真・女神転生SEVENTEEN 作 大根メロン |
異界化商店街。 「バン・ウン・タラク・キリク・アク…!」 咲夜は襲いかかってくる悪魔達に向け、刀印を結び桔梗印――五芒星を切る。 それにより数体の悪魔を調伏し、 ドオォ…ン!! ドオォ…ン!! 残った悪魔には銃弾を撃ち込み、粉々に吹き飛ばした。 「ギャアアァァアアア!!?」 悪魔達が断末魔と共に、マグネタイトへ変化する。 咲夜は悪魔の群れを全滅させた事を確認すると、 「ふぅ…」 息をつき、その場に座り込んだ。 咲夜はこの異界に入ってからかなりの数の悪魔を斃したが、いまだに異界化は解けていない。 「早くこの異界を創っている悪魔を斃さないと… 咒力も体力も持ちませんね……」 そう言いながら、弾丸をドラグーンにリロードする。 「でも… 敗けられません…!」 そう、咲夜に敗ける事は許されない。 今でも、ありありと思い出す事が出来た。 里に満ちる、血の匂い。 そして、里人達の死体の山。 『里の皆と<この子>の仇は、絶対にあたしが――……!』 かつての誓いが、咲夜の頭をよぎる。 噛み締めた歯から、血が流れた。 「敗けられません…!」 咲夜はもう一度、自分に言い聞かせる。 そして、上を見上げた。 そこには空を埋め尽くすほどの、新たな悪魔の群れ。 「まだ死ねない…! あの連中を皆殺しにするまで、あたしは死ねないんです……!!」 「くそっ、何て数だ!!」 「キリがないわね…!!」 合流した武とつぐみは、すでに異界化した商店街に入っていた。 そしてそこで2人を迎えたのは、無数の悪魔達。 武はPDAを操作し、悪魔召喚プログラムを起動させる。 「召喚!」 『SUMMON:CERBERUS』 『SUMMON:SARIEL』 『SUMMON:VALKYRIE』 地面に魔方陣が描かれ、そこから武の仲魔達が召喚された。 「みんな! 力を貸してくれ!!」 「御意!」 仲魔達は同時にそう言い、それぞれ悪魔を斃し始める。 だがそれでも、悪魔の数は減る様子を見せない。 「クッ…! 主殿、このままでは消耗戦になるぞ! そうなると数の少ないこちらが圧倒的に不利だ!!」 「分かってる!」 武はヴァルキリーの言葉に答えながらも、次々と悪魔を斬り倒してゆく。 (確かにこのままじゃジリ貧だ… でも、どうすりゃ…?) 「武!!」 突然、武の耳につぐみの声が届いた。 「つぐみ!? どうした!?」 「あなただけでも先に進んで!!!」 「何!!?」 「ここには咲夜とかいう子もいるんでしょう!? この状況だと、その子が危ないわ!!!」 「――!? くっ、そうだな……」 今、咲夜はこれだけの数の悪魔を相手に1人で闘っているはずだった。 どう考えても、それは危険すぎた。 「でも、つぐみ達は!!?」 武は、つぐみと仲魔達を見る。 つぐみは笑って、 「これくらい、大した事ないわよ!」 と言った。 「我もそれに同意する!」 「ここはボク達に任せて、マスターは行くんだ!」 「行け、主殿!!」 仲魔達は攻撃を一点に集中させ、敵の包囲網に穴を開ける。 「……分かった、行ってくる! でもお前等、絶対死ぬんじゃないぞ!!」 「分かってるわ!」 「そのつもりだ!」 「勿論!」 「当然だ…!」 武はつぐみと仲魔達の声を背中で聞きながら、異界の奥深くへと向かって走り出した。 「式神顕現、急急如律令…! 出でよ、妖鬼『式王子(シキオウジ)』!!」 咲夜は式を喚び出し、悪魔の群れへと放つ。 「オン・ギャチギャチ・ギャビチ・カンジュカンジュ・タチバナ・ソワカ!」 さらに自身も真言を唱え、悪魔達を調伏してゆく。 だが。 「数が多すぎる…!」 斃しても斃しても、悪魔達は次から次へと襲いかかる。 「……仕方ありません。この手は使いたくなかったんですが… 『開扉の実』!!」 ポケットから取り出した実を、咲夜は空高く放り投げた。 実は上空で1つの扉に変化し、再び地上へと戻ってくる。 「じゃ、さようなら♪」 咲夜はその扉の中に飛び込む。 悪魔達も扉に入ろうとしたが、寸前で扉は跡形もなく消えてしまった。 悪魔が怒り、咲夜を捜そうとした時。 残されていた式王子が、凄まじい光と熱を放った。 ドォォオオ…ン!!!! 咲夜の耳に、遠くから爆発音が届く。 「…開扉の実でその場から離れ、式王子を<自爆>させる。我ながらセコい方法でしたね……」 そう言って、その場に座り込んだ。 「でも何とか切り抜けましたし、あれでだいぶ悪魔の数も減ったはず… ようやく少し休めそう――」 「残念ながら、それは無理だ」 「――!!!?」 咲夜の目の前に突然、1体の悪魔が現れる。 中世ヨーロッパかファンタジィ世界の王様が着ているような豪華な衣装に、王冠を被った牡牛の頭を持つ、巨大な悪魔。 「しかしまさか、あれだけの悪魔でも殺せぬとは。なかなかの力だな、小娘」 「それはどーも……」 力なく答える。 「だが、少々寿命が延びただけにすぎぬ。何故なら、貴様には私の生贄になってもらうのだからな」 牛頭の悪魔が笑う。 大きな歯と、長い舌が見えた。 「さぁ、この第五副官… 魔王モロクに捧げられる生贄を焼く、神聖な儀式の始まりだ」 「…まったく……」 咲夜はゆっくりと、その場に立ち上がる。 「…これは最悪の展開ですね。絶体絶命ってヤツですか……」 「あぁ! 何だってんだ、一体!!?」 瓦礫の中から這い出て来た武は、空に向かって思いっきり叫んだ。 「あの悪魔、いきなり大爆発しやがって…! もう少し近くだったら木っ端微塵になってたぞ!!」 咲夜を捜してた武が悪魔の群れに遭遇したのは、ついさっきの事だった。 そうしたらいきなり、群れの中心あたりにいた悪魔が爆発したのである。 将門之刀が護ってくれなかったら、間違いなく武は命を落としていただろう。 「にしても派手にやったな……」 周りには、瓦礫とマグネタイトしか残っていない。 「……ん?」 ふと、武はあるものを見つけた。 爆発の中心部あたりに、人の形に切り抜かれた紙が落ちている。 「形代ってやつか? どうしてこんな物が……」 その時。 その形代が宙に浮き、武の周りを廻り始めた。 「な、なんだ!?」 そしてそのまま、今度は武の前を飛び始める。まるで、武を先導するかのように。 「付いて来い、って事か?」 武は一瞬、罠かも知れないと考えた。 だが、形代から悪意のようなものは感じない。 「アテもなく咲夜を捜すよりはいいか……」 武はそう思い、形代を追って駆け出した。 「<フレイラ>!!」 「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前!!」 ダァアア…ン……!! モロクの魔法と咲夜の咒法がぶつかり合う。 (クッ…! 力がほとんど残っていない……!) 連戦に次ぐ連戦による体力の消耗。 そして、悪魔達を吹き飛ばすために式王子へと注ぎ込んだ分の咒力の消耗。 咲夜は限界を感じ始めていた。 「<アギダイン>!」 モロクが巨大な火球を放つ。 「クッ…!?」 咲夜は何とかそれを躱し、 「東方降三世夜叉明王・南方軍荼利夜叉明王・西方大威徳夜叉明王・北方金剛夜叉明王・中央二大日大聖不動明王!!!」 モロクに向け、桔梗印を切る。 だが。 「その程度の技で、この魔王モロクを討つ事など出来ぬぞ!!」 モロクは軽々と、咲夜の術を破った。 そのまま、その巨体からはとても考えられないスピードで、モロクは咲夜との間合いを詰める。 そして自身の巨大な拳を、咲夜に叩き込んだ。 「ぐッ…!!?」 咲夜の身体が地面を跳ねる。 口から、血が溢れた。 「そろそろフィナーレだ、小娘。何か言い残す事はあるか?」 「…そうですね…… 言いたい事はありませんが、やりたい事ならありますよ」 「ほう、何だ?」 「あなたをブッ殺す事です」 そう言い、咲夜は立ち上がった。 「…まだそんな口がきけるのか」 「ふふふ… あたしには、まだジョーカーが残ってるんですよ」 咲夜はそう言い、剣印を結ぶ。 「南無崇徳上皇、南無五部大乗経……」 そして、咒を唱え始めた。 「三悪道に抛籠、其力を以、日本国の大魔縁となり、皇を取て民とし、民を皇となさん……」 咲夜の言葉が紡がれる。 「…何だ……?」 その度に、モロクでさえ恐怖を感じるほどの禍々しく巨大な力が満ちてゆく。 「人の福をみては禍とし、世の治まるをみては乱を発さしむ……」 それは咲夜の咒力とはまったく違う、巨きな妖力。 「貴様、死ぬ気か!? そのような巨大な力、人の子に操れるはずがない!!」 「……あたしは死にませんよ。あの連中を皆殺しにするまでは… 死ねません」 そして咲夜は、結んでいた剣印をモロクへと向けた。 「臨める兵、闘う者、皆陣烈れて、前に在り!!!」 その瞬間。 空間に満ちていた妖力が唸りを上げ、爆発的な力でモロクへと襲いかかる。 日本でも五本の指に入る怨霊である『崇徳上皇(ストクジョウコウ)』を本尊として行う、天峰一族の禁咒法。 その驚異的な力は、モロクの力を遥かに上回っていた。 「ぬうぅぅううう!!?」 「終わりです!!」 だがその時。 「<メギド>!!」 ドオォオオォォオオオオ…ンッ……!!!! 1発の魔法が、咲夜の咒法を相殺した。 「――!!!? な、何で……!!?」 咲夜の眼に、黒衣の女が映る。 咲夜の咒法を簡単に相殺したその女は、まるで舞うような身軽さでモロクの隣に立った。 「リリス…!」 モロクは女を、そう呼んだ。 「…リリス…!!?」 咲夜の背筋が凍る。 第一副官、夜魔リリス。魔王ルシファーの妻にして、六副官の中でもトップクラスの力を持つ夢魔の女王。 「油断したわね、モロク。あれをまともに喰らってたら、あんたなんか粉々に吹き飛んでいたわよ」 「何故、お前がここに…?」 「こんな事になるだろうと思ったから、助けに来てあげたの。感謝しなさいよ」 リリスはモロクにそう言った後、咲夜に目を移した。 「でもまぁ、もう勝ったも同然だけどね。あの小娘はいまの攻撃で完全に力を使い果たみたいだし」 「…しかしまさか、あの人の子があれほどの力を操れるとはな……」 「ホントにそうよ。あれだけの事をやって、よく精神が壊れなかったわね。ま、私から見ればまだまだだけど」 リリスは笑い、咲夜から目を離した。 もう、咲夜に興味はないのだろう。 (クッ…!) 咲夜は何とかして闘いを続けようとする。 だが、立っているのがやっとの彼女では、どうする事も出来なかった。 「さぁ、モロク。さっさと終わらせなさい」 「そうだな……」 モロクが咲夜を見る。 「貴様の敗因はたった1人で闘った事だ。1人の力で、一体何が出来るというのだ?」 「…悪魔が、人についてあれこれ言わないでください……!」 「フッ、だが小娘。私は貴様などよりずっと長い時間、人というものを見てきた。無力で愚かな人を、な」 「だから何だっていうんですか…!?」 「だが私は、その無力で愚かな人に敗れた事がある。人は無力だからこそ、愚かだからこそ、力を合わせるという事を武器にするのだ」 モロクが嗤う。 「悪魔が心のどこかで人を恐れるのは、それが恐いからだ。サマナーを恐れるのは、力を持つ悪魔をさらに合力させる事が出来るからだ」 「何が言いたいんです…!!?」 「…貴様、本当に1人であの4人を殺せると思っていたのか? 話にならんよ。庵遠達4人の武器もまた、力を合わせるという事だからな」 「――ッ!」 そんな事は咲夜も分かっていた。 だが、仇は1人でとりたかった。 だからこの戦いは、どうしても1人で戦いたかった。 「…五月蝿い……!」 「フッ… すぐ死に果てる貴様にこんな事を話しても意味などなかったな」 モロクは自分の莫大な魔力を一点に集めてゆく。 「天より降る数多の光は、汝の身を焼く火葬の炎と知れ……!」 そしてそれを、咲夜へと向けた。 「<マハラギダイン>――!!」 例えるならそれは、炎の津波だった。 全てを呑み込む赤い高熱の波が、咲夜に迫る。 「…くそぉ……!」 どうしようもなかった。 人は人である限り、運命には勝てない。そしてこの視界を埋め尽くす炎が、咲夜の運命だった。 「死ねぇ!!」 モロクの声。 だがその時、それに重なるようにして、もう1つ声が響いた。 「死なせてたまるか!!!!」 その瞬間。 1発の斬撃が、モロクの魔法を裂いた。 それによって魔法がバラバラになり、咲夜から逸れて行く。 「えっ…? これは……」 咲夜はこの感覚に覚えがあった。 「クッ…!!?」 モロクとリリスの目に1つの人影が映る。 ふたりは忌まわしげに、その人影の名を言った。 「倉成…」 「武……!」 「選手交代だ! ここからはこの倉成武が相手になってやる!!」 |
あとがきと呼ばれるもの・09 『もうEver17じゃないじゃん』っていうツッコミは無視します。 何故かさくやんがピンチになると、毎回たけぴょんが助けに入りますよね。さすがはレディ・キラー(笑)。 まぁ、そんな訳でたけぴょん颯爽と登場。六副官ふたりを相手に、勝利を掴む事が出来るのか!? …出来るはずがありません(オイ)。 さてどうなるかは、次回をお楽しみに。 |
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