勇者へのエチュード 
--  第五話 謁見 --
                                    作:木村征人



「お久しぶりです、帝王」
 ガルズ城の謁見の間、帝王ジェラードの前でライツは片膝をついていた。
「やめいライツ。おまえと俺は友の契りを交わしたはずだそ」
「ま、社交辞令みたいなもんです……」
 そう言ってライツはあぐらをかいた。
 ケインやセレナはどうしたものかと迷っていたが結局ライツと同じように脚を崩した。
「全くお前という奴は……何年顔を見せてないと思っているのだ?」
「えーと…………十年くらいですかね」
「十五年だ! しかもお前の子どもが生まれたと聞いてわざわざ出向いていってやったきりだ。まったく……この俺を呼び出すなぞ……
 まあいい、お前はこの国を救った人間なんだからな」
「まあもその時の報奨金のおかげで不自由なく静かに暮らせているんですがね。
 そう言えばまだ世継ぎは出来ないんですか?」
「ああ、最近妻が少しずつ元気になってな……もう少し様子を見るつもりだ」
 女王シャトールは恥ずかしそうな、申し訳そうな顔をしながら目を伏せている。
 相変らずの愛妻家か……
 元々王というのは正室側室など二人以上をめとることが多い。それゆえ正室の子どもが暗殺されたりなどの御家騒動がやたらと多い。ジェラード王もそれを経験している上、自分の妻の身体が弱いに関わらず一人しかめとっていない。
 どちらにしてもどっぷりと彼女に惚れこんでいるのも事実だか。
「で、用件はなんだ? ただ顔を見せたとという分けではないだろう」
「後ろにいる女性はアリオスト王国の女王の一人娘、セレナ王女です。身の危険を感じ逃げていたところをわが息子ケインが保護したのです」
 ライツは脚色を加えながら説明していた。ライツ自身が体験した訳ではないのでそうする以外説明できなかった。
「…………ではやはり、あのうわさは事実だったか……」
「ええ、それで出来るだけ上等な武器が欲しい。それとゴートの森へ入る許可を頂きたいと思いましてね」
 ざわっと周りの騎士たちがざわめく。
「分かっているのか? あの森は……」
「ええ、魔の森といわれている場所だからね」
「その森に行かねばならないのだな?」
「ええ、どうしてもね。それと盗賊ギルトのアルにフーリーまで来るように連絡を廻しといてください」
「分かった。それとおまえはラグナを持っていたな」
「ああ、そうだけど……」
「こっちを持っていくがいい。前にお前へ送ったものよりも遠くから移動できるものだ。最低でもここから王都まで行けるはずだ」
「ほう……ありがたくもらっておきます」
「武器も好きなだけ持っていけ。それと……」
「……え?」
「今度からもう少しおとなしく城に来い」
「ああ」
 
 三人は武器庫の中へと案内された。
「ふむ、結構いい魔道石を使ってるな」
 ライツは魔道具製の上着を着ながら具合を確かめている。スピード主体のライツにとって鎧はうっとおしいものの何物でもない。
 魔道具は魔道石が埋め込まれている。その魔道石があって初めて魔道具は作動する。魔道石にも色々種類があり、火が出るもの、切れ味が増すもの、伸縮するものなど様々の効力がある。
 鑑定士のようなものがそれを見分け、効力の度合が高ければ高いほど高価になる。
 近年、新たな魔道具が開発するのが活発になっている。もっとも新しいのが移動用魔道具ラグナである。魔道石は二つ同時に埋め込んでも何故か効力は発揮しなかった。それにより二つで一つの魔道具を作られる事となった。
 魔道具の開発に力を入れているのは理由がある。それは伝説にして最強の武器である魔道具ドラゴンスレイヤーの存在である。それに匹敵するものを作ろうと躍起になっているのだ。
 ライツの背後に人影を現す。ライツはその気配に気付き剣を振る。そして人影は紙のようなものを振りかざす。
 
 ガウン!!
 
 壁に巨大な穴が開く。
 ライツは人影の真横に剣を近づけていた。人影もライツの真横に手があった。
「なるほどさすがですね」
 人影は男のエルフであった。
「お前が新しい側近か……」
「ええ、失礼ながらあなたの力を見てみたいと思いまして。私の名はレインと申します。以後おみしりおきを」
「ふう……なるほど考えたものだな」
 レインが去った後ライツは軽く溜息を吐いた。
「どういうことだ?」
 ケインは自分に合う上着を探しながら聞く。
「不死に近いエルフが王の子供を赤子の頃から親代わりに育てていけばそれなりに情愛もわく。それはそのまま忠義心にも反映されるからな。それに何代も続けて面倒見ていけば間違いも少なくなるし、王の先祖についての語り部にもなれるからな。情操教育にも役立つだろう」
「ふうん、でもかなり思いきった事を考えついたものだな」
「確かにな……しかし、呪符使いとはな……」
「呪符使い?」
「あらかじめ特殊な紙に魔法を封じ込めて、呪文なしで魔法を発動させる秘技だ。出来あがっていた絵をいきなり突き出されるようなもんだ。当てるつもりがなかったみたいだがタチの悪い冗談だぜ。
 おそらく俺のことをジェラードから聞いたんだろうな」
 そう言ってライツは汗をぬぐった。
 今でこそゼイラード帝国は友好国であるが、二十年前の「ドラゴンの咆哮」の直後、ドラゴンらの攻撃は逆に近かったことや強力な軍事能力により被害は他の国よりも少なかった。逆に四将軍を失ったり被害が大きかったアリオスト王国に向けて戦争をしかけようとしていた。
 その戦争を止めたのがライツであった。元々、帝王が戦争をしかけるように仕向けたのは独裁政権を企てた帝王の側近と第二王子を王の継承者にしようと野望に燃えた側室であった。
 その頃ライツはゼイラード帝国でその情報を掴み、その野望を打ち破ったのだ。
 ライツはアリオスト王国を救う意味もあったのだが、はるか昔に起こった百年戦争の再来を引きとめるのが一番の目的であった。元々百年戦争は一つの国が他の国に攻め込むことが引き金となり、次々と伝染病のように戦争が起こったのが原因となった。
 いわばライツはアリオスト王国とゼイラード王国だけでなく世界を再び救ったということになる。しかしこの事実を知るものはわずかしかおらず。実際伝えられているのは側近と側室が反乱をおこし、ゼイラード帝国を乗っ取ろうとしたのを勇者が打破したと一般的には伝えられている。
 そして当時十歳に満たないジェラードも殺されそうになったところライツに助けられた。その勇猛果敢なライツの姿にあこがれ友人となった。帝王ジェラードとってライツの存在は友人であり恩人であり、そして目標でもあった。
「それよりこれからどうするんだ?」
「そうだな……おいティピ。起きろ」
 ライツがティピをつつく。ティピは目をこすりながら軽く伸びをする。
「ふみゃあ……なに?」
「昔、俺がゴートの森でお前を拾った場所は覚えているな……」
「うん……」
「そこまでケインを連れて行ってやれ」
「うん、いーよー」
「オヤジは来ないのか?」
「ああ、一度家に戻って俺は一足先に王都に行く。二十年ぶりに姉妹の再会もいいだろう」
「俺はそこで何をすればいいんだ?」
「行けば分かる……お前にラグナを渡しておくから、目的を達したらボタンを押せ。俺は楔を持って行くからな。すぐに合流できるはずだ」
「あの私はどうすればいいんですか?」
「セレナ王女は俺と一緒に来てもらいます。女王がいる場所は分かりますか?」
「ええ。それに母の片割れの姿も見てみたい気がしますしね。なんでも性格が全然違うとか」
「確かにな……ならここでお別れだ。ケインも森の近くまでなら馬車で送ってくれるはずだ」
 
 そして港町フーリーの盗賊ギルド。皮肉にも軍事目的で作られた魔道具の高速艇がライツたちを乗せていたことにより一日足らずでライツ達は着いていた。
「久しぶりだな、アル」
 ライツは三十代の男。顔に刀傷が浮かんでいる野生的な男に向かって軽くてをあげた。アルと呼ばれた男はドラゴンの咆哮の後、ライツの元で一年ほど修業し、その後二十歳という異例の早さで盗賊ギルドの頭領となっていた。
 その筋ではかなりの権力を持つようになっていた。
 しかし、いつもは暴力的な言葉を使うアルもライツの前ではどうしても丁寧語になってしまう。
「ええ、確かに」
「しかし、すっかり老けたなお前」
「そう言うお師匠様こそって、全然変わってませんね」
「まあ、色々あってな」
「それでどうしたんですか? わざわざ港町で呼び出すなんて」
「いや、まだ今は用はないんだ。しかし、ゼイラード帝国の帝王ジェラードが協力を申し立てた場合、アリオスト王国に存在する盗賊ギルドを全面的に協力するようにしてくれ。お前だったら何とかできるだろう。どうせなら俺の名前を使ってもいい」
「自分の名前を利用するのを嫌っていたお師匠様がそんな事を言い出すとはそうとうやばい事のようですね……時間はかかりますよ」
「ああ、今すぐとは言わない。ただしアルはここにいてくれ。すぐに連絡をとれるようにな」
「ええ、任せてください」
「頼んだぞ、まだ確証は持てないがもし俺の想像通りの敵ならかなりやばい状況だからな」
 
 そしてケインは……
「ここがゴートの森か……」
 二十M近い木が生い茂っている様はまるで断崖絶壁を連想させる深い森。おそらく入れば日の光はほとんど入らないだろう。奇妙な獣の声もちらほら聞こえる。
 ケインは魔道具のカンテラを点け、意を決して足を踏み入れた。
「どこへ向かえばいいんだ? ティピ」
「むふふふふふふ、デート♪ デート♪」
 不気味な森で何故かティピは陶酔している。
「こんな場所でデートもくそもないんだがな……」
 ケインは軽く溜息をつくととにかく奥へ進んだ。


ちょっと補足
えーっと、魔道具の説明したところの魔道石は電池みたいなものだと思ってください。永遠に使える電池、でも単一単二のような種類が魔道石にもあると思ってください。でも、こういう説明の仕方を劇中でやると世界観が崩れるのであとがきで説明することになりました。ひとえに僕の表現能力のなさですね。



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