真・女神転生SEVENTEEN
                              作 大根メロン


第九話 ―フェイト―


異界化商店街。
「バン・ウン・タラク・キリク・アク…!」
咲夜は襲いかかってくる悪魔達に向け、刀印を結び桔梗印――五芒星を切る。
それにより数体の悪魔を調伏し、

ドオォ…ン!! ドオォ…ン!!

残った悪魔には銃弾を撃ち込み、粉々に吹き飛ばした。
「ギャアアァァアアア!!?」
悪魔達が断末魔と共に、マグネタイトへ変化する。
咲夜は悪魔の群れを全滅させた事を確認すると、
「ふぅ…」
息をつき、その場に座り込んだ。
咲夜はこの異界に入ってからかなりの数の悪魔を斃したが、いまだに異界化は解けていない。
「早くこの異界を創っている悪魔を斃さないと… 咒力も体力も持ちませんね……」
そう言いながら、弾丸をドラグーンにリロードする。
「でも… 敗けられません…!」
そう、咲夜に敗ける事は許されない。
今でも、ありありと思い出す事が出来た。
里に満ちる、血の匂い。
そして、里人達の死体の山。

『里の皆と<この子>の仇は、絶対にあたしが――……!』

かつての誓いが、咲夜の頭をよぎる。
噛み締めた歯から、血が流れた。
「敗けられません…!」
咲夜はもう一度、自分に言い聞かせる。
そして、上を見上げた。
そこには空を埋め尽くすほどの、新たな悪魔の群れ。
「まだ死ねない…! あの連中を皆殺しにするまで、あたしは死ねないんです……!!」



「くそっ、何て数だ!!」
「キリがないわね…!!」
合流した武とつぐみは、すでに異界化した商店街に入っていた。
そしてそこで2人を迎えたのは、無数の悪魔達。
武はPDAを操作し、悪魔召喚プログラムを起動させる。
「召喚!」

『SUMMON:CERBERUS』

『SUMMON:SARIEL』

『SUMMON:VALKYRIE』

地面に魔方陣が描かれ、そこから武の仲魔達が召喚された。
「みんな! 力を貸してくれ!!」
「御意!」
仲魔達は同時にそう言い、それぞれ悪魔を斃し始める。
だがそれでも、悪魔の数は減る様子を見せない。
「クッ…! 主殿、このままでは消耗戦になるぞ! そうなると数の少ないこちらが圧倒的に不利だ!!」
「分かってる!」
武はヴァルキリーの言葉に答えながらも、次々と悪魔を斬り倒してゆく。
(確かにこのままじゃジリ貧だ… でも、どうすりゃ…?)
「武!!」
突然、武の耳につぐみの声が届いた。
「つぐみ!? どうした!?」
「あなただけでも先に進んで!!!」
「何!!?」
「ここには咲夜とかいう子もいるんでしょう!? この状況だと、その子が危ないわ!!!」
「――!? くっ、そうだな……」
今、咲夜はこれだけの数の悪魔を相手に1人で闘っているはずだった。
どう考えても、それは危険すぎた。
「でも、つぐみ達は!!?」
武は、つぐみと仲魔達を見る。
つぐみは笑って、
「これくらい、大した事ないわよ!」
と言った。
「我もそれに同意する!」
「ここはボク達に任せて、マスターは行くんだ!」
「行け、主殿!!」
仲魔達は攻撃を一点に集中させ、敵の包囲網に穴を開ける。
「……分かった、行ってくる! でもお前等、絶対死ぬんじゃないぞ!!」
「分かってるわ!」
「そのつもりだ!」
「勿論!」
「当然だ…!」
武はつぐみと仲魔達の声を背中で聞きながら、異界の奥深くへと向かって走り出した。



「式神顕現、急急如律令…! 出でよ、妖鬼『式王子(シキオウジ)』!!」
咲夜は式を喚び出し、悪魔の群れへと放つ。
「オン・ギャチギャチ・ギャビチ・カンジュカンジュ・タチバナ・ソワカ!」
さらに自身も真言を唱え、悪魔達を調伏してゆく。
だが。
「数が多すぎる…!」
斃しても斃しても、悪魔達は次から次へと襲いかかる。
「……仕方ありません。この手は使いたくなかったんですが… 『開扉の実』!!」
ポケットから取り出した実を、咲夜は空高く放り投げた。
実は上空で1つの扉に変化し、再び地上へと戻ってくる。
「じゃ、さようなら♪」
咲夜はその扉の中に飛び込む。
悪魔達も扉に入ろうとしたが、寸前で扉は跡形もなく消えてしまった。
悪魔が怒り、咲夜を捜そうとした時。
残されていた式王子が、凄まじい光と熱を放った。



ドォォオオ…ン!!!!

咲夜の耳に、遠くから爆発音が届く。
「…開扉の実でその場から離れ、式王子を<自爆>させる。我ながらセコい方法でしたね……」
そう言って、その場に座り込んだ。
「でも何とか切り抜けましたし、あれでだいぶ悪魔の数も減ったはず… ようやく少し休めそう――」

「残念ながら、それは無理だ」

「――!!!?」
咲夜の目の前に突然、1体の悪魔が現れる。
中世ヨーロッパかファンタジィ世界の王様が着ているような豪華な衣装に、王冠を被った牡牛の頭を持つ、巨大な悪魔。
「しかしまさか、あれだけの悪魔でも殺せぬとは。なかなかの力だな、小娘」
「それはどーも……」
力なく答える。
「だが、少々寿命が延びただけにすぎぬ。何故なら、貴様には私の生贄になってもらうのだからな」
牛頭の悪魔が笑う。
大きな歯と、長い舌が見えた。
「さぁ、この第五副官… 魔王モロクに捧げられる生贄を焼く、神聖な儀式の始まりだ」
「…まったく……」
咲夜はゆっくりと、その場に立ち上がる。
「…これは最悪の展開ですね。絶体絶命ってヤツですか……」



「あぁ! 何だってんだ、一体!!?」
瓦礫の中から這い出て来た武は、空に向かって思いっきり叫んだ。
「あの悪魔、いきなり大爆発しやがって…! もう少し近くだったら木っ端微塵になってたぞ!!」
咲夜を捜してた武が悪魔の群れに遭遇したのは、ついさっきの事だった。
そうしたらいきなり、群れの中心あたりにいた悪魔が爆発したのである。
将門之刀が護ってくれなかったら、間違いなく武は命を落としていただろう。
「にしても派手にやったな……」
周りには、瓦礫とマグネタイトしか残っていない。
「……ん?」
ふと、武はあるものを見つけた。
爆発の中心部あたりに、人の形に切り抜かれた紙が落ちている。
「形代ってやつか? どうしてこんな物が……」
その時。
その形代が宙に浮き、武の周りを廻り始めた。
「な、なんだ!?」
そしてそのまま、今度は武の前を飛び始める。まるで、武を先導するかのように。
「付いて来い、って事か?」
武は一瞬、罠かも知れないと考えた。
だが、形代から悪意のようなものは感じない。
「アテもなく咲夜を捜すよりはいいか……」
武はそう思い、形代を追って駆け出した。



「<フレイラ>!!」
「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前!!」

ダァアア…ン……!!

モロクの魔法と咲夜の咒法がぶつかり合う。
(クッ…! 力がほとんど残っていない……!)
連戦に次ぐ連戦による体力の消耗。
そして、悪魔達を吹き飛ばすために式王子へと注ぎ込んだ分の咒力の消耗。
咲夜は限界を感じ始めていた。
「<アギダイン>!」
モロクが巨大な火球を放つ。
「クッ…!?」
咲夜は何とかそれを躱し、
「東方降三世夜叉明王・南方軍荼利夜叉明王・西方大威徳夜叉明王・北方金剛夜叉明王・中央二大日大聖不動明王!!!」
モロクに向け、桔梗印を切る。
だが。
「その程度の技で、この魔王モロクを討つ事など出来ぬぞ!!」
モロクは軽々と、咲夜の術を破った。
そのまま、その巨体からはとても考えられないスピードで、モロクは咲夜との間合いを詰める。
そして自身の巨大な拳を、咲夜に叩き込んだ。
「ぐッ…!!?」
咲夜の身体が地面を跳ねる。
口から、血が溢れた。
「そろそろフィナーレだ、小娘。何か言い残す事はあるか?」
「…そうですね…… 言いたい事はありませんが、やりたい事ならありますよ」
「ほう、何だ?」
「あなたをブッ殺す事です」
そう言い、咲夜は立ち上がった。
「…まだそんな口がきけるのか」
「ふふふ… あたしには、まだジョーカーが残ってるんですよ」
咲夜はそう言い、剣印を結ぶ。

「南無崇徳上皇、南無五部大乗経……」

そして、咒を唱え始めた。

「三悪道に抛籠、其力を以、日本国の大魔縁となり、皇を取て民とし、民を皇となさん……」

咲夜の言葉が紡がれる。
「…何だ……?」
その度に、モロクでさえ恐怖を感じるほどの禍々しく巨大な力が満ちてゆく。

「人の福をみては禍とし、世の治まるをみては乱を発さしむ……」

それは咲夜の咒力とはまったく違う、巨きな妖力。
「貴様、死ぬ気か!? そのような巨大な力、人の子に操れるはずがない!!」
「……あたしは死にませんよ。あの連中を皆殺しにするまでは… 死ねません」
そして咲夜は、結んでいた剣印をモロクへと向けた。

「臨める兵、闘う者、皆陣烈れて、前に在り!!!」

その瞬間。
空間に満ちていた妖力が唸りを上げ、爆発的な力でモロクへと襲いかかる。
日本でも五本の指に入る怨霊である『崇徳上皇(ストクジョウコウ)』を本尊として行う、天峰一族の禁咒法。
その驚異的な力は、モロクの力を遥かに上回っていた。
「ぬうぅぅううう!!?」
「終わりです!!」
だがその時。
「<メギド>!!」

ドオォオオォォオオオオ…ンッ……!!!!

1発の魔法が、咲夜の咒法を相殺した。
「――!!!? な、何で……!!?」
咲夜の眼に、黒衣の女が映る。
咲夜の咒法を簡単に相殺したその女は、まるで舞うような身軽さでモロクの隣に立った。
「リリス…!」
モロクは女を、そう呼んだ。
「…リリス…!!?」
咲夜の背筋が凍る。
第一副官、夜魔リリス。魔王ルシファーの妻にして、六副官の中でもトップクラスの力を持つ夢魔の女王。
「油断したわね、モロク。あれをまともに喰らってたら、あんたなんか粉々に吹き飛んでいたわよ」
「何故、お前がここに…?」
「こんな事になるだろうと思ったから、助けに来てあげたの。感謝しなさいよ」
リリスはモロクにそう言った後、咲夜に目を移した。
「でもまぁ、もう勝ったも同然だけどね。あの小娘はいまの攻撃で完全に力を使い果たみたいだし」
「…しかしまさか、あの人の子があれほどの力を操れるとはな……」
「ホントにそうよ。あれだけの事をやって、よく精神が壊れなかったわね。ま、私から見ればまだまだだけど」
リリスは笑い、咲夜から目を離した。
もう、咲夜に興味はないのだろう。
(クッ…!)
咲夜は何とかして闘いを続けようとする。
だが、立っているのがやっとの彼女では、どうする事も出来なかった。
「さぁ、モロク。さっさと終わらせなさい」
「そうだな……」
モロクが咲夜を見る。
「貴様の敗因はたった1人で闘った事だ。1人の力で、一体何が出来るというのだ?」
「…悪魔が、人についてあれこれ言わないでください……!」
「フッ、だが小娘。私は貴様などよりずっと長い時間、人というものを見てきた。無力で愚かな人を、な」
「だから何だっていうんですか…!?」
「だが私は、その無力で愚かな人に敗れた事がある。人は無力だからこそ、愚かだからこそ、力を合わせるという事を武器にするのだ」
モロクが嗤う。
「悪魔が心のどこかで人を恐れるのは、それが恐いからだ。サマナーを恐れるのは、力を持つ悪魔をさらに合力させる事が出来るからだ」
「何が言いたいんです…!!?」
「…貴様、本当に1人であの4人を殺せると思っていたのか? 話にならんよ。庵遠達4人の武器もまた、力を合わせるという事だからな」
「――ッ!」
そんな事は咲夜も分かっていた。
だが、仇は1人でとりたかった。
だからこの戦いは、どうしても1人で戦いたかった。
「…五月蝿い……!」
「フッ… すぐ死に果てる貴様にこんな事を話しても意味などなかったな」
モロクは自分の莫大な魔力を一点に集めてゆく。
「天より降る数多の光は、汝の身を焼く火葬の炎と知れ……!」
そしてそれを、咲夜へと向けた。
「<マハラギダイン>――!!」
例えるならそれは、炎の津波だった。
全てを呑み込む赤い高熱の波が、咲夜に迫る。
「…くそぉ……!」
どうしようもなかった。
人は人である限り、運命には勝てない。そしてこの視界を埋め尽くす炎が、咲夜の運命だった。
「死ねぇ!!」
モロクの声。
だがその時、それに重なるようにして、もう1つ声が響いた。

「死なせてたまるか!!!!」

その瞬間。
1発の斬撃が、モロクの魔法を裂いた。
それによって魔法がバラバラになり、咲夜から逸れて行く。
「えっ…? これは……」
咲夜はこの感覚に覚えがあった。
「クッ…!!?」
モロクとリリスの目に1つの人影が映る。
ふたりは忌まわしげに、その人影の名を言った。
「倉成…」
「武……!」

「選手交代だ! ここからはこの倉成武が相手になってやる!!」




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あとがきと呼ばれるもの・09
『もうEver17じゃないじゃん』っていうツッコミは無視します。
何故かさくやんがピンチになると、毎回たけぴょんが助けに入りますよね。さすがはレディ・キラー(笑)。
まぁ、そんな訳でたけぴょん颯爽と登場。六副官ふたりを相手に、勝利を掴む事が出来るのか!?
…出来るはずがありません(オイ)。
さてどうなるかは、次回をお楽しみに。


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