真・女神転生SEVENTEEN
                              作 大根メロン


第八話 ―ルーイン―


深夜、星丘公園。
「ギャアアァァアアア!!」
凄まじい鳴き声と共に、上空から邪龍『ワイバーン』が飛来する。
武はそれを視認すると、将門之刀を一振りした。
「ギェエエィイィイイイ!!?」
武の間合いに入ってすらいなかったはずのワイバーンの身体が真っ二つになり、地上に落下する。
べヒモスの魔法を裂いた『不可視の刃』の応用技だった。
そのまま振り返り、無人で暴走する自動車――外道『クリス・ザ・カー』を斬り裂く。
「くそっ、キリがねぇ…!」
星丘市が出来る以前から使われる『星丘』という地名の『星』は五行を表し、その理によって護られている土地を意味する。
だがそれゆえに、守護が破られた時の反動も大きい。
夜はすでに、悪魔達の巣窟となっていた。
「ケルベロス、そっちはどうだ!?」
武は公園の向こうで闘っているケルベロスに呼びかける。
「こっちも似たようなものだ……!」
ケルベロスも、かなりの数の悪魔を相手に奮闘していた。
「――!!? やば…!!」
ケルベロスに意識を向けた隙に、数体の悪魔が武に襲いかかる。
その時。
「<マハムド>!」
その魔法により、武に襲いかかった悪魔達が咒殺された。
それを放ったのは、大鎌を持つ黒衣の天使。
天使はさらに他の悪魔に眼を向ける。
「<ヘルズアイ>…!」
その暗い光を放つ邪眼を見た悪魔は、一瞬で命を刈り取られた。
さらに、
「はぁっ…!」
鎧を身に纏った女が、生き残った悪魔を剣と魔法で屠ってゆく。
あっという間に、無数の悪魔達がマグネタイトの山に変わった。
「マスター、大丈夫かい?」
「主殿、生きているか?」
天使と女が、武に呼びかける。

唯一神の法に背いた天使を裁く役目を負う死の天使、大天使『サリエル』。
戦死者の魂を天界の宮殿へと導く北欧の戦女神、軍神『ヴァルキリー』。

新たに契約した、武の仲魔達だった。
「お、お前等今まで何やってたんだ!? 喚んでからかなり時間経ってるぞ!!?」
武が叫ぶ。
「ボクは向こうでずっと月を見ていたんだよ。今夜は一段と綺麗だからね」
と、サリエル。
「寝不足は美容の天敵だからな。ずっと寝ていた」
と、ヴァルキリー。
「でも、さすがに見てられなくなったから…」
「助けてやった、という訳だ」
「…左様ですか」
武はもはや、文句を言う気力もなかった。
(本当に大丈夫かよ…?)
改めて人選(悪魔選?)に不安を覚える。
ちなみに、武がこの仲魔達に不安を感じたのはこれで17回目だった。



星丘公園の悪魔を一掃した武とその仲魔達は、市の北東方向へと向かうため、大通りを歩いていた。
やはり鬼門の方向である北東は、悪魔が現れやすい。
「でも悪魔狩りなんて、その退魔チームとやらに任せておけばいいんじゃないのかい?」
サリエルが武に言った。
今の彼は人間に擬態しているので、大通りを歩いても怪しまれる事はない。
ヴァルキリーも同様だ。
だだケルベロスは、普通の犬の姿に擬態している。そしてケルベロスに付けられた首輪の紐は、しっかりと武の手に握られていた。
周りからは、『深夜に犬の散歩をしている数人の男女』としか見えないだろう。
「そういう訳にもいかないさ。退魔チームは人手不足らしいし」
「でも、百々凪庵遠と直接闘うつもりはないんだろ?」
「ああ、闘ったら死ぬらしいからな」
『百々凪庵遠と闘ったら死ぬ』。数日前に、武がフルートから受けた予言。
「第三視点の予言だからな。ほぼ間違いはないだろう」
そう言った後、ヴァルキリーは武の肩を叩いた。
「だが安心しろ。主殿が死んだらその魂は、ちゃんと私が連れて行ってやる」
「え、縁起でもない事を言うなぁ!」
「冗談だ。本気にするな」
ヴァルキリーは武のリアクションに満足したらしく、その顔に笑顔を浮かべた。
武は1つ溜息をつく。
「だがそうなると、誰が百々凪庵遠と闘うのだ?」
ケルベロスが言った。
普通の犬の姿のまま喋られると、かなり不気味である。
「それはやっぱり、退魔チームのリーダーさんになるんじゃないのかな? 元々こういう事件の解決は彼女の仕事だった訳だしね」
「咲夜、か……」
「……? マスター、何か問題でもあるのかい?」
「最近あいつ様子がおかしいんだよ。まぁ、別に付き合いが長い訳じゃないからはっきりとした事は言えないが… 何だか、無理をしているように見える」
あの霧隠れ山での一戦の後から、咲夜は明らかにどこかおかしかった。
「多分、咲夜と庵遠の間には何か因縁みたいなものがあるんだろう。それのせいで、あいつはずっとあんな調子なんだろうな」
「フン… くだらない」
ヴァルキリーが不機嫌そうな表情で言った。
「主殿には他人の事を心配出来るほどの余裕があるのか? そもそも……」
「ふふ、ヴァルキリー。そんなにマスターが他の女の子を心配する事が気に入らないのかい?」
「なっ!!?」
ヴァルキリーが顔を真っ赤にしながら、サリエルを睨みつけた。
「可愛い〜♪」
「き、貴様ぁ! 異教の翼人の分際で、この私に!!」
「その様子だと完璧に図星みたいだね。まぁ、キミがマスターの仲魔になったのは、『ディアブル・ド・ラプラス』に襲われてピンチだったキミをマスターが華麗に助けたからだし、一目惚れの条件としては十分――」
「死ねぇえ!! <ヒートウェイブ>!!!!」
ヴァルキリーの剣撃がサリエルに放たれる。
だが、サリエルはそれをいとも簡単に躱した。
「この! このぉ!!」
「ははははははは♪」
ヴァルキリーとサリエルの攻防が始まる。
「何やってんだ、あいつら?」
「…さあな」
武とケルベロスは、ただそれを眺め続けていた。



「と、昨夜の見廻りはそんな感じだったな」
「なるほど。朝、大通りが半壊していたのは倉成の仲魔のせいだった訳ね」
「うっ…!」
朝、武は田中研究所で優春に夜中の見廻りの報告をしていた。
しかしどうやら、言わなくてもいい事まで言ってしまったらしい。
優春は批難の目で武を見る。
「そ、そんな事よりだな、祠の再建はどうなってるんだ?」
「…話を逸らしたわね…… 再建はちゃんと進んでるわ。だけど結界の張り直しとか面倒な事もあるから、まだ時間はかかるでしょうね」
「そうか… 米軍の方は?」
「警察やマスコミに圧力をかけて情報の流出を何とか抑えてるけど… 時間の問題ね。現にヴァチカンはこの事件に気付き始めてるみたい。昨夜、退魔チームのスタッフがそれらしい聖職者を目撃してるわ」
「ヴァチカンが気付き始めてるって事は、アメリカも気付き始めてる可能性があるよな……」
「そうね… これ以上隠し通すのは難しいわ。アメリカ政府に圧力かけるのはさすがに無理だし……」
重い空気が部屋を包む。
状況は悪くなる一方だった。核攻撃も、そう遠くない未来になってきている。
「はぁ……」
優春が1つ、深い溜息をついた。
「あぁ、もう! どうすればいいのよ!! こんな時に咲夜は行方不明だし!!」
「……咲夜が行方不明?」
「ええ、連絡がとれないのよ。まぁ、彼女に限ってやられたって事はないと思うけど……」
「そっか… でも少し心配だな。今のあいつ、何かおかしいし」
武は前に会った時の咲夜の表情を思い出す。その表情を一言で表すなら、『思い詰めている』だった。
「…咲夜の気持ちも分からない訳じゃないけどね。『天峰一族』を滅ぼした、あの第187番部隊の1人が相手なんだから」
優春が何気なく口にした言葉。
だがそれは武にとって、衝撃的な内容だった。
「お、おい、ちょっと待てよ… 天峰一族ってのは、咲夜の一族の事だよな? それを第187番部隊が滅ぼしたって……?」
優春が一瞬、『しまった』という表情を浮かべた。
そして、それはすぐに後悔の表情へと変わる。
「口がすべったわね……」
「優、どういう事なんだ?」
優春はためらったが、武に退くつもりがない事を感じると、少しずつ語り始めた。
「…ライプリヒがティーフ・ブラウ等のBC(生物化学)兵器にかわる軍需産業として、悪魔に目をつけていた事は知ってるわよね?」
「ああ」
「でも天峰一族はそれを許さなかった。『悪魔の軍事利用なんて言語道断だ』ってね」
「まぁ、当然の事だろうな」
「それが原因で、ライプリヒと天峰一族の間に抗争が起こったの。ライプリヒはエージェントを天峰一族の里に送り込み、力尽くで屈伏させようとしたんだけど… 見事に返り討ち。何しろ、天峰一族の人間は全員が咒者だからね」
「つまり、その時点では天峰一族が優勢だった訳だ」
「そう。でもその優勢は、ある時簡単に崩れてしまった」
武は息を呑んだ。
「2023年、1月7日―― ライプリヒ製薬過激派第187番部隊が天峰一族の里を強襲し、たった数十分で里人を皆殺しにしてしまったの。生き残ったのは、里長の娘――咲夜だけだった……」
「な……!!?」
「信じられる? 約170人いたといわれる天峰の咒者が、たった4人を相手に全滅なんて」
言葉が出なかった。
咲夜の過去に、第187番部隊の圧倒的な力。どれもが武には衝撃的だった。
「彼女がその時どんな地獄を見たのかは分からないわ。でもそれは、間違いなく私達の想像を絶するものでしょうね」
「だからあいつは……」
「そう、あんな調子なのよ」
武は何を言えばいいのか分からなかった。
聞いてはいけない事を聞いたのかも知れない。そんなふうに思った。
沈黙が続く。

ピピピピピピ……

その沈黙を破ったのは、優春のポケットの中で鳴ったPDAだった。
通話ボタンを押し、耳に当てる。
「もしもし、田中です……」
『春香菜ですか? 咲夜です』
「咲夜!? あなた、今まで何やってたのよ!?」
『異界に閉じ込められてたんですよ。だから、連絡がとれなかったんです』
「そ、そう……」
優春は安堵の溜息をついた。
「で、今は何をしてるの?」
『商店街の方で大規模な異界化が発生してるみたいなので、そこに向かってます』
「商店街で大規模な異界化…?」
『ええ、それを片付けたら研究所に戻りますから。それじゃ』
「あ!? ちょっと咲夜…!」
通話が切れる。
優春は溜息をつき、PDAをポケットにしまった。
「そういう訳だから、倉成も行ってもらえる?」
「ああ、商店街だな。分かった」
武はそう言うと同時に、部屋を飛び出して行った。



田中研究所付属病院、ホクトの病室。
「ええ、分かったわ。私もすぐに行くから」
つぐみはそう言って、PDAの通話を切った。
「お母さん、誰から?」
ホクトが問いかける。
「武からよ。商店街の方で異界化が起こっているみたいなの。だから、すぐ来てくれって」
「そう… 気を付けてね」
「ええ、分かってるわ。心配しないで」
つぐみはそう言うと病室を出て、病院の出入り口へと向かった。
そして、出入り口へと辿り着いたつぐみは、商店街の方向を眺める。
「これは… まずそうね」
商店街には、凄まじい陰気が満ちていた。
離れた場所にいるつぐみにも、それがはっきりと分かる。
「いくわよ…!」
つぐみは商店街に向け、一気に駆け出した。




9>>

あとがきと呼ばれるもの・08
さて今回、新たなたけぴょんの仲魔が登場しました。
サリエルとヴァルキリー、なかなか書いてて楽しかったです。
一応、両方とも『死』と関係のある悪魔ですね。
ケルベロスも、冥府の番犬ですから『死』と関係があります。
…ま、ただの偶然ですが(は?)。
さて次回は、久々に(?)咲夜の登場。
立ち上がれ、さくやん! いおおんに敗けるな!!


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