真・女神転生SEVENTEEN
                              作 大根メロン


第七話 ―アポカリプス―


「天災を司るこのアラストール様をなめんなよ!!!」
アラストールの目にも留まらぬ攻撃。
だがつぐみは、それを上廻るスピードで躱し、攻撃する。
「クッ…!? チィイッ!!! <ザンダ――」
「遅いわよ」
魔法を放つ間もなく、つぐみの拳が襲う。

ゴキィ…!!

「ぐぁ……!?」
つぐみの攻撃を受け止め切れず、アラストールは自身の骨が砕ける音を聞いた。
「まずは1倍返しね」
アラストールはダメージで怯む。
その隙に、つぐみは強烈な蹴りを叩き込んだ。
「――ッ!!?」
「2倍!」
つぐみの足に、内臓が潰れた感触が伝わる。
一瞬だけ足を離し、今度は廻し蹴りを同じ場所に打ち込む。
「3倍!」
蹴りの衝撃でアラストールが吹き飛ぶ。
さらに、吹き飛んだアラストールが地面に落ちるより早く、つぐみは追撃する。
蹴る物が無い空中で、攻撃を躱すのは不可能だった。
「4倍、5倍、6倍!!」
無数の拳撃が肉を潰し、骨を折った。
(嘘… だろぉおッ……!!?)
「7倍、8倍、9倍!!」
そこでようやく、アラストールは着地する。
だが反撃するより早く、
「これで10倍よ!!」
蹴りが、顔面に叩き込まれた。
「ぐがぁあ!!?」
反撃を許さない、連続攻撃。
「11倍、12倍!!」
まるで壊れた人形のように、アラストールの身体が跳ねた。
(これが…)
「13倍、14倍!!」
(この女の… 力……!!?)
全身が引き裂かれ、血が噴き出す。
これほどの力の持ち主は、アラストールの記憶の中ではあの反乱の時に闘った、ミカエルを筆頭とする『四熾天使』くらいしかいない。
(ふざけんなぁ!! たかが人間が、あの連中と同じレヴェルの力を持ってるはずがねぇッ!!!)
つぐみの拳が襲う。
アラストールはそれを腕で防御しようとする。
だが、そのつぐみの攻撃はフェイクだった。
「――ッ!!?」
つぐみはアラストールの両腕を掴み、もぎ取った。
「ヒ、ヒィギィヤァァアアアッ!!?」
「15倍、16倍……」
つぐみはもぎ取った腕を投げ捨てる。
腕は、煙のように消えた。
「さぁ、そろそろ終わらせるわよ…」
つぐみがアラストールにトドメを刺そうとする。
だが。
「へッ、へへ…… そう簡単に終わらせてたまるかよ…! <ジバブー>ゥウ!!!」
「――ッ!!?」
突如、つぐみの身体が金縛りに襲われた。
頭から足の先まで、どんなに力を入れても動かせない。
「これは…!?」
「ハハッ! 油断したなぁああ!!」
さっきまでとは打って変わり、アラストールの顔には歪んだ嗤いが浮かぶ。
「我が汝に与えるは人の宿命、万物の宿命、世界の宿命たる滅びの十字架!!!」
その瞬間、凄まじいスピードと破壊力を持つ衝撃波が、つぐみに襲いかかった。
「死ねぇえ!! <マハザンダイン>!!!」

ドガァァアァアア…ァアアンッ……!!!

まるで爆発のような轟音と土煙が起こる。
地面が砕かれ、後には隕石が落下したかのようなクレーターが残った。
「ハハ…ハハハハァッ!!! どうだ、やっぱり所詮人間は人間だったなぁあ!!! こんなに簡単に死んじまった、ヒャハハハハハハァッ!!!」
アラストールの狂笑が響く。
「フフフ……」
その狂笑に、別の笑い声が重なった。
「フフフ… 私が死んだ? なかなかおもしろい冗談ね」
「な、何、だと…!?」
土煙の中から、つぐみが姿を現す。
致命傷どころか、傷1つ負ってはいなかった。
「あの一瞬で拘束を破って… なおかつ魔法を完全に躱したってのか…?」
「別に、それほど難しくはなかったわ」
「……ふ、ふざけんなぁぁあぁああ!!!」
アラストールの魔法がつぐみに放たれる。
だが、冷静さを欠いた攻撃を受けるほど、つぐみは甘くない。
攻撃を躱しながら、アラストールとの間合いを詰める。
そして。
「これで… 17倍よ!」
つぐみの腕が、アラストールの胸を貫いた。






「〜〜〜♪」
青年――庵遠が闇の中に現れた。
その顔には、いつもより明るい笑顔が浮かんでいる。
「…やけに上機嫌だな、庵遠」
「ふふ、秋香菜ちゃんに会ったから。しかし君は不機嫌そうだね、モロク。何かあったのかな?」
「アラストールさんが斃されてしまったのですよォ…」
質問に答えたのは、モロクではなくベルフェゴールだった。
「……やったのは倉成つぐみ君かい?」
「ええ、見事なワンサイドゲームでしたねェ… クックックッ……」
「へぇ… それは早く見てみたいな」
その言葉と同時に、空間につぐみとアラストールの闘いが映し出される。
「これはこれは… 本当にワンサイドゲームだね」
映像の中のつぐみがアラストールの胸を貫く。
そして、アラストールが断末魔を上げ消えていった。
「……ふふ、本当に強いね… やっぱり倉成つぐみ君はキュレイの申し子だよ。あのトム・フェイブリンと同じくね」
「そんな事より、どうするのだ?」
ベルゼブブの声が響く。
「ん、何をだい?」
「六副官の内、すでにふたりが斃れた。これは予想外の事ではないのか?」
庵遠は少し虚空を見詰めた後、言った。
「…確かにべヒモスがやられたのは少し驚いたけど…… アラストールの事は予定通りだよ」
「何だと?」
「倉成ホクト君と倉成沙羅君を襲わせれば必ず、倉成つぐみ君が出てくる事は分かってたからね」
「まさか……」
「ふふ、おかげで倉成つぐみ君の戦闘能力の一端を知る事が出来たよ。アラストールは名誉の戦死、かな」
庵遠は冷たい笑みを浮かべる。
「…つまりアラストールは捨て駒だった、という訳ね」
リリスが鋭い視線を庵遠に向け、言った。
庵遠は苦笑する。
「人聞きが悪いなぁ… それより、今は倉成つぐみ君の闘いをよく見ておいた方がいいよ。いずれ闘わなければならない相手だからね」
庵遠は全員を、その満月のような瞳で見詰めた。
「それに、何人斃れようと俺達の目的は変わらない。この地上に悪魔の楽園を創るという目的は、ね」






田中研究所付属病院の一室。
(う〜ん……?)
白い天井の下で、ホクトは目を覚ました。
(どうしてぼくは…?)
少しずつ記憶を蘇らせてゆく。
沙羅に大鎌を振り下ろす死神の姿が、はっきりとホクトの脳裏に浮かんだ。
「そ、そうだ、沙羅は!!?」
「無事よ」
横からの声。
振り返るとそこには、青い髪の少女が椅子に座り文庫本に眼を向けていた。
「フルート……」
「つぐみと、あなたの隣のベッドで寝てる人外のおかげでね」
「誰が人外なのですか!!」
ホクトの隣のベッドから怒鳴り声が放たれる。
フルートの言葉通り、そこには人外が横たわっていた。
「あ、川瀬さん… いたんだ」
「『いたんだ』って… もう少し他にかける言葉はないのですか?」
「え? う〜ん……」
なかった。
「アルルはホクトさんと同じく入院してるのですよ!? 気遣いの言葉とかあるでしょう!?」
「えぇ!? 川瀬さんでも入院する事があるの!!?」
「どういう意味なのですか!!?」
「…元気ね、あなた達」
フルートの声。
尖っていた。いつもが鉛筆くらいだとすると、今はアイスピックくらい尖っていた。
(…ね、ねぇ、もしかしてフルート、機嫌悪いの?)
(ホクトさんが無茶をするからなのですよ!! ホクトさんが病院に担ぎ込まれた時、かなり取り乱したらしくて――)
「…本当に元気ね、あなた達」
冗談抜きで怖かった。
(ホ、ホクトさん! この底なし沼の中みたいな雰囲気、どうにかしてくださいなのです!! フルートさんに愛の言葉を囁くとか!!)
(愛の言葉って何!!?)
(愛の言葉は愛の言葉なのです!!!)
小声で(フルートにはバッチリ聞こえている)意味のない議論を続けるホクトと亞留流。
本当にホクトが愛の言葉を囁けばフルートの不機嫌などアンドロメダ星雲の彼方まで飛んで行くだろうが、無論彼にそんな甲斐性はない。
そうやってあーでもない、こーでもないと言っていると、
「ホクト!? 目が覚めたの!!?」
優秋が病室に現れた。
「あ、優……」
ホクトが言葉を発しようとした時。
「ホクトぉっ!!」
優秋が、ホクトを抱き締めた。
「ゆ、優…!?」
「バカぁ!! 本当に死んじゃったのかと思ったじゃない!! 心配したんだからね!!!」
瞳を潤ませ、優秋はさらに腕に力を込める。
まるで、2度と離すまいとしているようだった。
「…優、ごめ――」
その時。
一冊の文庫本が放物線を描き、飛来する。
そして、

コンッ!

見事、優秋の頭に命中した。
優秋は表情を一転させ、まるで般若のような形相で文庫本を投げた人物を睨み付ける。
その視線の先には、フルートの姿。
「視苦しいから止めなさい。それに、あなたが本気で抱き締めたらホクトが圧壊するわよ」
「…さすがね。この感動の再会を『見苦しい』と言える冷たい心の持ち主は、この世であなただけよ」
「別に感動の再会が視苦しいとは言ってないわ。あなたが、視苦しいのよ。早く私の視界から消えなさい」
「あなたの視界? それって、この三次元世界全てじゃないの?」
「決まってるじゃない、ナンセンスね。それとも、もっとはっきり言わなければ分からないのかしら?」

ゴゴゴゴゴゴ……

底なし沼をさらに沈降してゆくこの病室の雰囲気。
何故か、真綿で首を絞められるようなプレッシャーを感じるホクト。
さらに。
「お兄ちゃん!? 目が覚めたの!!?」
沙羅が病室に入ってくる。
沙羅は何の迷いもなく、優秋とフルートを突き飛ばした。
「きゃあ!?」
「ふぇ!?」
そしてそのまま、ホクトにしがみ付く。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、ごめんね…! 私のせいで大怪我して……!!」
「沙羅… いいんだよ、ぼくが勝手にやった事なんだからね」
「お兄ちゃん……」
いい雰囲気の倉成兄妹。
しかしその周りでは。

ホクトから引き剥がされ、狂犬モードのスイッチが入った優秋。
いい加減この茶番劇にキレかけてきた亞留流。
どこからか広辞苑を取り出し、投げようとしているフルート。

その後の地獄絵図(修羅場ともいう)については、ホクトの名誉のため割愛する。



地獄絵図の後、ホクトが目を覚ました事を聞きつけた武、優春、つぐみが病室に現れた。
本当はもう1人いるのだが、ホクトは無意識の内に視界から外している。
「ところで、ちょっと気になったんですけど… ぼくは背を斬られたんですよね?」
ホクトが優春に尋ねた。
「ええ、そこの人外が持ってた薬のおかげで出血は止まってたけどね」
「誰が人外なのですか!!」
「それにしては、まったく傷跡が残ってないんですけど…?」
亞留流の魂の叫びを綺麗に無視し、ホクトは質問を続ける。
そう、今のホクトの背中には斬られた痕跡がまったく残っていなかったのだ。
「そう言えば、アルルもなのです」
亞留流が自分のお腹をさすりながら、
「いくつか内臓をやられたと思ったのですが… 今は何ともないのですよ」
と言った。
「あ、ああ… それはこの病院にいる優秀な医師のおかげよ。どんな怪我や病気でも、完璧に治療できるの」
優春がどこか不自然な笑顔で答える。
「へぇ、優秀な医師ですか……」
「へぇ、優秀な医師なのですか……」
ホクトと亞留流も笑顔を浮かべた。
だが、眼は笑っていない。
「で、それは誰です?」
「で、それは誰なのです?」
同時に問う。
優春は無言で、1人の人物を見た。
ちなみにその人物は、ホクトがずっと視界から外している人物である。
「ふふふふふふ…♪」
不気味な笑いが病室に響く。
田中研究所医療チームのリーダーにして田中研究所付属病院院長、黒沢逝狩がそこに立っていた。
「モ、モルモットォ〜!!?」
あまりのショックに、ホクトと亞留流は意味不明の叫び声を上げる。
そしてそのまま、魂が抜き取られたように気を失った。
「おや? 気を失ってしまったね」
逝狩が2人に近付こうとする。
だが、病室にいる全員が彼女の行く手を阻んだ。
「…どうして邪魔をするんだい? いきなり気絶するなんておかしいじゃないか。ここは2人を解剖して、精密検査をするべきだよ」
「精密検査に解剖は必要ないでしょう!?」
つぐみの至極まっとうなツッコミが入る。
その場にいる全員(逝狩以外)がウンウンと頷いた。
「あ、でも……」
優春は手を叩き、
「こいつは、精密検査が必要かもね」
そう言って、気を失っている亞留流を逝狩に引き渡した。
「ほう、それはそれは…」
逝狩は亞留流を抱え、
「じゃあ、私はこの子の解剖をして来るよ。ふふふふふふ…♪」
そう言い残し、病室を去っていった。
そして優春は、不気味な笑い声が廊下の向こうに去ったのを確認すると、
「川瀬亞留流… あなたのおかげでホクトが助かったわ。死ぬ前に1ついい事が出来たわね……」
そう言って手と手のシワを合わせる。
そして。
「な〜むぅ〜」

ちーーーーん。

亞留流の絶叫により、ホクトが意識を取り戻したのはそれから約17分だったという。



「さて、と」
優春は病室の面々に向き直った。
「これだけ人数が揃ってるんだから、状況確認でもしてみましょうか」
そう言って、ベッドに腰を降ろす。
「まず始めに、霧隠れ山に向かった倉成達が元ライプリヒのサマナー、百々凪庵遠がこの事件に関わっている事を知った」
「ああ、そうらしいな」
曖昧に答える。
武は、実際にべヒモスの残留思念の言葉を聞いた訳ではないのだ。
「私がその報告を受けているころ、ユウが百々凪庵遠と名乗る人物と遭遇。外見的特徴から本人に間違いないわ」
優秋が息を呑む。
「ホクト達が襲われてる事を知ったユウは、偶然会ったつぐみにその事を伝える。つぐみはすぐ異界に入り、ホクト達を助け出した」
優春がつぐみを見る。
つぐみは小さく頷いた。
「で、ここで注目するのは敵よ。倉成達はべヒモス、つぐみ達はアラストールと闘っている」
そう言って1つ間を置き、
「それから考えて… 多分、庵遠は六副官を全員従えてるわ」
と告げた。
「六副官? それって、ルシファーとかいう奴の反乱に協力した副官達だろ?」
優春が、少し驚いたような表情を見せた。
「倉成、あなた六副官を知ってるの?」
「咲夜から教わったんだ」
「ああ、なるほど。なら話は早いわね」
優春は話を再開する。
「六副官は強いわ。その中でも特に、第一副官と第二副官は別格よ。べヒモスやアラストールとは比べ物にならない力を持ってる」
「…マジか……」
武は顔をしかめた。
「…でも、そんな凄そうな悪魔を使って、その庵遠は何をするつもりなんですか?」
沙羅が優春に率直な疑問をぶつける。
優春は少しの間窓の外を眺めた後、言った。
「…何をするつもりなのかは分からないけど…… このまま星丘市が悪魔で溢れかえれば、最悪の事態が起こるわね」
「そりゃ、悪魔が溢れかえったら最悪の事態だろうが……」
武が口を挟もうとするが、優春はそれを制して話を続ける。
「もし、そんな事になったら間違いなく……」
優春は少し言いよどんだが、またすぐ口を開いた。
「米軍が星丘市に、悪魔を殲滅するためICBM(大陸間弾道ミサイル)を使った核攻撃を行うと思う」
病室が静まり返った。
「お、おい優… いくらなんでも、それは話が飛躍しすぎじゃ――」
「そうでもないわよ」
今まで傍観を続けていたフルートが、武の言葉に口を挟んだ。
「20世紀末期にこれと似たような事が東京で起きて、核攻撃一歩手前までいった事があるわ」
「何……!?」
「でも、いくら核攻撃を行っても悪魔を完全に殲滅するなんて事は不可能。もしろそれは、穢れに満ちた悪魔の楽園を創る事になるわ」
フルートは優春に眼を移す。
「春、こんなところかしら?」
「ええ、そうね。『悪魔の楽園を創る』。もしかしたらそれが、庵遠達の目的なのかも知れないわね」
『悪魔の楽園を創る』。確かに悪魔の血を引く庵遠が考えそうな事だった。
だが武は同時に、人の血を引く庵遠が『悪魔の楽園を創る』という事に不自然さを覚える。
そうやって頭を悩ましていると、
「…上手く誤魔化したわね」
フルートが優春を視ながら、小さな声で呟いた。
(『上手く誤魔化した』…?)
どうやら武以外には、その言葉は聞こえなかったらしい。
武がそれについてフルートに尋ねようとした時、
「ああ、言い忘れてたけど……」
フルートが武を視た。
燃えるような瞳が武を捉える。
「な、何だ?」
「視えたのよ」
張り詰めた空気が武を包む。
そしてフルートは、まるで世間話でもするかのように言い放った。

「あなたは百々凪庵遠と闘わない方がいいわ。闘ったら間違いなく… 死ぬわよ」




8>>

あとがきと呼ばれるもの・07
何か、この1話にいろいろと詰め込んだ感じですね。
これでやっと1/2くらいです。まだまだ先は長い(汗)。
問題も山積です。ココはどうしようとか、ケルベロス以外の武の仲魔はどうしようとか。
それと今回、久し振りにフルートを書きました。
しかし!!
今のフルートは、身体のバランス調整も歩行訓練も完璧です。だから、転んだりしません。
何が言いたいのかというと、もっと『ふぇ!?』を書きたかった――
「…死になさい」

ゴキィン!!(鉄パイプで殴られた音)

――ぐはぁッ!!?

ちーーーーん。


/ TOP / BBS








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