勇者へのエチュード 
--  第七話 見習い勇者 --
                                    作:木村征人



 ライツが魔族に向かって剣を振るが上空に逃げられる。
「飛べるのか……厄介だな」
 あの姿なにかの本で見かけたことあるが……もしかすると。
 ライツは空を飛んでいる魔族に剣先を向ける。
「貴様、なぜあんなに人を殺した」
「ふっ、別にいいじゃねえか。殺してもいいって言われたしな……」
 結構単純な性格してるぜ。だとしたらつけいる隙があるかもな。
 ライツは自分の心を落ちつかせると、ニィィと笑った。
「……おまえ、パシリか……?」
「な、なんだとぉぉぉぉぉぉお!」
「だってそうだろ? 言われたからほいほい行ったなんて単なるパシリじゃねえか」
 バカにした笑みを浮かべ鼻で笑う。
「きさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 魔族が憤怒してライツに向かって拳をくりだす。
 ライツは両手の攻撃をなんとか剣で防御する。攻撃自体は単純でなんとか防げるが相手のスピードとパワーは段違いであった。
「パシリ魔族の癖にやるじゃねーか!」
「パシリって言うなぁぁぁぁぁぁぁ!」
 半目でセレナがその戦いを眺めていた。
「なんか緊迫した戦いだけど、緊張感がないのは気のせい?」
 フィアもミルカもただただ首を振るだけであった。
「ぐあっ!」
 弾き飛ばされたライツのポケットから楔がこぼれ落ちた。
 ヤバイな……バカな分だけまだマシだが。俺じゃ勝てない……ドラゴンスレイヤーさえあれば……いや、それに変わる剣があれば! 
 
 精霊王は精霊力(ケイン自身はまるで空気の塊をぶつけられた感覚だが)をケインにぶつける。
「どぉっ!」
 ケインは精霊王の攻撃を耐えていた。
 最初は簡単に吹き飛ばされていたが今ではなんとかこらえることが出来る。
 短時間で精霊力の耐性がついて来たことに精霊王は感心した。
 なるほど……才能はあるということか……
「くそぉ、無遠慮に攻撃しやがって…………
 こうなりゃいちかばちか!」
 ケインはいきなり精霊王に背を向けて精霊の剣に向かって走りだした。
「精霊の剣を使うつもりか」
 ケインは精霊の剣で精霊王の影に隠れる様にし、精励の剣の柄に手をかけ引き抜こうとした。が、
「ふんぎぎぎぎぎぎぎぎぎ、抜けねぇ!」
 更に力を込めて抜こうとした。少しずつ剣が地面から離れていく。
「よし……!
 うわっ」
 ズシャ
 剣を構えようとした瞬間、剣の重みに負け前のめりに倒れた。
「やはり剣を持つことも出来んか」
 精霊王は溜息をついた。しかし感心したようにも見えている。
「引きぬくことが出来たのは、勇者の子供だけのことはあるということか……」
 精霊王の言葉はケインの逆鱗に触れ――
 ――キレタ。
「なんだとぉぉぉぉぉぉぉ!」
 ケインが精霊王に向かっていく。 ケインは昔から勇者の名を持つライツから引け目を感じていた。それゆえ精霊王の言葉はケインの怒りを買い力が一時的に爆発した。
「なに!」
 精霊王の驚きの言葉が響く。その瞬間。
 ドガォ!
 ケインが吹っ飛ぶ。精霊王のアッパーをまともに食らったのだ。
「戦いとはいつも無情なものだ。勝っても負けても……とくに今回みたいにな」
 精霊王の言葉になぜか涙を流しながら拍手を送るティピ。
「だぁぁぁぁ、あほかぁぁぁぁぁぁぁ!」
 ケインは剣先を精霊王へ向ける。
「だいたいこんな重たい剣なんか――ってあれ?」
 ケインの手の中には精霊の剣が収まっていた。なぜか先ほどまでの重量感がない。
「どういうことだ?」
「存外バカだな……おまえ……」
 精霊王は溜息をついた。
「精霊の剣はその名の通り、精霊の力が宿っておる。ならばその使い手も精霊の力が必要になるだろう。しかしお前は精霊魔法は使えんし、その才能もない。
 ならば多少荒療治だろうが、精霊力をぶつけながらせめて精霊の耐性をつけなければならんからな」
「それじゃあ最初から……」
「さてな、どのみちお前は精霊の剣を持てるようになった。それだけだ」
「だったら……」
「ああ、持っていくが良い。ただし大精霊を見つけ出すことが条件だ」
 ケインは無言でうなずいた。
「すげぇ……さっきの重みが嘘みたいだ。
 よし、ティピ。いくぞ!」
「うん」
 ティピを肩に乗せ、ケインはボタンを押した。
 それを見送った後、精霊王は薄く笑みを浮かべた。
「ふぅっ、しかし精霊の耐性をあれほどは早くにつけるとは。勇者の才覚がなければ精霊の剣をくれてやるつもりはなかったがな。
 やれやれ、しかし三分の力を出すというのも骨が折れる」
 精霊王はどさっと座り、不敵な笑みを浮かべた。
 
 ライツは魔族の攻撃を剣で必死に防いでいた。しかし、
 バキン
 ついに攻撃に耐えきれず剣が砕けた。
 ライツの腹に魔族の拳がめり込む。
「げふっ」
 ライツは膝を着く。
「ライツ!」
 フィアが悲痛な声を上げる。その時、誰かが姿を現した。
「なんでしょう――」
 ミルカの言葉が終わらないうちに影が走る。
「親父伏せろ!」
 その声にライツは体を前に倒す。チッと逃げ送れた何本かの髪の毛を切りながら魔族に向かって稲妻が魔族を襲う。魔族はそれから逃げるように空へと舞上がった。
 『ブワッ』とライツの周りで土煙が起こる。
「ケイン……戻ったか……」
 稲妻に見えたものはケインが手に入れた精霊の剣であった。土煙が怒ったのはケインが精霊の剣を振るうことによって起きた風であった。
「ああ、精霊の剣を手に入れたぜ」
 ケインはグルグルと剣を回す。
 通常、大剣のような大型武器は威力も大きいが攻撃する直前と直後の隙も大きい。逆に軽い武器は確かに小回りが効くが、例えば短剣などでは威力が小さすぎる。その相反する弱点を解消し、長所を生かしたのが精霊の剣であった。
 ただしそれを扱えるのはケインのみ、剣の所有者だけの話しだが。
 ケインが魔族を指差す。
「それより親父あれはなんだ?」
「魔族だよ。あれが俺達の敵だ」
「魔族……」
「その名も魔族パシーリ」
「勝手に変な名前をつけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 魔族がライツの言葉に怒鳴り声を上げながらライツ達に向かう。それをケインが剣を構え迎えうつ。
「来い! パシーリ!」
「ちっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!」
 ライツはその場を離れる。
「フィー、ミルカ。悪いが回復呪文を頼む」
「え、ええ。でも、ケインに任せていれば大丈夫じゃないの?」
「そーですよ。新しい勇者さんなんですから」
「いや、あいつは残虐で有名な魔族リーゾだ。単純バカだが人間の血を好むなんていう趣味の悪い奴だ。しかし強い。ただの剣じゃ傷一つ与えられねぇ。
 あいつを怒らせて単純な攻撃しかしなくなったが、ろくに剣術を知らないケインじゃ倒せない。そろそろ落ち着きを取り戻しそうだからなとっととケリをつける」
 その言葉は聞いたフィアは意外そうな顔を浮かべた。
「そ、そうだったの?」
「おまえら、まさか俺が本気でふざけてるとでも思ったのか?」
 ライツがジト目で睨む。
「あ、あはは。そ、そんなことあるわけないじゃない」
「まあ、そーなんですかぁ。私ちっとも分かりませんでした」
 フィアとミルカの言葉に額を押さえるライツ。
「全くおまえらは……
 それよりセレナ姫。なんでもいいあいつの動きを一瞬だけでも止めてくれ」
 その会話をぼーぜんとしていたセレナの体がビクッと震える。
「は、はい! やってみます」
 反射的にそう答えた。
「よし、頼んだぞ」
「でもどうするつもりなんですか?」
「これを使うのさ」
 ライツは楔を拾い上げ、自分の考えを述べた。
 すごいな……やっぱり勇者って。
 そう感心ながらセレナは意識を集中した。そしてフィアのミルカの魔法でライツは完全に回復した。
 
「はっははははは。どうしたいくら剣がすごくても当たらなきゃ意味ないぜ」
 ケインの攻撃を簡単に避けるリーゾ。
「ちょこまかとしてんじゃねぇ!」
 その苛立ちを吹き飛ばすかのようにケインは怒鳴る。
「猛る赤き力よ。その姿を示せ! サラマンダー!」
 セレナが炎の精霊サラマンダーを召喚する。炎がリーゾを包む。
「こ、この程度で!」
 リーゾが上空へ逃げると再び、
「大いなる風のいななき! シルフ!」
 風がリーゾにまとわりつく。風はまるで鎖の様にリーゾの動きを止める。
 その隙を狙いライツが叫ぶ。
「くらえ、くそったれパシリ魔族!」
 ライツは頑丈な鋼糸を巻きつけた楔を投げる。
 グルグルとリーゾの身体に鋼糸が巻きつく。
「いまだケイン。ボタンを押せ!」
「そうか!」
 ライツの言葉にケインは移動用魔道具ラグナのボタンを押す。
「こんなもの!」
 巻きついた鋼糸を引き千切ろうとしたリーゾの眼前にケインが姿を現す。
「おぉぉぉぉぉぉぉ!」
 リーゾの胴体を真っ二つに切り裂く。それを見たライツが呆れる。
「あのバカ。楔まで切りやがった」
 しかしリーゾはまだ生きていた。
「貴様ぁぁぁ!」
 上半身だけになったリーゾがケインに掴みかかる。
「やかましい!」
 ケインは剣を斬り返し、今度は下から上へと縦半分に真っ二つに裂く。
 ゴウッとリーゾの体が燃える。今度こそリーゾを倒したのだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
 結果的に何もしなかったフィアとミルカが深く長い溜息を吐く。
 ライツがケインの肩に手を置く
「なんとか倒せたな……」
「親父……
 こっの子不幸もんがぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」
 ケインがライツを殴ろうとするが、すんででかわす。
「いきなりなにをする?」
「やかましい! なんの説明もなしにあんなところへ行かせるんじゃねぇ!
 くそけったいな森でうろつく羽目になるわ。精霊王にぼこられるわ。散々だっだぜ!」
 その言葉にライツはぽりぽりと頬をかいた後、「うむ」と一度うなづき、
「ま、貴重な体験だと思え」
「こ、殺す。殺してやる」
 ケインが精霊の剣を振りまわすがひょいひょいとライツはかわす。
「止めなくていいの?」
 セレナは指差しながら言うが、
「別にいいんじゃないの?」
「そうですよねー。とっても楽しそうですし」
 二人共のんきな事を言う。
「どうでもいいから私を助けてー」
 ケインの剣風に弾き飛ばされ砂に埋もれていたティピがうめいていた。
 
 眼鏡をかけた男が巨大にレンズ(おそらく魔道具なのだろう)を前に一部始終を見ていた。
「どうやら、予定より計画を早めなくならないようですね。まだ、エネルギーは三分の一もたまっていないですが。
 リーゾを倒せたとはいえ、まさかとは思いますがなにかしら支障きたすおそれが五%あります。ですが今これを使えばその確立はゼロになります。
 完璧主義の私は今すぐこの装置を稼動させたいのですが……」
 そう言ってスッと眼鏡を上げる。
「よろしいでしょうか?」
 台座に座っている男はゆっくりとうなづく。
「それでは……」
 眼鏡の男は奇妙な……まるで何かの生き物のようなうごめく支柱に手をかけた。
 
 バアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
 
 闇が広がる。この世の全てを飲み込むかのように。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 ケインの声が上がる。
 そして事実上、ケイン、セレナ、ライツ、フィア、ミルカがこの世から消滅した。
 



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