Believe me again   
                           作:ユキノブ
プロローグ   第1章 「再会」    第2章「理由」    第3章「決意」    第4章「選択」    エピローグ

      注)この作品はネタバレを含みます。
        設定は遙シナリオクリア後となっていますが、
        どうもこの主人公、無限の時間の中でくるみと浮気していたらしいです。

        然るに、遙、くるみの両方をクリアしてからお読みください。


 
          プロローグ   


 石原誠は、一年ぶりに思い出の地を踏んだ。
 頭の中には波がまだ揺れていたが、彼の足は正確に懐かしい記憶をたどる。
 「ここは、変わらないな・・・」
 感慨深く呟く。
 かつてここには、無限の時間があった。
 始まりから終わりへ、終わりから始まりへ。永遠に繰り返す、悲しみ。
 誠はそこから解き放たれた。愛しい人を救い出すことができた。 
 しかし、再び巡ってきた季節が、錯覚を誘う。
 無限の感覚。
 誠は、ゆるがない。あの日見つけた確かなものがあるから。
 (誠のこと、信じてる)
 信じ合える人がいる。だから。
 「少し、遠回りして行くかな」
 今はただ懐かしい、思い出の場所を巡って。


  
             第一章 「再会」    

 その日何度目かのベルが鳴ったのは、ランチタイムも過ぎて洗い物を始めていたころだった。
 「いらっしゃいませ・・・あら、誠くん。遅かったじゃなーい」
 「お久しぶりです、いづみさん。・・・ちょっと寄り道してまして。すいません」
 あやまりながらも、誠はほっとしていた。
 何も変わらない。いづみの笑顔は暖かかった。
 「うふふ。誠くん、少し大人っぽくなったかな」
 「いづみさんは変わらないですね」
 もう少し気の利いた言い方はないものかと思ったが 、
 とある人物の気障な言いまわしくらいしか思い浮かばなかったので、
 シンプルにまとめる。
 「ふふ、ありがとう、誠君」
 意図は伝わったから、これでいいのだろう。
 「遙はまだ遅くなりそう?」
 「大学の用事が済み次第来るっていってましたから、もう少しだと思います」
 「そう。それじゃあ、くるみの方が遅くなるかもね」
 再び、入り口のベルが来客を告げる。
 「いらっしゃい・・・あら、早かったのね」
 誠も入り口に視線を移す。この一年間、毎日のように見てきた顔だった。
 「ただいま、お・・お姉ちゃん」
 慣れていないのか、照れているのか、遙は少し言い淀んだ。
 長く艶やかな黒髪、透き通るような肌、今は豊かな表情。
 億彦はまだ諦めないし、いつのまにかキャンパスのアイドルとなってしまったが、
 今のところ自信を持って、誠の恋人である、遙。

 しかし、何だろう?誠はその姿に違和感を覚えた。
 「まこと」
 「お、おう。どうした遙?」
 さらなる違和感。
 遙の誠を見る眼は、いつにもまして熱っぽい。
 そのままゆっくりと誠に歩み寄ると、顔を近づけて問う。
 「誠、私のこと好き?」
 誠は仰天した。
 「なな、何いってんだよ遙!こんなところで!」
 「あらあら。わたしお邪魔かしら?」  
 「い、いづみさ〜ん」
 遙は表情を一転させた。
 「じゃ、嫌い、なの?」
 じわっと涙がにじむ。
 「そ、そんなわけないだろ、す、好きだよ」
  泣かれると弱い。情けないとは思うが。
 「じゃ、キスして」
 「は、遙!?」
 目を閉じて、さらに顔を近づける遙。
 (おかしいぞ、絶対!)
 そしてようやく、違和感が何かの形をとり始めた。
 「おまえ、遙じゃないな!まさか・・・くるみ!?」
 自分のセリフに驚愕する。あまりにも突拍子もない推理だ。
 が、しかし、先程まで遙であった彼女は、誠からはなれ、
 「ぴんぽんぴんぽーん!そうでーす、くるみでーす!
 びっくりした?びっくりした?」
 やたらにテンションの高い少女へと変貌した。
 「びっくりした・・・」
 力なく誠は答えた。まだ心臓がバクバク言っている。
 「へへー。くるみ、この一年ですごく成長しちゃってー、
 遙さんそっくりになっちゃった。不思議だよねー」
 「そうか、そうだよな・・・」
 確かにその速度は異常だが、二人の遺伝子は同じなのだから、
 いづれこうなることは予測できたはずだった。
 が、それにしても、ギャップが激しすぎる。  
 いづみに目をやると、「黙っていてごめんなさい」とアイコンタクト。
 「えへへー、お兄ちゃん」
 甘い声と供に、くるみが擦り寄ってくる。
 「え、ど、どうした?」
 誠は激しく動揺した。何しろ外見は遙なのだ。 
 「くるみ、キレイになったよ?お兄ちゃんの好きな人と同じくらい」
 「あ、ああ」再び動悸が激しくなる。
 「あのね、くるみは・・・」
 そのとき、入り口のベルが新たな来訪者を報せた。
 「は、遙・・・」
 誠はうめいた。最悪のタイミングだった。
 「誠・・・くるみ・・・?どうして・・・」
 くるみの年上の妹は、荷物をその場に残し、きびすを返すと、逃げるように駆け出した。
 「は、遙!待ってくれ!」
 「ご、ごめんなさい、お兄ちゃん」
 「誠君、はやく追いかけてあげて」
 「は、はい!」
 しゅんとなったくるみを姉にまかせ、誠も駆け出した。


  
              第2章「理由」    

 (どうして?どうしてなんだ遙!)
 酸素の少ない頭のなかに、そんな疑問が渦巻いていた。
 真っ先に思いつく理由ならある。それはかつてあった出来事に良く似ていた。
 誠とくるみの仲に嫉妬した。
 考えられなくはない。
 なにしろ今回は自分と同じ姿の相手だ。
 だが、そんなはずはないと、誠は確信していた。一年前とは違うのだ。
 2人は信じ合っている。姿が同じだからといって、心変わりを疑ったりしない。
 しないはずだ!
 だから問うのだ。「何故なんだ、遙?」
 やがて遙の背中は、桜並木の向こうへと消えた。
 誠はあせったが、その先の展望公園で追いつくことができた。
 「遙!」
 「誠、来ないで」
 「遙、どうして逃げたんだ?もしかして、俺を疑ったのか?」
 遙はかぶりをふった。
 「そうじゃない。誠のこと、信じてる」
 「なら、どうして」
 「それは・・・・・が・・・・・・・きか・・・から」
 遙の声は消え入りそうに小さく、大半が潮風に流されていった。
 「聞こえないよ遙。ちゃんと言ってくれ」
 遙は勇気を振り絞った。
 「くるみの・・胸が大きかったから」
 「へ?」
 「くるみの胸が私より大きかったから」

 「・・・・・・・・・・・」
 誠は脱力感に襲われ、へなへなとひざをついた。
 「なんだ、そういうことか〜」
 誠が最初にくるみを見て感じた違和感も、多分それだろう。
 「誠・・・大きい方がいいんでしょう?」
 すがるような視線。誠は悟った。
 遙には大問題なのだ。一年前、自分がコピーであるということに
 コンプレックスを抱いていた遙。
 オリジナルの劇的な変化は、新たなコンプレックスに十分なりえた。
 二人の成長を分けた要因には心当たりがあった。
 「やっぱり、牛乳じゃないかな」
 「牛乳・・・」
 「遙、嫌いだったろ?くるみは毎日飲んでいそうだし」
 「私・・・牛乳・・・飲む。でも、べたべたするから、水で薄めて・・・」
 牛乳の水割り。想像して誠はげんなりした。
 「でもな、遙。俺は前に言ったよな。遙が遙だから好きなんだと」
 「うん・・・」
 「今も変わらないよ。例え姿が同じでも、くるみは遙じゃない。
 例え胸がなくても、俺は遙が一番好きだよ」
 「誠・・・」
 誠の告白に、遙は目を潤ませた。








「胸ないって言わないで・・・」








   
            第3章「決意」    


 さすがに、すぐにルナビーチに帰るのは気が重かった。
 心配しているであろう二人に悪いとは思いつつ、あちこち寄り道してしまう。
 結局、姫が浜に落ち着いた。
 誠は裸足になって海と会話する遙を、炭酸飲料片手に眺めていた。
 遙はペットボトルの天然水をすでに飲み干している。
 「ほんとに水が好きなんだな・・・」誠は感心した。
 「ねえ、誠」
 遙の呼びかけに、誠は穏やかな気持ちで答えた。
 「遙、何?」
 「秘め事、したことある?」
 誠は思いっきりジュースを吹き出した。
 「と、突然何言い出すんだよ、遙!」
 「恋の岬で想いを告げて、愛の入り江で想いを遂げる」
  誠に歩み寄りながら、歌うように語る遙。
 「それ・・・この島の伝承か」
 「そう。誠、灯台の下の公園で言ってくれた。私のこと「好き」って」
 「・・・確かに」
 「そこで恋を成就させた二人は姫が浜で想いを遂げる・・・つまり」
 「・・・そうだったな」
 「だから、ね」
 誠は、逃げていたのかも知れない。遙の内面がまだ幼いとか、
 あれこれ理由をつけて。
 ただ、怖かったのだ。それ以上踏みこむことが。
 波打ち際で足を浸すくらいで、海の何がわかるというのだろう。
 (情けない。情けないぞ、石原 誠!)
 その時、未だ躊躇する誠の左手が、ポケットにあたりカサリと音をたてた。
 (こ、これは!)
 そこにある正方形のビニール包みの存在を確かめたとき、誠の心は決まった。
 「・・・わかったよ、遙」





   
          第四章「選択」    

 「誠、すごい」
 遙は賞賛の声を漏らした。
 誠の指が紡ぐ数々のテクニックに、もうメロメロだった。
 「ほら、こんなの見たことないだろ?」
 「不思議・・・本当に亀みたい」


















 「折り紙マニアの間では、桃栗3年、亀8年と言われているんだ」





 くるみの教授を受けて以来、誠はすっかり折り紙の魅力にとりつかれてしまった。
 一年間腕を磨き、その成長ぶりを師匠に見てもらおうと考えていたのだが、
 まさかこんなところで役に立つとは。芸は身を助けるといったところだろうか。
 (って、ダメじゃん俺・・・) 
 心と裏腹に、指先の感覚はますます研ぎ澄まされていく。
 「これが、カブト海老。あと、ケルベロス、柴田勝家、ひまわり、そして沖縄サミット」
 やってみてわかった。沖縄サミットはゆずれない。
 「すごいすごい、誠。私もやりたい」
 「よし来た、ほら」
 釣りもそうだが、一人でこつこつと続ける作業は向いているのかもしれない。
 遙はすぐにコツをつかみ、そしてハマっていった。
 「あせることはない、か」
 熱中する遙をながめながら、誠は独りごちた。
 そう、あせることはないのだ。
 二人の時間はまだ、動きだしたばかりなのだから。
 最後に一枚だけ残った白い折り紙。折るものは決まっていた。
 「ほら、これがまこと28号だ」
 パクリだが。
 誠の手から放たれたそれは、ふたりの未来を暗示するように、
 真っ直ぐに、迷いなく、白い軌跡を描いた。



 真下に向かって。



   
           エピローグ    

 さすがに、いづみさんも怒り、くるみは泣き出した。
 しかし、ふたりが無事元のさやに収まったと知り、ようやく笑顔が戻った。
 「でも、本当に心配したんだからね」
 アイスコーヒーを注ぎながら、いづみは強調した。
 「すいません、いづみさん」
 誠はひたすら恐縮した。コーヒーが口に苦い。
 「いったいどこで何してたの?」
 誠より先に、遙が答えた。
 「秘め事。姫が浜で」
 おもいっきりコーヒーを吹き出す誠。
 「あら・・・そ、そうなの・・・」
 いづみの頬が鮮やかに色づく。
 「はっ、遙!」
 「そうなの?お兄ちゃん」
 涙目のくるみが問う。
 「ほんとなの?お兄ちゃん」
 「ち、違うんだ。俺を信じてくれ!」
 「信じられないよ!お兄ちゃんのバカーッ!」
 入り口のベルをけたたましく鳴らし、くるみは逃げるように駆け出した。
 「待ちなさい、くるみー!」
 後を追っていく姉。残された二人。
 「遙・・・どうしてあんなこと言ったんだよ・・・」
 「誠がウソ教えるから」
 遙はしれっと答えた。

 「・・・・・・・・・・・・・・え?」

 戸惑う誠に、遙は笑顔でトドメを刺した。










 「誠のいくじなし」




                終

---あとがき---

いかがでしたでしょうか。感想いただけたら嬉しいです。
それでは。





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