<読む前に>
いろいろな意味で恐ろしいSSを作ってしまいました。
果たしてこんなものを搭載されていいのやら・・・・。(汗
では説明。毎度のことながら今回もまた壊れた異質なSS作ってしまいました。
ただし今作の主人公は前作までのような熱いマッチョくん(?)ではありません。
その代わり、その壊れたキャラ達を、(今まで通り)個性は潰していない(?)ものの
その個性(?)をさらに強くし、あるいはアレンジし『完全に壊れさせています』!(爆)
各キャラのファンの皆さんはご注意くださいね。
あと今作は様々なギャグを試しており、全体的には崩壊ギャグSSです。が、主にあの方(?)の
登場時は果てしなく黒く、危険で、最狂な展開へとなることでしょう。

あと今回は終盤にSSとしては異色の『選択肢』を盛り込んでおり結末が二つ用意されています。
一つは『True End』、もう一つは『Devil End』です。
内容については詳しく触れませんが、敢えて一言いっておくことがあるとすれば、
この二つのEndは完璧に対比した結末になっているということです。
そのギャップの大きさは計り知れないものがあります。
『Devil End』は最狂の結末とも思える展開に移行。
『True End』はそれとは逆のシリアスな展開に移行します。
最後に忠告することがあれば、Ever17の本編と比べて読まないことです。
私のマチョSSの世界観で見ることをオススメします。
さて、覚悟はついたでしょうか?
もしこの異質な崩壊SSに興味を持った方・先が気になる方はどうぞ。
ハマれば爆笑SS、ハマらなければ危険なクソSSです。
長いですが、一度軽くでいいですので読んでくださったら幸いです。



Remodel Project<最狂の指導者達>
(前編)

                              マイキー



2034年・・・・・。
BWを召還させ、大仕事をやってのけたが
俺の心は何もかもが虚しく、真っ白で空っぽな気分だった。
船の上は幸福感に満ち満ちており華やかで幸せな雰囲気だ。
各々が笑い・呆れ・悲しみ・怒り・泣き、様々な感情を見せている。
つぐみなんか武の胸に顔を埋めて泣いている。
当然だ。彼女は17年間待って、やっと最愛の人に再会できたのだから。
彼女は『幸せ』というものを初めて手に入れることができたのだから・・・・。
フッ・・・・今の俺にとって不釣合いな雰囲気だな・・・。
それは俺が皆を騙したからか?
もちろんそれもある。だがそれ以上の理由があるんだ。
わかっている。だが・・・・・・俺は・・・・・・。
クソッ!
もどかしさと苛立ちから無意味だとわかっていながらも船舶の壁を蹴ってしまう。

彼女の笑顔がもう一度見たい。
俺に対してあの純真無垢な輝かんばかりの笑顔を向けて欲しい。
2017年のLeMU。
何も出来なかった時も自暴自棄になりかけていた俺を
その笑顔は何度も希望を与え、救ってくれた。
今回のBW発動計画も何度も投げ出しそうになった。
だがその時、支えとなってくれた存在はやはり彼女とその笑顔だった。
あの笑顔があったからこそ、俺はここまでがんばれたのだと思う。
そして俺が望んでいた天使の笑顔を彼女は向けてくれた。
嬉かった。心が満たさせた。頑張ってきた甲斐があった。
だがそれと同時に心にまるで大きな風穴が開いたかのように何かが抜け落ちてしまった。
ただ・・・・・虚しかった。
目的を達成し、それを失ってしまったからか?
いや違う・・・・!
目的なんてまた見つければいい事だ。
ならなんなんだ・・・・この虚しさは?
・・・・・・・・・。
いやわかっている。
わかっているんだ。認めたくないだけなんだ。
彼女が・・・・。
ココが・・・俺を見てくれないということを・・・・。

いつから歯車が狂い始めたのだろうか?
元からココは俺になど恋愛感情を抱いてなかっただけか?
違う。いや、もしそうだとしても認めたくない。
なら何故!
・・・・・・・・・・・。
これもわかっている。
そう、あいつがいたからだ。
あいつがいるからココは俺を見てくれない。
あいつはココを助け出すために必要不可欠な存在だった。
だがあいつがココの気持ちを奪い取った。
その名はBW。
四次元世界の住人でココと武の救出のため歴史を変えてくれた存在。
そして俺と優が召還するため17年間も費やした存在。
あいつがいたからこそ今がある。
だからあいつには感謝している。
けど許せない。非常に複雑な心境だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

コ『ココのためにここまでしてくれるなんて・・・・』
桑『なに、俺はココの為なら爆弾を背負って隕石と心中だってするさ!』
コ『ココの事を、そこまで想ってくれていたなんて・・・』
コ『涼ちゃん!』
彼女は溢れんばかりの涙を流しながら俺の胸に飛び込んできた。
桑『ココ!』
ダキィィィィ!
彼女をしっかりと抱きしめた。彼女の華奢な体から彼女の鼓動・温もり・愛おしさを感じる。
心地よい匂い・感覚・存在感。
その時、俺は彼女の全てを抱きしめていた。
桑『ココ・・・これからずっと俺と・・・・』
コ『うん・・・』
そして俺たちは華々しく愛の契りを交わした。

・・・・・・・・・・・。
とまあ、俺の当初の予定ではこういう流れになるはずだったのだ、が・・・・・。
今となってはそれは朽ち果てた負け犬の叶わぬ妄想にすぎない・・・。
ああぁぁ・・・・何故・・・・。
その野望は俺の中以外では音を立てることもなく、無残に砕け散った。

俺の絶望的な心境とは関係なく当のココは
コ「おお〜い、お兄ちゃ〜ん!」
と水平線へと続く遠い空に向かって手を振っている。
ココのいう『お兄ちゃん』とはBWだ。
あいつは四次元世界の住人であるため三次元世界に存在する俺たちには姿が見えない。
しかしどういう摂理かは全く不明だがココだけは
自称『ちょーのうりょくしゃ』だから奴が見えるそうだ。
全く、訳がわからん。
だいたいココがBWに恋するなんておかしすぎる。
ココがBWに恋しなければ、この瞬間はなかったか?
いや!ありえない!恋しなくも全く現状に問題なし!!
これは俺とココという最愛(?)のカップルの
誕生の邪魔するための製作者の企みにしか思えん!
そう、これは製作者の陰謀だ!!!
奴らはあくまで俺を日の当たらぬ役回り、つまり脇役にハッピーはやってこない、
という設定にしたいに違いない!
何が、みんながハッピーで終わるだ・・・・!
ここに17年間もがんばったのに、仕組まれた陰謀により報われない男が一人いるぞ!!
何故、一番苦労し、報われるべき存在である俺が報われない!!!!
無駄とわかっていて敢えて言おう。
製作者出て来−い!!!そして歯を食いしばれ!歯を!!
だがやはり現状に変化が起こることはなかった。


あれから三ヶ月たった。
しかし今でもココは『お兄ちゃん』一筋だ。
『ココはいつもお兄ちゃんを見ているから』
『今でもずっとココの事を見てくれているんだよね』
『お兄ちゃん、だ〜い好き♪』などと遠い空に向かって頻繁にいっているそうだ・・・。
さらに俺と会っている時や電話で話している途中でさえ急に話題が
『お兄ちゃんがね♪』と確実に変わるのだ・・・そう、確実に・・・・。
と、このような調子でココは『お兄ちゃん』をとやらを情熱的な眼差しで見つめているため
積極的にアプローチしても全く気付かない有様だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
このままでいいのか、桑古木涼権!・・・・・いや、いかん!
とにかくココを振り向かせたい!
そのためには俺もココに振り向いてもらえるほどの魅力的な男にならねば!
こうして『俺・改造計画』は飽くなき決意・情熱・野望の下、幕を開けた。



そして今、俺は大学のとある教授の研究室にいる。
当然だが俺は生徒ではない。
実年齢32歳で大学生なんかやってはいられない。
ならどうしてここにいるかといえば、俺はその教授の助手だからだ。
教授の名は田中優美清春香菜。
BW発動計画での俺のパートナーだ。
あの事件により就職していたライプチヒ製薬が潰れてしまったが
優は用意がよく、知り合いの遺伝子工学の世界権威者であるモリノシゲゾウ氏
から大学教授を薦められ、その職に就いている。
そして優春の頼みにより俺はシゲゾウ氏に優の助手にしてもらったというわけだ。
優には確かに感謝している・・・・感謝しているが・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
『涼権、あのファイルとって。何、少し待て?とろいですな〜』
『5分以内に昼御飯買ってきて』
『あそこの山積みの資料の整理お願いね』
『はい?その考えは論外ね』 
『バカということ良いことですな〜、悩まなくてね・・・』
『若いということはいいことですな〜。はぁ、よっこらせっと』
『何、考えているんでしょうかね〜、この人は』
『じゃあ、先帰るから、あとはよろしくね』
『ウキィィイー!倉成はつぐみばっかり見ていて、私を全然見てくれないー!』
『誰のおかげで生き返ったと思ってんのよ!あの恩知らず!』
『普通、ああいう流れでは感謝の他に・・・!(以下略)』
と散々、愚痴をもらすは命令するはで、こちらにとっては大迷惑だ。
世間的には知的で落ち着いた印象が強い優だが俺の前では話は別だ。
確かに基本的には落ち着いて知的に振舞っているが、どうも
以前の獰猛さ・強引さ・血の気・目的のためには手段を選ばない点など凶暴な面が際立つ。
正直、これは以前、武に接していた態度とかなり似ている。
以前から俺が武に近づけば近づくほど獰猛かつ凶暴な接し方が多くなってきているのだ。
この関係はまるで主人と召使いとも見えなくないと思う。
もちろん、俺も交戦するが知識とボキャブラリーに長けている優にはほとんど勝てない始末。
ああぁ〜、あんな苦労したのにココには振り向いてもらえないし、
最近こいつには奴隷のような扱いで言いたい放題言われまくりだし・・・・・。
俺は自分の不幸を呪いたかった。
しかしフリーターよりはマシだと考えれば、仕方がない。
優「それで相談って何?」
俺はどうやら過去の事を考えながら、心の中でブツブツと言っており意識が
あっちの世界に逝っていてしまっていたようだ。
優は知的で落ち着いた口調で俺に話しかけてきた。
チッ、人前で知的に振舞っていても・・・・俺はお前の本性を知っているんだぞ。
桑「この『血に飢えた狂犬』が・・・・」
・・・・と心の中で言っておいた。
優「ん、今なんか言ったかな〜」
桑「いや、何にも」
優「『血に飢えた狂犬が・・・』とか聞こえたんだけどな〜」
なにぃぃ!俺とした事が口に出していたのか!
桑「す、すいませんでした・・・」
優「素直に謝ったから許してあげよう」
優「けど次言ったら・・・!」
桑「りょ、了解・・・」
優「で改めて相談ってなに?」
桑「あ、ああ・・・実はな。ココを振り向かせたいんだ」
優「無理ね」
桑「アッサリ言うなよ!」
優「前もそんなこと言っていたけど無理だったじゃない」
例の口調がますます頭に来る。
最近、こいつはいつも俺にはこうだ。
ちょっと立場が上で頭が良いからって嫌らしくて憎らしい態度ばかりする。
桑「ああ、だから俺も本腰を入れようと思ってな」
優「ふ〜ん」
桑「俺は自分を変えたいんだ、ココに振り向いてもらえるほどの魅力的な男になりたいんだ!」
桑「だからお前の力を貸してくれ、優!」
優「・・・・・本気みたいだね」
桑「もちろんだ、頼む!」
優「・・・・・・田中教授『様』」
嫌な奴だ。とてつもなく嫌な奴だ!
だがそれに従う以外、術はない。
ここはプライドを捨てるしかないようだ。
桑「うぐぅ・・・田中教授・・・サ・・・マ」
優「聞こえないわよ」
頭にプチッときた。
この女(アマ)ぐわぁ!
桑「田中教授様、この無力で情けない私めにお力をくださいませ」
このとき俺は自暴自棄になっていたに違いない。
だが仕方がないんだ。
優「うんうん♪いい態度ね」
優は無邪気な子供のように満面の笑顔で笑っていた。
だがその笑顔がとてつもなく憎らしい。
優「じゃあ、明日会った時に対策を教えてあげるから」
桑「え、今すぐは無理なのか!」
優「まあ、少し待ちなさいな。物事には準備と順序があるんだから」
優「今日、改造適任者として合ってそうな人に相談してみるから」
桑「ああ、わかったよ」
『騙されないだろうか?』という一抹の不安を覚えたが信じるしかない。
優は以前、俺の人格を武のように変えるための訓練についてくれた事が
あるから俺が知る中で最も信頼できるはずだ。
そして俺は以前から住んでいるアパートで就寝についた。


翌朝、騒々しい蝉の鳴き声と蒸暑く燦々と輝く太陽の光と暑さの下、俺は目を覚ました。
優は対策をキッチリ練ってくれただろうか?
とにかく話は大学で優に会えばわかることだ。
夏の太陽の照りつける蒸し暑さの中、俺は大学に向かった。
桑「よう、優。対策は考えてくれたか」
優「おはよう、涼権。安心して、きちんと適任の人に相談したよ」
優「私の今日の授業が全て終わったら、ここに来て」
桑「本当か、ありがとう。さすが田中教授様だ」
桑「俺が見込んだことだけはある!」
優「買いかぶっても何も返ってこないよ」
桑「その気はないから安心しな」
優「じゃあ、2時45分頃ね」
俺の気持ちはもはや高揚していた。
とにかく約束の時間が待ち遠しかった。


そして放課後。
桑「優、入るぞ」
優「どうぞ」
入ってみるとそこには優の他にもう一人の女性がいた。
あれ?この人、見たことあるな。
桑「いづみさんじゃないですか」
い「ウフフフフ♪涼権くん、こんにちは」
桑「じゃあ、俺の改造の適任者っていうのはいづみさんだったのか」
優「そういうこと」
いづみさんは俺も知っている。
以前、優に紹介してもらったことがあるからだ。
一方、優といづみさんはどうやらかなり長い付き合いだそうだ。
なんと2017年の事件が起こる以前にも面識があるほどだ。
だが彼女は公に知られざる驚異的な秘密を持っていた。
彼女もキュレイウィルスのキャリアなのだ。
2017年の事件から脱出した後、優はキュレイに感染した事を
いづみさんとその父親のモリノシゲゾウ氏に相談したら彼らはキュレイに関心を持ったそうだ。
厳密に言えば不死に関心を持ったというべきだが・・・。
リスクのことも考え、一ヶ月ほどキュレイについて研究するが結局、不死になるという大罪計画を決行。
優のキュレイウィルスの抗体を抽出し、彼女たちはキュレイのキャリアになったのだ。
よっていづみさんは2022年に細胞が完全に入れ替わったため、外見は25歳前後だ。
しかし・・・・。全く、この人は何を考えてんだか・・・・・・・。
自分からキュレイに感染するなんて正気じゃないな。
い「え〜と、涼権くん、あなたは確か精神年齢5歳、
趣味はヒヨコごっこ・イモムー・ぷっぷくぷぅ〜の超お子様」
い「かつ強烈な毒電波を放つ地球外生命体と名高い八神ココちゃんが大好きで、
彼女を振り向かせるために自分を変えたいのよね」
い「クスッ♪・・・・極めて過度で異常なロリコンのようね」
グサッ・・・・・!
何かが突き刺さるような感覚を覚えた。
だいたい『クスッ♪』ってバカにされたのか!?
桑「いづみさん、俺はロリコンだから彼女が好きになったのではなく、
あの絶望的な状況の中で笑顔を絶やさずにいる彼女の強さと
その笑顔に何度も勇気付けられたからこそ、ココが好きなんですよ」
言葉には内に秘めた怒りが大いに含んでやった。
俺を侮辱するならまだしも、ココを侮辱することは許せない!
とはいえいづみさんはココを知らない・・・。
ということはこの情報の発信源は・・・・優か!
優の方を見てみれば、案の定、意地汚い微笑をしていた。
あの女狐め〜。俺が武の人格に近づけば近づくほど意地汚い対応ばかりするようになりやがって。
遠い昔はいい奴だと思っていたのに、ドンドン嫌らしく、そして憎らしくなってくる。
だがそんなこと考えてもしょうがない。もはや『後の祭り』だ。
い「クスッ♪・・・・馬鹿で鈍感なだけかもしれないけど、そうことにしとこうかしら」
・・・・・なんかいづみさん・・・・・ムカつく!!
特にあの『クスッ♪』っていうあの鼻で笑う、笑い方!
見下すという次元ではなく相手にもせず、小馬鹿にしている感じだ。
この対応は最近の優より格段に酷い対応かもしれない・・・・。
優「で、対応策はどうなの?いづみさん」
い「ええ、もうバッチリよ」
い「じゃあ涼権くん、右腕出して」
桑「え、いいですけど。何でですか?」
い「麻酔薬を撃つからよ♪」
・・・・・・・・・・・今なんていった。
麻酔薬・・・・。
つまり俺を寝かせて拉致し、とんでもない拷問室のような
部屋で調教しようと考えているのでは・・・。
アワアヮァヮ・・・・・・。
自然と恐怖が込み上げてくる。
きっと今の俺は青ざめた表情でブルブルと身震いしているに違いない。
桑「あの・・・何故、麻酔薬が必要なのですか?」
い「ウフフフ♪」
キラリ・・・・。
見えたような気がする。
いづみさんの瞳の奥から憎悪と狂気に満ちた危険な一筋の光を・・・・。
い「それは涼権くんに眠ってもらうためよ♪」
爽やかな笑顔をしながら、地獄への乗車券ともいえる麻酔注射を取り出す。
その表情は女神のように穏やかで優しく、慈愛に満ちていた・・・・。
だが、その表情とは裏腹に最狂の漆淵のドス黒い暗黒的雰囲気も漂わせていた。
その笑顔と雰囲気とのギャップがもはや言葉で表せない程、
こ、こ・・・怖い・・・・・。
ブルブルブルブルブル・・・・・・・・。
や、やばい、恐怖で失禁しそうだ・・・・。
桑「い、い、いや〜、なんで眠る必要があるんですかね〜?アッハッハッ・・・・」
声にならない声でなんとか抗戦してみる。
い「実はとある特別講師を呼んでいてね、そのためのお楽しみ♪」
い「それに気が付いたら、知らない最狂の特別講師が目の前にいた方が面白いでしょ♪」
やはり無理だった・・・・。
しかし確信した・・・彼女は女神の笑顔と悪魔の心を併せ持つ『暗黒堕天使』だ。
自分の主人である神に欺き、その怒りの買ってしまったため
地獄に落とされ、堕落した天使・・・・・それが『堕天使』だ。
心は悪魔的で表情だけは天使の面影があるから 
この表現はピッタシと嵌まっていると言えるだろう。
そしてその堕天使が今、俺の目の前にいる。
堕天使の笑顔により背筋から底知れぬ恐怖と悪寒を感じる。
俺の直感が明らかに命に関わる危険を察知していた。
ここでこの堕天使に地獄の世界に連れさられたらもう二度と戻って来られないような・・・・。
そんな感じさえした。
逃げよう・・・・・。俺は防衛本能がそう告げていた。
桑「す、すいません。いづみさん、俺・・・・さようなら!」
俺は後ろを見ず、出口に向かい一目散に逃げた。
ドアを出てから、後ろを見たが追いかけてくる気配は感じられない。
俺は不審に思った。これには裏があるのではないかと・・・・・。
だが・・・・・数分経ってもそのような気配は感じられない。
・・・俺の思い過ごしか?
・・・・・・・・・・・。やはりドアが開く気配は感じない。
きっとそうだな、というかそうであってくれ!
俺は実際逃げているが、逃げるようにして家路へと向かった。
そして俺は我が家で不純物の含まれた液を解放したのだった。

<一方、優の部屋>
優「いづみさんがあの狂悪な雰囲気を漂わすから・・・・・」
優「逃げてしまいましたけどいいんですか?」
い「いいのよ、どうせ戻ってくると思うしね」
優「なんでそんな事が言い切れるんですか?」
い「ウフフフフ♪女の勘よ」
い「しかも適当のね」
優「・・・・・・・」
優「(悪魔の勘じゃないんですか・・・・)」
い「早く彼のところに言ってあげなさい。彼にはあなたが必要なんだから」
優「(涼権には大悪魔より小悪魔の方が適任と言いたいのかな?)」
優「はい、わかりました。それじゃあ、いづみさん」
ギィ・・・・バタン・・・・。
い「ウフフフフ♪」


月夜。
俺は麗かな夜の朧月を見上げながら、物思いに浸っていた。
あの時は咄嗟に断ったが何か他の手段があるかと言われてみれば、あるわけでない。
再度、空に映る虚ろな朧月を見上げる。
もしこの朧月が俺に的確な答えを教えてくれたらどんなに楽であろうか・・・・。
などという不毛な考えを巡らせてしまう。
だが朧月は当然の如く答えを教えてはくれない。
はぁ・・・・ココ・・・・・。
どうすれば君は俺の事を見つめてくれるんだ。
その為なら俺は何だってするのに・・・・。
だが俺はいづみさんの誘いを断ってしまった。
僅かながらも可能性があるのなら賭けるべきではなかっただろうか。
しかし俺はあの時、いづみさんの、いや堕天使の恐怖に慄き、逃げてしまった。
でかい口叩いておきながら、結局この様だ。
ココが俺を見てくれないのも当然なのかもしれない・・・・。
嫌でも気分は悲観的になってしまう。
コンコン・・・・・。
少し控えめなノックが聞こえてきた。
誰だ・・・?
優「入るね・・・」
入ってきたのは優だった。
しかしいつもと違い元気が無い。
では落ち着いているのかといえばそうでもない。
その表情からは申し訳なさ、謝罪の念が感じられた。
優「涼権、ごめん。力になれなくて・・・」
それは俺の知っている彼女らしくなく、非常に沈んでいた。
正直、彼女は本当に優なのかとさえ感じてしまう。
優「あんな狂悪で恐ろしい笑いと雰囲気で拉致されるような言葉を
言われたら、逃げたくなるのも当然だよね」
優「私の人選ミスだね・・・・ごめんなさい」
思いもよらぬ言葉が優から発せられた。
ハッ・・・!いかん、一瞬呆然としてしまった。
このままでは不味い。
俺は脳細胞をフル稼働させ、必死に言葉を探した。
桑「い、いや、優も必死に考えてくれたくれたんだろ?」
桑「だったら俺は別に優を責めやしないさ」
優「・・・・ありがとう」
桑「・・・・・・・・・・・・・」
流れる沈黙・・・・。だが気まずいわけではない。
なぜならその時の俺たちはいつもとは違い、対等の立場だったのだから。
俺は久しぶりに優と久しぶりに心を通わせ合えたような気がする。
優「それじゃ、あの事はスッキリ忘れて、再度計画を練り直そっか!」
優「実は私、あの後考えていたんだけどさ・・・!」
突然、優のテンションが高くなり、同様せずにはいられなかった。
・・・・おいおいおい!なんだ、この浮き沈みの激しさは!
基本的には知的で落ち着いているが、俺の前では昔のような調子になるのは
わかっているがここまで一気に元に戻るものか!
・・・・女とは不可思議な存在だ・・・。
優「どうしたの?驚いて」
桑「いや、なんでもない」
俺は努めて冷静に振舞った。
優「まあいいけど」
優「それで次の適任者だけどね。倉成に決めたよ」
桑「え、武!」
優「そうだよ。倉成はバカだけどつぐみを助けるために自分の命を投げるほどの
男気をもった男だし、涼権も憧れていたでしょ」
優「それに今までの17年間ずっと武に近づくための訓練をしてきたんだから
最も近づける可能性を秘めている男らしい男だと思わない?」
桑「まあ、確かに・・・・・」
優「じゃあ、決定ね。明日、倉成家に向おう」
桑「おい、お前、倉成家がどこにあるか知っているのか?」
優「金欠の倉成一家に生活費と住むための家をあげたのは私よ」
優「知らないわけないじゃない」
優は大イバリに踏ん反り返っていた。
どうやら、もう完璧にいつものナチュラル・ハイ状態に戻ってしまったようだ。
桑「ああ、なるほどな」
桑「ハッ・・・!まさかお前、これを機に武を自分のものにしようとか思ってないだろうな!」
優「今回のメインは涼権だよ」
優「だからそんなことしないって」
優「ただし今回はね・・・・けど隙あらば・・・!」
ゾクッ・・・!
優の眼が怪しい妖光を放ったような気がしたが俺は見ないことにしておいた。
まあ、今回は大丈夫だろう・・・・今回は・・・。



翌日、俺たちは優の車により移動し倉成家の前へと着いた。
早速ドアをノックする。
つ「誰、こんな真っ昼間に・・・」
出てきたのはつぐみだった。
いかにも眠そうな顔をしており、今起きたばかりと言った感じだ。
寝癖までついており、さっきまで安息の睡眠に浸っていたのは容易に想像がつく。
優「久しぶり、つぐみ」
桑「よう、『不死の猛獣』つぐみ、昼間は安眠中か」
俺は不機嫌なつぐみに対して爽やかな笑みと共に軽やかに挨拶をしてやった。
ブゥワッチーンー!!
気が付いた時にはつぐみの強烈な平手打ちが俺の頬に炸裂していた。
つ「私は眠いの・・・・用件だけ伝えてさっさと帰ってくれる」
桑「あぅ〜、あぅあうあぅ・・・」
唸る俺を尻目に冷徹で冷ややかな口調でつぐみは答えた。
ぐああぁ・・・どうやら気分はメチャクチャ悪いみたいだ。
俺としたことが・・・・・。
優「ごめんね、つぐみ。この『バカ』が失礼なことをして」 
つ「ちゃんと『調教』しときなさい」
桑「おい!俺は優のペットかよ!」
つ「・・・・・」
つ「で、優、何のようなの?」
――――――!!
ピキィィイ・・・!
その時、俺の目の前は絶対零度の世界へと変わっていた。
・・・・・・・これはまさか・・・・・
流された・・・!?
くわぁー!全然変わってないじゃねーか!この『不死の猛獣』は! 
優「うん、実はね。倉成に用があるの。会わせてもらえないかな」
優はいつもの知的で落ち着いた態度と口調だ。
あの凶暴で言いたい放題言いまくる傲慢な態度はやはり俺だけなのかよ・・・・。
つ「断る」
つぐみは平仮名で僅か4文字の言葉で俺たちの頼みを蹴飛ばした。
桑「あのなぁ・・・・誰のおかげで武や子供たちと一緒にいられると思ってんだ!」
桑「この恩知らずが!お前にこそ『調教』が必要だ!」
つ「何もわかってないのね・・・」
つ「私はキュレイのせいで紫外線に弱いの」
つ「だからこんな紫外線が強い夏の昼間に活動するのは自殺行為のようなものなのよ」
つ「まあ、武やあなたたちはその特性があまり出てないみたいだけどね」
桑「俺たちもさすがに夏の紫外線は少しきついぞ」
つ「私はキュレイ種の中でもオリジナルであるため特別なの」
つ「あなたたちと一緒にしないでくれる」
こ〜い〜つ〜は〜。
掴みそうになったが優に抑えられてしまった。
優「私たちは倉成に話があるの」
優「つまり、つぐみには用はないの」
そのときの優の表情は・・・・憎らしい程ニッコリと笑っていた。
優「だから今、倉成に会わせてくれないかな」
つ「・・・・・」
背筋も凍るような殺意の篭った冷徹な睨みを向けるつぐみ。
それに対して悠然な態度で嫌らしく微小しながら憎らしい眼差しを向ける優。
見える・・・見える筈の無いものが何故か見える。
二人の眼と眼の中間点に弾ける様な火花が・・・・。
つ「いや」
今度は二文字で断ったか。
優「・・・・・・・・」
つ「・・・・・・・・」
さらに殺意と冷徹さ強めた睨みを向けるつぐみ。
さらに嫌らしい微笑と憎らしい眼差しを向ける優。
あぁぁ・・・目眩か。
火花がさらに激しくなり火鉢粉までもが見える・・・。
しかもバチバチいっているよ、バチバチと。
優「どうして?」
頭にはキているは言うまでも無いが優は冷静に問い返していた。
つ「私が見てない間に武に何するか知ったものじゃないからよ、優」
優「え、わ、私?」
無言で頷くつぐみ。
それとは対照的に優は本性である凶暴な一面を見せつつある。
優・・・・まさかお前は今までの憎らしく嫌らしいすぎる程の態度をとっておいて
つぐみがおまえの魂胆に気付いていないとでも思っていたのか・・・・。
優「どういうことよ!?」
つ「あなたが武に好意を抱いていることを私が知らないとでも思っているの」
優「ギ、ギクゥ・・・」
つ「図星ね。私の知らない間に、武を拉致されたりでもしたら堪らないから」
優「ギク、ギクゥ・・・!」
声に出てるぞ、優。
なるほど、こいつの『隙あらば』とはそういう意味だったのか。
さすがつぐみ、洞察力が鋭い。さすが優、洞察力が鈍い。
優「はぁ・・・。わかったよ。じゃあ夜に来れば問題ないよね♪」
つ「・・・・・・・」
つ「全く・・・・怪しい行為見せたら、ただじゃおかないわよ」
優「もちろん」
優「といっても目的は涼権だから、安心して」
つ「わかったわ、じゃあ6時ごろに来て」
桑「なあ、今、武たちはどうしているんだ?」
つ「寝ている」
つ「私の生活に合わせてもらっているの」
後は何も言わず、つぐみはドアを閉めた。


倉成家から400m程放れた自動販売機の近くの木陰。
俺たちはそこでジュースを飲んでいた。
桑「しかし、お前の目論見はアッサリ見抜かれたな」
優「うん、そうだね・・・」
桑「今回は少し無理そうだな」
優「うん、涼権のこともあるし、今回はやめとくよ」
優「けど次は協力しなさいよ!」
桑「へいへい」
どうやら今回はあきらめたようだ。今回は・・・・。


そして6時・・・・。
桑「おお〜い、倉成一家。寝ているかもしれないが、入るぞ」
優「つぐみ〜、嫌だろうけどお邪魔するね」
とデリカシーが微塵も感じられない言葉を発しながら、俺たちはノーロックで入った。
つ「あ、あなたたち、ノックぐらいしなさいよ!このうつけ者共!」
沙「あ、なっきゅ先輩の『おばさん』!」
武「よう、俺の力が必要らしいな。さあ、ターンと聞いてくれ!ターンとな!」
ホ「・・・・・・・・・どうせどうせ・・・・」
俺は予想はしていたものの、あまりに個性豊かな一同に思わず唖然としてしまった。
優「沙羅ちゃん、ちょっとこっちに来てくれないかな〜」
よく見ると優の顔からはほんの僅かながら憤怒と殺意の感情が読み取れた。
目も口も頬も笑い、非常に不気味・・・・いや爽やかだ。
一見完璧に見えるが後ろに回されている手が、手が微妙に震えている!
うげッ!こいつ、まさか!
沙「了解でござる。シュタタタタタ・・・・なんでござるか?」
沙「忍びの依頼なら最低でも3万円、科学忍法伝授ならまずこの契約書に血判を・・・」
沙「ついでに契約金は30万円。以後は月5万でござるよ、御老女」
優「じゃあ忍びの依頼をお願いできる?」
沙「ありがたき幸せ、ではまず依頼金を・・・」
優「ええ、あれ?お金がないわ」
優「仕方がないからその代償を払うわ」
沙「秘伝の手裏剣・風馬手裏剣、幻の忍刀・影縫い、それとも忍の巻物!」
沙羅は爛々と眼を輝かせながら迫っていた。
本気で期待しているのだろうか・・・・。
優は相変わらず爽やかな笑顔を浮かべているが、俺としては逆に不気味だというのは言うまでもない。
嫌な予感がする・・・・とてつもなく嫌な予感がするぞ。
優「ムフフッ・・・、それはね・・・・・・」
優「ムキィィィイイィ!!」
言うが早し・・・・優は奇声を発しながら沙羅に襲い掛かった。
沙「うきゃーーーー!!!キャー!」
優「誰がおばちゃんなの!誰が御老女なの!言ってみなさいよ!」
優「この生意気な小娘ちゃん!」
優「お姉さまでしょ!!」
ビシビシビシッ!
ああ〜、ついに奴が暴走してしまった。
『血に飢えた狂犬』、本領発揮だ。
血走った目で沙羅をとハリセンで叩いている。
というかどっから出した!まあこの際どうでもいいが・・・。
結局どんなに化けの皮を着ていても狂犬は狂犬というわけだ。
沙「アゥゥゥゥゥゥ・・・・お、お姉さま・・・」
優「うんうん♪ようやくわかったようね。オッ〜ホッホッホッホッホ!」
と、優は何故か気品溢れたお嬢様のような高笑いをする。
口調もまた然り。
武「賑やかなもんだな」
桑「全くだ」
つ「さすがね・・・・・がさつで品がなく凶暴で、ケバケバしくて醜い姿だわ」
ホ「どうせ、どうせ・・・・・・・・」
沙「だ、誰か、私の心配して・・・・・」
そういえば俺の反応、武に似てないだろうか?
さすが優の調教を受けただけはあるな。・・・・けどモテない。
土壇場の根性・行動力・勇猛さ・男気の差か・・・・・。
だが俺はそれを養うためにここに来たんだ。
武「それで桑古木。相談ってなんなんだ?」
桑「ああ、そのことだが・・・・」
ホ「どうせ、どうせ・・・・」
武「なんなりターンと言ってくれ。俺が『ズパッ!』と解決してやる」
桑「頼もしいよ、武」
ホ「どうせ、どうせ・・・・」
武「ああ、まかせろ」
ホ「どうせ、どうせ・・・・・」
俺は乗り気だった・・・・・が、
さっきから、部屋の端で暗〜く、陰鬱に呟くホクトの声が気になってしょうがなかった。
桑「それより武、ホクトはいったいどうしてしまったんだ?」
武「ああ、実はあいつはな・・・・・」
武「2週間前に小なっきゅ(優秋)に告白したが、華々しくフラれてしまったらしい」
桑「え!そうなのか!結構いい感じに見えたんだけどな」
つ「『男らしくない』からだって・・・我が子ながら情けないわ。腰抜けね」
武「事情はどうあれ、16歳でファザコン、マザコンじゃ当然だろうがな」
つ「全く、育ての親の顔が見てみたいわ」
桑「いや、育ての親は関係ないような・・・・」
ホ「うわ〜ん、ひどいよ〜、お父さん〜!お母さん〜!」
突如、ホクトが武とつぐみに飛び掛る・・・・ではなく抱きつきにかかる。
ガスッ、ガスガスガスッ!
ホ「うきゅぅ〜・・・・」
だが武とつぐみにより袋叩きにされ、呆気なく撃沈した。
一応、二枚目な顔がボコボコにされ、台無しだ。
しかし武たちの理由ももっともだ。
確かにホクトと沙羅は武に会ったことがなく、
つぐみとも一緒に過ごした時間は記憶にも薄く、かつ微弱なもの。
甘えたい気持ちがあるのはわかる。
しかしだ!世間はそんなこと知る由もない。
よく考えてみたまへ、諸君!
16歳の男が『お父さ〜ん♪、お母さ〜ん♪』と駄々を捏ねて抱きついて来るんだぞ!
ハタから見たらそれは病気といってもいいのではないだろうか?
幼児退行あるいは未知の精神病に罹っているとさえ見てとれる。
しかも武は外見20歳、つぐみは外見17歳!
ハタから見れば親には当然見えん・・・。
そしてこれから10年経ったりしてこんな行為してみろ。
外見20歳(武)の男に26歳の男(ホクト)が『お父さ〜ん♪』と叫びながら飛びつく。
ウゲェ・・・気持ち悪ぅ〜・・・・・・。
事情はどあれ、ホモなんてレベルじゃないぞ、これは・・・。
まあそれは置いておくとして・・・。
さて本題・・・・優の娘はホクトが親の愛に飢えていることはわかっている。
しかし!こんな重度の甘えん坊男に女の子は魅力を感じるだろうか?
いや、感じない!感じるわけがない!
感じたらこの世の摂理が間違っていると言ってもいいだろう!
母性本能をくすぐるという奴がいたら本当の子供でも相手にしておけ、と言いたくなる。
優の娘はかなり大雑把な性格だがそれは無理だ。不可能だ!
いやあってはならん!あったら俺もそうするぞ!
よってこれはごく自然な結果なのだ。
ホ「うう〜、酷いよ。お父さ〜ん、お母さ〜ん・・・」
つ「そんなのだから優の娘にフラれるのよ」
武「そうだ、お前はそんなのだから小なっきゅにフラれるんだ」
武「だいたいお前は男の魅力と男気が欠けすぎている!」
武「そう、特に魂的に!」
ホ「じゃあ、その魅力と男気を身につけるにはどうすればいいの?」
武「ノンノンノン・・・それを自分で考えるのが、『男』ってものだ」
ホ「えー!!」
武「甘ったれるな、俺はお前をそんな風に育てた覚えはなーい!」
つ「そりゃあ、武と会って、まだ三ヶ月程度だしね・・・・」
武「・・・・・・・・」
武「仕方がない!敢えて教えてやろう!強いて言うなら・・・・・」
武「ム、ムムムムムゥゥ・・・・・・」
武「でえぇぇぇい、そんな方法知ら―ん!」
ホ「え、えええええぇぇー!!」
武「まあ容姿は俺の遺伝を次いでいるだけあって、超絶美男子といっていいだろう」
武「しかし性格はどうだ!」
武「事情はどうあれ、重度のファザコン・マザコンだぞ!」
武「そして何の前触れもなく、すぐ俺かつぐみに抱きつくため飛びかかる!」
武「苛められた幼稚園児じゃないんだぞ!」
武「お前は特に日本人の悪い特性である依存症が酷過ぎる!」
武「少しは自分の力でどうにかできるようにしろ!」
つ「そうよ、このままじゃホクト、あなたは『永久追放』よ」
ごもっともな意見だが・・・・ホクトも災難だな・・・。
特に最後のつぐみの言葉・・・・それはあまりに酷じゃないか・・・。
ホ「え、永久追放!?そんなー!」
武「ならお前も『男』になれるよう精進しろ!」
武は男の眼差しで熱くホクトに指をさした。
ホ「うぅぅぅぅ・・・・」
優「ムッフフ〜、ムッフフ〜、ムッフフのフ〜♪」
優「倉成、いい事を思い付いたわ」
どこからともなく怪しげな笑いと異質な雰囲気を漂わせながら
スキップをしてくる実質34歳の熟女・・・・いや、うら若き女性。
武「ん、なんだ、優」
武「確か、以前もそんな奇怪な行動をしたことがあったよな」
優「まあね〜」
優「それより、ホクトも涼権と一緒に改造計画に参加させたらどう?」
優「『男』になれるかもよ」
つ「・・・意外といい手かもね」
優「ああ、意外といい手かもしれないな」
優「よし、じゃあ決定〜!」
という経緯でホクトも改造計画に参加することになってしまった。
桑「ホクト・・・いいのか?」
俺はふと先が不安なホクトに意思を確認してみたが・・・・・。
ホ「うん、大丈夫だよ!」
ホ「僕もお父さんのように『男』になれるようにがんばるよ!」
ホクトは燃えていた。
そこからは今まで感じられなかった熱き情熱というものが感じられた。
どうやら、やる気十分のようだ・・・・・。
要らぬ世話だった。
武「それでこそ、我が息子だ、ホクト!」


それから優が俺についての事情を一部始終詳しく武とつぐみに話した。
武「なるほどな、桑古木はお子様ココを振り向かせたい」
武「ホクトは小なっきゅを振り向かせるため、『男』になりたい」
ふと武が神妙な顔をして考え込む。
武「桑古木は方針が難しいな・・・・」
つ「でもホクトなら私にいい考えがあるわ」
つぐみが思いがけない発言をした。
あの重度の依存症を治せるというのか!
武「そうなのか?つぐみ」
つ「ええ」
つ「闇の世界で知り合った人がいるんだけど、その人なら人格改造に適任だと思う」
武「なるほど、よし!じゃあホクトはつぐみとそいつに任したぞ!」
つ「任せといて」
つ「というわけで優、車を貸してね」
つ「あと優、私の居ないうちに武に何かしたら・・・・・」
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・!!
ギラリ・・・・・・!!
まるでこちらにこのような効果音が伝わって来んばかりの鬼気迫る表情だ。
優「さっき今回は何もしないって言ったでしょ」
優「けど次は・・・・・つぐみ、泣いているかもね」
武「?」
優はつぐみに対して挑戦的で憎らしい態度で応戦していた。
まるで挑発しているかのようだ。
つ「ふん・・・」
つ「で車の方は?」
優「いいけど、車で行けるの」
つ「まあね」
どうやら二人の戦いは次へ持ち越されそうだ。
そしてその時、俺は優に加担するよう脅迫されるのだろう。
しかし闇の世界か・・・・つぐみらしい方向というかなんというか・・・・。
いや、言ったら殺される・・・・間違いなく・・・。
武「そういや沙羅はどうすんだ?」
つ「私が連れて行くわ」
つ「期限は三ヶ月間よ。それまでにお互い二人を改善すること。いいわね、武」
武「ああ、了解だ」
それからつぐみはしばらく武と話し合い、ホクトと沙羅と共に出かけてしまった。


そして武と優と俺だけが残った。
武「よ〜し、じゃあ改造計画始動だ!」
武「三ヶ月がタイムリミットだから気合入れろよ!」
武「ところでなんで三ヶ月なんだ?」
武「これはつぐみとの勝負でもあるんだ」
武「自分の生徒を彼女に振り向かせた方が勝ちという勝負だ」
武「そして負けた方は一つだけ相手の言うことに
従わなければならない、というリスクがある」
武「これは負けられん・・・・!」
武は燃えていた。果たしてつぐみは武に何をさせるつもりなのだろうか?
そして武はつぐみに何をさせたいのだろうか?
桑「で勝ったら、つぐみに何させたいんだ?」
武「フッ・・・プライバシーの侵害だぞ、桑古木」
武「そういうものは聞くもんじゃない」
桑「あ、ああ・・・わかった」
優「疾しいこと考えてたんじゃないの〜?」
武「俺はそんなちっぽけな男じゃないぞ」
武「まあ、俺が勝てば、いずれわかるだろう」
武は俺たちから斜め53度の角度に立ち、『ファサ・・・』と髪を掻き揚げ、
爽やかな清々しい笑顔を向けた。
しかも風により髪は程よく揺れ動き、爽やかな笑みにより微妙に見えた歯は陽光に照らされ、
さながら一流芸能人のように『キラリッ』と神々しく光り輝いた。
俺は武のその仕草に感激すると同時に込み上げる恐怖も感じた。
人間業か・・・・これは・・・・。
武「う〜む、しかし・・・・・ココだもんな〜・・・」
優「・・・・ロリキャラなんて粋じゃないもんね」
なんかムカついたが、俺は怒りを堪えながら二人に尋ねた。
桑「何かいい手はないか・・・・」
武「う〜む・・・・・・」
20分後・・・・・。
武「むむむ・・・・、閃いた!閃いたぞ!」
武は堰を切ったかのように叫び出していた。
武「ココはお子様だ、だから桑古木の精神レベルをココと同等にしたらいいんだ!」
優「倉成。それはつまり涼権を精神年齢5歳、趣味はヒヨコごっこ・イモムー・ぷっぷくぷぅ〜の超お子様」
優「かつ強烈な毒電波を放つ地球外生命体と名高いココのような超お子様的思考に改造しようっていうわけ?」
武「ああ、あとは虚言癖とお寒いコメッチョ、お子様的口調、お子様的立ち振る舞い、
変な効果音などを加えればココと同等の考え方になれるだろう」
武「つまりいきなり恋人になろうという訳ではなく、
まずは思考レベルを合わせ、親近感を醸し出すことにより友達になることから始めるんだ」
武「それから親しくなっていき、あと少しずつ愛を深めていけばよかろうて」
武は一人、ウムウムと納得したように頷いている。
恐らく『こんな無理難題にナイスアイデァだ。すごいぞ、俺』とでも思っているのだろう。
しかしやば過ぎるぞ、この計画は!脱線しすぎじゃないか!
優「けど倉成、・・・・・これはハタから見たら幼児退行した異常精神の変態にしか見えないよ」
幼児退行!異常精神!・・・・い、嫌だ。
頼む、優!断ってくれ〜!
俺は心の底から望むべく答えを望んだ。
武「仕方がないんだ、ココを振り向かせるにはこれしかない」
武「それにこれはあいつが望んだことなんだ!」
武・・・愚問だ。
俺はココを振り向かせたいがそんなことはしたくない・・・。
武「なら俺たちは全力であいつをサポートしてやろうじゃないか!」
優「・・・なんか脱線しているような気がするけど、そうだね・・・」
優「涼権が望むんならやるしかないよね」
・・・・無理だった・・・武の話術は実に巧妙だ。だいたい俺、望んでないし!
なにやらとんでもない方向に向かっているぞ、これは・・・・。
俺の望んでいる方向とは全く別方向というか、逆方向のような気がする・・・・。
桑「ちょっと待てくれ!俺は武のようになりたいんだが」
武「俺のようになろうと17年間努力したが、ココには振り向いてもらえなかったんだろ!」
武「これは方向が間違っている証拠だ!」
武「どんなに俺がモテる男でもココのようなお子様は無理なんだ!」
武「年齢対象外だ!」
武「なら、思い切って逆の方向に賭けてみるしかないだろうが!」
グサッ・・・!!
痛いとこ突かれた・・・。しかも事実なだけに反論できない。
けどあきらめるわけにはいかない。精神年齢5歳になるなんて絶対嫌だ!
桑「いや、他にも方法があるはずだろう!」
武「俺にはこれ以外思いつかん」
武「それ以外なら協力は不可能だ!」
桑「うぐぅ・・・・」
優「涼権、今回も逃げたらあなたは同じ過ちを二度繰り返すことになる」
優「だから騙されたと思ってこの方向に賭けてみたら?」
桑「わ、わかったよ・・・・頼む・・・」
本当に騙されているような気がするけど仕方が無い、他に案はないのだから・・・・。
こうして俺の改造計画は始動した。


3時間後・・・・・。
武「ちがーーう!」
武の罵声が俺の脳内へと痛々しく響き渡る。
桑「俺には無理だ、武・・・・」
優「じゃあ何、あきらめるの?涼権のココへの気持ちってそんなモノだったんだ?」
優「やりもせずにあきらめるなんて・・・・とんだ『負け犬』だね」
桑「・・・・・『血に飢えた狂犬』に犬扱いされる筋合いは無い」 
ブチィッ!
何かが切れる音がした。だがこんなものは予想範囲内だ。
目の前には案の定、目を血走らせ荒い呼吸をしている『血に飢えた狂犬』がいた。
化けの皮を剥いだ優は些か血を求め獲物を狙う狂人狼(狂った人の姿をした狼)といったところか。
普段とのギャップは計り知れないものがあるが、俺にとっては見慣れたものだ。
優「ムキィィイイィ!この知的な落ち着いた雰囲気を漂わす大人なレディに何よ!その言葉は!?」
桑「なにが知的な雰囲気を漂わす大人なレディだ!」
桑「そういう方は奇声をあげたり、目を血走らせたり、キレたり、暴力を振るったりせんわ!」
優「うるさーい!『負け犬』の分際でー!!」
桑「だまれ!『人外』の分際で!!」
優「ムキャアァァァアア!!レディに対してなによ、それはー!!」
桑「目を血走らせた『血に飢えた狂犬』をレディとみなしては一般のレディの方に失礼だろうが!」
桑「俺は事実を言っているまでだ!」
優「ムキャキャアアァァァァアアァア!!!あんばぶわぁー(あんたはー)!」
武「いい加減にしろ!!」
その言葉に辺りは今までの様子が嘘のように静まり返った。
俺も優もその言葉を前にただ呆然と立ち尽くしていた。
武「全く喧嘩する程仲がいい、というが・・・・・」
武「仲がいいのは結構だが不毛な争いをするなよ、時間の無駄だ」
桑「な、俺はこいつなんか全然!」
優「だ、誰がこんな失礼な男と・・・・!」
武「どぅわまれぇいー(黙れー)!!」
俺たちは武の得体の知れない脅迫的雰囲気に押されて黙りこくってしまった。
武「全く本編主人公のこの俺を置いといて、よくそんな痴話喧嘩が出来るもんだ」
桑「武・・・SSの中で主人公とかそういう事は言うもんじゃないぞ」
武「うるさい!これこそ『最強・最高の主人公である俺にのみに許された特権』だ!!」
武「他が認めなくとも、俺ならば許されるのだー!」
優「く、倉成・・・・・・」
桑「・・・・・・・・・・」
無茶苦茶だ・・・・武。そんなの最強・最高の主人公という評判を使った暴挙じゃないか。
武「だいたいそんな暇があったら少しでもココと同レベルになれるようにがんばれ!」
ぐふっ!・・・・また痛いとこ突かれた・・・。
桑「・・・・り、理由はどうあれすまなかった、武・・・そして優もごめん」
優「ううん、私もごめん。桑古木を挑発してやる気を出させようとしたつもりだったんだけど・・・・」
優「迷惑だったね」
桑「いや、元はといえば俺もあんな失礼な事をいったからだ。本当にごめん」
武「さて、仲睦まじい二人の和解も済んだことだし改造計画再開といくか」
武「というか仲いいよな、お前ら。計画以前にお前らがくっついらいいんじゃないのか?」
武「どうだ、『倉成先生の恋愛講座』を二人で受けてみないか?」
武「そしたら精神年齢を下げる理由も無くなるぞ、桑古木」
優「な、なに言ってんのよ、倉成!」
桑「いや・・・・確かに優はいいパートナーだが・・・・・・」
確かに優とはよく喧嘩をするけど実際、良いパートナーだと思っている。
今、ココや武がいてくれるのもBW召喚計画を呼びかけてくれた優がいるからこそだ。
俺はその片腕として言われた通りに動いていたに過ぎない。
そして今、生を実感できているのも優のおかげだろう。
ふと思う・・・もし優がBW召喚計画に声をかけてくれなかったら俺はあの後、
この忌まわしい体と共に何をしようとしていたのだろうかと・・・・・。
理性を失い、単身でライプリヒに復讐に向かっていたのではないだろうか?
もちろんそんな事をしていたら容易に捕まえられ、キュレイのキャリアという
稀少価値の高いモルモットとして、今も囚人のような扱いを受けていたに違いない。
そう、今の俺があるのも間違いなく優のおかげだ。
そういう意味で本当に優には感謝していた。
だけど俺にとって優は・・・・。
桑「俺にとって優は・・・・戦友みたいなものなんだ。だからそういう対象じゃなくて・・・・」
優「涼権・・・・」
武「そうか・・・」
全てを理解してくれたような微笑。
その微笑に俺の心は救われた。
武「じゃあ、気を取り直して再開だな」
武「ヒヨコごっこの続きだ!」
桑「お、おう!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
そして時間はいつものように刻々と刻まれていった。


後編へ







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