盗っと勇者  ザ・シーフブレイバー
-- 第十一話  ドラゴンに乗った盗賊 --
                                    作:木村征人


 ドラゴンの口が光る。
そうか、予感はこれだったのか……あの木のコップが割れたのはこの事を意味していたのか……このまま俺は……

「だ、駄目だ逃げ切れない!」
 諦めた表情を浮かべたライツの腕をシュバルツが掴んだ。
「………………」
「シュバルツ?」
「やはり……」
「え?」
「やはりおまえが勇者だ!」
 シュバルツがライツをバルコニーの外へ放り投げた。
「後はおまえが何とかしろ。ふっ、らしくないことをしたな……最後の最後まで。
 これで良かったのか? メラ。もうすぐおまえの所にいけるな」
 シュバルツはドラゴンのブレスに包まれた。

「うわぁぁぁぁぁぁ」
 落下するライツはやって来たスピアーの背中の上に落ちた。
 ゴガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
 その直後、ドラゴンのブレスによって城の上部が砕け散った。
「ふぅ、何とか間に合ったようだね」
「おまえか……」
 シュバルツはこいつが来ていた事に気付いていたのか……
 シュバルツはライツやミルカそしてフィアが城から脱出するときにスピアーを呼んで逃げた。その光景をシュバルツも見ていたのだ。
 砕けた城の瓦礫が落下する中に一本の光り輝く長剣が浮かんでいた。
「あの剣の側まで行ってくれ」
「わかってるよ、たぶん勇者候補が一人になったから、剣も一本になったんだろうね」
「そうか……おい! あのドラゴンのすぐ下を通過してくれ! ドラゴンスレイヤーの試し切りだ。そして、シュバルツの……」
 ドラゴンスレイヤーの鞘を抜き、右腕の鎖骨が砕けている為、左腕だけで剣を構える
 ドラゴンがこちらへ向かってくるスピアーもスピードを上げる。そしてスピアーはいきなり高度を下げドラゴンの真下へもぐり込んだ瞬間。
 ザンッ(斬)!
ドラゴンの喉を突き刺し、そのまま真っ二つに切断していった。
「すげぇ! なんて切れ味だ! ドラゴンの皮膚は鋼鉄並みの強度を持つって聞いた事あるのに。
 よし。ひとまずフィーに肩を治してもらうか」
 王都へ向かうと一条の光がドラゴンを打ち落としている。
「みんなもがんばっているようだな」
 ライツは剣で太陽の光を反射させた。

 そして、王都の近くの丘の上ではバルザが指示しながら魔道砲を十人近くが必死になって動かしながらドラゴンを打ち落としている。
「親方、こちらにドラゴンが向かってきやすぜ」
 イーヴァが声を上げる。バルザは魔道砲を向けるように指示するが、光が目の中に入る。ライツが剣で反射させた光だ。
 双眼鏡で覗くとスピアーとライツの姿が見えた。
「馬鹿野郎! あれはライツだ」
「え、ライツ?」 
「え、お師匠様?」
 フィアとアルの声がハモる。

「お師匠様、無事だったんですね」
「ああ、フィー。悪いが肩を治してくれ」
「うん、分かったわ」
「こっちの首尾は好調みたいだな、頭領。それに王都の被害もそれほどひどくなさそうだし」
「ああ、ルシード達は住民の避難にまわっているからな。だが、魔道砲は手動も手伝って接近戦だとどうにも出来ない。それを何とかしなければならないがな」
「わかった、王都にいる衛兵をここの守備するように頼むよ。
 適当にドラゴンを倒した後、俺はあの飛行船にいるミルカを助けに行く」
 ライツはイーヴァからボウガンとロープ、そして取って付きの滑車を受け取った。
「どう?」
 フィアの治癒魔法が終わり、ライツは肩を回す。
「うん、全然平気だ。サンキュー、フィー」
 そして、ライツはスピアーの首にまたがり、
「それじゃあ、行って来る」
 ライツはまるでお使いにでも行くような口調でスピアーに乗って飛びだった。

 王都はまるで地獄絵図のようであった。人々は逃げ惑い、ドラゴンのによってほとんどの家屋が潰され、あちらこちらで火柱が立っていた。
 王都にいた衛兵たちはドラゴンと戦っていたが、ほとんど無力だった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 ドラゴンは近くにいた衛兵に食らいつこうとしていた。その刹那!
 ザシュ!
 ライツはドラゴンの首を断ち切った。
「大丈夫か? ってもしかしておまえは?」
「君は?」
「あのときの衛兵か!」
「ミルカ王女と共に逃げた盗賊!」
「だったら話しは早い。向こうの丘では今魔道砲でドラゴンを倒している。おまえは衛兵たちを呼んでそこの防備に回れ、住民の避難は盗賊ギルドの連中がやってくれる」
 ライツはそう言って飛び立とうとした瞬間、
「待って! 君はドラゴン騎士なのかい?」
「ドラゴン騎士? ちがうよ、俺は盗賊だ!」
 そう言ってライツは飛びだった。
「ドラゴンに乗った盗賊か!」
 その後姿を眺めながら、子供のように目を輝かせながらそうつぶやいた。

 飛行船はすでに南西の塔近くまで来ていた。
 ライツとスピアーはその飛行船を目指していたが、近くの村がドラゴンを襲われているのを見かけた。
「ちきしょう、怪物め!」
 大柄な男が女、子供の前に立ってドラゴンからかばっている。
 ドラゴンがブレスを吐こうとした瞬間、男の真横に影が走る。
 ザシッ! シャァァァァァァァァァァァァ!
 スピアーから降り立ったライツは、ダッシュでドラゴンに近づき、ドラゴンの口を剣で斬り、そのまま胴体ごと真っ二つに切断した。
「ふぅ、大丈夫か?」
「一体、おまえは……
 もしかしてライツか?」
 振り返って顔を見せたライツに男は信じられない顔でつぶやいた。
「久しぶりだな、ゴーラン」
 ライツとフィアが王都に向かう途中、荷馬車に乗せてもらった人物である。
「おまえなんか変わったな」
「そうか?」
「なんか前よりたくましくなっていやがる」
「そうかな? まあ、色々あったからな。
 今のうちに逃げたほうが言いぜ。ここら辺のドラゴンは片付けてやるから、な!」
 そして、また一匹のドラゴンを倒す。
 ライツはスピアーと共にドラゴンを五、六匹倒した後、スピアーに乗って飛行船に向かった。

 周りにいるドラゴンが飛行船に近づくとふらふらと飛行船の前に行き、魔道砲に原子分解されながら吸い込まれていた。
 飛行船の周りにはバリアのようにドラゴンのみに効く誘導装置が張り巡らせていた。
 スピアーは飛行船の真後ろに位置し、
「近づけるか?」
「これが限界だね、これ以上近づくとあのドラゴンみたいになるよ」
「そうか……」
 ライツはボーガンの矢にロープを繋げて、ボーガンを構えて狙いを定める。
 『バシュ』っという音と共に矢が飛行船の胴体に深と突き刺さる。ロープに滑車を設置しライツはそれにぶら下がって滑車を走らせる。そして、飛行船に取りつき剣で切りつけて穴をあける。
「よし!」
 ライツは飛行船に乗り込むと十数人の衛兵がいた。
「なにものだ?」
「通りすがりの盗賊だよ♪」
 ライツは衛兵の剣を器用に避けながら、当て身をくらわせて眠らせる。
 シュバルツとの闘いに比べれば衛兵は雑魚同然だった。
「俺を相手にする事は、シュバルツを相手にすると思え!」
「な、なんだと!」
 その言葉が混乱を生み、隊列もなにも無かった。そして衛兵が最後の一人になると、そいつの首筋に剣を付きつけ、
「ミルカはどこだ?」
「ぐっ……ミルカ王女か……この下だ」
「下? だったら階段はどこだ?」
「それは……ぎゃあぁぁぁぁぁ!」
 衛兵が炎に包まれる。
「グロッグ!」
 コントロールルームから現れたグロッグはファイヤーボールを衛兵にぶつけたのだ。グロッグの右肩はマントをかぶせられている。
「きさまか……生きていたのか……」
「おかげさまでね、貴様が恐れている真のドラゴンスレイヤーを手に入れたぜ」
「なるほどシュバルツから奪ったか……しかしそんな物今となっては恐るるに足らぬ」
「片腕で俺に勝てるのか?」
「果たしてそうかな」
「なに!」
 いきなり放射状の炎がライツに放たれた。
 ライツは横に跳びのきなんとか避けるが、倒れていた衛兵は炎で焼かれ消し炭と化した。
「ふふふふ、勝てるかな、これに!」
 グロッグはマントを引き剥がした。
「うそだろ! そ、それはドラゴンなのか!?」
 グロッグの右腕にはドラゴンの首が移植されていた。
 ドラゴンは襲いかかってくるが、紙一重でかわし剣で叩き切ろうとするが、
 ガギンッ!
 ドラゴンスレイヤーはドラゴンの皮膚に弾かれた。
「つっ! なんて硬い皮膚なんだ」
「並みのドラゴンと違い、魔法によって強化されているぞ。ドラゴンスレイヤーなど恐れるに足らぬ」
 ちっ、だとしたらグロッグ自身を狙うしかないか……だけど近づけるか?
「これで終わりだ、死ねぇぇぇぇぇぇ!」
 ドラゴンがライツを襲う。
「ちぃぃぃぃ」
 ライツは避けきれない。しかし、
 ドォォォォォォン
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 グロッグが真下から吹き出した炎に焼かれ、吹っ飛んだ。
 スピアーが真下からブレスを吐いたのだ。
「あ、あの馬鹿、無茶しやがって爆発したらどうする気だ?」
 もちろんスピアーもブレスをセーブしている。
「確か、ミルカはこの下だったな」
 スピアーのあけた穴を降りて一つ下の階に降り立った。もちろん間違ってさらに穴に落ちないように気をつけながら、
「ミルカはっと……」
 ライツはきょろきょろと辺りを見渡し、ミルカを探す。
 ミルカは牢屋の中で倒れていた。
「ミルカ!」
 ライツはミルカを抱き起こして揺り動かした。
「すぅすぅすぅすぅすぅ、ZZZZZZZ」
 ミルカは静かに寝息を立てていた。
 ブチッ
 スパパパパパパァン
 何かが切れる音、そしてライツはビンタを食らわした。
「痛いですぅ、何するんですかぁ。ふあぁぁ……」
 あくびをかみ殺しながら寝ぼけ眼でつぶやいた。
「全く痛そうに見えないのが余計にむかつく」
「あぁ、ライツさん。おはようございましゅ」
「全く、初めて会った時のまんまだな! とっとと逃げるぞ」
 ライツはミルカを抱きかかえ穴から脱出した。スピアーの背中の上に降り立つ。
「それじゃああの飛行船を破壊するよ」
「ああ、派手にやってくれ」

「おのれ……許さぬぞ」
 グロッグはその身を焼かれながらまだ生きていた。
「この薄汚れた世界など消えてしまえ」
 グロッグはコントロールルームで赤い大きなボタンを叩いた。
「これで世界は終焉を迎える。
 ふふふふ、ふははははははははははははははは」
 そして、グロッグは爆発する飛行船と共に絶命した。

「なんだ、今のは?」
飛行船が爆発する少し前、飛行船に設置されていた魔道砲から光がアイザ城に向けて発射された。
「とにかく戻ろうよ?」
 スピアーが提案する。
「そうだな、そうしてくれ」

 ライツがフィア達の元に戻る頃にはすでにほとんどのドラゴンは倒していた。そこにはフィアやミルカの母親、女王の姿も見える。
「おわったな、ライツ」
 バルザがライツの肩に手を乗せてそう言う。
「頭領……ええ、そうですね」
 しかし、まだ終わらなかった。半壊していたアイザ城は完全に崩れ落ち、そしてそこから怪物が生まれた。
 その姿は有り体に言えば亀といえる。甲羅のような胴体にはクリスタルが立てられており、甲羅のようなものから四本の足が突き出している。そして、三本の首としっぽが生えている。その首からそれぞれ風、炎、吹雪のブレスを吐いている。風がすべてを吹き飛ばし、炎が存在する者を消し炭に変え、そして魂すらも凍らせる。
 しかもさらに脅威なのはその大きさであった。頭一つが並みの龍の大きさがあった。さらに取り巻きのようにまたてしても無数のドラゴンが現れた。

「これがグロッグが本当にやろうとしていたことか……」
 魔道砲の真の意味をライツは理解した。
「よし、準備はいいか? 撃てぇぇぇぇぇぇぇ!」
 バルザの声と共に魔道砲は三つ首のドラゴンに向けて放たれた。
 直撃するが、全く聞いている様子は無い。
「そんなうそだろ……」
 バルザは絶望に打ちひしがれていた。
 三つ首のドラゴンはこちらに狙いをつけ、三つの首が集まり中央にエネルギーの集まった大きな光の球を作る。
 そして、それはライツらに向けて放たれた。
「まずい! みんな逃げろぉ」
 ライツが叫ぶがとても逃げられる大きさではなかった。
「くっ。駄目だ。曲げられない!」
 スピアーが悲痛な声を上げる。
「まずい、直撃する!」
 ライツが声を上げる。
 その時、ミルカが突然みんなの前に立った。
「ミル――」
 ライツがミルカに声をかけようとするが、いきなりミルカは呪文を唱えまわりに膜のようなもので辺りを包んだ。
 そして、光の球が直撃する。
 ドオォォォォォォォォォォォ!
 大きな音が鳴る。辺りが光に包まれる。
 ミルカの目の前で光の球が止まっている。
「くっ……」
 ミルカが苦悶の顔を浮かべている。
「これは結界? しかもなんて強力な……フィーに続きミルカも魔法を使えるようになったのか?」
「そうみたいね……」
 ライツの問いにミルカが確信めいた言葉で返す。
「今はミルカが止めている……だけどこのままじゃ……フィー! おまえまで何を……」
 フィアがミルカの両肩を掴む。
「フィアさん!」
「無茶な事するわね」
「なんとなく出来そうな気がして……」
「そうね、今ならなんとなく分かるわ……私達が姉妹だという事……そして運命の三女神の生まれ変わりだという事!
 だからあたしの力をあなたに貸すわ!」
 光の球はどんどん削り取られている。
「これは一体……」
「強引に中和してるんだよ。あれはいわばエネルギーの塊だからね」
 相変わらず博識なスピアーが答える。
 そして光の球は消えた。
 ドラゴンを封印したり、俺の命を助けたり、そして今度はあの光の球を防いだか……それほどのモノなのか、女神の力を受け継ぐということは。
「はぁ……疲れたですぅ」
「二発目はないみたいだな……
 おそらくまだ完全じゃないということか……なら勝機はまだあるな……」
 ライツはドラゴンスレイヤーを握り締めた。
 元々魔道砲は三つの瞳が無ければ全く逆の意味を成す、つまりあらゆる物を吸収させるという神々の時代のものだった。それをグロッグは修復させたものである。
 グロッグがドラゴンを呼び出し魔道砲でドラゴンを吸収していたのは三つ首のドラゴンを復活させるエネルギーを作り出す為であった。しかし、ライツによって邪魔が入った。
 その為エネルギーが完全に集まりきらなかったが……不完全ながらも三つ首のドラゴンは復活させた。
「まだ俺がやらなきゃいけないことがあるみたいだな!」
 ライツは気合を入れるように叫んだ。
「ライツ……」
「ライツさん……」
 ライツは不安な顔を浮かべた二人の前に立ち、
「フィー、ミルカ……
 いえ、フィア王女にミルカ王女」
 ライツは片膝をつきながら、
「手を出してもらえませんか?」
 フィアとミルカがそれぞれ片手を差し出すと、ライツは胸元からペンダントを取り出した。それは死を覚悟し、そして死んでいったシーラから譲り受けたものだった。それをミルカの手の上に乗せ、そしてミルカの手を取ってペンダントの上から乗せた。
「これは、両親のそして姉の形見でもあります。どうか受け取ってください。俺はあの化け物を倒します、必ず。ですからあなた方はあなた方だけに出来る戦いをしてください。おそらくこれが終わった後、人々は哀しみで満ちるでしょう。それを救うことが出来るのは王女であるあなた方だけです。それでは!」
 ライツはスピアーの首にまたがった。
「そうそう、俺の働きを認めてくれるなら前に言っていた礼とやらをもらいにいくよ。ただし、金じゃなくて別のものをね」
 さっきとは打って変わって軽い口調で言う。
「別のもの?」
 フィアの問いには答えず、飛びだって行った。最後の戦いに向けて……



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