の姿が見えた・・・。
―ゴォォォォォッ― ・・・大地がうなり辺り一面が激しく揺れる・・・地震だ。

誠「そうだよな・・・そして、そのままオレたちは崖下の海に落ちていったよな・・・」

オレは見渡している光景を見ながらそんな事を思っていた。

優夏「誠ぉっっっ!!!危ない!!!」

誠「そう・・・ここで優夏はオレを・・・ん?!!!」

パッ!とオレの目の前からその光景が消えてしまった。
今、オレの目の前には優夏の亡骸が横たわっている・・・。

誠「優夏・・・もしかして、お前はオレを助けたのか・・・」

オレは優夏の亡骸を揺さぶりながら優夏に問いかけた。
無論、答など返ってくるはずもない・・・。
皮肉な話だ・・・オレは優夏を守るために今までの時を過ごしてきた。
しかし、運命の時間にオレは恐怖に身を震わせ優夏を守る事はおろか
逆に優夏に守られてしまったのだ・・・。
優夏はこんな腰抜けなオレを好きだと言ってくれた・・・。
ずっと一緒にいたいと離れたくないとも言ってくれた・・・。
オレの頭の中には後悔の念だけがよぎる・・・。
そして後悔の念がよぎればよぎるほどオレの全身は苦痛に蝕まれる・・・。
徐々にオレの意識は朦朧としてきた・・・。

誠「優夏・・・オレもお前のことが好きだ・・・」

薄れていく意識の中でオレは優夏の耳元に囁いた・・・。
そして優夏の手を握りそのまま優夏の亡骸を抱きしめた・・・。

誠「せめて・・・お前のずっと一緒にいたいという願いは叶えてやるからな・・・。
  オレはもうお前を放さないよ・・・永遠に・・・」

―ザァァァァァァッ・・・― 雨音だけがあたりに響いていた・・・。
だんだんと身体が重く冷たくなっていくのを感じていく・・・。
その感触を最後にオレの意識は途絶えてしまった・・・。
太陽の光も当たらない・・・命の光も消えてしまった砂浜・・・。
オレと優夏は、永遠に光の失われたこの場所で
冷たい亡骸となって横たわっていたのだった・・・。』






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