真・女神転生SEVENTEEN 作 大根メロン |
「まったく、どうしてあたしが新米サマナーの面倒を見なきゃいけないんですか」 武、咲夜、ケルベロスの登山開始から数十分。 咲夜は休む事なく、今の状況に対する文句を言い続けている。 「大体、春香菜は勝手すぎます。人の都合も考えずにいきなり『霧隠れ山に行ってきてね♪』なんて…」 拳を握り締め、額に青筋を浮かべながら咲夜は叫んだ。 「春香菜の横暴! 狂犬!! 35歳独身!!!」 勇気を出そう、と武は思った。 そして、この演説が始まった当初から考えていた事を咲夜に告げた。 「なぁ、本人の前で言えばいいんじゃないか?」 瞬間的に、武はこの一言が失言だったと悟った。 咲夜から凄まじいプレッシャーが放たれる。 「…武さん? あなたはあたしに『死ね』と言ってるんですか?」 「いや、別に言ってないぞ」 「同じ事です。春香菜に逆らう事は死を意味します」 独裁者。そんな言葉が武の頭に浮かぶ。あまりにも優春に似合いすぎる言葉だった。 「そもそも…」 咲夜が武を睨む。殺意すら感じる視線だった。 「あたしが休日返上で山登りをしなきゃならなくなったのは、あなたのせいじゃないですか!」 まずい。矛先が向いた。 武はケルベロスに助力を求めたが無視された。人間同士の争いに首を突っ込むほどヒマではないのだろう。 「安月給でこき使われてるあたしがやっと手に入れた有給休暇! それを、それを!!」 「…すまん。もう本当に謝る事しか出来ない」 「謝って済むならポリ公はいらないんです!」 咲夜はどんどんヒートアップしてゆく。 「まったく、何で祠の調査にあたしが同行しなきゃいけないんですか! 春香菜はどうしてこんな無意味な事を…」 その言葉に対し、武は呟いた。 「…それはどうだろうな」 咲夜とケルベロスが注目する。 「…どういう意味です?」 「あんたは自分の同行を無意味な事だと言った。だがな、あの知略と悪巧みに長けた優が無意味な事なんてする訳ないだろ」 「………!」 「優はバスターであるあんたを俺に同行させた。つまりあいつはこの山での悪魔の襲撃を警戒してる、て事じゃないのか?」 「…でもこの山には下級悪魔は近付けないんですよ?」 「下級じゃなかったらどうだ? 現にケルベロスは平気な顔して歩いてる」 「星丘市は鬼門が封じられてるんです。ケルベロスさんと同等の力を持つ悪魔が、自然に現れるなんて事は有り得ません」 「自然に現れる事はなくても、召喚は出来るだろ」 「…誰が召喚を?」 「優は何者かが裏で糸を引いてるって言ってた。そいつがサマナーである可能性は低くないと思うぞ?」 咲夜の顔付きが変わった。 「…そうかも知れませんね」 難しい顔で、何かを思案している。 「油断しない方がいいだろうな…」 ケルベロスが言った。 「…そうですね。あたし達の動きはおそらく読まれているでしょう。待ち伏せされている可能性も――」 その時。 「エサが罠にかかったわね…」 上方から、無数の白い糸が降り注ぐ。 咲夜とケルベロスはとっさにそれを回避したが、武の反応は一瞬遅かった。 糸が武を捕らえる。 「うぉお!?」 もがけばもがくほど、その糸は絡み付き、身体の自由を奪っていく。 「な、何だよこれ!?」 「蜘蛛糸…! 敵襲ですよ!!」 咲夜は大口径拳銃『ドラグーン』を上方に向ける。 そしてそこには、蜘蛛のような姿をした女の悪魔がいた。 ドオォ…ン!! ドオォ…ン!! 銃弾が放たれる。 だがその銃弾は、木々の間に張られた蜘蛛糸によって弾き飛ばされた。 「くっ…!」 「無駄よ。あなた達は蜘蛛の巣に捕われた哀れな虫と同じ…」 再び蜘蛛糸が襲う。 「フン…」 ケルベロスは蜘蛛糸を躱しながら、その悪魔に言った。 「鬼女『アルケニー』。女神『パラスアテナ』の逆鱗に触れ、蜘蛛の姿に変えられた愚かな織物の名手か」 「何ですって…!?」 アルケニーは怒りをあらわにし、ケルベロスを睨みつける。 「犬ごときに、そこまで言われる筋合いはないわよ!! <ザンマ>!!」 ドォオンッ!! 魔力の衝撃波がケルベロスの身体を吹き飛ばす。 「グゥッ…!」 そして今度は、太い蜘蛛糸が空気を裂き、鞭のように襲いかかった。 「私を侮辱した罪、その命で償いなさい!」 その鞭をケルベロスは紙一重で回避する。だが、飛来した鞭は1本ではなかった。 「チィッ…!?」 背後からの鞭撃。躱すのは不可能だった。 「あははは! これで終わりね!!」 「終わらせませんよ!」 「――!?」 2発の銃撃が、蜘蛛糸の鞭を弾き飛ばした。 「まったく…!」 怒り顔の咲夜が叫ぶ。 「ケルベロスさん! 相手を怒らせてどうするんですか!!」 「本当の事を言っただけだ」 「時と場合を考えてください! それと、あたしへのお礼の言葉はないんですか!?」 「助けを求めた覚えはないが?」 「ああ、もう! これだから悪魔は…!!」 咲夜は怒りの矛先をケルベロスからアルケニーに変更し、銃撃を放った。 だがアルケニーは張り巡らされた蜘蛛糸の上を跳び回り、銃撃を全て躱す。 「くうっ…!」 「無駄だってさっき言ったでしょう!? <マハザン>!!」 ドドドドドド!! 咲夜とケルベロスに、散開した衝撃波が降り注ぐ。 「くっ…! ケルベロスさん、あの蜘蛛糸を焼き払う事は出来ないんですか!?」 「やってもいいが、間違いなく山火事になるぞ。そうなれば祠も無事では済まない」 「じゃあどうすれば…!?」 「何をゴチャゴチャ言ってるのよ! <マハザンマ>!!!」 ドドドドドォッ!!! さらに強力な衝撃系魔法が放たれる。地面が抉れ、木が吹き飛んだ。 「これくらいで…!」 咲夜は再びアルケニーにドラグーンを向けた。 だがその時、 「――!!?」 蜘蛛糸が、咲夜の身体を捕らえる。 「しまった…! ケルベロスさん、この糸を切断……」 「クッ…! おいバスター、この糸を切断……」 「…………」 「…………」 そのケルベロスも、蜘蛛糸に捕らえられていた。 「ふふふ……」 アルケニーが勝利を確信した笑みを浮かべ、地上に降りる。 「くぅっ…! どうすれば……!!」 絶望的な状況。だが、 「フッ……」 ケルベロスは、笑った。 「…何がおかしいのよ、この犬」 「解からないのか、アルケニー。お前の敵は我とこのバスターだけではないのだぞ?」 その言葉とほぼ同時に、銀光がアルケニーの背を斬り裂いた。 「ぎ、ぎゃぁぁあああああ!!?」 そして、アルケニーの背後には1つの影。 「…やれやれ、ヘビ女の次はクモ女かよ。もしかして俺は女性運をLeMUで使い切っちまったのか?」 将門之刀を構えた武が、そこに立っていた。 「あ、あなた… いつのまに私の蜘蛛糸から抜け出したのよ…!?」 「あれだけ時間があれば、あんな糸くらいどうにでもなるさ」 「クッ…!」 蜘蛛糸が放たれる。だが、武はそれを素早く躱した。 「何度も同じ技が通じると思うなよ!」 そしてそのまま間合いを詰め、アルケニーの足を1本斬り落とす。 「ぎゃぁああっ!? お、おのれぇぇええええ!!!」 蜘蛛糸の鞭が武を打つ。刀で防御したが、バランスを崩してしまった。 「ぐっ…」 「<ザンマ>ァァアアア!!!」 ドォオンッ!! 武の身体が宙を舞う。そのまま落下し、地面に叩き付けられた。 「がぁ…!?」 「あ、あははははッ!! ここまで来て油断したわね!! 人間の分際で悪魔に挑んだりするからそうなるのよ!! さあ、もう死になさい!!!」 アルケニーが武に跳びかかる。 「た、武さん!! 逃げてください!!!」 咲夜が叫ぶ。 だが、武は動かなかった。 「はははッ! もう動く事すら出来ないみたいね! まずはその頭から喰ぺ――」 パァン! アルケニーの頭に、太刀が浴びせられた。 「が、がぁぁああああッ!!!?」 武はゆっくりとその場に立ち上がる。 「…な、何故ッ、あ、あなた、は…!!?」 「クソ親父直伝『やられたフリ』。なかなか上手くいったな」 「や、やられたフリ、ですってぇ…!? そ、そんな事で、私、がぁ、死……!!」 アルケニーの身体を構成するマグネタイトが粒子状に分解されてゆく。 そして、そのマグネタイトは武のPDAに吸収されていった。 「ああ、ああぁぁああ……!」 その断末魔と共に、鬼女アルケニーはこの世界から消滅した。 「何か、昨日清姫に襲われてた時とは別人みたいですね」 蜘蛛糸がアルケニーと共に消え、咲夜とケルベロスはようやく拘束から開放された。 「そうか? それはやっぱ刀を握ってたからだろうな。どうやら昔受けたクソ親父の修行は骨の髄まで染み付いてるらしい」 武は将門之刀を鞘に収めた。 「さ、早く先に進もう。さっさと祠まで行くぞ」 「そうですね… もうこんなのは御免ですよ」 「まったくだ。俺も優がくれたチョッキがなきゃ、間違いなくやられてただろうしな…」 2人と1匹は再び山の中を進み始める。少しずつ霧も濃くなってきていた。 「この霧がなんのためにあるのか、春香菜から聞いていますか?」 「いいや? この霧、何か意味があるのか?」 「この霧は、祠に害を与えようとする者、あるいはただ迷い込んだだけの者が祠に近付くのを防ぐためにあるんです」 「…という事は、祠の存在を知っていて、なおかつ祠に害を与えない者でなければこの霧からは抜けられない。そういう事か?」 「ええ、そうですね。一種のトラップです」 武は納得出来ないものを感じた。 「…なら、わざわざ俺達が行かなくても祠は大丈夫なんじゃないか?」 「そうかも知れませんが、もしもの事があったら面倒ですしね」 すでに四方は霧に包まれ、右も左も解からない状態になっている。 「…この霧に入ってから祠に辿り着くまで、どれほどかかるのだ?」 ケルベロスが訊いた。少し機嫌が悪そうなのは、祠に近付いているせいで結界の密度が濃くなっているからなのだろう。 「前に来た時には17分くらいで行けました。今回も同じくらいでしょうね」 咲夜が武とケルベロスの方に向き直り、弾んだ声で言った。 「さぁ、あと少しですよ!」 霧に入ってからぴったり102分後。 一行はようやく、泰山府君の祠に辿り着いた。 祠の周りだけ霧が晴れており、神秘的とか幻想的とかそういう言葉が似合いそうな光景だったが、三者にそれを楽しむ余裕は無かった。 「…ぜぇ……ぜぇ……」 102分間も視界の悪い山道をさまよったせいで、武と咲夜は体力の限界に達していた。 「…………」 ケルベロスもあまりいい気分ではなかった。結界の中心点にいるのだ。いい気分になれるはずがない。 この状況で三者は言葉を交わさずにして、まったく同じ行動を取った。 『休憩』である。 「…誰だよ、17分で着くって言ったのは……」 「…さぁ、誰でしたっけね……」 「…………」 場を何とも言えない空気が包む。 そのまま数分が経過した。 そして、ようやく人間2人が回復してきた頃、 ピピピピピピピ…… 武のPDAから、着信音が鳴り響いた。 「…? 何です?」 「メールみたいだな… って何だこりゃ?」 「どうかしましたか?」 咲夜は武のPDAの画面を覗き込む。 画面に映っていたのは1通のメール。そしてそのメールには、2つのファイルが添付されていた。 「悪魔のデータと電子化されたマグネタイト…? 春香菜が送ってきたんでしょうかね?」 その時、咲夜の頭に何かが引っ掛かった。 (まさか…!?) 1つの恐ろしい可能性に辿り付く。 血の気が引くのを、感じた。 「武さん!! このメールを開いちゃダメです!!!」 「え…?」 もう、遅かった。 光が走り、魔方陣が地面に描かれる。 「な、何だこれ!?」 「くっ…! DDM(デジタル・デヴィル・メール)です!! 開くと悪魔が召喚されるウイルスメールですよ!!」 「なっ…!?」 「普通、この方法で召喚された悪魔はマグネタイトを持たないので人間に憑依したりするんですが…」 「…あのメールには電子化されたマグネタイトが添えられてた。って事は、そのマグネタイトを使って実体化するのか!?」 「そうです! 霧の突破にあたし達を利用する、最初からこれが敵の狙いだったんですよ!!」 咲夜がドラグーンを構えた。武も将門之刀を構える。 ケルベロスが、低い唸り声を上げた。 次々とマグネタイトが組み立てられ、悪魔の身体を形作っていく。 そして、その輪郭が見えてきた。 「う、嘘でしょう…!? あれは……」 「お、おい、咲夜! あいつは何なんだ!? 凄いプレッシャーだぞ!?」 咲夜は呆然としながら言う。 「…かつて唯一神に最も愛された熾天使『ルシファー』は傲慢にも唯一神の地位を妬み、天使の3分の1を率いて反乱を起こしました」 「何……?」 「反乱軍はルシファーの双子の兄弟、熾天使『ミカエル』が率いる天使軍に善戦しました。何故なら反乱軍には、比類なき力を持つルシファーの副官達がいたからです」 「…………」 「しかし反乱軍は天使軍に破れ、そのメンバーは星々の彼方に逃げ去りました。勿論、ルシファーの副官達も」 空間が振動する。凄まじいエネルギィが山を包み込んだ。 「あれはその『六副官』の一角――」 悪魔が姿を現す。禍々しい瘴気を放つ、巨大なカバのような獣。 「――妖獣『べヒモス』です」 |
あとがきと呼ばれるもの・03 つぐみんはどうしたって感じですが、彼女もちゃんと動いてます。次の次の次くらいの話で解かると思います。 さてこの話、十数話くらいの予定なんですが… まだ第3話。まだまだ先は長いです。 ですが、ここにきてようやくたけぴょんも活躍。しかし、その裏にはあのオヤジの影(笑)。 さあ、次あたりからは本格的に話を進めていきますよ。 それでは。 |
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