勇者へのエチュード -- 第二話ファーストコンタクト -- 作:木村征人 |
「ふわぁぁぁぁ〜」
ケインはあくびをした後身体を伸ばした。 「ティピ、起きろ」 横ですやすや眠っている妖精の頭を指で弾いた。 「もう朝?」 まだ眠たそうに目をこすりながらケインに聞いた。 「ああ、とっとと準備していくぞ」 ケインは携帯食をかじりながらさくらんぼをティピに渡す。 「あ〜む♪ 昨日興奮してあまり眠れなかったのに元気ね」 大きく口を開けてさくらんぼをかじりながら呆れて言う。 ケインはそれに答えず人一人入れそうなぐらい大きな袋を担ぎながら出て行った。 「あ、待ってよ〜」 パタパタと背中の羽をはばたかせながらティピはケインの背中を追いかけた。 まだ少し時間が早いのか待ち合わせ場所にはあまり人がいなかった。近くで荷物を下ろしている間ティピは寝不足だったのか右肩で首をかっくかっくん揺らしながら半分寝ている。 不意にごそごそと袋を漁っている人影に気づく。しかしその人影が袋を盗もうとしていないのに分かると後ろの人影に気をくばりながらしばらく間無視した。 ちらほらとツアー参加者が集まって来たが、参加者は年寄りか中年ばかりであった。どうやらケインと同年代の参加者はいないらしい。 「おい、そこのおまえら!」 呼びとめた男達にケインは見たことあった。昨日のシルフに吹き飛ばされた衛兵であった。参加者の顔を注意深く眺めた後、ケインを睨みつけた。 「銀髪の女を見かけなかったか?」 「………………銀髪の女? ん〜、そういえば港の方に向かって行ったみたいですけど」 衛兵はケインの指差した方向に走っていった。衛兵の姿が見えなくなった後、 「さて……もう出てきてもいいぞ」 ケインの言葉にビクッと袋が震える。 袋からずりずりと抜け出したのは昨日精霊を召喚した少女であった。 「うえ〜、髪がぐちゃぐちゃ」 少女は乱れた髪を手で直しながら、悪態をつく。 それを見たケインは軽くため息を吐く。ケインの持っていた袋は土産をたくさんもてるように人一人入れる大きな袋であった。まだ何も買っていなかったので小柄な少女なら袋の中に隠れることは出来るだろうが居心地は最悪だろう。しかも他人の荷物に隠れるなどということをしていれば衛兵に突き出されても文句は言えない。この少女の浅はかさにケインは呆れていた。 「ところで何で衛兵に嘘ついたの?」 「それは――」 「はーい、みなさーん。出発しますよー」 少女の質問に答えようとした時、やたらと間延びしたのんびりした口調が耳についた。 「ん? ああ、ガイドさ……ダ、ダークエルフ!」 ケインは驚きの声をあげた。宝石のような瞳に、異様に長い耳。そしてなによりも漆黒の肌。まさしくダークエルフそのものであった。 二十年前の「ドラゴンの咆哮」以来、エルフやゴブリンが人間社会に出てきたのと同様、ダークエルフも例外ではない。 しかしケインのような田舎育ちではあまりにも珍しい光景であった為、簡単にその事実を受け取ることは出来なかった。 良く出てくる話の中にはダークエルフは悪者の代名詞である。こけた頬に鋭い目つき、邪神を信仰し最後に主人公に退治される。そういう先入観があるこそなのだが、目の前のダークエルフは温和な顔つきでとてもそうには見えないのだが…… 「うーん、ダークエルフというのは狡猾と聞いていたけど……見た目にダマされないように……」 「あら、一人多いようですわねぇ……まぁ、気にしないでいきましょうか」 定員を数えていたガイドは銀髪の少女も数に入れていた。……どうやら見た目通りの人らしい。 「私はここのガイドを勤めさせていただくぅ、アクア=レートと言います。それでは宿場町まで御案内しまーす」 ほわーんとした言葉使いと共に三角旗を持ったアクアが先頭に立ってみなを誘導している。どうやら宿場町まで徒歩のようだ。 「それでさっきの続きだけど……」 少女が再びケインに問い詰めてきた。 「お前が――」 「お前じゃないわよ。私の名前はセレナ。あなたは?」 「俺はケイン。で、こっちが……」 「ちょっとあなた!なれなれしいわね」 いつのまにか起きていたのか、ティピがセレナに食って掛かった。 「これはあたしのモノなんだから、勝手なことしないでよね」 「いつから俺はお前のモノになったんだ?」 セレナはティピの姿に少し驚いていたが、 「きゃー、かわいい!」 セレナはいきなりティピを捕まえてほお擦りしだした。 「え? わっ! ばか、そんなところ触るな! いや止めて。ひーん」 「えらく気に入られたらしいな……」 それからようやくセレナの熱い抱擁が終わったティピは、 「うえーん、この女嫌いだよぉ」 ケインの肩に泣きついた。 「泣くなよ……頼むから」 呆れているケインを尻目にすっかり堪能したのかセレナは幸せそうに微笑を浮かべている。 「あー、幸せなところ悪いがなんで衛兵から逃げてたんだ?」 「うーん、それはちょっと……そのうちおいおいね…… そういうあなたこそどうしてあたしをかばったの?」 ばつが悪いのを隠すようにセレナは質問を質問で返す。 「興味があったからな。精霊使いなんてそう簡単にお目にかかれるものじゃないからな」 「あ、そういうことか……うーん、私の母親が強い魔法使いだから家系的なものあるんじゃないかしら、それに……」 「それに色々と理由がありそうだしな」 「あは、あはははは」 セレナは引きつった笑いを浮かべていた。 それから宿場町に着いたのはいいが…… 「えっと……これ?」 「そうです。みんな乗ってくださいね」 当てつけられた馬車は木製の屋根のない簡素な馬車だった。 「あの……ものすごくちっちゃいんですけど……」 「はい、低価格ですから……」 にこやかにアクアが答える。 「なるほど……」 ケインが払ったツアー料金は格安のものであった。当然ツアーの質も低くなる。だからこそ参加者もほとんどいなかったのだろう。 宿場町から馬車で揺られること五時間。 「宿は用意しておりますがお食事は各自で取ってくださいね」 「うう、乗り心地最悪だよぉ」 セレナは涙目でお尻をさすっている。 「確かにな……」 ケインも疲れきった顔をしている。 「あら、あなた達もここに来たのですか?」
ケインとセレナ、ティピは酒場に行くとアクアが食事を取ろうとしている所であった。ケインとセレナもアクアも同席し、ティピはテーブルの上に座っている。 「ガイドさんもここに来ていたんですね」 セレナは人懐っこく笑みを浮かべる。 「アクアで良いですよ♪ あの私も名前で呼んで良いですか?」 「ええ、別に良いですよ」 「ありがとうございます、ケインさん」 アクアは明るく言ったセレナに向かって、 「……………………」 「……………………(ニコニコ)」 「あのぉ、私の名前セレナと言うんですけど……」 「あ、ごめんなさい。名簿に歳が書いてあったんで年齢的に見ててっきりあなたかと。それじゃああなたがケインさんですか?」 「へ?」 今度はさくらんぼをくわえていたティピに聞く。 ケインがセレナに耳打ちする。 「なあ、セレナ?」 「なに?」 「ここは笑えば良いのか?」 「……多分天然だからあなたがケインだと言った方が良いんじゃない?」 「そうだな…… あー、アクアさん。俺がケインです」 「そうなんですかぁ。よろしくお願いします」 何事もなかったようににこやかに笑う。 「マイペースな人だ……こっちがセレナで、ちっこい奴がティピです」 「えっとよろしく」 「……よ、よろしく」 「はい、よろしくです。セレナさんにティピちゃん」 「そういえば明日から観光地へ連れてってくれるんですよね」 「はい。明日から馬車で移動して明後日に王都に着くようになっていますよ」 「え? 王都に!?」 セレナが驚きの声をあげる。 「あのなにか問題あります?」 「う、ううん。なんでもないです。ふぅ、結局戻るのね。 そういえばアクアさん。勇者というのはこの大陸にはいないんですか?」 「さあ、どうでしょうか? でも、勇者というのは強く気高く誇り高く、知的で優しく男らしい方なんでしょうね」 当の本人が聞いたら力いっぱい否定するだろう。強いかどうかはともかく気高さとは無縁の生活を送っていたからだ。 「会えないの……」 「セレナ、えらく残念そうだな」 「え? う、うん。やっぱり会ってみたいじゃない? そうじゃなかったらこのツアーに参加しないでしょ?」 「まあ、そうだな。もっとも俺は親父とお袋の育った地を見てみたいだけなんだけどな」 成り行きでこのツアーに参加することになったセレナの嘘にケインはあわせる。 「そう言えばケインさんはどこからおこしになったんですか?」 「俺は隣の国のゼイラード帝国から来たんだ」 「そうなんですかぁ。どうですか? この国は」 「ええっと、騒がしいという印象がありましたけど、まだなんとも言えませんね」 さすがにダークエルフがいたことに驚いたとは言えなかった。 「とにかく明日は期待してますよ、アクアさん」 「はい、任せてください。セレナさん」 しかしこのガイドの言うことに三人はいまいち信用できなかった。 「そういえばー、一部屋足りないので御同室お願いできますか?」 「えぇぇぇぇぇ!」 ケインとセレナは同時に驚きの声をあげた。 「こっちから先に来たら精霊魔法をぶつけるわよ!」
部屋の端にあるベッドをセレナが独占しながら怒鳴る。 「わぁーてるよ」 ケインは袋を枕代わりにしながら寝転がる。 こうして昨日とは違ってケインは騒がしく眠りについた。 その頃アイザ城では、甲冑を着た男女が傷だらけになっていた。
「まさか、四将軍の私達が全くはがたたないなんてね」 「ああ、それより女王と王女は大丈夫なのか?」 「ええ、王女も逃げたし、女王もあの場所に隠れてるわ」 「そうかご老体の四将軍もとっとと逃がしてやったし」 「くすっ、後でバルザ将軍とルシード将軍に言いつけるわよ」 「後があればな……」 「……そうね。だったら祈りましょ!」 「なにに?」 「勇者が現われることに」 「そうだな。出来れば会ってみたかったけどな」 「そうね、女王がいつも自分のことのように話していたものね」 「でも、その礎になれることは出来るな」 「ええ、それじゃあ行きましょうか……」 「ああ」 二人は敵に突っ込んだ。そして……二人は倒れた。 |
あとがき ああ、本当なら王都につく予定だったのに。思ったよりも物語りが進まないものです。さて、四将軍あっけなかったですね。 前回では結構重要な役割だったのに。残りの二人は今回も何気に活躍します。次回こそは王都につけるか? |
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