真・女神転生SEVENTEEN
                              作 大根メロン


第五話 ―イオン―


「ん……」
目を覚ました武が始めに見たものは、白い天井だった。
(確か俺は… 霧隠れ山に行って… べヒモスと闘って……)
べヒモスとの戦いに勝利した後、気を失った。それが武の頭に蘇る。
「そっか… 思い出した」
武はここが田中研究所付属病院の一室だと気付いた。ケルベロスか咲夜が、武を背負って山を降りたのだろう。
武はとりあえず、自分の脈を診てみる。
「うむ、異常なし。生きてる生きてる」
そうやって生を実感していると、

すぅ… すぅ…

「……ん?」
寝息のような音が聞こえた。
武以外の誰かが、ベットにもたれかかって寝ているらしい。
(こ、これは…! あれか!? 看病している間に一緒に寝ちゃった、っていうお約束で萌えなシチュエーションか!!?)
1人で盛り上がる武。
だが、冷静な部分も残っていた。
(いやいや、落ち着け俺。どうせ桑古木だとか、そんなオチに決まってる)
そして、何気無くその人物を見る。
「すぅ… すぅ…」
ナース姿の空が、そこで寝ていた。

ブッ!!

反射的に鼻血を噴く。
完全なる不意討ち。心の準備をまったくしていなかった武にとっては、強烈すぎた。
「そそそそそそそ、空ぁあ!!?」
「ん……」
今の武の声で空が目を覚ましたらしい。
「んん…… あ…! 倉成さん、目が覚めたんですね!!」
「あ、ああ… それより、その格好は何だ!?」
「看病といえばこの格好でしょう?」
「いや、そうかも知れんが!!」
空の顔が武の顔に近付く。
不自然なほど潤んだ瞳が、武を見詰めた。
「そ、空…?」
「倉成さん、私……」
だがその時。
「いい加減にしなさい」
空の後頭部に、グロック26の冷たい銃口が押し当てられた。
その銃を握っているのは、もちろん優春である。
「…病室に入る時は、ノックくらいしたほうがいいのではないですか?」
「ドアが壊れるほどしたわよ。まったく気付かなかったみたいだけど」
武はドアを見た。壊れるほど、と言うより完全に大破していた。
「それで? そんな格好で一体何をするつもりだったのかしら?」
「田中先生、ボケたんですか? 倉成さんの看病に決まってますよ」
「へぇ……」
優春が不気味な笑みを浮かべる。
そして、引き金に少しずつ力が加えられていった。
「ゆ、優!? 何だかよく解からんがストッピング!! 人類皆兄弟、話し合えば解かり合えるって!!!」
「祈りなさい…」
「人の話を聞けぇ!」

ドオォ…ン!!

銃弾が放たれる。
「って、うぉおおぉぉおお!!?」
だがその銃弾は空の頭をすり抜け、武を掠めた。
――ふふ… 詰めが甘いですよ、田中先生。
その声と共に、空の姿が消えた。
「一瞬でRSDの幻像とすり替わったのね…」
優春はそう呟き、銃を白衣の中に仕舞う。
そして、武の方に向き直った。
「調子はどうなの?」
「…まるで何事もなかったかのように話を進めたな…… まぁ、調子は悪くはないぞ。弾が掠めた時の精神的ショックが残っているが」
「そう。じゃあ、すぐに研究所に来て」
武の精神的ショックは無視されるらしい。
「あ、ちょっと待ってくれ」
「ん?」
「俺は… どれくらい眠ってたんだ?」
「え……!?」
優春は眼を見張る。
「えーと……」
言い辛そうな表情で、優春は武を見た。
嫌な予感を武は感じる。
「倉成、落ち着いて聞いてね?」
「お、おう……?」
「あなたが眠っていた時間は……」
「じ、時間は?」
「17――」
武の心臓が、一瞬止まりかけた。
「――時間よ」
「………………………は?」
優春は意地悪な笑いを浮かべる。
ようやく、武はからかわれた事に気付いた。
「ゆ、優ぅう! てめぇー!!」
「あはは、でも本当の事よ。正確には17時間34分51秒」
優春はそう言い、ドアノブに手をかけた。
「ま、用意が出来たら研究所に来なさい。いろいろ訊きたい事があるしね」



田中研究所3階の一室。
「霧隠れ山での襲撃は2回です。1回目は山の中腹前で鬼女アルケニーに。2回目は祠で六副官のひとり、妖獣べヒモスが。べヒモスはDDMを使って、武さんのPDAから召喚されました」
「そして祠は破壊された、か」
「…ええ」
優春は咲夜の報告を聞きながら、溜息を付いた。
「まさか、こっちの行動を利用されるとはね… 我ながら迂闊だったわ……」
優春デスクの上で頭を抱え込む。
「今更そんな事言ったってしょうがないさ。鬼門が開放されたんだろ? だとしたら、それを何とかしないと…」
「…それほどすぐ影響が出るわけではありませんよ」
武の言葉に答えたのは、優ではなく咲夜だった。
武は咲夜を見る。だがその横顔にはあの元気のよさがない。
何かを心に押さえ込んでいるような、苦しみに満ちた表情だった。
(…こいつ、どうしたんだ?)
自分が気をうしなった後に何かあったんだろうか。武はそう考えた。
咲夜はそんな武の心情を知ってか知らずか、淡々と話し続ける。
「祠の代わりにはなりませんが、反閇(へんばい)を踏んであの場を浄化しましたし、さらに山の四方位に仏具を埋めて結界を強化しておきましたから」
「つまり、あなたの力で鬼門を封じた、という事ね?」
「ええ、ですが春香菜。さっきも言ったとおり、あたしの力くらいでは祠の代わりにはなり得ません。時間が経てば少しずつ影響が出始めるでしょう」
咲夜はゆっくりと言った。
「それに、このまま敵がおとなしくしているとは思えませんしね」
「どういう事だ?」
「敵がさらに星丘市の守護を弱めようとする、という事ですよ」
武の問いに対し、咲夜は感情を表さずに答える。
まるで機械のようだった。
「方法は簡単です。『市内で人を殺す』。そうすれば死の穢れにより土地の霊力が落ち、その分守護の力も弱まりますから」
「なっ……!!?」
「それを阻止するために退魔チームのスタッフを市内に配置していますが… すでに連絡が途絶えた班がいくつかあります。おそらく、やられたのでしょう」
何の感情も表さず、咲夜は言う。
「……ちょっと、あなた… どうしたの?」
優春が咲夜に問い掛ける。
それは、武も訊こうと思っていた事だった。
「今のあなたはどう見てもおかしいわよ? 何かあったの…?」
「…………」
咲夜は少しの間虚空を眺める。
そして、小さく口を動かした。
「……武さんが気を失った後、べヒモスの残留思念が言ったんです。『話が違うぞ、イオン』、と」
「…………」
優春はその言葉を聞いても、さしたる反応を見せなかった。
「…あんまり驚かないんですね」
「まぁね。なんとなく予想はしてたから」
「そうですか。あたしは考えもしませんでしたよ」
咲夜は1つ溜息をつく。
「そのイオンってのは誰なんだ?」
武は優春に訊いた。
咲夜の話の内容からしてべヒモスの主である事は間違いなさそうだったが、そのイオンと優春達がどんな関係なのか、武には想像すら出来なかった。
「…ライプリヒ製薬過激派『第187番部隊』」
言葉を選ぶように、優春は少しずつ語ってゆく。
「ライプリヒ製薬過激派っていうのは、ライプリヒの中でも主に暗殺やテロ活動を行っていた集団よ。第187番部隊は、過激派の中でも最凶と言われていた部隊」
「…じゃあ、イオンとやらはその第187番部隊のメンバーだったのか?」
「ええ、そう。過激派のメンバーはライプリヒがなくなった後、国際手配されてほとんどが捕まったけど、イオンが所属していた第187番部隊だけはまだ健在なの。第187番部隊は全員がキュレイ種の上に古流剣術の達人だったり肉体改造狂だったりするから、捕まえるどころか殺すのだって簡単じゃないしね」
「行方は分かってるのか?」
「行方も何も、あの連中は逃げも隠れもしないから。イオンは三週間前にロンドンでSASとイングランド国教会デヴィルバスターチームの合同部隊と交戦して全滅させてるし、つい最近では遊園地の観覧車に爆弾を仕掛けた奴もいたわね」
遊園地の観覧車に爆弾。
あの時の体験が、武の頭に蘇る。
「って事は……」
「第187番部隊のメンバーは4人。あなたと空を爆弾事件に巻き込んだ柊文華、あの計画の少し前につぐみを襲った、カリヤ・霧神・アーヴィングにアルバート・ビッグズ。そして、人と悪魔の間に生まれた半人半妖(ハーフデヴィル)である召喚師――」



「遅い!」
優秋は叫び声を上げた。
周りの視線が彼女に集中するが、当の本人はまったく気にしていない。
「遅すぎるわよ!! ホクトったら、レディを待たせるなんてどんな神経してるわけ!?」
優秋は傍にあった銅像に蹴りを打ち込む。
余談だが、真のレディは銅像に蹴りを打ち込んだりはしない。
「まったく……」
優秋とホクトの待ち合わせ時間からすでに17分が経過している。
だが、一向にホクトが現れる様子はなかった。
「うう〜!!!」
優秋の堪忍袋が破裂しかけたその時。
「待ち人来たらず、といったところかな?」
どこからか声をかけられた。
「え……?」
いつのまにか、優秋の目の前に1人の青年が立っている。
身体中の色素を失ったような、白い髪と肌。身にまとった、裾が足元まである真っ白なダッフルコート。
そして、満月のような瞳に三日月を模したペンダント。
とにかく、美しい青年だった。
だが、何故か優秋以外の人間はこの青年をまったく気にしていない。まるで、彼女にしか見えていないようだった。
「あ、あなた… 誰?」
底知れない恐怖を感じ、なんとか言葉を発する。
だが、返って来たのは、
「ああ、秋香菜ちゃんだ。懐かしいなぁ」
という、緊張感がまるでない言葉だった。
「…………え〜と?」
「ふふ、俺は春香菜の昔からの知り合いで、君がまだ小さかった頃から君の事を知ってるんだ。頭を撫でてあげたこともあるんだよ」
「小さかった頃からって… あなたどう見ても私よりちょっと年上くらいなのに」
「俺はキュレイ種なんだ。だから、外見上の年は取らないんだよ」
「え……?」
まるで世間話でもするような気軽さで、青年は言った。
「ねぇ、秋香菜ちゃん。倉成ホクト君を待ってるのかい?」
「そ、そうだけど……」
「残念ながら、来れないと思うよ?」
青年の顔に、底冷えするような笑みが浮かぶ。
「――!!?」
優秋は消えかけていた恐怖に再び襲われた。
「彼は今、ちょっとしたトラブルに巻き込まれているから。もしかしたら、死ぬかもね」
「なっ……!?」
死ぬ。
優秋は、青年が何を言っているのか分からなかった。
「ふふ、急がないとね… 前に俺の仲魔のロキを斃した『キュレイの申し子』以外にも、やっかいなのがいるみたいだし」
「あなた、誰なの!!?」
さっきと同じ質問をぶつける。
青年は微笑みながら答えた。
「ああ、自己紹介がまだだったね。俺の名前は――」



「――イオン。『百々凪庵遠(ささなぎいおん)』」

6>>

あとがきと呼ばれるもの・05
『裾が足元まであるダッフルコートって、ダッフルコートじゃないだろ』っていうツッコミは無視します。
さて、ようやく黒幕(?)である庵遠クン登場。どうでもいいですが、普通に読むと『いおおん』としか読めません。ハイ、彼の仇名はいおおんに決定(は?)。
…しかし、これでオリキャラは10人ですよ(汗)。まぁ、事件の数だけ出逢いがあるって事で(大汗)。
それよりも、ハーフデヴィルってヒト・キュレイウイルスに感染するんでしょうかね? う〜ん。
ま、いっか(超汗)。
さて次は、ホクトが巻き込まれたちょっとしたトラブルの話。
絶対『ちょっとした』ではないでしょうけどね。
グッバイ。


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