勇者へのエチュード
--  第十話 魔王  --
                                    作:木村征人



「ほえぇぇぇぇぇぇ、すげえな」
 ケインは頭上を見上げた。アイザ城よりも巨大な城。そこがスピリチアム=ブロッサが守るべき城であった。
「この部屋を使ってくれ」
 再会した六人はスピリチアムに城まで案内してもらった後、個室を用意してもらい少し話しがしたいと言い部屋へと案内してもらった。
 スプチリアムは一言で言うとさわやかな町の青年。鎧といえるものは着ておらず、剣をただ差しているだけの男に見えるが、意思の強い瞳は見るものを射抜く印象を持ち人間の本質を見ぬく力を持っていた。もともと騎士の生まれではなく、剣技と人柄でドラゴンの騎士の称号を取るまで昇りつめた。
 スピリチアムに席を外してもらい部屋で現状を話していたが、みんな好き勝手に話しをしたせいもあって一向に進まず、結局ライツとフィアが説明役を買って出た。
「ふむ、ここの時代に来た後、すぐにスピリチアム様に拾われたのか」
「ええ、私達三人はこの城の庭園に落ちたの。それを城の衛兵に見付かって。
 いきなり牢屋に入れられたせいでびっくりしたわ」
「ちっ、そういう役どころは俺なのに……」
「牢屋に入れられるのに情熱を燃やさないの!
 そこで聡明なスピリチア様が私達を出してくれて、ライツ達を探してくれると言ってくれて、近くの町から探すということになったの。
 この町に着いたときに丁度モンスターが現われたと聞いて私達も退治に行くとあなた達を見つけたわけ」
「なるほど、なんにしても丁度良かった。もしモンスターが出てこなかったら俺達は砂漠に向かうところだったからな」
「砂漠に?」
「ああ、近々バザーが行なわれるらしいからな。
 お前達の手がかりを掴めむことと、それに元の時代の戻り方とか、武器とか手に入ると思ってな。
 もしそこへ行っていたら出会える確立はおそらくゼロだろうな」
「おそらくライツさんでしたら今の現状をどうにかしてくれるのではないのでしょうかと思って必死に探そうとしたんですよ〜」
 話しに丁度区切りがついたところでミルカが割り込んでいた。
「ああ、それなら考えがある。三人がスピリチア様を連れてきたおかげで光明が見えて来た」
「どういうことですか?」
 セレナの方もケイン、アクア、ティピとの話しも区切りがついたのかライツの話しに耳を傾ける。
「スピリチア様はドラゴンスレイヤーを持っていなかった。伝承では巨大な力を持つドラゴンからドラゴンスレイヤーを授かったと言われている。
 つまりドラゴンスレイヤー生み出したドラゴンだ。それほどの力を持つドラゴンなら……」
 フィアはパチンと指を弾いた。
「何とかしてくれるかもしれないという事か」
 ケイン、セレナ、ティピは納得した様にうなづいたが。
「はぁ……」
「とにかく〜スピチリア様に〜ついて行けばいいんですね〜」
 アクアとミルカはやっぱりよく分かっていなかった。
 フィアは溜息をついた後、ライツに再び疑問を投げかけた。
「それと、敵の正体はライツのことだから分かってるんでしょ?」
「ああ、昔、読んだ本にこんな神話があった――」
 世界に人が生誕するよりも遥か昔、地よりも遥か上空に存在せし神の軍勢、地よりも遥か地の底に存在せし魔の軍勢。両軍勢は激しい戦いが繰り返されていた。
 その衝撃により、一つだった大地は砕かれ、海を隔てる七つの大陸が出来あがった。それが今の世界を形作る事となった。
 永き戦いの末、神々は身体を失い、悪魔は滅びわずかに残った魔族は再び地の底へと帰った。神は人を作り世界に住まわせた。神の子として――
「――と言う伝承が残っていた。どこまで本当か知らんがな」
「つまり、魔族の生き残りがこんな事をしたということなのか?」
「多分な、神も雑魚に構うほど余裕がなかったのかもな。
 なにせもともと大きな一つの大陸だったものが戦いの余波で今の世界地図になるくらいに大陸をバラバラに割ってしまったんだからな。
 神には雑魚でも人間にとってはとてつもなく脅威なる」
「………………………」
 ケインもみんなも押し黙ってしまった。
「おそらく魔族の生き残りでもっとも力が強い奴が、二十年前のことをきっかけにこの世界に転移してきたんだろうな。魔界からこちらの世界に転移するには並大抵のことじゃない。ましてや複数なんてのはな。
 おそらく力が回復するまでずっと潜伏したんだろうな。
 だが、いくらなんでも魔界を作り出す力なんてあるはずがないのにな。まあ、それは奴らに聞くしかない。教えてくれるとは思えんがな」
「その魔族に心当たりは? あのパシリ魔族のことも知ってたくらいだから何か知ってるんだろ」
「ああ、ほとんどの魔族が滅んだ後、自ら魔王と名乗るアルハゼード・カオス。
 混沌の意味を持つ魔王カオス。そいつが親玉だろうな」
「魔王……カオス……」
 ケインがごくっと喉を鳴らした。
「他にもその側近らしい奴がいるが……
 俺が城に忍び込んだとき、二人ほど戦ったがおそらくカマを持った男がゾウザ、赤い騎士は知らないが、他に残虐さと知能を兼ね備えたシゲン、そしてゴーレムマスターワイズ。 
二十年前の女神に聞いたのはそんなところだ。
 本当ならリーゾを倒した後、早めに乗り込んで魔界を召喚する前に決着をつけたかったがな。失敗した。
 魔界を召喚したと同時に厄介なものも召喚するだろうしな」
「厄介なもの?」
「ああ、ザコとは言え人間の五、六倍の力を持つ魔物が数千近くはいるはずだ。数で押されたらさすがに何もできねぇ」
「そんな奴らを倒せる人間なんているのか?」
 ライツはゆっくり首を振り、
「いないね、少なくとも俺の考えつく限りでは」


「バ、バカな。我がデラス皇国がなにも出来ずに全滅など……」
 場所はアイザ城内。外には死体の山、デラス皇国の精鋭部隊であった。
 今生きているのは老王ジュエムと側近シルバだけであった。
 二人の目の前にはカマを持った男、ゾウザ。眼鏡をかけた男、シゲン。赤く染まった鎧の騎士が立っていた。
 そして魔王カオスが目の前の玉座に座っていた。
「ぬぅ、なんという威圧感。これが魔族というものか……」
「この俺が……このまま黙っているとでも!」
 シルバが立ちあがり呪文を唱える。
「やめ! シル――」
 デラスの声をあげる。その瞬間、シルバの顔がどんどん年老いていく……
「あ……ぅ……おれの手が……腕が……」
 シルバの両腕が、砂クズの様に崩れていく。
「全てが白く白く……」
 シルバの頭から徐々に砂の様に崩れていく。そしてシルバの姿をかたどるものは全て崩れ落ちた。
「ふふ、新たな手駒が増えたな」
 ゾウザが嘲笑を浮かべる。
「ば、ばかな。我が国最強の、おそらく世界的にもトップクラスの魔力を兼ね備えていた。
 それを……それを……
 だが、このままでは死ねん! せめて一人だけでも。わしもシルバ程ではないにしろ強力の魔法を使えるこの自爆技でな!」
 デラスが魔力を込めた瞬間!
「ひぃっ!」
 巨大な手がデラスを掴む。
「こんなジジイを相手してるひまなんてないのよ」
 デラスを掴んだ手はストーンゴーレムのものであった。その肩に短く切りそろえられていた緑色の髪に牙の生えた美しい顔でクスクスと笑みを浮かべている女、ゴーレムマスターワイズが座っていた。
「さっさと潰れちゃいなさい♪」
 グシャッと鈍い音が響く。
 皇王デラスの無残な最後であった。


 部屋から出てきた六人を見つけてスピチリアムが声をかけた。
「話しは済んだ様だな」
「はい、ところでスピチリアム様はどうなさるおつもりですか?」
 ライツが緊張した面持ちで尋ねる。
「私か? 私は伝説の剣を探す旅に出るつもりだが?」
「それでしたら俺達……いえ私達を同行していただけないでしょうか?」
「ふむ……腕も立つ様だし……
 ああ、こちらこそお願いするよ」
「ありがとございます。そのついでと言ってはなんですが……出来ればケインに剣術をお教え頂けでしょうか?」
「え?」
 横で聞いていたケインが声をあげる、それを不思議そうに見ながら、
「別に構わないが……あまり期待しないでくれよ。人にものを教えるなんてなれてないのでね」
「はい! ありがとうございます」
「なあ……親父。なんでそんなかしこまっているんだ?」
 王でさえ敬語を使わなかったライツが今、大げさなくらい頭を下げている。いくら伝説の人物とはいえ不自然すぎた。
「彼はな……特別なんだ」
「スピチリアム様……」
 静かにゆっくりと髪の長い女性が姿を現した。
「ウルズ王女……」
 スピチリアムはスッと目を細めてウルズを見つめていた。
 悲劇の王女として、ライツにとっては思い出深い人物の一人であった。
「また行かれてしまうのですね……」
「申し訳ありません。しかし神の啓示を受けた私は行かなければならないのです」
「はい、どうかお気をつけて。私はいつまでもお待ちしております」
 傍目からでも二人が愛し合っているのは明白である。というか、見ているほうが恥ずかしくなるほどであった。
「なんかメラ姉さんに似てるわね……」
「そうですねぇ」
 フィアとミルカは赤くなりながら眺めていた。
「では、行こうか!」
「はい、スピリチアム様」
「おいおい、俺達はもう仲間なんだろ?
 だったら丁寧語はやめてくれ。それと愛称と呼ばれてきたスピアーと呼び捨てにしてくれ」
「わかった。スピアー!」
 ライツは笑顔でそう呼んだ。                              

あとがき--------------------
さて、過去編は後二回か三回ぐらいですかね。現代の方も着々と準備が進んでますしね。
それでは。


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