真・女神転生SEVENTEEN
                              作 大根メロン


第二話 ―デーモンゲート―




「昔、ライプリヒ製薬が悪魔を暗殺者や生体兵器として研究していた事があるのよ。私の追っ手としても遣われていたわ」
武は、今日の出来事――悪魔との戦闘やケルベロスの召喚について、つぐみ、ホクト、沙羅に話して聞かせた。
まず間違いなく皆信じないと思っていたのだが、つぐみの反応は武の予想を遥かに超越していた。
「お、おい… 今、何て言った?」
「だから、私はライプリヒが追っ手として放った悪魔と闘った事があるの」
「…勝ったのか?」
「当たり前じゃない。敗けてたら私はここに居ないわ」
「…ちなみに、どんな悪魔だ?」
「たしか… 魔王『ロキ』。北欧の火を司る悪神だったかしら?」

――神殺し!!?

武、ホクト、沙羅が心の中で叫ぶ。口には出せないが。
それに魔王と言うくらいだから、凄まじい能力を持った悪魔に違いない。
(つ、つぐみって一体!?)
(お、お母さんって一体!?)
(マ、ママって一体!?)
驚愕する3人。つぐみの戦闘能力に疑問を感じたのは初めてではないが、今回はレヴェルが違った。
「それで武、これからどうするの?」
「…へ? どうするって何が?」
「すぐ次の刺客が送られてくるはずよ。あなたを殺すためにね」
「………!」
「このまま、ぼけっとしてる訳にもいかないでしょう?」
「…そうだな。でも、具体的にはどうするんだ? こんな話、警察に言っても信じちゃもらえないだろ」
「そうね…」
つぐみは少し考えてから言った。
「…やっぱり、優の所に行くしかないわね」
「優? そ、そうか! あいつは悪魔みたいな奴だから…」
「本人に伝えましょうか?」
「…他言無用でお願いします」
つぐみが力の抜けたような表情を浮かべる。
「…命を狙われてるのに、随分と余裕ね……」
「ママ、いつもの事でござるよ」
「そうそう、だってお父さんなんだし…」
「そうね。武だものね…」
3人は深く溜息をついた。
「…遠回しにバカと言っているのか?」
「武の判断に任せるわ」
「…まぁいいや。それで、どうして優の所なんだ?」
「さっきも言ったけど、ライプリヒは悪魔の研究を行っていた。だったら、ライプリヒの研究機関だった田中研究所に行けば何か解かるかも知れないでしょう?」
「な、なるほど…」
武はウンウンと頷く。
つぐみはそれを見ながら、小さな声で呟いた。
「いざとなったら、優を盾に出来るしね…」



「簡単に言えば、そのプログラムは悪魔を召喚出来るプログラムなのよ」
「いや、それは解かってる」
田中研究所の応接室で、倉成一家と優春がテーブルを挟み向かい合っていた。
「本来、悪魔を召喚するためには何時間もかけて儀式を行わなきゃいけないの。だけど、悪魔召喚プログラムを使えばその儀式をコンピューターで正確に、なおかつ早く行えるってわけ」
「…最先端技術って凄いんだな……」
「最先端技術じゃないのよ。このプログラムは20世紀末期から存在してたみたい」
優春がコーヒーを口に運んだ。
「悪魔召喚プログラムせいかどうかは知らないけど、その頃から悪魔に関する事件が急増してるわ。大きな戦いも何回か起こってる」
「田中先生、その悪魔召喚プログラムを開発した人って解かってるんですか?」
沙羅が優春に訊いた。天才ハッカーとしてはやはり気になるようだ。
「いくつか説はあるけど、はっきりとした事は解かってないわ。プログラムの送り主であるSTEVENが開発者だという話もあるし、どこかの天才高校生が開発した、という話もあるの」
「こ、高校生!?」
ホクトが叫んだ。
「せ、拙者もまだまだ修行がたりぬでござるな…」
上には上がいる。沙羅はそれを実感した。
「ま、これで倉成もサマナーの仲間入りね」
「サマナー?」
武はあの少女の言葉を思い出した。『…サマナーですか。それにしては手際が悪いですね』。
「『デヴィルサマナー(悪魔召喚師)』。悪魔召喚プログラムを使い、悪魔を使役する人間をそう呼ぶの」
「ほほう」
『SUMMON(召喚する)』に『ER(〜する人)』で『SUMMONER』なのだろう。
「さてと、じゃあ次は『マグネタイト』について説明しないとね」
「マグネタイト?」
「四三酸化鉄。悪魔がこの世界に実体化するために必要な物質よ。動物も生体マグネタイトって形で微量に持ってるんだけど…」
「鳩が地球の磁気を感じるために持っているあれね?」
「さすがつぐみ。その通りよ」
「という事は…」
武はPDAを取り出した。
「悪魔を召喚し、実体化させるにはそのマグネタイトとやらが必要な訳だ」
「そういう事。悪魔召喚プログラムを使えばマグネタイトを電子化させてCOMP(悪魔召喚用のコンピューター。武の場合はPDA)に保存する事も出来るわ」
「どうやって手に入れるんだ?」
「買う事も出来るけど、一番簡単なのは悪魔を斃してその身体を構成するマグネタイトを奪う方法ね」
「…少しも簡単じゃなさそうだが」
「そのうち慣れるわ」
ははは、と優春は笑う。武はもの凄く気に入らなかった。
「そうそう、『仲魔』の話をしなきゃね」
「仲魔?」
「契約を結び、仲間になった悪魔を仲魔と呼ぶの。あなたのケルベロスがそうね」
「俺はケルベロスと契約した覚えはないぞ?」
「あれは特別なの。普通は悪魔と交渉し、取引して、ようやく契約出来るのよ。もっとも、人間に敵対心を持つ悪魔はどうやっても契約してくれないけどね」
優春は椅子から立ち上がり、棚で何かを捜しだした。
「ところで倉成、あなた確か剣術が使えたわね?」
「ん? ああ、クソ親父に仕込まれた事があるが…」
「ええ! パパ、剣術なんか使えたの!?」
「人って見かけによらないんだね…」
沙羅とホクトが眼を丸くする。
「……まぁ、あの人なら剣術くらい教えそうね」
だがつぐみは、そう驚いたようすを見せなかった。
優春が武を見る。
「真剣を振った事は?」
「ある」
「そう。じゃあいい物をプレゼント」
棚から布に包まれた細長い物を取り出し、テーブルの上に置いた。
「何だこりゃ?」
「話の展開から推測出来るでしょう?」
「まあな」
包みを取る。中身はやはり日本刀だった。
だが、ただの日本刀ではない。一目でかなりの業物だと解かった。
「これは…?」
「『将門之刀(まさかどのかたな)』。その名の通り、かの新皇が使っていた神器よ」
「…こんな物をどこで手に入れたんだ?」
「秘密♪」
「…………」
間違いなく、非合法ルートだろう。
武はそう結論付けた。
「さらに、ガルヴォルン合金繊維を編み込む事により超防御能力を持たせたこのチョッキもプレゼント。並の攻撃じゃびくともしないわよ」
「…なぁ、優。お前さ……」
「ん、何?」
武、つぐみ、ホクト、沙羅が優春を鋭い視線で見た。
「俺に何かやらせようとしてるだろ? じゃなきゃ、こんなにサービスしてくれる筈がないからな」
『ギクッ!!』。そんな効果音が似合うリアクションを見せる。
あきらかに不自然な調子で、優春は弁解を始めた。
「や、やあねぇ、私はただ倉成の安全を考えて…」
「優… 大人しく喋った方が身のためよ?」
つぐみがコキコキと拳を鳴らす。その音が妙によく響いた。
「わ、解かったわよ… 実はね、倉成にはこの星丘市の守護を調べてほしいの」
「守護?」
「『鬼門』って知ってる?」
「いくらなんでも、そこまでバカじゃないぞ… あれだろ、鬼や災いが出入りするとされる不吉な方角。北東の方角だよな?」
「そう。艮(うしとら)とも言うけどね」
「で、それが何だっていうんだ?」
優春は窓の外を眺める。それは、ちょうど北東の方角だった。
武達も、同じように外を眺めた。
「この星丘市の北東には何がある?」
「『霧隠れ山』がある。一年中霧がかかっていて、ほとんど誰も近づかない山だな」
「あの山にある『泰山府君(タイザンフクン)』の祠が鬼門を封じ、星丘市を守護しているのよ」
「泰山府君?」
「中国の泰山に住む人の生死を司る神。陰陽道の主神でもあるわ」
「つまり…」
つぐみが優春に視線を向け、言った。
「悪魔達がその祠を壊し、鬼門の封印を解く可能性がある。そう言いたいの?」
「正確には、裏で糸を引いてる何者かがだけどね。倉成を襲った悪魔は十数体で部隊を組んでいた。普通はそんな事はしないわ。絶対誰かの指示よ」
「…なるほどね。優、その鬼門の封印が解けるとどうなるの?」
「さらに高位の悪魔が出現するようになると思うわ。一般の人々にも少なからず被害がでるでしょうね」
場を重苦しい空気が包む。一般の人々への被害。出来れば避けたい事だった。
「…ねぇ、どうして武がやらなきゃいけないの?」
つぐみの当然の疑問。
優春は一瞬言いよどんだが、すぐ口を開いた。
「…うち、人員不足なのよ」
「…………」
随分現実的な理由だった。
「…解かったよ。とりあえず、その祠を調べればいいんだろ?」
突然の武の言葉。
その場にいる全員が、眼を丸くした。
「た、武!?」
「お、お父さん!?」
「パ、パパ!?」
「知ってて何もしない、てのは俺の性に合わないしな」
そう言って、武は不敵な笑みを浮かべた。
「やらせてもらうよ。うまく出来るかどうかは解かんないけどな」
「倉成…。ホント、ごめんね」
「いいっていいって。お前達が悪魔に襲われたら俺だって困るからな」
武は将門之刀とチョッキを手に取る。
「武…」
「お父さん…」
「パパ…」
3人は不安そうな表情を武に向けた。だが、武はそれを笑顔で返す。
「大丈夫だ。俺は、死なない」
だがその時。
優春が、この感動的な雰囲気を粉々に粉砕する言葉を放った。
「…まあ、そんなに深く考えなくてもいいわ。あの祠に張られている結界は完璧だから下級悪魔は近づく事さえ出来ないし、同行者もつけるから」
「それを早く言いなさい」
つぐみの音速ボディブローが、優春の身体に突き刺さった。



数分後。
倉成一家が去った応接室で、優春は冷めたコーヒーを飲んでいた。
「…サマナー、か」
かつてライプリヒ製薬に所属していたサマナーの事を思い出す。
そのサマナーも他のライプリヒ製薬重犯罪者達と同じく国際手配されているが、捕まったという話は聞かない。
もっとも、強力な悪魔を使役するサマナーをそう簡単に捕まえられるはずがないが。
「この事件、まさかあいつが…? いや、さすがにそれはないわよね」



翌日。
武は霧隠れ山のふもとで、上を眺めていた。
とは言っても、中腹あたりから上は完全に霧に包まれていて見る事は出来ない。
「秘境って感じだよな…」
市内に秘境が存在するのもどうかと武は思ったが、しかしたしかにこの山は神聖で人の侵入を拒む秘境めいた雰囲気を放っていた。
そうやってぼけっと山を眺めていると、突然後ろから声をかけられた。
「あれ? 倉成、もう着てたの?」
約束の時間から34分後、やっと優春が到着したようだ。
「…本気で言ってるのか?」
「あはは、ごめんごめん。冗談よ、ジョーダン」
どうやら反省する気はないらしい。
「まぁ許して。ちゃんとあなたの同行者は連れてきたから」
音も気配もなく、1人の少女が優春の隣に立った。
年齢は17,18くらいだろう。だが外見と年齢が一致するとは限らない。武の周りの人間は特に。
「彼女は『天峰咲夜(あまみねさくや)』。田中研究所退魔チームのリーダーを務める、優秀な『デヴィルバスター(悪魔退治屋)』よ」
武とその少女――咲夜の眼が合う。
間違いなく、清姫を斃したあの少女だった。
2人は、同時に口を開いた。
「あんたはあの時の…」「あなたはあの時の…」




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あとがきと呼ばれるもの・02
なんか専門用語解説ばっかりの話でしたね。しかも解かり難いかも。
ちなみに、つぐみんがマグネタイトについて、
『鳩が地球の磁気を感じるために持っているあれね?』
と言っていますが、別に鳩だけがマグネタイトを持っている訳ではありません。
ですがあえて鳩を強調してみました。解かる人には解かります。
次回あたりからたけぴょんは様々な悪魔達と闘ってゆく事になるのですが、あまり弱すぎるとさすがに話にならないので剣術の使い手にしてみました。御都合主義万歳!
そんなわけで、次はようやくたけぴょんが活躍する予定です。
ではまた。


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