盗っと勇者  ザ・シーフブレイバー
--  第八話 運命の三女神 --
                                    作:木村征人


 縦横無尽に飛んでくるクリスタルをライツは必死でかわしていた。
「ちっ、俺よりうまく使いこなしていやがる」
 覆面の男はライツの短剣につけている同じ糸の魔道具を使っている。だが、ライツと違い完全に使いこなしている。
 元々集中力に欠けているライツは糸に念をこめてせいぜい重いものを動かす程度である。対して覆面の男は射刀術から発展させた。完全な武器として使っている。
 土木作業と暗殺術、それが完全な違いであった。
 ライツの腕に糸が絡みついた。
「なに!」
 グンッと腕が抜けそうな感じ、そのまま体が持ち上げられ壁に叩きつけられる。
「ごほっ、ごほっ」
 背中をしこたま打ちつけせき込む。そしてまた、体が持ちあげられる。
 絡み付いている糸を切るため短剣を抜く。糸を切る寸前でライツの腕から糸が外れる。
「厄介だな……」
 ライツも魔道具の糸がついた短剣を取り出す。
「ヒュッ」
 口から息を吐きながら投げる。短剣はクリスタルで叩きつけられる。その隙をついてライツは暗器のナイフを数条投げる。
 はじめて男の動揺を表し、体をひねって避ける。完全に避けきれず、服が数カ所破けている。
「……妙だな……」
 ライツは微かな疑問を感じた。
「もし、俺の考えているとおりなら勝機はあるな……」
 そう言ってライツは暗器の一つ、糸の先端に小さな錘のついた糸を取り出した。
 ボウン!
 突如あたりに煙が立ち込める。ライツが煙玉を放ったのだ。
 そして、煙を突き破りながら一直線に覆面の男に向かっていった。手には刃先を向けた短剣を持ちながら……
 覆面の男の操るクリスタルが短剣を弾き飛ばす。その瞬間ライツの姿が欠き消えた。
 ライツは覆面の男の頭上へとジャンプし……飛び越した瞬間に糸の暗器を覆面の男に投げつけた。覆面の男の首に絡み付く。着地したライツは糸を引っ張り相手の首を締め付ける。
 お互い背中を向け合うという奇妙な光景が生み出された。覆面の男は締め付けられた糸をはずそうともがいている。しかし、肉に食い込んでいる糸ははずせることは出来なかった。
 やはりな……
 ライツは確信していた。元々覆面の男のようなタイプはなにかしら暗器を持っているものである。ライツ自身もいくつもの短剣などを服の下に所持している。しかし、ライツの短剣によって裂けた服の下にはなにもなかった。それによって気付いたのだ武器は魔道具の糸のついたクリスタルの武器はないと……
 元々覆面の男はいくつもの暗器を所持していた。その種類と量はライツの非ではなかった。しかし、四将軍のジョノバを倒した(正確には致命的な傷だが)という優越感がほかの武器を処分させた。そのうぬぼれがこの状況を生んだのだ。ジョノバいやシーラは無駄死にではなかった。ライツに勝機を残していたのだ。
 ライツの指には糸から相手の鼓動が伝わってきた。ライツはまるで相手の心臓をわしづかみにしているようなものを感じた。相手の命をまさに手を握っているのだ。ライツとて殺しも生業としている盗賊だ。人を殺したこともある。しかし、この状況はあまりにも異質過ぎた。徐々に相手の力が抜けていくのが分かる。確実に命を奪いつつあるのを実感している。
 今、覆面の男は必死にこの状況を脱出しようと生き抜こうと考えているだろう。糸を切ろうとも武器はない。クリスタルもさっき飛ばして手元にはなく、操ろうにも首に巻きついた糸によって意識が集中できない。ライツの方向に向かっても武器は何もなくライツは糸も簡単に倒せるだろう。覆面の男にとってライツなど取るに足らない小物だろう。そんな奴にやられるなど信じられなかった。
 そして、ついに力尽きて倒れた。もはや糸にはなにも伝わらなかった。ライツは振り返らず糸を離してそのまま立ち去った。

「たしかこのまま行けばホールだったな、その先には玉座か……」
 あたりを見回していると人影が見えた。慌ててライツは物陰に隠れようとするが隠れそうな場所はない。慌ててライツは袋から布を取り出した。布の色は壁と同じ色をしていた。
 そしてライツは壁によって上から布をはおった。
 人影がライツの近づいて初めてその人影が分かった。四将軍の一人となったメラであった。
「シュバルツ様……一体どうしてグロッグなどのいいなりに……
 あなたの為ならこの命惜しくありません。あーんなことやそーんなことを、あまつさえこんなことでも……」
 何を想像しているのか赤くなりながらとんでもないことを口走っている。
 おいおい、何を言ってるんだか……
 ライツのつぶやきが聞こえたのか、こちらをいきなり向いた。
「なんか人の声が聞こえたような……」
 ドキドキドキドキ……
 ライツの心臓が高鳴る。
「気のせいか……」
 フー……
「ファイヤーボール」
 メラはライツの隠れている場所に向けて火の玉を放つ。
「でぇぇぇぇぇぇぇ!」
 慌ててその場から離れる。
 ズゴォォォォォォォォォン
 壁に大きな穴が空く。
「侵入者か……」
「いきなりなにを。それになぜ分かった?」
「あのね、いくら外見が同じ色で隠れても体の形に出っ張った壁なんかあったら誰でも気付くわよ」
「………………………………………………………………………………………
 それは盲点だった」
「一つ聞いて言い?」
「ん?」
「さっきの独り言聞いてた?」
 静かだが語気がきつい。
「聞いてない、聞いてない。全然聞いてない!」
 早口にまくし立てる。
 その慌て振りは自供しているようなものだった。
「そう……」
 普段、生真面目で冷静なそぶりを見せている分、想像以上に恥ずかしかったのだろう。しかもどこの馬の骨とも分からないやからに聞かれたのだ。怒るなというほうが無理だろう。
「ちょ、ちょっとまて!」
「問答無用!」
 メラはやたらめったらと魔法を放つ。あちこちで破砕音がする。必死に逃げ惑うしかないライツ。
 ど派手な追いかけっこが始まった。
 既にライツは二人を探している暇がなかった。しかし……
 カァァァァァァァァァァァ
 ライツの皮袋が光を放った。
「まさか瞳が?」
「なに?」
 袋から三つの瞳が飛び出しそのままホールへと向かった。
「ちっ!」
 ライツは瞳を追いいかけた。
「一体どういうことなの?」
 メラが横に並んで瞳を追いかける。
「わからねぇ! なにか起こっていることは違いないけど……」
「そう……とりあえず見逃してあげるわ……ただし、さっきのことを話せばどうなるか分かってるわね」
「はい……」
 そして、ホールに出ると……
「フィー! ミルカ!」
「……ライツ……」
「ライツさん……」
 二人が座り込んでいた。そして三つの瞳が一際大きな光を放つ。
「なによこれ? ぐっ……」
 そしてメラまでがその場に座り込む。
「くくくくくく、まさかこうも早く運命の三女神が揃うとはな……」
 玉座の間の扉からグロッグが現れた。
 それは見たライツがとんでもない感情が湧き上がった。
 ドクンッ!
 あの目どこかで……
 ドクンッ!
 舞いまわる炎が……
 ドクンッ!
 血だらけの……
 ドクンドクンドクンドクンッ!
 あの残虐な目は……そう……
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 ライツが吠えながらグロッグに切りかかる。
 ガキッ
 グロッグは持っていた剣でライツの短剣を防ぐ。
「貴様が! 貴様が俺の両親を! 俺の村を!」
「ほう、貴様は私が昔滅ぼした村の生き残りか」
「貴様は覚いていまい。虫けらのように殺した人間など!」
「あの頃村を滅ぼしたのは百を超える。いちいち覚えていると思うか?」
「だがはっきりと言える! 貴様は両親の仇だ」
「だから、どうだというんだ!」
「ガハッ」
 ライツの体が吹っ飛ぶ。グロッグもまた魔法使えるのだろう。ライツは衝撃破を食らった。ただの衝撃波ではない。そのままライツは立てなかった。
「そこで寝ておけ」
 そしてグロッグは呪文を唱え始める。
「貴様は一体何を……」
「この魔方陣は三女神を呼ぶものでな、まさかメラまで三女神だとはな……」
「そんな……うそだろ……それじゃあこの三人はまさか……」
「そう、この三人は正真正銘血のつながった姉妹だ」
 フィア、ミルカ、そしてメラは魔方陣の上に三角形を作っていた。そして、三つの瞳がそれぞれ間に落ちる。そして、三姉妹の三角形、瞳の三角形によって六望星が描かれた。
 ババババババババババ!
 電撃のようなものが魔方陣を包む。
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 三人が叫び声をあげる。
「グロッグ! きさまは何をしている」
 異変に気付いたシュバルツが現れた。
「シュバルツか……そこにいろ」
「メラ! 無事か?」
 あれがシュバルツ……あの女の思い人か……
 倒れ込みながらライツはシュバルツを見ながらそんなことを言っていた。
「シュバルツ様……」
「グァァァァァァァァァ」
 魔方陣に入ったシュバルツは電撃に包まれる。シュバルツの体からパリンとガラスが割れるような音がする。
「ぬっ? もしや……」
 グロッグが奇妙な顔をする。
「呪いが消えたのか?」
 魔方陣からはじかれたシュバルツが自分の体の異変に気付いた。
「どうやらあの電撃はすべての魔法を無効にするようだな」
「これで俺を拘束するものは無くなったな……待っていたぞ。この時を!
 貴様の呪いによって、俺の命はおまえの考え一つでどうにでもなっていた。そのせいでマルスとジェノバを裏切った。マルスをこの手で……
 グロッグ貴様を殺す!」
 シュバルツが剣を構える。
「ふん、勇者の素質を持つおまえを留めておきたかったからな。だが、もう用済みだ。
 これで我が願いは受理される」

 近くの森に潜んでいたスピアーはいち早くこの事態に気付いた。
「なんだこの強力な魔力は……」
 天が叫び、海が荒れ、大地が火を吹き……
 そして、異界のドラゴンが現れる。
 スピアーは森から飛び出した。そしてその光景を目の当たりにした。
「異世界のドラゴンだと……馬鹿な! しかも何て数だ。百、二百、いや三百はいる」
 そしてそれはバルザ達も気付いた。
「何でドラゴンが……」
「おそらく三女神の影響でしょう」
 女王が心配そうに上を見つめる。
「一体、上で何が起こってるんだ」
 バルザが舌打ちしながら言った。

「グロッグ、貴様一体何を……」
 直感的に何かを感じたのだろうシュバルツが汗をぬぐいながら聞く。
「ドラゴンだ……」
「なんだと……」
「この世にドラゴンを召喚した。大量のな!
 そしてこのドラゴンの瞳を……手に入れるために」
 再びグロッグは呪文を唱えた。すると六望星の中から新しい瞳が生まれた。その瞳はグッログの左手の中に収まった。そして、魔方陣を包む電撃が消えた。
「何を考えている、グロッグ」
「ふふふふふふふふ、滅びだ。見よ!」
 グロッグが一部の壁を貫く。そして五人はその光景に驚いた。
「ドラゴン……しかも何て数だ」
「これで世界は終わる」
「グロッグ! 貴様!」
 シュバルツがグロッグに向かって剣を振る。グロッグは剣で受け止める。
「どうした、もう一つの剣を抜かぬのか?」
「貴様程度には普通の剣で十分だ」
「ふん……そのへらずぐ――」
 ザンッ!
 ライツの魔道具の短剣がグロッグの右腕は切断する。
「へっ、ざまあ見ろ……」
 倒れ込みながらライツは魔道具の短剣を使ったのだ。
「おのれ……!」
 グロッグは玉座の間へと逃げ出した。シュバルツが追いかけるが既に姿はなかった。おそらく隠し通路へ入ったのだろう。

 城門では、
「お頭、あれは?」
 城の中から巨大なものが出てきた。
「まさか、あれは……」
 ルシードが絶句した。
「グロッグはあれを完成させたのか……」
「ルシードなんだあれは?」
「バルザが知らないのも無理ない、俺達が四将軍の頃は想像上のものだったからな」
「だからなんだあれは!」
「飛行船だ。しかも物騒な大砲まで装備していやがる」

「どうする? ドラゴンはこっちに向かっているぜ」
 ライツはふらふらと立ちあがった。
「私が止めるわ」
 メラが立ちあがった。
 ライツは三つの瞳の拾うと笛を吹いた。スピアーからもらった笛だ。
「シュバルツ様も逃げてください」
「だが……」
 メラはシュバルツに手をかざした。そして、シュバルツは球体に包まれそのまま消えた。
「今のは?」
「瞬間移動の魔法よ。今度はあなた達の番よ」
「いや、いい」
 ライツはそう言う同じに、ガゴンと壁が空くと、スピアーが入ってきた。
「早いな……」
「まあね、あんなのが起こったんじゃ」
「ドラゴンがどうして……」
 理由を知らないメラが驚いていた。
「俺達の仲間だ、今のところはね」
「そう……それじゃああなた達は逃げて。
 大丈夫、私に奥の手があるから……」
「そうか……わかった」
 ライツとフィア、ミルカが乗った。
「そう言えば名前は?」
「ライツだ……」
「ライツくん、あのことを言わないでね」
「分かってるよ、さっきので思い知ったからな」
「フフ、二人をお願いね」
「ああ……」

「お頭、さっき城に入ったのドラゴンは……」
「ああ、スピアーだ」
 そして、城の中からスピアーが出て行くのを見つけた。
「どうやらスピアーに乗って脱出するらしいな」
「それじゃあ俺達も……」
「ああ……アジトへ戻るぞ」
「バルザ……なんでドラゴンが……」
 今度はルシードが質問する番だった。
「アジトではなす」
 しかし、バルザは質問に答えず女王を連れてアジトへ戻った。

 そしてメラは城のバルコニーに立ち、
「来なさい、ドラゴン」
 光を発して、ドラゴンを誘導した。そして、三百体の中で一番大きなドラゴンがメラの目の前まで近づき……
「一時でも、ドラゴンを止める。止めて見せる! この命を捨ててでも…………
 氷縛結界」
 シュバルツ様……どうか生きてください。私はあなたを…………
 そしてドラゴンはメラもろとも城を貫いた。そして、
 ビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキ
 水が急激に凍りつくような音を立てて三百体のドラゴンは空中に浮いたまま凍りついた。メラは自分の命を媒体にしその力を封じ込める結界の魔法を使った。

 その光景はこの国のほとんどのものが見ていた。もちろん、スピアーに乗っていたライツ達も……
「……………………………」
 皆黙っていた。どこかで理解していたのだ、メラが命を投げ出してでもドラゴンを何とかすることを……
「ライツ……悪いけど悠長に構えてる場合じゃないみたいだよ」
 スピアーがライツを呼んだ。
「どうした?」
「上を見て」
 そしてライツは上にある飛行船を見つけた。
「なんだあれは?」
「多分グロッグとかいう奴のものだろうね」
「もしかしてあれが飛行船てやつじゃない?」
 フィアが思い出したように言った。
 ライツは王都に向かう途中に出会ったゴーランの言葉を思い出した。
『今じゃ王都は飛行船というのを開発しているらしい、気球と違って何十人も乗れる代物らしいな』
「そうかもな……」
「それよりヤバイよ……その飛行船の前を見て」
「あれは魔道砲!」
 ライツが叫んだ。
「なるほど、あれがそうなのか……でも原理は逆みたいだね」
「どう言うことだ?」
「周りに結界が見える。僕みたいにドラゴンだけにね、あれはその魔道砲の前にドラゴンを誘導するものみたいだ。そして、あの魔道砲でドラゴンを吸収してそれをエネルギーに変える装置だね。」
「グロッグはまだなんか企んでいるというのか? だけど何でおまえが……」
「それは……」
 ドオン!
「なに!」
 スピアーの真横が大砲の弾をかすめた。
「撃ってきたわよ!」
 フィアが叫び声を上げる。
「出来るだけ低空に飛んで猛スピードで飛べ!」
「分かってるよ!」
 ライツの怒鳴り声にスピアーも怒鳴って答えた。
 いくつもふりそそぐ大砲の弾を必死に裂ける。
 くっ、いつまでも避けきれないだろ。
 ライツの予感は当たった。大砲の弾がほぼ直撃する。なのだが……
 ドオン!
 スピアーの脇へと外れる。
 外れた? うそだろ。どう考えても直撃だったたぞ。
「スピアー、反撃できないの?」
 フィアは身をかがめながらスピアーに聞いた。
「ブレスを吹いてもいいけどこの角度だと体をくねらせないといけないからみんな落ちるよ?」
「うううううう」
 フィアは押し黙った。このスピードで振り落とされたら生きてはいないだろう。
 そのままいくつか弾を避けつづけていた。
 ドオン!
 弾には当たらなかったが、その衝撃でライツ達は飛ばされた。
「いけない」
 スピアーはライツ達が落ちないように必死に落ちないように飛ばされた方向へと転回した。
「だいじょうぶかい?」
 スピアーが心配そうに声をかける。
「俺はともかく二人が……な」
「あううううう」
「ぴよぴよぴよぴよ」
 フィアとミルカはしばらく目を回していた。
「今すぐ飛べるか?」
「飛べるけど、今飛ぼうとすれば狙い撃ちされるよ」
「……くそったれ!」
 ライツは地面を殴りつけた。
 そして飛行船が着陸しグロッグが降りてきた。
「ほう、生きていたか……」
「悪かったな……」
 ライツはあぐらをかきながらあごを抱えていた。
「そこのドラゴン。ブレスを吐くなよ、飛行船が爆発すればライツやフィアもろとも爆風に巻き込まれるぞ
 しかし、ドラゴンをおまえ達を飼っているとはな」
「スピアーは私達の仲間よ」
 目を覚ましたミルカがスピアーの横にいた。
「衛兵ども、ミルカを捕らえろ。こいつにはもう一働きしてもらう」
「グロッグ!」
 ライツがグロッグに斬りかかる。
「愚か者め!」
 グロッグが放った魔法の矢を放った。魔道具の短剣で防ごうとするが短剣が砕け体を貫通する。
「ゴフッ」
 ライツは血を吐いてそのまま倒れる。
「ライツ!」
「ライツさん!」
 ミルカはライツに駆け寄ろうとするが衛兵に捕まえられた。
「ライツさん、ライツさん、ライツさん、お願い助けて!」
 そのまま泣き叫ぶミルカは飛行船に連れていかれた。
 そして飛行船が飛びだっていった。
「ねぇ、ライツ。ミルカを助けにいこうよ……起きてよ……」
「フィア……無理だよライツはかろうじて生きてるけど……助からないよ」
 スピアーが悔しそうにつぶやく。
「ライツ……」
 そして奇跡が起こった。フィアの両手が光り輝いた。
「まさか回復の魔法?」
 スピアーが驚きの声を上げた。
「お願いライツ……生き返って……」
 そしてライツは目を覚ました。
「う、んん……なんだ? どうしたフィア。何で泣いてるんだ?」
「よかった、ライツ!」
 フィアはライツに抱きついた。
「うわっ、一体どうしたんだ?」
「君はフィアに助けられたんだよ」
「フィーに? まあいい。
 話しはもどってから聞くよ」
 そして、スピアーは魔の森の近くのアジトへと向かった。

 そして、王都から少し離れた所で、
「メラ…………」
 シュバルツが立っていた。
「おまえの仇を取るため、そして親友のために俺は必ず勇者となる。
 たとえ…………どんなこと……してでもな!」

 そしてその頃王都では、
「どうやら助かったみたいだな」
 ルシードが肩をすくめる。
「しかし見事にやられたな」
 バルザがドラゴンが首を突っ込んだまま瓦礫の山から崩れた城を見上げた。
「お嬢さんらは戻ってきませんねえ」
「たぶん俺達のアジトに戻ったんだろ」
「俺達も戻りますか?」
「そうだな……」
「お頭、ちょっと来てください!」
 イーヴァが声を上げた。
「どうした何か見つけたのか?」
「もしかしたらこれ……」
「ああ、おそらく例のやつだろう……」

そして二日後、バルザらが戻ってきた。
 お互い大方の経緯を話した。
 ライツは城で起こったこと、飛行船についた魔道砲もどきのこと、ミルカがさらわれたこと、そしてフィアが突然魔法を使えることになったことを話した。
 バルザは昔四将軍だったこと、運命の三女神との関係のこと、母親のことを話した。
「それでフィアの母親は?」
「ルシードのところに預けた」
「うー、いきなりミルカと姉妹だといわれても……」
 フィアが少し不安そうに言う。
「俺も何でミルカやメラが死ぬことになったのは女王から初めて聞いたからな」
 バルザがフィアをなだめるように言う。
「暗き過去、一時の現在、輝きの未来。と伝承され一番下のミルカのみ育てられたらしい。
 女王に頼まれメラとおまえ、フィアを連れて逃げるように頼まれたんだ。次女であるフィアは俺とルシードを預かった。長女のメラは俺達以外の二人の四将軍が預かった。
 噂によればメラを預かった二人は追っ手に殺されたらしいな。既にメラは誰かに預けられた後らしいが……
 そしてそれぞれにペンダントを持たせた。フィア、おまえも持ってるだろ?」
「え、ええ。でもお父さん。どうしていってくれなかったの?」
「いや、ニ十年も育てていると王女とかよりも俺の本当の子供としていてほしくなった……からな……もっとも、盗賊ギルドを創設した当時にいた連中は知っているがな」
「もう、あたしはずっとお父さんの娘のつもりなんだからね!」
 フィアは少し怒ったような口調でいった。
「ふん、ありがとよ」
 バルザは少し気恥ずかしそうに言った。
「えっと、ところでこれからどうするんだ?」
 その場に水を差すような感じがしたのでライツが少し気まずそうに言った。
「ああ、ライツ。三つの瞳は持ってるか?」
 バルザがライツに聞いた。
「持ってるけど?」
「それを俺に渡せ!」
「いいけど、なんで?」
「ドラゴンを倒すのに使うからな、あれならドラゴンに通用するだろうからな」
「どういうことだ?」
「まだわからないか? まあいい。ドラゴンのせいであれが落ちてきたからな、今ルシードの知り合いに台座を作らせてる。あれの砲台はとてつもなく頑丈なものが必要だからな」
「あ、あれか! なるほどね……わかった。瞳を渡すよ。
 とにかく明日でも出たほうがいいな」
「ああ、スピアーの話しだと一週間も持たないんだろう。あの結界は?」
「そうらしいね。この現状じゃなんだかんだ言ってられる状態じゃないからな。全員連れていくんだろ?」
「そのつもりだ。ライツおまえも行くだろ?」
「うーん、そのことなんだが先に行っててくれないか?」
「どうしてだ?」
「実はドラゴンスレイヤーを探そうと思うんだ」
 みんなが驚きの声を上げる。とくにスピアーは一番驚きの声を上げた。当たり前だろう、伝説の剣、ドラゴンの天敵の剣とも言えるその剣を探そうというのだから。
 ドラゴンスレイヤーの説明は不要なほど有名な剣だろう。聖剣と呼ばれ、ドラゴンすらをもいとも簡単に一刀両断できる。
「た、確かにそんな剣があればいいが伝説の剣だぞ。あるのかないのかも分からない、もしあったとしてもどこにあるのか分からないんだろ?」
「いや、そうとも言いきれないだけど……」
「なんだと! アテがあるとでも言うのか?」
「ああ、あるよ。なぜならそこは俺の――」
                        



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